魔王と逆境イレブン
:魔王と逆境イレブン
ハーフタイムが終了し、俺達はフィールドに戻ってくる
「さあ!両チーム共にポジションに付きました!後半戦が始まります!1対0でネヴィルズが優勢!魔王軍の逆転なるか!?それともネヴィルズが守りきるのか!?」
ピィーーーッ!!!
そして、ネヴィルズのボールで後半戦が開始された!
「よし!まずはボールを奪うぞ!」
ボールを奪いに向かう魔王軍の面々、だが!
ポンッ!
「おーっとネヴィルズ素早いパス回しでボールを奪わせない!」
「くそっ!!!」
優勢になったネヴィルズは無理な攻めをせず、横や後ろにパスを回して慎重にこちらの出方を伺っている
当然と言えば当然だ
「迂闊に突っ込めば、守備が空いた隙を突かれるでしょう。だからと言ってこのまま時間をかけ続ければこちらの負けです」
「じゃあ、どうすれば・・・?」
「どこかにチャンスはあるはずだ!それまで耐えるしかない!」
じわりじわりと、真綿で首を絞める様に攻めてくるネヴィルズ
「さあ、前半とは打って変わって慎重な立ち上がり。魔王軍はこの苦境をどう切り抜けるのか!?」
攻勢に出られず苛立ちが募っていく魔王軍の面々
「にゃあ・・・じれったいにゃ・・・にゃ?」
だがその時、マウは視線を感じその方向を見る。その先には
(ティスちゃん?)
ティスはマウを見ながら、無言で何か合図をしていた様だった
「・・・・?もしかして!」
その意図に気付き、左サイドの方へ視線を向けるマウ。そして!
「さあ今度は右サイドにボールが回った・・・おおっ!これは!!!」
「ぷるぷるぷる!!!」
ダッ!!!
「ここで業を煮やしたか!?DFのスライムB選手がボールを奪いに突っ込んでいく!だがこれは!!!」
そう、当然そうなれば後ろががら空きになる!
スライムBを引き付けたネヴィルズの選手はボールを中央に戻し、そして!
「ハリア選手ボールを中央に戻すと同時に前に走る!!!そしてボールはワンツーでハリア選手の下へ!!!」
ワンツーでボールを返そうとする敵選手、しかしその時ミルズが叫んだ!
「違う!それは!!!」
「ここだにゃ!!!」
バシッ!!!
その時!そのワンツーパスを突然現れたマウがカットした!!!
「パスカットだーーー!!!マウ選手得意のステルス性を活かした魔王軍の罠だったーーー!!!」
「しまった!!」
「ティスちゃん!!!」
そしてすかさず、マウはボールを前に送る!ボールを受け取ったのは!
バシッ!
「ナイスパス・・・!」
そう、マウにパスカットを指示していたティスだった!
「ボールは左サイドのティスプリア選手へと渡ったーー!しかしティスプリア選手は今大会ほとんどボールを持っていません!はたしてどんな動きを見せるのかーーーー!?」
「それじゃ、本気でやる」
ボールを受け取ったティスは左足でボールを持ち上げる、そしてなんと!
シャアアアアアッーーー!!!
「な!なんだあれはーーー!!!ティスプリア選手!なんと「滑っている」!芝生の上を片足で滑っているぞーーー!!!」
よく見ると、ティスの足元だけが凍ってスケートリンクの様になっている!
そしてティスは、右足だけでそのリンクを滑って移動している!
「お、追いつけない!!」
「早い!!ティスプリア選手左サイド一気に駆け抜け・・・いや、滑り抜けていくーーー!!!」
「この方が楽だし走るより3倍は早い」
圧倒的スピードでサイドを上がるティス!
そしてフリーになったティスは!
「ミケ!」
中央へ高い球を上げる!ミケへのセンタリングだ!!!
ミケでしか飛びつけない高高度のパス!だがそれは!!!
「結局は同じパターンのシュート!止められる!!!」
ネヴィルズのGKは上空のミケのヘディングに備え構えている!そして!!!
「うーーーーにゃ!!!」
ドグォッ!!!
「ミケ選手得意の高高度からの強烈なヘディングシュート!!!だがしかしこれは!?」
ミケはなんと、空中でゴールに背を向けてヘディングを放った!つまり!
