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魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第九章:魔王と休暇と里帰り
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魔王と引きこもり生活

:魔王と引きこもり生活


「ではゲートを開きます」


そう言ってウラムが魔力を集中させると、目の前の空間に魔法陣が描き出される


キィィィン・・・!


そして魔法陣の中央の空間が歪み始めると、真っ黒な穴の様な物が現れた


「それでは、中へどうぞ」


ウラムの合図で、その中に入っていく俺達


ズズッ・・・


穴に入った直後、体が引っ張られる様な感覚がする

そして暫くするとその感覚が消滅し、転移が完了した事が分かった


「ここは・・・」


転移を終えた俺の視界に映っていたのは暗闇、よく見慣れた暗闇だった


「着いたんでしょうか?真っ暗ですけど」

「ああ、ちょっと待っててくれ」


暗闇の中だが勝手知ったる我が部屋だ

俺は何も見えない状態で部屋を歩いて壁際へ行くと、明かりのスイッチを押す


「にゃ!」


パッと蛍光灯の光が部屋中を照らす、そして改めて俺の視界に入ってきたのは


「俺の部屋だ・・・」


間違いなく、ここは俺の部屋だ

何年も過ごした懐かしき俺の住処、暗闇の部屋だ。だが・・・


「・・・酷い有様」

「あれ?そんな綺麗だったわけでもないが、ここまで酷くはなかったはず」


懐かしき我が部屋・・・だったのだが

そこは辺り中物が散乱しており、例えるなら空き巣に入られた後の様だった

その時、俺はその原因について思い当たる


「あ~・・・そうか。色々こっちから物取り寄せたからか」


俺が魔王城に召還された後、様々な物を追加でこちらから取り寄せたのだが

取り寄せた後の部屋がどうなっているかまでは考えていなかった

恐らく俺を異世界に引きずり込んだあの手が部屋を漁って、俺が要求した物を取ってきていたのだろう


「仕方無い。とりあえずこの部屋の掃除は後回しだ」


そう言って、俺はノートパソコンだけ手に取ると部屋を出る

そのまま階段を降り一階のリビングへ、そして閉ざされていたリビングの窓を全て開け放った

開け放たれた窓からは大して広くもない庭と、閑静な住宅街が見える


「ここがソーマさんの世界・・・」

「魔力が全く存在しない世界とは・・・興味深いですね」


それぞれ興味津々と言った様子で外を眺めたり、部屋の中を見て回ったりしていた。その時


「・・・?これって」


アリアが窓際に置かれた写真立てに入っていた、一枚の写真に目を付ける


「ソーマさん。これって、ソーマさんのご両親ですか?」


写真に写っていたのは、高校生の頃の俺と両親だった


「ん?ああそうだよ」

「にゃ!ソーマさまが若いです!」

「まあ、十年以上前の写真だしな」


ミケとティスも食い入る様にその写真を眺めている

その時、アリアは改めて家の様子を伺った後言った


「えっと、ご両親は今はどちらに?」


その質問に、俺はあっさりとした声で答える


「ん?ああ。両親なら両方とも十年ぐらい前に病気で居なくなった」

「そ・・・そうだったんですか・・・、それじゃあご兄弟は・・・」

「兄弟は居ない、一人っ子だったからな。親戚やらなんやらも両親の葬儀以来会ってないし、要は天涯孤独の身ってわけだ」

「それは・・・」


マズい事を聞いてしまったかの様に気まずそうに俯くアリア、だが


「別に気にする事ないぞ。十年も前の話だし、俺も全く気にしてないしな」

「そうなんですか・・・」


そう言って俺はぽんぽんとアリアの頭に手を置くと、リビングのソファーに腰掛ける


「とりあえずその辺でくつろいでてくれ、俺はやる事があるからな」


そして俺はノートパソコンを起動させた


「あ、それじゃあ私お茶淹れますね」

「これはゲーム機・・・・!?ミケ!対戦する!!!」


そして各々、自由に行動を始めていた

その間俺はというと


「こっちも酷い有様だな・・・」


ノートパソコンで持ち株の値を確認していく


「損切りするしかないか・・・こんな損失出したの、株始めた初心者の頃以来だっつの・・・」


とは言え、俺の資産に致命的な損失を与える程の物でもないわけだが

とりあえず、新年明けで売りに出すしかないか

そして俺は、ブツブツ呟きながらパソコンを操作しつづけるのだった






朝早く起きパソコンを開く、そのまま株価をチェックし続け

それと同時に半年以上離れていたブランクを埋めるべく、ネットで情報収集に励む

食事は出前、夜になるとシャワーを浴び、眠り、朝起きてまたすぐにパソコンを開く

こちらの世界に戻ってきてから、そんな日が3日間続いた


「ピザ美味しい・・・」


ティスはピザを食べながらレトロゲーに勤しんでいる、服装もいつの間にかジャージだ


「・・・ほう」


ウラムは片っ端から俺の家にあった本を読み漁っているようだ、こっちの言語が分かるのだろうか?

