魔王と美味い話
魔王と美味い話
その後、試合は完全にこっちのペースで進み
後半残りわずか、得点は3-0でこちらが優勢
「もう一点いくにゃ!!!」
右サイドのリィから、またもやセンタリングが上がる!
敵選手の上空、ミケでなければ届かない高さのコースだ!
「また来るぞ!」
警戒を強める敵DF、だが上空のミケを止める事は出来ない!
「4点目ですにゃーー!!!」
そして!ミケの渾身のディングシュートが放たれた!
「くっ!!!」
だが!リンクスのゴールキーパーはこの高角度のボールに反応!
バシィッ!
なんとか手を伸ばし弾いた!
「こぼれ玉だ!」
「クリア!」
しかし!弾かれたボールが転がった先に走りこむ人物!
そう、勇者アリアだ!
「ゴールが見えました!」
アリアの左目が赤く輝き、思い切り足を振り上げる!そして次の瞬間!
ドグァ!!!!!
これ以上無い程にボールが楕円形に歪み!
次の瞬間!凄まじい速度のシュートが放たれた!
このシュートにはディフェンダーもゴールキーパーも誰も反応出来ず、そして!!!
バシュッ!!!
「ゴーーーーーーール!!!魔王軍4点目!!!アリア選手のシュートがネットに突き刺さったーーー!!!」
ピッピッピッーーー!!!
「そして試合終了のホイッスルーーー!!!魔王軍強いーー!!!ヴィアードリンクスを4対0で下し2回戦進出ーーー!!!」
試合終了と俺達の勝利を告げる実況の声がスタジアムに響き渡った!
「よっしゃあーー!!!」
「勝ちましたね!ソーマさん!!」
初勝利に沸く、俺達魔王軍の面々
誰でもそうだろうが、勝つというのは嬉しいものだ
俺は勝利の高揚感のまま叫ぶ
「おーし!この調子で次の試合も勝つぞ!!!」
「「おおーー!!」」
そしてそこからも、魔王軍の快進撃は止まらず!
2回戦を3-0で勝利すると、準決勝も・・・
「ゴーーーーーール!!!魔王軍強い!!!これで3点目だーー!!!」
3-0で勝利し、決勝進出を決めた
そして同日、準決勝のもう一戦
ネヴィラネヴィルズとフラーマレイヴンズの試合が行われていた
「飲み物いかがですかにゃー!ポップコーンもありますにゃー!」
その最中、リィの元気の良い声が響く
観客席では売り子として働く、魔王軍の面々の姿があった
「試合直後に売り子もやらせるとか、あの魔王結構な鬼畜にゃ・・・」
「えーっと・・・これも立派なお仕事ですにゃ!頑張るにゃ!マウちゃん!」
その時、ワッと観客席から歓声があがる!
「ゴーーーール!!!ネヴィラネヴィルズのミルズ選手決めたーーー!!!これで2対2!!!試合は振り出しに戻ったぞーー!!!」
「結構な接戦だにゃ」
「この試合に勝った方が決勝の相手になるにゃ」
「にゃ。でもこれなら決勝も圧勝じゃないかにゃ?」
マウの言うとおり、これなら決勝も魔王軍の圧勝になるのは明らかに思えた、だが
「・・・」
その試合を見るウラムの目は、何か別の物を見ているかの様だった
その後、試合は3対2でネヴィラネヴィルズが勝利し、決勝へ駒を進める事となった
そしてその夜・・・
「おーし明日は決勝だ!ここまで来たからには優勝狙うぞ!!!」
「「おおーー!!!」」
俺達は会場近くの宿で決勝へ向けて気合を高めていた、その時
「ソーマさん、ミルズさんがいらっしゃってますよ」
「ミルズさんが?」
何の話だろう?とにかく上がってもらおう
「どうも、夜分遅くに申し訳ありません」
「いえ、かまいませんが。それで何のご用でしょうか?」
テーブルを挟んで向かい合う俺とミルズさん
そしてミルズさんは、いつもの笑みを浮かべたまま話し始めた
「この度は、魔王軍の皆さんのお陰で大会は大盛況となり、お礼申し上げます」
「いえ、企画したのに大事な部分はほとんどお任せしてしまって」
「これで、セレンディアにおけるサッカー振興も大きく前進します」
こちらは本当に大した事はしていないのだが、役に立てたのなら何よりだ
「それでですね。この大会の最大の山場を迎えるにあたって、最大のビジネスのお話があるのですが」
「ビジネス?」
そしてミルズさんは一枚の書類を差し出した、そこには・・・
「チーム名に数字の羅列・・・まさかこれは!?」