「ミケ選手ゴールと逆方向へシュート!ボールは地面に・・・いや!ここに滑り込んでくる選手が一人!あれは!!!」
「本気って言った!」
「なっ!?」
左サイドからのセンタリングを送った時点で、ティスは役割を終えた駒として敵選手の認識から外れる
さらにミケへの高高度のパスにより、敵選手の視線は上空へと集中する
二重の意味で敵の認識から消えたティスは、その隙に中央へ高速移動を完了していた。そして!
ドガァッ!!!!!
「ティスプリア選手!ミケ選手のパスをノートラップでシューーーート!!!GKイルマ選手このボールに飛びつくが!!!」
ティスの意表を突くシュートに対し、敵GKは一瞬反応が遅れた
そしてその一瞬が命取りになる!ティスのシュートはGKの手の先を抜けて!
バシュッ!!!
「ゴーーーーーーーーール!!!ティスプリア選手のノートラップシュートがネヴィラネヴィルズのゴールに突き刺さったーーーーー!!!!!」
「やったにゃ!ティスちゃん!」
「ぶい・・・(ドヤァ)」
ティスに抱きついて喜ぶミケと、いつものぼーっとした感じで立ったままのティス
だがその顔は、見る者が見れば明らかに浮かれている様に見える
「おおっしゃあ!これで同点!次は逆転だ!!!」
「「おお!!!」」
ここに来て同点に追いついた俺達、白熱する試合展開に会場のボルテージも上がっていく!
「さあ!点数は1対1!ここに来て試合は振り出しに戻りました!!!どちらが勝つのか全く予想出来ません!!!」
「もう一点取ってこっちの逆転勝利だ!」
「ここで止めてカウンターで逆転です!」
中央では激しいボールの奪い合いが続き!その間も時間は刻々と過ぎていく!
「ここにゃ!バージョンB!!!」
「あーっと!ここでリィ選手のセンタリング!ボールは上空へ!!!」
「うにゃ!!!」
そしてミケはボールを後ろへ落とし!ティスがそこへ走りこむ!!!
先程得点を決めた、ティスのトライアングルシュートだ!!!
「これで逆転!!!」
ドグォッ!!!
ティスの放った強烈なシュート!だが!!!
「くっ!!!」
バシッ!!!
「おおーーーっと!!!GKイルマ選手!!かろうじてはじいたーーー!!!」
「くそっ!二度目は無いって事かよ!?」
そしてこぼれだまを拾ったネヴィルズの選手が前へボールを送る!!!
「さあ!今度はネヴィルズのカウンターだーーー!!!ボールは右サイドから上がっていき!ここで中央へ折り返す!!!」
「ここで絶対止めるにゃ!!!」
敵選手の前へと立ちはだかるマウ!だが!!!
「おっと!ここでバックパス!!!」
バックパス?いや確かこのパターンは!!!
「やばい!!!ミルズだ!!!」
前半に先取点を決めた時と同じ形!バックパスに走りこんで来たミルズがシュート体勢に入る!!!
「残り試合時間は僅か!これで終わりですよ!!!」
そして強烈なシュートが放たれようとした、その瞬間!
「スライム達!!!」
「「ぷるぷるぷる!!!」」
ドグォッ!!!
飛び込んできたスライムAとBが二人がかりでこのシュートをブロックする!だが!!!
バキィッ!!!
ミルズの放ったシュートはスライム達のパワードスーツの脚部をへし折って飛んでいった!!!
「出たーーーー!!!ミルズ選手の超強烈なロングシュート!!!これは決まったかーーーー!!!???」
「ギガス!!!!!」
魔王軍のゴールへ向けて真っ直ぐ飛んでいくミルズのシュート!
前半ではギガスの腕を吹っ飛ばし、今はスライム二人がかりのブロックをも吹っ飛ばした威力!!!
「・・・ですが!勢いは僅かに弱まったようです、それならば!!!」
この強烈なロングシュートに飛びつくギガス!そして!!!
ギャリギャリギャリギャリッ!!!
「な!なんと!!!ギガス選手!!ミルズ選手の超強烈なロングシュートを胴体で受け止めたーーー!!!」
ビシッ・・・バキッ・・・!
