魔王と魔神達の饗宴
：魔王と魔神達の饗宴
「ガアアアアアアアアアッ！！！」
巨人の炎を纏った拳が振るわれる！
赤の軌跡を描くその一撃は、並大抵の相手なら触れるだけで一瞬で焼き尽くされるであろう
だがウラムは、その一撃を飛行しながら紙一重で回避する！
「さすがにアレはもらいたくありませんね、ドラゴンの炎とはわけが違います」
そして！魔力を集中させると渾身の一撃を放つ！
「疾風螺旋！！」
ウラムが放った竜巻が巨人に襲い掛かる！
あの大きさでは避けるのは不可能、当然巨人は防御するだろうと予測されるのだが
ドガガガガガガッ！！！
だが予想に反して巨人は防御をしなかった、その体に螺旋と化した竜巻が突き刺さる！
「なっ！？」
「オオオオオッ！！！！！」
しかし巨人はソレを意に介した様子も無く攻撃を続ける！
「この程度では足止めにもなりませんか・・・実際の所、今のが私が使える最大級の一撃だったのですが」
つまり、真っ当な手段で巨人を止める事は出来ないと言う事
（しかし目的はあくまで時間稼ぎです、このまま注意を逸らし続ければ・・・）
ウラムはそのまま付かず離れずの距離で攻撃をし続ける、だがその時！
「にゃあああああ！！！今度こそ防壁が抜かれたにゃ！！！」
「魔王！全ての防壁が抜かれたにゃ！城まで撤退するにゃ！リィ！マウ！ミケ！撤退にゃ！」
「分かったにゃ！」
グシャッ！！！
押し寄せるマグマによって地上の防壁が全て破壊され！
ゴオオオオッ！！！
そして！次は魔王城を飲み込もうとマグマが襲い掛かる！
「アリア！」
「はい！ディバインシールド！！！」
キィィィィィンッ！！！
その時！城全体をアリアの魔法が覆う！
勇者の力による最大級の防御魔法、魔力を付与されたマグマといえどこれを破壊する事は出来ない！
「すみませんアリアちゃん」
「いえ、あとは私に任せて下さい！」
だがその時！
「グゥ・・・オオオオオッ！！！」
城に張られた防御魔法に巨人が反応した！
ズンッ！！！ズンッ！！！
「おい！巨人がこっちに向かってくるぞ！」
「どうやらターゲットを変えた様ですね、私は倒すまでもないと言う事でしょうか」
「どうにかならないのか！？」
「通常の手段で止める事は不可能・・・。仕方ありません、奥の手を使いますか」
そう言って、ウラムは精神を集中させる
「魔力核との遠隔接続、稼動開始・・・」
そしてウラムは魔力を高めていく！
「あれは！？今までにない膨大な量の魔力がウラムさんに集まっています！」
「この城から魔力が流れているみたいですにゃ！」
「稼動率２０％・・・３０％・・・４０％・・・」
ギュオオオオオッ！！！！！
辺りの大気が歪む程の魔力がウラムに集まっていく！だがその時！
ビシッ！！！
「ぐっ！！がああああああああああっ！！！」
突如！ウラムが苦しみ始める！！！
「「ウラム様！！！」」
「ちいっ・・・！魔力核の稼動を中止！遠隔接続を解除！」
その瞬間、ウラムに流れていた魔力の流れが停止する
「・・・やはり、まだ全力は無理ですか。ですが、これだけの魔力があれば十分！」
そして集めた魔力を放とうとしたその瞬間！
「ッ！！！」
「オオオオオッ！！！」
巨人の視線は城からウラムへと移っていた、そして！！！
ゴオオオオオオオオッ！！！
巨人の口から放たれた炎がウラムに襲いかかる！
「なっ！！！」
不意を突かれたウラムは、集中させた魔力を放つ前に炎の直撃を食らう！！！
「ウラム！！！」
「ぐっ・・・」
そしてウラムは地上へと落ちていった！
ドシャッ！
炎の直撃によるダメージでウラムは地上に墜落し、倒れ伏していた
「くっ・・・不覚を取りました」
「マズイ！ウラムが！！！」
「助けにいかないと！でも今シールドを解除するわけには！！！」
アリアはマグマをせき止める為に城を離れる事が出来ない！ミケ達をあの巨人に向かわせる事も無謀だ
だがその時、ウラムの元へ向かう影が一つ
「あれは！ティスちゃん！」
いつの間にか城の外にいたティスが、ウラムの側に降りていく
そして、「彼女」はウラムの側に立つと声をかける
「無様ねウラム」
「・・・？」
