魔王とボーリング
:魔王とボーリング
季節は移り変わり秋から冬に、今は11月の半ばと言った所だ
商売に関してはこれと言った問題も無く順調、今日も今日とて仕事に励む毎日である
「あいむしんかーあいくっべぃきだーん・・・・・」
部屋には何やら口ずさみながらゲームをプレイするティス、例の如く仕事は完璧に終わらせている
今は、某ロボットゲームの超高難易度ステージをプレイ中の様だ
そのステージ実質、1対5なのに正面から戦うとか何なの?この三歳児・・・
「そう言えばミケ見なかったか?今日は休みだったと思うんだが」
「ミケならコタツの中・・・」
俺の質問にティスは画面を見つめたまま返事をする
(コタツの中?)
デスクから立ち上がった俺はコタツの布団をめくり中を確認する
「むにゃ・・・」
コタツの中では一匹の猫がすやすやと寝息を立てていた、何時の間に部屋に居たのだろうか・・・
久々に見るがこれがミケの本当の姿なんだっけか?
普段はずっと半人型の姿なのでよく分からないのだが
(それにしても、やはり素晴らしいモフモフだ・・・)
俺はコタツの中に手を伸ばし、その猫をモフっていく
「む・・・うにゃ・・・」
気持ちよさそうに体をよじる猫、俺は更にモフり続けていく
頭、耳、顎の下、背中にお腹。何処もかしこもモフモフだ
その時、眠っていた猫がこちらに目を向ける
「んにゃ~~・・・?はっ!」
ボフン!
その時、煙が噴出したかと思うと猫は何時ものミケの姿になり
「ソ、ソーマさま!んにゃ!!!」
ガンッ!!!
そして、すぐさま立ち上がろうとしてコタツの天板に頭を打った
「おおうっ!大丈夫かミケ?」
「にゃ・・・だ、大丈夫です・・・」
ミケは頭を押さえながらコタツから這い出る
「悪い、起こしちまったみたいだな」
「いえ・・・それは別にいいんですけど・・・」
その時、何か思い出したのかミケは顔を赤くすると
「それより今ソーマさま・・・ミケの・・・を触って・・・」
「ん?何だって?」
「い、いえ!なんでもありませんにゃ!!!」
ふむ?まあミケがいいならいいが
俺は首を傾げながらも、とりあえず納得する
コンコンコン
その時、部屋をノックする音が響く
部屋に入って来たのは案の定・・・
「追加の書類です魔王様、嬉しいですか?」
「嬉しいけど嬉しくないな」
山の様な書類を抱えたウラムだった
商売が順調な証なのだろうが、流石にこの仕事量には辟易する
「まあそっちに置いといてくれ。ちょっとこれから他の仕事があるから後で片付ける」
「他の仕事ですか?何か新しい企画でも?」
「ああ、そろそろ来ると思うんだが・・・」
~~~♪
丁度その時、俺の携帯が着信音を鳴らした
俺はすぐに通話をオンにすると、受話器の向こう側からギガスの声が聞こえてきた
「魔王殿、準備が整いました」
「そうか、じゃあ今すぐ出る」
「了解しました。ではお待ちしております」
そして俺は通話を切ると、いつものスーツの上にコートを羽織り出かける準備をした
出かけようとする俺にミケが声をかけてくる
「ソーマさま、お出かけですか?」
「ああ、ちょっとボーリングにな」
そうミケに答えた俺の言葉に、今度はウラムが質問してきた
「ボウリング?ピンを並べてボールを転がし倒すというアレですか?」
「異世界人なのにお約束なボケを言ってんじゃねえよ。ボウリングじゃなくてボーリングだ」
さて、何故突然ボーリングなのか?