あれ程の威力のシュートだ、ギガスのボディは削れ表面にヒビが走る!だが!!!
「損傷甚大・・・とは言え」
ポトン・・・
ギガスの胴体へ突き刺さったボールはその回転を止め、地面へと転がった
「ゴールは守りました、魔王殿」
そしてギガスは、ボールをマウへと渡す
「反撃です!!!」
そこから、マウから俺へとボールが回る
(残り時間はあと僅か、このままなら延長戦だ。しかし・・・)
俺はチラリと後方を伺う
後方ではパワードスーツの脚部を破壊され立ち上がれないスライム達、ギガスの損傷も酷い
「延長戦に入ったら勝ち目は無い・・・ここで逆転するしかない!!!」
そう言って俺は中央のウナへとボールを回す!
「分かってるにゃ!分かってるけど・・・!!!」
攻めの起点であるウナが周りを見渡す、しかし・・・!
「ここに来てネヴィルズ鉄壁の守り!!!全く攻め入る隙を与えません!!!」
(リィもティスちゃんもマークが付いてるにゃ、アリアちゃんはシュートを打てないし。こうなったら自分で中央を・・・)
攻めあぐね一瞬動きが鈍るウナ、だがそこへ!!!
「ウナさん!!!」
「えっ?」
ドガァッ!!!
「にゃ!!??」
強烈なスライディングタックルを食らいボールを奪われてしまうウナ!ボールを奪ったのは!!!
「油断大敵という事ですよ!」
そう、ミルズだった!!!
「そして!!!」
「あーーーーっと!!ボールを奪ったミルズ選手すかさずシュート体勢に入るーーー!!!」
(マズイ!!!もうギガスは動けない!!!あのシュートを打たれたら負けだ!!!)
そしてミルズが足を振り下ろす!その瞬間!!!
「このシュートだけは撃たせません!!!!!」
ドグォッ!!!!!
「なんと!!アリア選手がブロック!!!だがこのシュートはスライム選手の足を吹っ飛ばす程の威力だぞーーー!!!」
ボールを挟んで二人のパワーが激突する!!
グググググッ・・・!!!
「くっ!!!」
「勇者パワーーー!!!全開ですっ!!!!!」
アリアの左目が赤く輝く!!そして!!!
ドグオンッ!!!!!
「何ィッ!?」
「と!止めたーーー!!!アリア選手!!ミルズ選手を吹っ飛ばしてこのシュートをブロックしたーーー!!!そしてーーー!!!」
「これで決めます!!!!!」
すかさずシュート体勢に入るアリア!!!
アリアならこの距離でも直接ゴールを狙える!しかし!!!
(コースが無い・・・!!!)
余りにも強力すぎる為、シュートコースが限られてしまうアリアのシュート!
足を振り上げたまま思考するアリア!!!
(どうすれば・・・どうすれば・・・!!??)
その時!!!
「アリアーーーーー!!!打てーーーーー!!!」
俺の叫び声がグラウンドに響き渡った!
「ソーマさん!?でも!!!」
シュートコースが無い!!!
だが続けて俺が言った言葉は!!!
「当てろーーーーー!!!」
「なっ!!??」
その俺の言葉に、困惑した表情を見せるアリア
(当てろだなんて!そんな事をしたら相手選手は怪我じゃ済まない!そんな命令をソーマさんがするなんて・・・!!!)
だがその瞬間、アリアの思考は逆に冷静さを取り戻していく
(いや、そうだ。ソーマさんがそんな命令をするはずがない。だとするなら・・・当てる?何に?)
もう一度ゴールを見据えるアリア、そして!!!
「分かりました!!!ソーマさん!!!」
ドグォッ!!!!!
ゴールへ向けてアリアのロングシュートが放たれた!!!
「アリア選手ロングシュートーーーーー!!!このシュートにはネヴィルズDF陣反応出来ないーーー!!!」
バッ!!!
「くっ!!!」
「GKイルマ選手飛びつくが届かない!!!これは決まったかーーーー!!!???」
アリアのシュートには誰も触れる事が出来ない!だが!!!
ガンッ!!!!!