「とっとと立ちなさい。その程度で倒れる様なヤワに鍛えた覚えは無いわよ」
「ええ・・・まあそうでしたね、貴方との特訓はこんな程度じゃなかった」
そしてウラムは立ち上がる
その様子を通信越しに聞いていた俺が叫ぶ
「もしかしてラグナか！？」
そして、通信から返ってきたのは案の定
「ええそうよソーマくん、お久しぶり。どうやら困ってるみたいだったから出てきたわ」
「ラグナ・・・殿・・・・」
「ギガスも久しぶり、ティスと意識を共有してたから大体の状況は把握してるわ。全く愉快な同窓会になったものね」
そう言って炎の巨人を眺めながら、笑みを浮かべるラグナ
そしてウラムも笑みを浮かべるとラグナに言った
「同窓会ですか、過去の楽しい思い出話に花でも咲かせますか？」
「遠慮しておくわ。巨人よりアンタの方を殺したくなるもの」
「それは困りますね。ただでさえ現状キツイのに、敵が増えるのは厄介です」
そんな軽い殺意を込めたやりとりを交わした後、ラグナはこっちに通信を送ってくる
「まあそれはともかく。お姉さんがなんとかしてあげようかしら」
「何か手があるのか！？」
「あるわよ、とっておきのが。でも一つ問題があってね」
「問題？」
「発動までちょーっと時間がかかるのが難点なの。だからちょっとでいいから、あの巨人の足止めをしてもらいたいのよ」
「足止め？落とし穴でも掘れってか？」
俺はチラリと後ろに視線を向ける
「無理に決まってるにゃ！！バッカじゃねーかにゃ！！？？」
「可愛い猫娘達に死んでこいとかお前悪魔かにゃ！？」
その俺の視線に激しい抗議で答えるリィとマウ
俺はラグナに向かって答える
「落とし穴は無理そうだ」
「そうね・・・動きを止めるなんて贅沢は言わないわ、視界を塞いでくれるだけでもいいんだけど」
「視界を？」
「美女のハダカは隠してこそ価値があるのよ？ソーマくんにはあの時見えちゃってたかもしれないけど」
そのラグナの言葉にミケが焦って叫ぶ
「にゃ！見えてたんですか！？」
「いや見えてなかったから！」
「ティスのは」な、大体あの時は・・・
「・・・！」
俺がそこまで考えた時、あるアイデアが頭に浮かぶ
「視界を塞げばいいんだな？」
「どうやら何か考えが浮かんだみたいね」
「ラグナのお陰でな。ウラム！あの巨人を温泉に誘導しろ！まだ無事なはずだ！」
「温泉へ・・・？なるほど、了解しました」
その言葉だけでウラムは俺の作戦を理解したらしい
そして、ウラムはラグナと共に飛行して巨人へ向かっていく。その途中
「そういえばラグナ」
「何？」
「さっき言ってたとっておきって、まさか「アレ」を使う気ですか？」
「そうよ。他に手がある？」
「いえ、他に手が無いのは認めますが・・・アレって所謂、無差別範囲攻撃じゃないですか」
「それが何か問題？城の方はアリアちゃんの防壁があるから大丈夫だろうし、アンタは・・・まあ精々風邪ひかない様にしなさい」
「風邪で済めばいいんですけどね・・・」
「グダグダ言ってないで行くわよ！」
そして！巨人に向かってウラムとラグナの同時攻撃が開始される！
「竜巻よ！螺旋を描け！」
「氷よ！槍となり敵を貫け！」
「グオオオオオオオオオッ！！」
ゴオッ！ドガガガガガッ！！！
次々と放たれる風と氷の魔法！巨人はそれを振り払うように拳を振るう！！！
だが二人はそれを回避しながら、じょじょに温泉の方へ巨人を誘導していく！
ズンッ！！！ズンッ！！！
そして！巨人は温泉のすぐ側まで到達する！
「それじゃ準備に入るわ」
「ええ、ここまで来れば十分です。では・・・」
「ああ！作戦開始だ！！！」
「了解！！！」
そして！ウラムは地面に向かって魔法を放つ！
「螺旋貫通弾！！」
ギュガガガガッ！！！
ウラムの放った魔法が温泉の側の地面を抉り！そして！
ブシャアアアアアア！！！
その穴から勢いよく温泉が吹き上がり、巨人へと降りかかった！！
「温泉を巨人に！？」
「でもあんなんじゃ効かないにゃ！」
「まあそうだろうな、正に焼け石に水だ。だが・・・！」
温泉が巨人に降りかかるが、その炎を消すことは出来ず一瞬で蒸発する。だが！
「グ・・・オオオオオオッ？」
ブアッ・・・！