「はい。それは決勝のオッズと、賭け金の総額です」
それを聞いた他の面々にも動揺が走る
アリアがウラムに声を潜めて問いかける
「えっと・・・それってどういう事なんですか?」
「所謂、トトカルチョというものですね。試合の勝者を予想し金を賭ける賭博の一種です」
周りの動揺を他所に、更にミルズさんは話を続ける
「ここまで大きな大会ともなれば規模も段違いです。そしてその決勝ともなれば、最大規模のビジネスチャンスになると言う訳です」
「・・・お話は分かりました」
この不自然なまでに膨れ上がった大会規模が、賭博の為だったというのは理解出来た。だが・・・
「ですが。ただそれを言う為だけに、ここに来たわけではないですよね?」
「ええ、もちろん。ここからが本題なのですが」
そしてミルズさんが切り出した、その本題とは
「次の試合、魔王軍にはわざと負けてもらいたいのです」
「なっ!!??」
思わず大声を上げるアリア、しかし
「・・・」
俺の方は逆に、冷静その物と言った様子でそれを聞いていた
(案の定だ、試合前日に訪れた訳はこちらに八百長をもちかける為だったという訳か)
俺が話を聞く様子を見せたのを見て、ミルズさんは詳しい話を説明し始める
「もちろんタダでとは言いません。こちらのチームが勝利した場合、胴元である我々の取り分である4億セーレ、その半額である2億セーレを魔王軍の方々に支払います」
その余りにもとてつもない額を聞いた皆が口々に言う
「2億!!??」
「洒落にならん額にゃ!レストラン魔王の収益の何年分にゃ!?」
「・・・おとうさん、どうするの?」
ティスの言葉に俺は考え込む
(次の試合、わざと負けるだけで2億。棚からぼた餅どころか棚から金塊が降ってきた様な物だ)
「ソーマさん・・・」
「・・・」
アリアやウラム達も、静かに俺の結論を待つ
(そもそも。俺達は商売でこのサッカー大会を開いたわけで、優勝に拘る必要は全く無い。こちらの負うデメリットは全く無いと言う事だ)
「返答をお聞かせ願えますか?」
俺に答えを迫るミルズさん
(そう、悩む必要は全く無いのだ。断る理由など全く無い)
「返答は・・・」
そして、俺は答えた
「ふざけるなこの野郎、だ!!!」
「!?」
俺の答えに驚くミルズ、そして俺は矢継ぎ早に叫ぶ!
「いいか!俺らはあくまでスポーツの大会で商売やってんだ!あくまで試合で楽しんでもらう為に大会を企画したんだよ!!!それを勝手に賭け事にした挙句!不正の片棒を担げだと!?なめてんじゃねーぞ!!!」
だが、俺の剣幕に対し
ミルズは何時もの温和な笑みを浮かべたまま言う
「ですが。ただ「はい」と答えるだけで巨額の金が得られるのですよ?」
その言葉に俺は立ち上がり、テーブルに手をたたき付けながら叫んだ!
「金の問題じゃねえ!信用の話をしてんだ!!!どれだけ金を積まれようが、俺達は客を騙すような商売だけはしねえんだよ!!!」
「それでこそソーマさまです!」
「・・・グッ!(サムズアップ)」
俺の返答を聞いたミルズは、やはり笑みを崩さず淡々と答えた
「交渉は決裂ですか・・・。では、正々堂々試合で勝って収益を得るとしましょう」
「次の試合だけは絶対に勝ちますよ」
「では明日、試合会場で会いましょう」
そして静かに席を立ち上がると、部屋から立ち去っていった
ミルズが立ち去った後、俺は全員に向かって叫ぶ!
「つうわけだお前ら!魔王軍のプライドに賭けて、次の試合だけは絶対勝つぞ!!!」
「はい!勇者の名に賭けて次の試合は絶対に勝利します!!!」
そして更に士気を上げる魔王軍の面々、だがその時
「予想以上の規模・・・意図的な試合展開・・・そして八百長・・・なるほど、あちらの狙いが読めてきました」
ウラムはこれまでの事象から導き出される、「別の結論」にたどり着いていた
「狙いですか?」
「ええ。ですが今は、その事について話さない方がいいでしょう」
ギガスの質問にそう答えをはぐらかすウラム。だが・・・
「ただ一つだけ・・・もしこの試合に負ければ」
そしてウラムは一言
「・・・その時が、魔王軍最後の時となるでしょう」
そう答えた




