魔王とあちら側とこちら側
:魔王とあちら側とこちら側
スキーを楽しむ事数時間
辺りも暗くなってきた為、俺達は撤収する事にした
ナイター用の設備も用意しておくべきだろうか?なんて考えをめぐらせながら移動してきた場所は
「お待ちしておりました皆様」
建物の入り口でギガスが俺達を出迎える
魔王城からやや離れた位置に新しく作られた建造物
勘違いした日本マニアが設計した様なやや不自然な和風テイストの建物、そう温泉旅館である
その、この世界では馴染みが無いであろう建物を見上げながらアリア達が言った
「これが旅館ですか・・・」
「まだ外観と温泉ぐらいしか完成してないけどな、オープンするのはまだ先になりそうだ」
「温泉っスか?もしかして入れるんスか?」
「ああ、折角だからこっちも試してもらおうかと思ってな」
「にゃ!楽しみです!」
という訳で、俺達は貸切状態の旅館に泊まる事となった
その後、各々着替え等を用意し温泉にやってきた
当然ながら男湯と女湯は別である
温泉の入り口で女性陣と分かれた俺とウラムは、二人で温泉に浸かる事となった
そして、女湯の方はと言うと
「わあ・・・!すっごく広いお風呂です!」
「貸切でスしね、余計広く感じるっスよ!」
そう言って温泉に入っていくアリアとフィーリス
「・・・暑い」
「ティスちゃん!そんな事言わず、折角だから一緒に入るにゃ!」
その後ろでは、温泉に入るのを渋るティスをミケが半ば強引に引きずっていく
そして4人で湯に浸かる
「はあ~・・・・あったまるっス・・・」
「さっきまで雪に囲まれてたから余計にあったかく感じるにゃ・・・」
「私は遊びすぎて疲れた・・・」
「そうですね・・・疲労回復にも良いらしいですし、ゆっくりしていきましょう」
皆が雑談をしながら温泉を楽しんでいた、その時
「にゃ~・・・」
ふとミケの視線に気付き、アリアが言葉をかける
「・・・?どうしましたミケちゃん?私の体に何かついてます?」
アリアの言葉にハッ!と正気に戻ると恥ずかしそうにミケは言った
「い、いえ!その・・・アリアちゃんの肌キレイだな~って思って・・・」
「そ・・・そうですか・・・?」
ミケの言葉に頬を赤く染めるアリア
アリアの肌は女性なら誰でも憧れるだろう、傷一つ無い透き通る陶器の様な肌をしていた
「そうでスね。その金色の髪もキレイでスし、ドレスとか着たらお姫様みたいになれまスよ」
「ん・・・んう・・・」
フィーリスもミケに続きアリアを褒め殺しにすると
アリアはさらに顔を赤くして、温泉に顔半分まで沈んでいった。だが
「そ・・・!そういうミケさんだって!その・・・女性らしい身体つきで羨ましいですよ!」
「にゃ!?」
羞恥に耐えかねたアリアが反撃とばかりに、その矛先をミケに向ける
その言葉に3人の視線がミケに集まる・・・主に胸の辺りに
「確かにその・・・凄いっスね・・・」
「ミケは凄い」
「羨ましいです・・・なんでこんなに差が・・・」
ミケのそれはお湯に浮いてぽよんぽよんと揺れており
アリアとフィーリスはあり得ない物を見るかの様にそれを凝視していた
「にゃ~~・・・恥ずかしいです・・・」
二人の視線に顔を赤く染めるミケ、その会話の最中
ティスはさりげなくフィーリスの後ろに移動する、そして
ふにっ
「ふえ!!!」
「おお・・・」
フィーリスの後ろに回りこんだティスは、その背中の白い羽根をモフっていた
何せ天使など滅多に見れる物ではない、色々と興味が湧いたのだろう
「羽根の付け根はどうなってる?」
「ちょっと!そこは敏感だから触っちゃダメっス!!!」
「おお~~~」
ティスは続けて羽根の付け根や背を触っていき、さらに女湯にフィーリスの叫び声が響き渡った
そしてその頃、男湯の方では
「ちょっと!そこは敏感だから触っちゃダメっす!!!」
女湯から聞こえてきた叫び声を聞きながら、俺とウラムはのんびりと湯に浸かっていた
「あちらは楽しそうですね、魔王様も混ざってきたらどうです?」
「混ざれるわけねーだろアホか」
「あの薄い壁を越えるだけで女湯ですよ?いくら魔王様が脆弱でもあの程度なら超えられるでしょう」
