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魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第十章:魔王と決着のセレンディアグランプリ
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魔王と虎穴に入らずんば虎児を得ず

:魔王と虎穴に入らずんば虎児を得ず


翌日、俺達はとあるイベント会場にやって来ていた

周りを見渡しながら、アリアが呟く


「自動車がこんなに・・・」

「自動車博覧会って感じか」


先日ティスとミケが持ってきた情報とは、今日GA主催の自動車博覧会が行われるという情報だったのだ

会場では多種多様な自動車が並べられており、大勢の人々で賑わっていた


「かなり盛況みたいだな。展示されている自動車の数は・・・50台ぐらいか?」

「ええ、しかし問題なのは。これらの自動車が、全てGAの製品「ではない」という所でしょう」


そう、それらはGA以外の会社の製品がほとんどだった

つまりこれらは、この世界で新たに開発された自動車という事である


「セレンディアにおける、自動車技術のブレイクスルーが起こった結果だと思われます。今や一般企業でも自動車の開発、製造が可能になりました。元の技術の出所は、GAが流した物で間違い無いでしょうが」


ギガスの言うとおり

もはやセレンディア製自動車は、現代日本の自動車に勝るとも劣らない性能となっていた

それらの自動車を眺めながら、ウラムが言う


「GAだけが相手の方がまだマシでしたね。これからは、この全ての会社とも競争していかなければならないとなると・・・」

「何か新しい手を打つ必要があるな・・・」


もはや自動車開発において、俺達が持っていた技術的ノウハウの優位性も崩れた

これもGAによる、魔王軍を潰す計画の一つなのだろう。だが・・・


(やはり、奴等の行動はおかしい・・・)


俺がそう考えを纏めようとしていた、その時


ワアッ!!!


イベント会場中央の特設ステージから、歓声が聞こえてきた


「皆様!本日は!グローバルアーキテクチャー主催の自動車博覧会にようこそおいでくださいました!ここで!グローバルアーキテクチャーCEOのジョシュア・レドヴァインから!皆様にご挨拶があります!!!」


そして司会の紹介の後、ステージの中央に一人の男が現れた


「あれが、GAのトップ・・・!」


金色の髪と碧眼にスラリとした長身、年齢は思ったより若そうだ

眉目秀麗の上、大勢の観客の前でも堂々とした立ち振る舞い

相当やり手と言ったイメージがする


「ご来場の皆様、只今ご紹介に預かりましたグローバルアーキテクチャーCEOのジョシュア・レドヴァインです。まずは、本日の自動車博覧会にご来場してくださった方々、そして参加してくださった企業の方々に深くお礼申し上げます。これだけ大規模な自動車のイベントが行えた事を、セレンディアの自動車産業の発展に携わってきた者として、とても嬉しく思います」


ジョシュアの言葉に観客から大きな拍手が湧き上がる、だが


「にゃ!?自動車産業はソーマさまが安全に配慮しながら少しづつ、少しづつ発展させてきた物なのに!」

「それを横から掻っ攫っておきながら、まるで自分達の功績であるかの様な物言い。盗人猛々しいとはこの事ですね」


ジョシュアの言葉に尻尾の毛を逆立てて反論するミケに、冷静に笑みを浮かべながら言うウラム

だが会場はそれとは反対に、GAとそのCEOであるジョシュアをを賞賛する声に包まれていた

そして、長々とした挨拶も終わりに近づき


「それでは最後に、皆様に重大発表があります!」

「重大発表?」

「また何か企んでいるのでしょうか?」


俺達を含め、会場の全員がジョシュアの次の言葉に注目する


「今回、沢山の企業に参加していただき。こうして、多くの自動車の展示を行う事が出来ました。そして、それらを観覧していただいた皆様は、こう思ったのではないでしょうか?どの自動車が一番速いのか?と・・・」


その言葉に会場がザワつく、もしや・・・


「その疑問の答えはすぐに出るでしょう!このGAサーキットにて行われる、第一回セレンディアグランプリにおいて!!!」


ジョシュアの宣言と同時にステージ中央のモニターに映し出されたのは、巨大なレース会場とセレンディアグランプリなるもののロゴだった


「すでに!名だたる企業が参加を表明しており!開催は間近!なんと2週間後となっております!!!ですが!レース参加企業はまだまだ受け付けております!!!そして!我々グローバルアーキテクチャーもわが社の技術の粋を集めた最新鋭マシンで!全ての企業からの挑戦を受けて立つつもりです!!!」


