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魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第九章:魔王と休暇と里帰り
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魔王とほうれんそう

:魔王とほうれんそう


メルヒェンス山の噴火騒動から一か月程が過ぎた頃

また季節が過ぎ、今はと言うと・・・


「それでは皆さん」


玉座の間に集まった魔王軍の面々、そして全員がウラムの合図と共に声を揃え言った


「「明けましておめでとうございます」」


そう、今日は1月1日、元旦である


「なんで異世界に元旦が?とかはもう気にしないが、まあともかく・・・」


そう呟きながら俺は、ポケットから事前に用意してあった小さな袋、ポチ袋を取り出す


「それじゃあこれお年玉って事で」


そう言って俺はアリア、ティス、ミケにそれぞれその袋

つまりお年玉を手渡した


「これがお年玉!」

「おお・・・」

「ありがとうございます!ソーマさま!」


どうやら喜んでもらえた様でなにより、少ないポケットマネーをやりくりした甲斐があったという物だ

その時、首を傾げながらウラムが言う


「おや?私の分が無いようですが」

「お前は俺より遥かに年上だろうが!むしろくれる側じゃねーのか?」

「おっと藪をつついてしまいましたか、年上は貰えない物だとは残念です」


と、あまり残念そうじゃない表情で言うウラム


「ですが、それならミケも・・・」


そうウラムが続けようとした瞬間、ミケが慌ててそれを止める


「にゃああああああああ!!!!!ウラムさん止めて下さいにゃああああああ!!!!!」

「おや?マズかったですか?」


その様子を見た俺は、ミケに向かって質問する


「ん?もしかしてミケも結構年上だったりするのか?」

「えっと・・・その、人間の感覚的には結構な年齢と言いますか・・・」


ふーむ

まあ魔族と人間の年齢感覚は全然違う様だし、ミケが年上だったとしても別におかしくはないだろう

見た目は完全に二十代前半と言った感じなので、普通に年下の様に扱ってしまっていたが


「別にお年玉を返せとかは言わないから、年齢なんて気にしなくていいぞ」

「え?いや、そういう意味で気にしていた訳ではなかったんですが・・・」


俺の言葉を聞いたミケは何やらボソボソと呟いているが、まあそれはともかく

正月だからと言って、今の俺達にのんびりと休んでいる暇などない


「んじゃ、仕事に戻るとするか」


俺はそう言って場を切り上げようとする、だが


「仕事ならありませんよ?」


ウラムがさらりとそう言った


「は?仕事が無いってどういう事だ?」

「この世界では元旦から一週間はどこも休みです、よっぽどの事で無い限り誰も働きません」


その言葉に俺は周りを見渡すがどうやら本当らしい、皆ウラムの言葉に頷いている


(一週間誰も働かないって、社会のインフラとかは大丈夫なんだろうか?)


そう考える俺だったが、まあ異世界の常識について考えても仕方無い


「まあそれならしょうがない、俺らも休みにするか」

「良いのですか?」

「郷に入っては郷に従えって言うしな、社会のルールに喧嘩売っても仕方無い」


という事で、俺達魔王軍はしばらく休暇になったわけだが

それはそれで問題なのだ、つまり・・・


「休みって言ってもなぁ、特にやる事も無いし」


この世界に来てから仕事ばっかりしていた反動か、仕事の無い日の過ごし方など全く考えていなかった


「・・・そういやウナ達はどうしたんだ?一応あいつ等の分もお年玉用意してあったんだが」

「ウナちゃん達なら実家に帰省中ですよ、折角の元旦だしという事で」

「そっか、じゃあ帰ってきたら渡す事にするか」


ケモ耳の故郷か、一度行ってみたい所だが

ケモ耳だらけの里とかまさに桃源郷、癒しみが止まらない


「ミケは一緒に帰らなくてよかったのか?」

「えっと、それは・・・今年はこっちに残ろうかと・・・」

「ふーん。まあミケがいいならいいんだが」


俺は特に疑問を感じる事もなく、素直に納得する


(それにしても里帰りか・・・)


