魔王と悪意の前兆
:魔王と悪意の前兆
「それじゃあ、自分はこの辺で失礼しますっス」
夕食を終えて程なくした頃、フィーリスさんが言った
「大したお構いもしませんで」
「いえいえ、ミケちゃんのお料理凄く美味しかったでスし。十分すぎるっス」
「そうですか?それなら良かったです。ところで査定に関してですけど」
ああ、そう言えばそうだったという感じでフィーリスさんが言った
「ああ、えっと。とりあえず最初の査定は終了となるっス」
「最初?」
「ハイっス。これから何度か伺う事になると思うっス、それで最終的な査定結果を天界に報告させてもらうっス」
「そうですか。分かりました」
そして、フィーリスさんは荷物をまとめながら
「それじゃあまた、次の査定でお会いしましょうっス。それでは~」
そう言い、魔王城を後にするのだった
その背中を見送る俺に、ウラムが話しかける
「どうやら、何事もなく終了したようですね」
「ああ。魔王軍が別に危険な組織じゃないって分かってもらえただろうし。とりあえず、目標達成って所だな」
「何かまたトラブルが起きるかと思いましたが、惜しい事をしました」
「トラブルが起きれば良かったみたいな事言ってんじゃねえ!そうそうドタバタを起こされてたまるか」
毎度毎度、命の危機に直結する様なトラブルを起こされたらたまったもんじゃない
契約が終わる前に、俺の寿命が尽きるぞ
「・・・そう言えば。さっきの言葉で思い出したんだが」
「何ですか?」
「お前フィーリスさんと会った時「惜しい」って言ってたよな?」
「ああ、あれですか。あれは・・・」
そしてウラムが、普段通りの笑みを浮かべながらでサラっと言った
「私の好みの女性という意味です」
「は?」
好みって・・・
いや、そりゃ普通に考えればコイツも男だし別におかしくはないが
「お前がそんな事を考えてたとは驚きだ」
「そうですか?でもまあ言った通り「惜しい」です、私はもう少し大人の女性の方が好みですので」
そして、こう付け加えた
「私、天使の様な女性がタイプなんですよ」
「それは悪魔的なジョークか何かか?」
こうして、天使査定は無事に終わりを告げた
我らが魔王軍は普段と変わりなく、商売を続けていく事だろう
天下泰平、世はこともなし
そう、思っていた
この時、俺もウラムも全く想像していなかったのだ
ソレは全く予想だにしない場所から現れる
この星を脅かす事になる悪意が、その前兆が
そこはとある小さな人口惑星、外惑星管理機構の支部が置かれている惑星だ
そこでは、各惑星に散った査定員からの報告を事務官達がまとめている所だった
数百とある惑星、それぞれの組織の情報を事務官達が入力していく
その膨大な量の報告の中に、それは紛れていた
「えっと次は。惑星セレンディアの魔王軍、査定員はフィーリス・ミルドヴァルド二級天使。初回判定はEランクっと・・・」
事務官がデータに目を通す、報告の内容にも特に問題は無い
事務官はいつも通りデータを入力していく。だがその時
「ご苦労」
そう言って事務官達の仕事場、オフィスに入ってきた一人の男
バッ!!!
彼を見るなり全ての事務官達が作業を止めると、起立し敬礼をした
その男は自らも敬礼を返すと
「作業に戻ってくれたまえ」
そう告げた、その男の言葉と共に作業に戻る事務官達
そしてオフィスの一番奥の席に座ると、査定の報告に目を通していく
その男は次から次へ上がってくる報告、そのの全てに目を通す
その時、一つの報告書を確認するとピクリと眉を動かした
彼は立ち上がり、一人の事務官の元へ行くと
「君、この惑星セレンディアの魔王軍という組織だが」
「魔王軍ですか?これと言った危険思想も無いとの事でEランクが妥当であるとの判断でしたが」
「危険度をEXに設定したまえ」
男のその言葉を聞いて、他の事務官達もざわめく
「EX・・・でありますか・・・?」
事務官達が困惑するのも無理は無い
現在、全宇宙は天界による管理下に置かれており、殆どの星が平和で安定している状態
危険組織の管理とは言うものの、その大半がCランク以下
ここ数百年、本当の意味での危険とは無縁の状態
そんな平和な時代にもかかわらず、その男はEXと言ったのだから
SSSランクすら超える、危険度判定「判別不可能」であるEXと
「復唱を」
辺りが困惑する中、男は冷静な態度を崩さず、ただ短くそう告げた
「ハッ!惑星セレンディアの魔王軍、その危険度をEXに設定致します!」
事務官は敬礼をしながら、焦った様にそう答えた
男はその返答を聞くと踵を返し、オフィスを出て行った
「もしかしたら、私が直接出向く必要があるかもしれんな」
この問題の対処について考えを巡らせていく
そして、男は一言だけ呟いた
「全ての世界の秩序と平和の為に」




