魔王とウラムスペシャル2160
:魔王とウラムスペシャル2160
そして、一週間程過ぎたある日の朝
ユサユサ・・・
「おとうさん起きて」
「ん、んーーー・・・・」
ティスに体を揺さぶられ、俺は目を覚ました
「何だ・・・?こんな朝から・・・?」
「緊急事態・・・窓の外を見て」
緊急事態?一体何の問題が発生したというのだろうか?
俺は眠い目を擦りながら窓の側へ行く、そしてその視界に入ってきたのは
「お、おお!雪だ!!!」
何も無かった荒野は白い雪で覆い尽くされ、一面白い世界へと変貌していた
降るかもとは思っていたが、ついに降ってきたか
「私の時代・・・キタ(ニヤリ)」
ティスは雪にご満悦の様だ
さすがは氷の将軍、全く関係無いと思うが
「ふむ・・・これはあれのテストをするには丁度良いな」
「あれ?」
そう、温泉旅館に次ぐ更なる計画。その前段階を行う時が来た様だ
俺はギガスのラボへと向かった
そして更に数日後
俺達はメルヒェンス山の麓に集まっていた
「それで魔王様、今日の用件は何でしょう?」
「ああ。今日集まってもらったのは、これのテストをしてもらう為だ」
そう言ってギガスに作っておいてもらった物を全員に渡す
それは二つの細長い板、そうスキーである
「これは足の裏につけて雪の斜面を滑る遊具だ。いや、スキーの起源は遊具じゃないのか?まあ細かい所は置いておくとしよう」
「雪の斜面を滑る?それは楽しいんですか?」
「それをテストしてもらおうと思ってな」
そう、俺の次なる計画。それはスキー場の建設だ
雪山に温泉と来たら次はスキーだろう、という事なのだが
しかし、スキー場の建設には当然ながらそれなりのコストがかかる
作ったはいいがこっちの世界ではスキーは流行らなかった、となっては目も当てられない
という訳で、本格的に計画を進める前にこいつらに試してもらおう・・・という訳なのだ
「異世界の遊具ですか、楽しみです!」
集まったのはいつものメンバー
アリア、ティス、ミケ、ウラム、それともう一人
「ほ!本日はお招きいただき恐悦至極と申しますか・・・!」
「ん?別にそんな緊張しなくてもいいぞ、まあ天使がスキーってのはどうかと思うが」
真っ直ぐと伸びた金髪と背中の白い羽根、天使のフィーリスだ
サンプルは多い方が良いという事で呼んでみたのだ
「んじゃとりあえず基本的な滑り方を教えるぞ、まずはボーゲンからだな・・・」
その後
基本的な説明を終え、全員で斜面の上に登ってきた
リフトが無いので、雪山の斜面を登るのは普通の人間にとっては重労働なのだが
さすがは魔王軍幹部達と言うべきか、軽くジャンプするみたいな感覚で一瞬で登りきってしまった。ウラムとティスに到っては飛んでるしな
そして、斜面を上から眺める
とりあえず最初だしそんな急な斜面ではない、まあ初心者コースと言った所だろう
「では!行きます!!!」
ザッ!
そう言ってアリアはストックを漕ぎ出し勢い良く斜面へ飛び出した、そして!
「へぶ!!!」
ボフッ!!!
思いっきり顔面から雪に突っ込んだ!
「お、おい!大丈夫か!?アリア!!」
「だ・・・大丈夫です、ちょっと躓いただけですから・・・」
そう答えるとアリアは立ち上がり、もう一度滑り始め・・・
「はぶ!!!」
そしてまたもや、顔面から雪の中にダイブした
「おいおい!」
俺はすぐさまアリアの側へ行くと助け起こす
斜面に開いた人型の跡から這い出すと、アリアは愕然とした表情で呟く
「そんな・・・勇者の力を持ってしても扱えない装備なんて・・・」
「いや、勇者の力は全く関係無いと思うけど」
「いえ!この程度のダメージ!勇者には効きません!!!」
「いや、一般人でもそんな大したダメージじゃないけど」
「見ていてくださいソーマさん!勇者の本当の力を見せますので!」
「いや、スキーに勇者の力は必要無いとおもうけど」
そしてアリアは、何度も転びながらも斜面を滑り降りていった
(うーむ・・・まあ、アリアなら大丈夫だろう。他の面子はっと・・・)
そして俺は周りを見渡す
「スキーなんて久しぶりっスね・・・」
どうやらフィーリスはスキー経験者だったらしい、ぎこちないながらも普通に滑り降りている
「天界にもスキーがあるのか?」
俺はフィーリスに並ぶように滑りながら話しかける
「え?そうでスね。自分達は仕事で色んな星に行く事になるっスから、スキーの扱い方も一応習ったっス」
「仕事の為か。別にレジャーで楽しんでたわけじゃないんだな」
「そうっスね。天界では娯楽の類は凄く少ないんで、貴重な経験っス」
ふむ、天界と言うのは結構お堅い場所なのだろうか?
イメージ通りと言えばそうなのだが
「まあ自分は大丈夫っスよ。それより・・・」
スキーを斜面に対して横に向け止まると、フィーリスは斜面の上の方を見つめる
「ん?」
つられて俺も斜面の上を見つめる、そこに見えたのは
ぶるぶるぶる・・・
「にゃ・・・にゃあ・・・・」
ミケだった、ミケは斜面とほぼ真横の状態で恐る恐る滑っている
初心者としては正しい行動だが、あれなら歩く方が早いんじゃないかってスピードだ
とりあえず、俺はその場からアドバイスをする
「ミケ、もう少しスピード出してみても大丈夫だぞ」
「そうですか・・・?じゃあ・・・」
そう言ってミケは、斜面の下に向かってスキーの先を向け
ギュンッ!!!
「にゃああああああああああ!!!!!」
猛スピードでその場から滑り出した!
「にゃああああああ!!!止まらないにゃああああああああ!!!!!」
「ミケちゃん!!!」
腕をぶんぶん振り回しながら猛スピードで滑り降りていくミケ
ブレーキをかける事も後ろに転ぶ事も思いつかないようだ
「・・・!」
俺はスキーを滑らせるとミケの進路に先回りする、そして
「よっと!」
ボフッ!
そして突っ込んできたミケの肩を抑えて受け止め、ブレーキをかけた
「ふう、大丈夫か?ミケ」
「あ、ありがとうございます・・・ソーマさま」
「いや、いきなりスピードを出させた俺が悪かった。もっとゆっくりいくか」
「すみませんソーマさま・・・私、不器用で・・・」
「ん?そんな事ないぞ?初心者ならこんなもんだろ」
「そうなんですか?でも・・・」
そう言って、ミケが視線を向けた先には
「・・・♪」
シャンッシャンッ!
熟練のスキーヤーの如く足をリズム良くひねり、パラレルで滑り降りるティスの姿
まさに水を得た魚と言った所か、そしてもう一人は
「ウラムスペシャル2160(トゥーサウザンドワンハンドレッドアンドシックスティ)!!!」
一体何時の間に作ったのか
斜面に用意されたジャンプ台から大ジャンプ、さらにトリックまで決めている
どうやらウラムは、スキーよりスノーボードの方が気に入った様だ
「・・・まあ。あいつらは別枠だから」
「にゃあ」
さすがは魔王軍が誇る天才二人、参考にならない
人選を誤ったかもしれんな
そして俺達は、日が暮れるまでスノーレジャーを楽しむのだった