俺がそう考えていると、アリアが俺の側に来て言った


「ソーマさんの故郷は異世界なんですよね」

「ん?まあ、そうだな」

「ソーマさん、何か気になる事があるみたいですが」


何やら顔に出ていたらしい、アリアが心配そうにそう言う


「ああいや、大した事じゃないんだが。家も結構長い間放置してるからな、どうなってるかと思って」

「・・・おとうさん家に帰る?」

「それが出来れば苦労は無いんだが・・・」


家の事は心配だがそれを確認しに戻る手段は無い、何せここは異世界だ

強制的にこの世界に連れてこられ、元の世界に帰る為に俺は必死に仕事してるわけだからな

だが、それを聞いていたウラムは意外そうな表情で


「・・・?帰れますよ?元の世界」


と、サラリと言った






そのウラムの言葉で場の空気が固まる

そんな微妙な空気の中、俺は恐る恐るウラムに質問した


「は・・・?帰れるってどういう事だ・・・?」

「えっとですね。初めて魔王様がこちらの世界へ来た時に・・・」


(1年間だけ魔王をやってやる!お前はその間に俺を帰す方法を見つける事。そして1年経ったら俺は元の世界に帰らせてもらう!それが条件だ!!!)


「・・・と仰っていたじゃないですか」

「まあ、確かに言ったな・・・」

「その後私は、魔王様を元の世界へ帰す方法を研究していたわけで。そして研究の結果、異世界へのゲートを作り出す魔法を編み出したというわけです」


異世界へのゲート!?元の世界に戻れる!?

俺はウラムに詰め寄りながら言った


「マジか!一体何時の間に!!??」

「え?まあ正直言うと夏頃にはもう完成していたんですが、私天才ですので」


夏・・・?

つまり数ヵ月前の時点で、俺はいつでも元の世界に帰れたと言う事・・・

その衝撃の事実に、俺は玉座の間全体に響き渡る声で叫んだ!


「だったらとっとと言えやあああああ!!!報告!連絡!相談!ほうれんそうを知らねえのか!!!」

「ほうれんそう?何ですかそれは?異世界ノ言葉ハヨクワカリマセン」


そうとぼけた様に言うウラム、明らかに確信犯と見た


(くっそう、こんな所だけ異世界ムーブで誤魔化しやがって!だがそれはともかく・・・)


俺はボソリと呟く


「そうか、帰れるのか・・・」


別にあっちの世界に思い入れがあるわけではないが、いざ帰れるとなると少し戸惑うな

俺が逡巡していると、ウラムが提案してきた


「まあ休暇を利用して、一時帰還ぐらいなら良いのではないですか?丁度今は仕事もありませんし」

「そうだな・・・そうするか・・・」


その時、俺の服の袖を引っ張るいつもの感覚

振り返ると不安そうな表情をしたティスが俺を見つめていた、そして


「おとうさん・・・元の世界に帰っちゃう?」

「ん?ああ~・・・まあ、すぐ帰ってくるぞ」


俺はそう答えるがティスの表情は晴れない、すぐに帰るとは言っても不安には違いないのだろう

その時、そんなティスの気持ちを察したのかアリアが言った


「それじゃあ一緒に行きませんか!?」

「・・・一緒に?」

「はい!ソーマさんの故郷、異世界へ!」


そしてアリアとティスの二人でこちらを見つめてくる


「俺は別に構わないが・・・」


そう言いながら、俺はウラムに視線を送る


「ええ、問題ありませんよ。ゲートをくぐるだけなので人数は何人でも構いません」

「そうか。じゃあ一緒に来るか?」

「うん!一緒に行く!」


そしてティスは笑みを浮かべながら、普段あげない様な大声で言った


「私も一緒に行きたいです!異世界を一度見てみたいので!」

「それなら、私も行きますにゃ!」

「帰りのゲートを開かなければなりませんので、私も同行致しますよ」


そう言って、ティスに続いてアリア達も同行を希望する

となると、あっちの世界に行くのは俺、ティス、アリア、ミケ、ウラム・・・


「ギガスはどうする?」

「異世界に興味はありますが、残念ながらさすがに端末の操作圏外となります」


そう言えばそうだった

さすがに異世界まで操作電波?を飛ばす事は無理だろう


「そうか。じゃあ興味ありそうなアニメでも買って帰ってくる事にするよ」

「ありがとうございます魔王殿。留守はお任せ下さい」


という訳で、休暇を利用し俺達は俺の故郷、日本へと行く事となった

まああっちの世界なら大丈夫だと思うが・・・


「ロクな事にならなけりゃいいんだが・・・」


今までの経験から、俺はそう思わずにはいられなかったのだった

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