蒸発した温泉の湯気で辺り一帯が充満し、巨人の視界を塞いだ！
「湯気で視界を！？」
「ああ、液体が蒸発して気体になるとその体積は一気に増えるからな」
「でも、そんなの一瞬で晴れるにゃ！」
「そこはまあ・・・」
俺が続けようとしたその時！
「オオオオオッ！！！ガアアアアッ！！！」
巨人は湯気を振り払うように手を振り回す！
だが一向に視界が開ける様子は無い、何故なら
ブオッ！！！
「ええまあ、一応風の将軍ですしね。辺り一帯の気流の流れを操作し、巨人の周りだけに湯気を充満させる等たやすい事です」
「よし！これでしばらくはなんとかなる、あとは任せたぞラグナ！」
そして俺は、上空に待機していたラグナに合図を送る！
（ラグナ・・・）
「何？ティス」
（本当になんとか出来る？）
「ええ、まあ見てなさい。少しはカッコイイ所見せてあげるから」
そしてラグナは、目を閉じ呟く
「我は世界に接続する・・・」
凄まじい魔力を集中させ魔法を練り上げていくラグナ
大気に充満した魔力が蒼く発光すると、ラグナの周辺に魔法陣を描き出していく
「是なるは氷獄将軍ラグナティスの究極魔法、全ての分子を停止させ凍り付かせる究極の一！！！」
その言葉は詠唱ではなく宣言だ
世界の一部を変える程の力を行使するという、世界に対する宣言である
そして！その魔法が発動しラグナが溜め込んだ魔力を辺り一帯に放つ！！！
「ラグナティスの氷界！！！」
キンッ！！！
ラグナの発動した魔法が、輪が広がる様に一瞬で周辺数キロに広がる！そして！！！
ビキィ！！！！！
辺り一面が氷で覆われ、全てが停止した！！！
「凄い・・・あの巨人が一瞬で凍りついちゃいました・・・」
「周辺のマグマも全部凍っちゃったにゃ・・・これがラグナティス将軍の力・・・」
ラグナが放った魔法は、メルヒェンス山の全てを凍りつかせるとてつもない威力だった
「まあ、これがお姉さんの本気よ。城のみんなは大丈夫みたいね、あとはウラムだけど・・・ウラムー生きてるー？」
「生きてますよ、氷界の範囲外まで思いっきり逃げましたので」
「あっそう」
そんなウラムの言葉に舌打ちをするラグナ
そして、俺は一瞬にして氷の世界と化した周囲の様子を見ながら呟く
「凄いな・・・魔王軍の幹部ってみんなこんな事出来るのか・・・？
唖然とする俺の声にラグナが答える
「無理無理、これは魔族の中でも最上級の魔神って呼ばれる連中だけが使える魔法よ」
「魔神？」
「ええ。前の魔王軍にも強力な魔族は沢山居たけど、魔神なんて呼ばれる連中は片手の指で数える程しか居ないわ。私にそれから・・・」
だがその時・・・
「我ハ世界ニ接続スル・・・」
聞こえてきた声にくるりと後ろを振り返るラグナ
そこには凍りついた巨人の姿、そして・・・
パキッ・・・
巨人の顔を覆っていた氷の半分が割れるとそこから炎に包まれた顔が現れる
ゴゴゴゴゴッ・・・
そして、その炎の色が赤から黒に染まっていく
「・・・忘れてたわ、ギガスも魔神の一人だったわね」
「これは・・・ヤバイですね」
そして！今度は巨人の周辺に先程と同じ様な魔法陣が描かれ始める！！！
ゴゴゴゴゴッ・・・！！！
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ！！！アレが来る！！！ギガスの究極魔法が！！！」
「さっきのラグナみたいなのを撃ってくるのか！？」
「ええ、でもギガスのは周辺全部をって訳じゃないわ！範囲は前方だけ！！！」
「ただし、前方の空間全てが焼却され岩ですら蒸発する威力です」
この間も、巨人に凄まじい魔力が集中していく！！！
「是ナルハ轟炎将軍ギガメリウスノ究極魔法、全テノ分子ヲ振動サセ焼キ尽クス究極ノ一！！！」
巨人の前方、ラグナにウラム
さらに魔王城も魔法の範囲に入っている！
「ちょっとどうするの！？」
「残念ですが、最早アレを止める事は我々には不可能です」
「不可能ってアンタね！！！」
「ですので・・・」
そして！巨人が魔法を放つ！！！
「ギガメリウスの黒炎！！！」
カッ！！！！！
ギガスの魔法陣から黒の閃光がレーザーの様に放たれた！！
ゴオオオオオオオオオオッ！！！！！
