魔王と拒絶のライン
:魔王と拒絶のライン
その後、服を調達した俺達は休暇を謳歌すべく様々な場所へと向かった
ボウリング場では
「この球をぶつけて、あのピンを倒すんだ」
「分かりました!ソーマさん!はああああああ!!!」
「うあああ!!!止めろアリアーー!!!ボウリングの球をオーバースローで投げようとするなーーー!!!」
そして、また別の場所では
「ここがゲームショップ・・・!まさにこの世の天国!!!」
「魔族的に天国っていうのはどうなんだ?まあ好きなだけ買って帰っていいぞ」
「じゃあ、この棚のソフト全部!」
「もう少し手加減してくれ・・・」
さらに別の場所では
「にゃ!?これは・・・!!!」
「気に入ったか?異世界の食べ物」
「シェ・・・シェフを呼んで下さいにゃ!!!是非ともこの料理の味について指南をお願いしたいですにゃ!!!」
「・・・たいやき屋にシェフは居ないと思うぞ」
と言った感じで、俺達は異世界観光を満喫するのだった
そして思いつく限りの場所を巡った俺達は、次の場所へ向かうべく歩いていた
「随分色々な場所を巡りましたね」
「だな。お前も随分買い込んだみたいだが・・・その荷物、全部本か?」
「智は力と言うやつですよ。異世界の知識には興味がありましたので」
今日は朝から一日中遊び回り、もうすぐ夕方になる
「まだまだ夜はこれから」
「はい、他の場所も行ってみたいですにゃ!」
だが、ティスやミケはまだまだ元気と言った感じだ
まあ実際、都会の夜はまだこれからなのだが・・・
「悪いが俺は用事があるから、ちょっと別行動するぞ」
「用事ですか?では同行を・・・」
「ああいや、個人的な用事だから一人で平気だ。財布はウラムに預けておくから、皆は適当に周っておいてくれ」
「そうですか?まあ魔王様がそう仰るならば」
俺はそう言ってウラムに財布を渡す、その時
「・・・」
ウラムと話している俺を、アリアはどこか思いつめた様な表情で見つめていた
皆と別れた俺は、車に乗ってとある場所へ向かっていた
「この辺りも変わらないな・・・」
俺の運転する車は、住宅街の入り組んだ路地に入る
だが勝手知ったる道だ、俺は迷う事なく車を走らせていく
キキィッ・・・
そして住宅街を抜けた先にある駐車場に車を停め、そこから俺は歩いて目的地へ向かう
「ふう・・・」
数分後、俺は目的地にたどり着く
俺の目の前にあったのは家の名前が彫られた四角い石、そう墓だ
「・・・」
俺は目を閉じて両手を合わせる
そして、暫くして
「ここは・・・墓地ですか・・・?」
後ろから聞こえてきた声に俺は振り向く、そこに居たのは・・・
「アリア?なんでここに?」
「その・・・付いて来ちゃいました」
付いて来たって俺は車だったんだが・・・
まあいい、目撃者があまり居ない事を祈ろう
「それで、えっと・・・」
「ああ、これは俺の両親の墓だよ」
「じゃあ、用事って」
「墓参りだ。盆にも帰れなかったしな」
そう言って俺は改めて墓に向かって両手を合わせた、アリアも俺を真似して両手を合わせる
・・・・・・
沈みかけた太陽が辺りを赤く照らす中、二人で黙って手を合わせる。そして
「・・・ソーマさんのご両親って、どんな方だったんですか?」
突然、アリアがそんな事を聞いてきた
「どんな・・・か。まあ、優しい両親って感じだったぞ」
「そうですか・・・」
それきり会話が途切れる、俺もアリアもそれ以上話そうとしない
「・・・ん」
いや違う、アリアは何かを話そうとしているが切り出す事が出来ないでいる様に見えた
それに気づいた俺は、こちらからアリアに聞いてみる事にした
「それで、アリアはなんで付いて来たんだ?」
「え?それは・・・」
少し考え込む様にした後、アリアは呟いた
「その・・・ソーマさんが心配で・・・」
「心配?別にこっちの世界に危険な物は無いし、心配する様な事は何も無いぞ」
「いえ、そういう事ではなくて・・・」
じゃあ何が心配だったんだ?俺は首を傾げる
アリアはまた考え込み