まあそんな感じで、ウラムとティスの二人はわりとマイペースに行動しているのだが


「う~・・・」

「にゃ~・・・」


アリアとミケは退屈らしい、リビングのテーブルに突っ伏している


「ソーマさん~いつまでお仕事なんですか?もう3日間、一歩もこの家から出てませんよ・・・?」


アリアがテーブルに突っ伏したまま、こっちに向かって恨めしそうな視線を向けて言う


「と言ってもな。俺がこっちに居た頃は滅多に出かけたりした事無かったし。一ヶ月に一回外に出るかどうかだな」

「一ヶ月に一回!?」


驚きのあまりアリアが飛び起きる、ってそんな驚く様な事か?


「大体の事は家の中に居たままなんとかなるし、外に出る必要性を感じないと言うか」


しかし、そんな俺の言葉をアリアが全力で否定する


「だーーめーーでーーすーー!!!そんな生活は不健康ですーー!!!」


そしてテーブルから立ち上がると、俺の腕を引っ張りながら言った


「今すぐ出かけましょう!そうしましょう!ずーっと家に引きこもってたら病気になっちゃいます!」

「別にならないと思うが・・・」


アリアに引っ張られながら、俺はパソコンの画面をチラリと見る


(まあとりあえずやる事は大体終わったし、・・・他にも用事あるしな)


俺は少し考えた後、アリアに向かって言う


「分かった分かった。んじゃ出かけるとするか」

「本当ですか!良かったです!」


そして俺は他の面子にも声をかける


「にゃ!もちろん一緒に行きます!」

「おとうさん出かける・・・?仕方無い・・・」

「出かけられるのでしたら同行致しますよ」


だがその時、出かける準備をしだしたウラム達を見て一つ懸念すべき事が脳裏をよぎる


「そういやウラム、その角とかはどうにかならないか?」

「どうにかと申しますと?」

「こっちの世界に魔族なんていないからな。その姿は目立ちすぎる、というか大事件だ」

「それならば幻影魔法の応用で隠しておきましょう。アリアさんはそのままでいいとして、ティスとミケも普通の人間に見えるようにしておきます。簡単な魔法ですし、それぞれの体内に残っている魔力だけで維持出来るでしょう」

「ああ、頼む」


とりあえずそれなら安心だな、人混みも問題ないだろう


「ですが、一つ注意しておいて下さい。こちらの世界で魔力を補充する手段は無さそうです。幻影程度ならともかく、派手な魔法等は使えないものだと思って下さい。こちらの世界で魔力を使い果たしたら、帰れなくなってしまいますので」

「俺は困らないが、そっちは大問題だな。気をつける」


とは言え、現代日本でそんな魔法を使う様な事態は無いと思うが


「それでえっと、何処へ向かうんですか?」

「ん?そうだな・・・それは着いてからのお楽しみって事で」


そして俺達は、ガレージにあった2台目の車に乗り込むと家を後にするのだった






家を出た後、車で高速道路を1時間程走り、たどり着いた場所は


「な・・・なんですかコレーーー!!!」


アリアが目の前の光景に思わず叫ぶ

目の前に広がる人、人、人の群れ

大都会東京の中の更に都会、渋谷駅前ハチ公広場である

しばらくアリア達をその場で待たせ、車を停めてきた俺は辺りを見渡しながら呟く


「うーむ、懐かしい感じだ」

「凄まじい人の数ですね。セレンディアで一番栄えている国でもここまでではないでしょう」


信号が変わると同時に大勢の人々が交差点を渡って行き、近くのビルの巨大モニターの音楽が辺りに鳴り響いている

俺としては見知った風景なのだが、異世界暮らしの面々に取ってはそうではないらしい

ウラムだけでなく、他の面子も周りの様子に圧倒されている様だ


「凄いです!凄いです!」

「・・・ヤックデカルチャー」

「にゃー・・・にゃー・・・」


と言うより、なんか頭がショートしてる感じだな

アリアはさっきから「凄いです!」しか言ってないし、ティスとミケはぼけーっと口を開いたまま虚ろな目で周りを見ている


「おーいお前ら、正気に戻れ」

「ハッ・・・!ちょっとどうしていいか分からなくなってましたにゃ・・・」

「フッ、人がゴミのようだ・・・」

「ティスはそれ言ってみたかっただけだろ。さて、とりあえず何処へ行くかだが・・・」


悩んでいたその時、周りの視線を感じる

辺りを見渡すと視線だけでなくザワザワと騒ぐ声


「外人?何かの撮影?」

「民族衣装って言うの?つかコスプレ?ちょー似合ってるんですけど」


うーむ、どうやら魔族である事は隠しても目立つメンツである事に変わりはない様だ

このままだと街を歩いている間ずっと見つめ続けられる事になるし、それで何か問題が起こるかもしれない


「とりあえず、服を買いに行くか」

「承知しました魔王様」


そう言って俺は、そんな異常なメンツを引き連れ近くのデパートへと向かうのだった

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