その大きな光は魔王城を飲み込むように迫り！それと同時に！！！
「後はお任せしましたよ」
「はいっ！！！」
アリアが閃光の前に立ち塞がった！！！
「ディバインシールド！！！」
キィンッ！ガガガガガガガガガガッ！！！！！
アリアの展開させた防御魔法が黒の閃光を全て遮る！！
その光を見たフィーリスが叫ぶ
「やっぱりこれって光の！？」
そう、それは本来ありえない
人間には不可能なはずの光の魔法の輝きだった
「何なの！？ギガスの黒炎を防いでるわよあの子！！！」
「これが勇者の力です！！！」
「勇者・・・」
その時、ラグナの脳裏にかつて勇者と呼ばれた青年の姿が思い出される
それは人ならざる力を得てしまった青年・・・金色の髪をした青年の姿だった
そして、ラグナは呟く
「・・・これがあの計画の完成系」
しかし、そのラグナの呟きにウラムが答える
「いいえ、違いますよ」
「？」
「これは人間の力です、人だけが起こせる奇跡と呼ぶ物です」
ゴオオオオオオオオオオッ！！！！！
凄まじい魔力の奔流を全て受け止めるアリア！
だが、ギガスが放つ黒炎の勢いは衰えない！
「このままずっとは流石にキツそうです！！」
「耐えてくれアリア！！ギガス！封印は！？」
「あと３０秒です・・・！！！」
「くうっ・・・！！！」
マズイ！もうこれ以上耐え切れない！！！
アリアの魔力が尽きれば３０秒どころか、一瞬で魔王城もその中の俺達も蒸発する！
だがその時、フィーリスは鞄からある物を取り出す。しかし・・・
（これは天使専用の物・・・人間に扱う事は不可能っス。でももしかしたら・・・！）
確証は無い、だが他に手は無い
私達と同じ力を扱う彼女なら・・・意を決してフィーリスはそれを解放する！
キィィィィィン・・・！
「魔力が・・・回復した！？」
アリアに余力が戻る！
その時、アリアに流れ込んだ魔力の元は
「非常用のエネルギーパックっス！そんなに容量は無いっスけど！！！」
「はい！これなら耐えられます！！！」
アリアは全力でシールドを維持する！そして！！！
「封印再構築・・・３・２・１！！！」
フッ・・・
突然、巨人から放たれていた閃光が消えると
ズンッ！！！ズンッ！！！
巨人は後ろを振り向きメルヒェンス山の山頂、火口へ向かって歩いていった
それを見ながら俺は呟く
「・・・なんとかなったか？」
「はい。再封印は完了、私の本体は再び私の制御下に戻りました」
その言葉と同時に緊張が解け、安堵のため息をもらす面々
「うにゃ～・・・助かりました～・・・」
「ホント死ぬかと思ったにゃ・・・魔王に関わるとロクな事が起きないにゃ」
「ええ、皆さんお疲れ様です。外は温泉も含めて酷い有様ですが、城の周辺は無傷ですよ」
「にゃあ！菜園は無事でしょうか！？」
そのウラムの言葉に状況を確認するべく城の外へ出てきた俺達
その時、遠くの地平線から浮かび上がってくる光が辺りを照らし始めた
「もう朝か・・・」
「いつの間にかこんな時間になってたんですね」
その朝日を眺めていたラグナにティスの声が聞こえてきた
（疲れた・・・もう寝る）
「ティス・・・？もう寝ちゃったわ。それじゃ私も疲れたし休むわね」
そう言って城へ戻ろうとするラグナに俺は声をかける
「助かったよラグナ」
「タダなんて言わないわよ？貸しにしとくから」
俺の言葉に艶やかな笑みで答えると
ラグナは自分の部屋で休む為、城に帰っていった
そして、城の外に立ち尽くしていた俺達に向かってウラムが告げる
「さて、皆さん。そろそろ仕事の時間になりますが・・・」
「うう・・・そうでした」
「にゃあ・・・ソーマさま・・・」
何かを訴える様に俺を見つめてくるアリア達
「分かった分かった・・・今日は魔王軍臨時休業だ」
「やった！！！」
「ありがとうございますソーマさま！！！」
俺の臨時休業宣言に喜ぶ面々、まあ気持ちは分かる
（今日は朝からスキー、温泉、噴火と尋常じゃなく忙しかったからな。いや、もう昨日か）
とにかく何はともかく眠い、他の事は目が覚めたら考える事にしよう
そして俺達は、普段よりも燦々たる有様の荒野に背を向け
魔王城へと帰っていくのだった