「あのな・・・異世界じゃどうか知らねーが、俺の世界じゃ覗きは立派な犯罪だ」
「魔王なのに無駄に倫理観はあるんですよね、魔王様は」
そんな下らない事をウラムと言い合う
こいつのジョークはいつもの事だが、これはある意味シャレにならない
「つか、覗きなんてしようものなら本気で死ぬぞ。向こうに居るのは勇者と魔王軍幹部二人と天使だぞ?」
改めて思うが凄い面子だ、壁の向こうは天国などではなく万魔殿と呼ぶのが相応しいだろう
一歩でも踏み込めば確実に命の保証は無い
「ふーむ、そうですか?」
そんな俺の言葉にウラムは少し考える様にすると
「魔王様なら・・・まあギリギリ大丈夫なのでは?」
「は?そりゃどういう?」
そしてウラムは、何気ない世間話をする様な口調で
「異性の好意に気付かない程鈍感ではないでしょう?魔王様は」
と、とんでもない問題発言をした
「それは・・・」
ウラムの言った事は事実だ、俺ももちろん気付いていないわけではない。だが・・・
「魔王様はどうなさるおつもりですか?」
「・・・どうもこうも」
俺は一体どうするつもりなのか?
だがどう考えても・・・結論は一つしかない
「どうしようもないだろ・・・」
「・・・?何故です?何か問題が?」
「いや・・・お前なら分かってるだろ?」
「いいえ?何の事だかサッパリです」
しかし、そんな俺の答えにウラムは首を傾げて見せる
本気で分からないのか、それともとぼけているだけなのか
毎度の事だがウラムの態度や表情からは全く読めん
意を決して、俺はウラムに答えた
「俺はあと数ヶ月もすれば元の世界に帰るんだぞ?それなのに・・・好意に答えるなんて出来るわけないだろ・・・」
俺の答えを聞いたウラムは目を丸くする、そして
「すうーーーーーーーーーー」
っと、大きく息を吸い込み
「はあああああああああああ・・・・・」
俺に当てつける様に盛大にため息をついた、さらに
「一体どんな理由かと思えばそんな事ですか・・・だから童貞なんですよ、魔王様は」
と俺に蔑んだ目線を送った
「はああああああああああああ!!!???」
と俺の叫び声が男湯に響き渡る!
そして俺はウラムに向かって声を荒げ言った
「なんでだよ!?今の結構真面目な答えだっただろうが!俺なりに悩んでだな!」
「悩んだ末にその回答なら尚悪いですよ、30点です」
「あのなあ!元の世界に帰ったらもう二度と会えないかもしれないんだぞ!?それなのに・・・!」
「その程度の事が何だと言うのです?」
「な!?その程度って!」
そして熱くなっていった俺を制するように、ウラムは告げる
「二度と会えない。その程度の事で、誰かの好意を全て無かった事にするのですか?魔王様は」
「・・・!それは・・・」
誰かの好意を無かった事にする、そんな事思いもしなかった
確かに、彼女の好意に答えず元の世界に帰るというのはそういう事になるのだろう。だが
「けどそれは・・・相手を傷つけるだけじゃないのか?」
それはただのエゴのはずだ
だが、ウラムはこともなげに言ってみせた
「傷をつければ良いのです。そうすれば、二度と会えないとしても思い出は残ります」
思い出は残る・・・けど
「・・・そんな思い出が残ったって、辛いだけだろ」
「辛いでしょうね・・・ですが」
そして、ウラムのトドメの言葉が俺に突き刺さる
「何も残らないよりはずっといい。私はそう思います」
そこまで話した所で、俺とウラムは黙り込む
湯に浸かっていない上半身に、冬の冷たい空気が突き刺さる
しばらくして、ウラムが言った
「それで?どうするおつもりです?」
「・・・考えておく」
「ええ。今はそれで良いでしょう」
そう言ってウラムはフッと笑う
俺が元の世界に帰るまでに考えなければならない事が一つ増えた
俺はその時、どんな決断を下すのだろうか?今はまだ分からない
「・・・それに、そんな事を考える必要は無いでしょうしね」
「ん?何か言ったか?」
「いえ。なんでもありません」
「・・・?まあいいか」
そして、雪が降る空を眺めながら俺は温泉を楽しむのだった




