魔王と古より浮かび上がる物
:魔王と古より浮かび上がる物
披露困憊と言った様子で城へと帰っていくソーマ達
その場に残ったウラムはその背中を見送る、その時ウラムの側にギガスの端末が来て言った
「申し訳ありませんでしたウラム殿」
「構いませんよ。これで「敵」の見当も付きましたし」
巨人との戦いの最中、こちらを観察している視線にウラムは気付いていた
今回の出来事は「事故」ではなく「事件」なのだと
「貴方の封印に干渉してくる相手となれば数は限られてきます、何処の誰でも解除出来る様な代物ではないですからね」
「はい。この様な事は二度と無い様、封印の強化も行っておきます」
「ええ、お願いします」
そしてウラムは、荒野に一つだけ残った魔王城を見上げながら言った
「まあ正直な所、この城を失っても再起する手立ては用意してありましたしね」
「そうなのですか?」
ウラムの言葉に疑問を感じたギガスは、ウラムに問いかける
「では、何故あの様な危険を冒してまで城の防衛を?」
「・・・何故でしょうね?アリアさんに感化されたのかもしれません。思い出を守る為というやつでしょうか」
かつてこの地で起こった出来事
それに思いを馳せながらウラムは続けて言った
「この城は、あの王国の最後の名残ですからね」
「エキザカム・・・ですか?」
「ええ、かつてこの地に繁栄した人間達の国エキザカム。広大な国土と強力な騎士団を有した世界でも有数の大国でした、ですが・・・」
今は何も無くなった荒野を眺めながら、ウラムは呟く
そんなウラムの様子に、思わずギガスは言った
「ウラム殿は・・・後悔しておられるのですか?」
そのギガスの言葉に、ウラムはフッと笑いながら答える
「まさか、我々魔族にその様な感傷はありません。私は後悔しているわけでも、懺悔がしたいわけでもありません」
「では・・・?」
「600年前ここにあった人間達の営み、そしてソレが何かを理解しないままそれを滅ぼした魔神が居た事。人々の記憶から失われ、もう誰もその国を覚えていないとしても私だけは忘れない。それが如何に間違った行為だったとしても、私はそれを無かった事にはしたくない。ただそれだけです」
そしてウラムは魔王城と呼ばれる城に向けて歩いていく
かつてエキザカム城と呼ばれた城に向かって
その数日後
この世界の影に潜む彼らも、今回の件について報告を終えていた
「今回の作戦も失敗したか」
モニター越しにその男は言った
だがその言葉は怒りや失望等を表した物ではなく、ただ淡々と事実を確認するだけの物だった
「はい。まさか魔神クラスが2体も居るとは計算外でした」
「いざとなれば武力制圧を行う事も検討していたが、それも容易では無い様だ」
そしてモニターの男は事態の対処について考えを巡らせ始める
だがそれを遮り、ジョシュアは報告を続ける
「実はもう一つ報告したい事が」
「何だ?」
「まずは、これをご覧下さい」
そう言った後、映像を流すように部屋に居たもう一人の天使フィーリスに合図をする
「はい、映像出します」
そして、フィーリスは記録映像に残された映像を再生する
それは巨人のギガスが究極魔法である「ギガメリウスの黒炎」を発動した次の瞬間
「ディバインシールド!!!」
アリアが発動した防御魔法がギガスの黒炎を受け止める、それを見たモニターの男は呟く
「これは・・・?」
「はい、我々が使う神聖防壁と全く同じ魔法です。ですが・・・」
「・・・それは人間には不可能のはずだな?」
「ええ。これは光の属性魔法、つまり我々天使にしか扱えない魔法のはずです」
「この少女は何者か?」
モニターの男はジョシュアではなく、横に居たフィーリスに向かって問いかける
フィーリスは緊張した様子で言った
「は・・・はい!彼女は勇者と呼ばれている人物です!」
「勇者?人間には間違いないのだな?」
「はい!そのはずです!」
その報告を聞いた後、何事か考え込む男。そして
「報告は理解した。そちらについてはこちらで調査しておこう」
「ハッ!」
天使達が敬礼を返すと通信が切れた。そして
「おい」
「はい。なんですか?」
ジョシュアはフィーリスに向かって問いかける
「お前、何で邪魔をした?」
「・・・ッ!そ、それは!」
「お前が余計な事をしなければ、奴らは巨人の魔法で全滅してたはずだろうが」
それはアリアに魔力を供給した事に対する糾弾だ
「で、でも!あの時は自分の命を守る為に他に手段は・・・!」
フィーリスは咄嗟に弁明をする、だが!
ガンッ!
「あうっ・・・!」
その言葉にジョシュアはフィーリスの肩を掴んで壁に押し付ける!
「俺は指示しておいたはずだよな!?あの城から撤退しろと!」
そう、ソーマ達が会議をしていた時にフィーリスの端末にかかってきていた通信
それはジョシュアからの撤退命令だった
「それを勝手に現場に残った挙句!敵の手助けか!?ああ!?」
そう言いながらフィーリスを睨みつけるジョシュア、しかし
「・・・ですが、まだ彼らに対する直接の攻撃指令は出ていないはずです。施設の破壊までならともかく、彼らの命を奪ったとなれば明確な命令違反に・・・!」
フィーリスは怯えながらもなんとか答えを返す
「ああ・・・!?」
「・・・ッ!」
しばらく、ジョシュアはそのままフィーリスを睨みつけていたが
「チッ・・・まあいい、次は無いぞ」
そう言って、フィーリスの肩を抑えていた手を放す
「了解・・・しました」
そしてジョシュアは部屋を出ていき、フィーリスもそれに続いた
その頃、ジョシュアとフィーリスの報告を受けたモニターの男は机に座ったまま呟いた
「光の属性魔法を扱う人間・・・確か、遥か昔にその様な計画が存在していたはず」
とある辺境の星で行われていた計画、確かその名は・・・
「半神計画・・・」
だがあの計画は頓挫したはず、それらの研究が何らかの形で残っていたという事だろうか?
だが、男の思考はそれとは別の事柄に移る
「だがもしそうだとすれば・・・」
そう、あの計画は「アレ」に対抗する為の計画だったはず。であるならば
「あの星がそうなのか・・・?」
あの星に「アレ」が居るのだろうか?
天界史上、いや全宇宙史上最悪の災害である「アレ」が
「最悪の事態に備えておく必要はあるな」
そして男は立ち上がると、次の行動を開始するのだった