「ゴ・・・!!!ゴールバーだーーーーー!!!!!アリア選手のロングシュートはまたしてもゴールバーに当たって跳ね返ったーーー!!!」
「ぎにゃーーーーーおしいにゃーーーーー!!!」
頭を抱えながら叫ぶリィ!だがその時!!!
「そして跳ね返ったボールは・・・あ!!!あれは!!!!!」
その跳ね返ったボールに誰よりも早く反応していた選手が一人居た!!!それは!!!
「ソーマさん!!!「当てました」!!!」
「ああ!!ナイスだ!!!アリア!!!」
「ソーマ選手だーーー!!!ゴールバーに当たって跳ね返ってきたボールに誰よりも早く向かっていたーーー!!」
跳ね返ってくるボールに向かって突っ込む俺!
試合終了直前!!!もはやチャンスはここしかない!!!
「おとうさん!!!」
「ソーマさま!!!まさかあのボールを直接!?」
「ですがそんな高等技術!!!出来るのですか!?魔王様!!」
俺の行動に口々に叫ぶ魔王軍幹部達!それに対し俺は!
「出来るのかだと!?そんなの・・・!!!」
そう言いながらオーバーヘッドキックの体勢に入る!
だが、そのタイミングは全くボールに合ってない!!!
「出来るわけねーだろ!!!だから!!!!!」
そして叫ぶ!!!
「撃てーーーーー!!!ウラァァァァァムッ!!!!!」
「ッ!?」
その瞬間!コンマ数秒にも満たない時間で、ウラムはその言葉の意味を理解した!!!
「全く無茶な事を考えますね・・・ですがそういう事なら遠慮なく!!!」
そして!!!
「疾風螺旋!!」
ゴオッ!!!
ウラムの手から竜巻が放たれた!!!
「にゃ!!攻撃魔法!!??攻撃魔法は禁止されているんじゃ!!??」
「いいえ、禁止されているのは「敵選手への」攻撃魔法です。これは・・・」
ウラムの放った攻撃魔法!
その標的はオーバーヘッドの体勢に入った俺だ!!!そして!!!
ゴオオオオオッ!!!
「うおああああああっ!!!!!」
「これはまさかの味方への攻撃だーーーーー!!!ウラム選手!!味方のソーマ選手を攻撃魔法で吹っ飛ばしたーーー!!!だがしかしこれはーーー!!!」
オーバーヘッドの体勢のまま高速で回転し吹っ飛んでいく俺!!!だがその先にあるのはゴールバーに当たって跳ね返ってくるボールだ!!!
「足を伸ばしてください魔王様!!!」
「分かってるっつーの!!!!!」
そして回転する俺の足がボールを捉えた!!!
ドガッ!!!!!
「オーバーヘッドキックだーーーーーー!!!!!」
凄まじい速度でゴールに向かって飛んでいく俺のシュート!
「GKイルマ選手これに飛びつくーーー!!!」
「くっ!!!」
必死に手を伸ばす敵GK!!だが僅かに届かず、そして!!!
バシュッ!!!!!
「ゴーーーーーーーーーーーーーーーール!!!!!!ソーマ選手渾身のオーバーヘッドキックが決まったーーーーーーーー!!!!!!」
ピッピッピーー!!!
「そして!!!試合終了ーーーーーー!!!!!魔王軍試合終了間際の大逆転ーーーー!!!!!第一回セレンディアカップの勝者は魔王軍だーーーーーー!!!!!」
そしてスタジアムを、割れんばかりの歓声が包んだ!!!
「ソーマさまーーーーー!!!!!」
「おとうさん・・・・!!!!!」
飛びついてくる二人の幹部、だが・・・
「わ・・・分かったから今は止めてくれ・・・気持ち悪い・・・」
高速回転して吹っ飛んだ俺の平行感覚は、非常にヤバイ事になっていた
「まあ自分で望んだ事ですし、仕方ありませんね。毎度の事ですが無茶というか・・・ただの自爆と言うか」
「勝てばいいんだよ・・・勝てば・・・」
フラフラになりながらそう返答する俺、そして勝利に沸きあがる魔王軍の面々
その時、それを遠くから見ていた影が二つ
「チッ・・・行くぞ」
「は・・・はい・・・」
こうして、セレンディア初のサッカー大会は
俺達の勝利で終わりを告げたのだった