その言葉に大きく湧き上がる会場!その時・・・


「・・・フッ」

「・・・?」


一瞬、あのCEOがこちらを見た気がした。そして


「・・・とは言っても、どこぞの荷馬車の様なマシンで参加しても恥をかくだけでしょうが」


そう言って大げさなジェスチャーをしてみせる


「ムッ・・・!」

「フーー!!!」


それは、俺達に向けての明らかな挑発だった


「以上です。本日は誠にありがとうございました」


そして大盛況の中、自動車博覧会は終了した






その後、魔王城に戻ってきた俺達は会議を開いていた


「なんですにゃーアレ!なんですにゃーー!!!」

「おとうさん、今すぐカチコミに行こう。特攻ブッコミ役なら任せて・・・!」


怒りが収まらないと言った様子のミケとティス、だが


「・・・」

「おとうさん?」


それとは逆に、俺は冷静に状況を分析していた


「ウラム、どう見る?」

「まあ100%罠でしょうね、ですが・・・」

「受けるしかない・・・だな」


そんな俺とウラムのやりとりに、首をかしげるアリア


「えっと、どういう事ですか?」

「ん?ああ、つまりな・・・」


そして俺は、全員に向かって今の状況を説明する


「現在、俺達はかなり厳しい状況に立たされている。原因は言うまでもなくGAだ」

「はい」

「だが、GAの行動に妙な事があるのが分かったんだ」

「妙な事・・・ですか?」

「ああ・・・ミケ」

「は、はいですにゃ!」


突然話を振られて驚くミケ、そして俺はミケに質問をする


「ミケはGAの飲食店について、情報は把握してるな?」

「え?はい。それはもちろん・・・」

「それじゃあ、レストラン魔王を預かる経営者として意見を聞かせてもらいたいんだが。GAの経営方針、どう思う?」

「それは・・・」


俺の質問にミケは少し考えた後、落ち着いた口調で言った


「無謀です。過剰な程のサービスにありえない値段、どう考えても採算が取れてません。売れば売る程、自分達で赤字を増やしている様な物です」

「ああ、俺もそう思う。これは飲食店に限った話じゃない、GAの全ての部門に共通している事なんだ」


俺達が限界まで商売を効率化させたにも関わらず、GAはあっさりとその上のサービスを行ってみせた

だが、そんなやり方で利益を出せる物だろうか?答えはノーだ

そう、GAの商売は商売として成り立っていない

商売とは利益を上げる為に行う物だ、そういう意味でGAは商売をしていないと言える

これが、俺が感じていたGAの違和感だ


「にゃ?なんでGAはそんな馬鹿な事してるにゃ?」

「そうにゃ。売れば売る程赤字を増やすなんて、何の得にもなってないにゃ」


当然の疑問を口にするリィとマウ、だが


「ああ、つまりそれがGAの「本当の目的」を説明しているって事だ」

「「?」」


その言葉に首を傾げるリィとマウ

そして俺は、全員に対して説明する


「GAが、俺達を潰す事を目的にしているのは分かっていた。だがそれは、あくまで自分達の商売敵としてだと俺は勘違いしていた。自分達が利益を上げる為に、魔王軍が邪魔だから潰すってな。ところがGAは、自分達の商売の利益なんて見ていない。採算度度外視でこちらの妨害を行ってきている。つまり・・・」


その結論を、俺の代わりにウラムが言った


「ええ。つまりGAとは商売を行う為の組織ではなく、「我々を潰す為だけに」設立された組織だという事です。商売はその手段に過ぎないというわけですね」

「私達を潰す為だけにこんな大規模な商売を!?」


敵の真意に対して驚きを見せる皆

だが、それはつまり・・・


(恐らく、GAというのは隠れ蓑の一つにすぎない。敵はその背後にいる「何者か」のはずだ)


サッカー大会の釈然としない結果に感じていた違和感

それに、ウラムが安全を確認していたにも関わらず起こったメルヒェンス山の突然の噴火

数ヵ月程前から、何かの意思が俺達の周りで蠢いているのは感じていた

しかし、今は背後に隠れた敵よりもGAに対処しなければならない


「そして、新たに敵が打ってきた手・・・」

「セレンディアグランプリですね!」

「そうだ。あのあからさまな挑発、これも俺達を潰す為の手だと考えるのが妥当だろう」

「ふむ。我々を挑発してきたのは、この大会で我々を叩き潰す事によって自社の製品の優位性を、そして魔王軍の製品に悪いイメージを与える事でしょうか?」

「そんな所だろうな、だが・・・」


俺は状況を整理しながら、言葉を紡いでいく


「だが、それはおかしい。奴等が第一にこちらを潰す事を目的にしているなら、この行動はおかしいんだ」

「それは一体どういう・・・?」


俺の言葉に、アリアが疑問を浮かべる


「よく考えてくれ。今、俺達がGAに取られると一番マズイ行動、GA側からすれば俺達を潰す為の最善策はなんだと思う?」


俺の言葉に考え込む面々

その中で、ティスが何かに気付いた様に言った


「待ちプレイ・・・?」

「そうだ。俺達にとって今一番やられたら困るのは、「現状を維持される事」だ。何せ今この時も、どんどん魔王軍の財政は厳しくなっていってるわけだからな。現状を維持するだけでこっちの敗北が確定しているって状況。正に詰みってわけだ」