しばらくした後、意を決した様に言った
「その、ソーマさんは・・・」
「ん?」
「この世界が嫌いなんですか?」
アリアが言った言葉に、俺は一瞬固まる
俺がこの世界が嫌いかだって?それは・・・
「なんでそんな事を?」
「この世界に来て、色々な場所を巡っていて思ったんです。この世界には楽しい物が沢山あって、人々は心から楽しそうにしている」
「まあ、そうだろうな・・・」
「けど、それを見ているソーマさんの目はどこか冷ややかで。顔は笑っていても、心は笑っていない様に見えたんです」
「そんな事は・・・」
ある
アリアの言うとおりだ、俺がそんな物を見て愉快に思うはずがない
だが俺は、それを誤魔化す様に言葉を続ける
「ちょっと疲れていただけだって。アリアが心配する様な事は何も無いぞ」
「・・・」
だが、アリアは俺の言葉に納得していない様だった。そして
「私も・・・もしかしたら、ただの考えすぎかもって思ってたんです。でもこの場所に来て、墓に祈っているソーマさんを見て確信したんです」
「確信?何を?」
「ソーマさんがいつも心の底に隠していた物・・・それは世界に対する憎しみ、憎悪だったんだって」
「・・・」
俺は黙ってアリアの言葉を聞いていた、しかし・・・
(アリアの言うとおりだ)
経験や記憶が人の心を、人格を形作ると言うのなら
俺を作っているのは憎しみだ、俺は世界への憎悪で出来ている
普段の俺は、それを必死に取り繕っているだけなのだ
そしてその事を、俺はこの場所に来るたびに思い出す
それをアリアは感じ取ったのだろう
「ソーマさんは・・・この世界が嫌いなんですか?」
アリアは先程の質問をもう一度繰り返す。そして俺は
「嫌いだ」
「・・・!」
そう、ハッキリと答えた
「アリアの言うとおりだ、俺はこの世界が嫌いだ。賑やかな町並みも楽しそうな笑い声も、何もかもが嫌いだ。善人ぶったアイツ等の薄ら寒い言葉を聞いているだけで吐き気がする」
俺は正直に、この世界に対する憎悪を口にする
その言葉にアリアは言った
「ソーマさんがそう思うのはこの場所が・・・ご両親の事が関係しているんですか?」
その通りだ
アリアの言葉は的を得た物だった、だが
「それ以上は聞かない方がいい。別に愉快な話じゃないしな」
俺はそう答える
スッ・・・
そして、俺の表情から笑みが完全に消える
その瞳は、今まで誰にも見せた事がない冷たい瞳
それはハッキリとした俺の拒絶の意思、これ以上踏み込むなという警告だ
「あ・・・」
その拒絶の意思を感じ取ったアリアは、それ以上何も言えず固まる
恐らく、俺がアリアをここまで完全に拒絶したのは初めての事だ
アリアは親に見捨てられた子供の様に、どうしていいか分からず目を泳がせている
「・・・もう帰ろう」
それを見た俺は、話はこれまでだと言う風にその場から去ろうとする。だが
「それでも・・・」
アリアは顔を伏せたまま呟く、そして
「それでも!私は知りたいです!!!」
思いっきり顔をあげると、泣きそうな表情のまま叫んだ
そんなアリアに、俺は困惑する
「何でアリアがそこまで・・・」
「だってソーマさんは私の恩人です!あの日、魔王城で何もかも終わるはずだった私を守ってくれた恩人なんです!だからソーマさんが何か苦しんでいるなら、私は助けたいんです!!!」
そう叫んで、アリアは俺の敷いた拒絶のラインを踏み越えてみせた
それはアリアなりの、精一杯の勇気だったのだろう
しかも彼女は自分の為ではなく、俺の為に勇気を振り絞ったのだ
そんなアリアに俺は・・・
「きっと、聞いた所でどうにもならない話だぞ?楽しくも無いし、嫌な気分になるだけだ。それでも聞きたいのか?」
そのまま黙っている事は出来なかった
そして、俺の言葉を聞いたアリアが勢いよく返事をする
「はい・・・!」
「そうか・・・」
暫く考えた後、俺は
「分かった」
そして俺は、アリアにこれまでの話を話し始める
あの暗闇の部屋にたどり着くまでの、四十万宗真の物語を