事の発端は一週間前に遡る
とある日の事、俺は執務室で企画書を眺めていたのだが
「どうしたんですかソーマさん?新しい企画ですか?」
お茶を運んできてくれたアリアが、俺の手の中にある書類に興味を示し聞いてきた
「ああ、これは・・・」
そう言って、俺は手に持っていた企画書をアリアに手渡す
「魔王城再開発計画ですか?」
「ああ。この辺りって土地だけは余ってるだろ?だから色々作れないかなと思ってさ」
「えっと・・・魔王ランドプロジェクト・・・?」
「所謂、遊園地ってやつでな。ジェットコースター、観覧車、ティーカップにメリーゴーラウンドとか・・・色々な乗り物や、他にも色々なアトラクションがあるんだが」
「それは凄く楽しそうです!」
そう、その企画書は遊園地の建造計画だ
様々なアトラクションにキャラクター製品の物販、広大な駐車場やホテルを完備した一大レジャー施設
極めつけは、魔王城からのエレクトリカル魔王パレードで世間の注目を集める企画だ
いや、「だった」・・・
「いや、それがな。これはボツになった企画なんだ」
「没ですか?素敵な企画だと思いますけど」
「企画自体は悪くなかったんだが。生憎と予算と時間の都合でな・・・実現の目処が立たなかったんだ」
「そうだったんですか・・・でも、それなら何故この企画書を見ていたんですか?」
「んー。さっきも言ったけど、この辺りって土地だけはあるだろ?だから捨てるには惜しい企画だと思ってさ」
「確かに土地はありますけど・・・」
そう言って、アリアは窓の外に目を向ける
「一面の荒野で何もありませんね」
「そうなんだよなぁ・・・」
そう、そこに広がるのは草木も生えぬ一面の荒野
見事なまでにそれしかない
(魔王城を観光地にするのはやはり難しいのだろうか・・・?一から何もかも作るには予算が足りなすぎるし・・・)
そう考えながら眉間に皺を寄せる俺に向かって、アリアが言う
「あとある物と言えば・・・あの山ぐらいですね」
「メルヒェンス山か・・・」
メルヒェンス山とは、魔王城の後ろに聳え立つ巨大な山の事だ
標高は2000メートル程らしい
「登山道を設置して・・・いや、地味すぎるな・・・観光資源にはならないか・・・」
山とは言っても商売に使えそうな物ではない、もっと他に何かあれば・・・
「そう言えば、あの山は火山らしいですよ」
「火山?って、噴火とかしたらやばくないか?」
「詳しくは知りませんけど、ウラムさんは大丈夫って言ってました」
「ふーむ・・・」
ウラムに大丈夫と言われても不安には変わりないわけだが・・・今度詳しく話を聞いておくべきか
「しかし・・・火山か・・・」
もしかするともしかするかもしれない
その時、俺の脳裏には一つのアイデアが浮かんでいた
(ま、ダメ元で聞いてみるか)
そしてそのアイデアを現実にする為、俺はギガスの元を訪れるのだった
「それでボーリングですか?」
すっかり寒くなった中を、俺とウラムの二人でメルヒェンス山に向かう
かなり厚着しているにも関わらずかなりの寒さだ、吐く息は白くなっている
(もしかしたら今月中には雪が降るかもしれないな、いやそれは好都合かも・・・)
俺の指示でギガスはすでに作業に入っており、大きな機械が地面を掘っているのが麓からでも確認出来た
「しかし、火山とボーリング作業に何の関係が?」
「まあ、実際に見れば分かる」
作業現場に到着した俺とウラムをギガスが出迎える
「お待ちしておりました魔王殿。例の物ですが、もう少しで掘削完了します」
「おお!本当か!?それにしても、よくこんな簡単に見つけられたな」
「この山は私の庭の様な物ですから。何処にどの様な物が埋まっているかは、当然把握しております」
そう言えばこの火山の奥深くにギガスの本体が居るんだったか、それならこの山が庭だと言うのは頷ける
その後しばらく、ボーリング作業を眺める事数十分
「到達しました、地上に噴出します」
作業が完了し、ギガスが機械を色々操作する
その後、ボーリングマシンが掘り進めた穴から湧き出てきたのは
「水・・・いやお湯ですか?」
「おお!成功だ!!!」
地下から湧き出るお湯、そうつまり温泉である
メルヒェンス山が火山だと聞きもしかしたらと思ったが、どうやら俺の勘は当たりだった様だ
そして、俺はその場で宣言する
「よし!ここに温泉旅館を作る!!!」
こうして、新たな観光資源として温泉を掘り当てた魔王軍は
新たなレジャー施設の建造に取り掛かるのであった