「えっと、じゃあなんでGAはあんな挑発を・・・?」


またしても考え込む面々、だが今度は答えは出ない


「そうだな、この場合は考え方を変える必要がある。何故挑発をしてきたのか?ではなく、何故現状維持をしなかったのか?を考えるんだ」

「何故、現状維持をしなかったのか・・・?」


その言葉を聞いて、ミケが答えた


「現状維持をしなかったのではなく・・・出来なかった?」

「そうだ。原因はもちろん・・・」

「無茶な経営のせい・・・ですにゃ」

「ああ」


そして俺は、状況をまとめる様に答える


「GAは、採算度度外視の方法を使ってまで俺達を潰しにきていた。第一目標が商売の成功ではなく俺達を潰す事なのだから、これは正しい行動と言える。とは言え、GAも負債は積もっていくんだ。無限に金が湧き出す財布でも持ってない限り、いつかは限界が訪れる事になる」

「あ、それじゃあ!」

「ああ。その大規模な商売とは裏腹に、GAは俺達よりも早いスピードで経営破綻に向かって突っ走ってたってわけだ。自分達が潰れる前に、俺達を潰せればいいってな。ところが、そうも行かなくなった」

「我々が行った、大幅な商売の見直しですね」

「そうだ。あの商売の見直しにより、俺達はGAの想定以上の粘りを見せたんだろう。GAは焦ったはずだ、このままでは俺達が潰れる前に自分達が先に潰れてしまうってな。そこで打った手が・・・」

「あの挑発と、セレンディアグランプリなんですね!」


そう、それがここまでの状況だ

そして、俺達が取るべき行動を考えなくてはならないわけだが


「だったら無視すればいいにゃ!ほっといたって自滅するにゃ!」

「そうにゃ!自滅した所を鼻で笑ってやるにゃ!」


そう答えるリィとマウ。しかし・・・


「そうしたいのは山々なんだけどな」

「「にゃ?」」


またも首をかしげる皆に、俺は言う


「GAの挑発を無視する。それってつまり、どういう事だと思う?」

「挑発を無視・・・?えっと挑発を無視したら、それってつまり・・・!」


どうやらアリアも気付いた様だ、アリアが答える


「現状維持!」

「そうだ。俺達にとって一番キツイ状態が続くってわけだ。それを理解しているからこそ、GAはあんなわざとらしい挑発をしてきたとも言える」

「にゃ?でもほっといたら相手は自滅するにゃ」

「多分な。だがそれまでの間、こっちの財政悪化も続くんだ。GAが先に潰れた所でこっちの財政も潰れかけじゃ意味が無い。そうなれば、瀕死状態になった魔王軍を立て直すのに何年もかかるだろう」

「なるほど。GAとウチら、両者共倒れにゃ」


その時、ウラムはその事から一つの考えを導き出していた


(逆に考えると。敵がそうしてこないのは我々を瀕死に追い込むのではなく、確実なトドメを刺さなければ敵の目的は達成されないと言う事でしょうね)


そして更に冷徹な笑みを浮かべながら考える


(随分と危険視されていますね、我々は・・・これも必然でしょうか?)


そんなウラムの様子には気付かず

そして俺は、全員に今後の対応について話す


「よって、俺達が取る最善の手段は・・・」


そう続けようとした所で、皆が俺に代わって言った


「敵の挑発にあえて乗る・・・!」

「罠は全部ぶっとばしますにゃ!」

「そして私達が勝つ!ですよね、ソーマさん!」

「ああ!その通りだ!」


そう告げると、俺はギガスに向かって言う


「ギガス、2週間でいけるか?」

「お任せ下さい。私の・・・いえ、魔王軍の技術の粋を集めた、最高のマシンをご用意致します!」

「よし!これでGAに引導を渡してやる!!!各自それまで、自分の仕事を頑張ってくれ!」

「「はい!」」


そして魔王軍はセレンディアグランプリに参加を表明し、決戦の日に備えて開発を急ぐのだった


「なんていうか・・・」

「結局・・・」

「いつも通りの正面対決にゃ!」

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