魔王と秘密のダンジョン
:魔王と秘密のダンジョン
その後も様々な現場を回り、同時に誤解を深めながら天使査定は続いていき
そして現在
フィーリスは魔王城の客間で一人、天界への報告書をまとめていた
(これは初仕事からいきなりの大事件っス!すぐにでも応援を要請して、それから・・・)
今後の対応について考えを巡らせるフィーリス
だがその時、ふと辺りが静かになっている事に気付く
(あれ?そういえば皆さん何処へ行ったんスかね?何かの用意をしてくると言っていたっスけど・・・)
部屋を出ていく時、ソーマはしっかりと説明をしていたのだが
フィーリスの思考は別の次元へと飛んでいた為、よく聞いていなかったのだ
そしてまたもや・・・
(用意・・・ってまさか!!!口封じの用意っスか!!!)
フィーリスの危機察知センサーが反応を上げた
(ありえるっス!!!ここまで魔王軍の機密を知った自分をこのまま帰すなんて許すはずがないっス!!!殺害・・・もしくは洗脳!!??マズイっス!!!早くここから逃げないと!!!))
そして、何の脈絡も無い身の危険を察知したフィーリスは、魔王城からの脱出を試みるのだった
壁に張り付くようにして通路を進む影、もちろんフィーリスである
(幸い部屋のドアに鍵はかかってなかったっス・・・とりあえず、ここに入ってきた正面口まで移動するっス)
そして、魔王城の正面口付近までたどり着いたのだが、そこに見えたのは
「ふんふ~ん」
掃除をしていたアリアだった、その様子を物陰から伺うフィーリス
(あれはアリアさんっス!すでに正面からの脱出ルートは塞がれていたっスか!!!)
今、アリアに見つかったが最後、逃げ切る事は不可能であろう
(仕方ない、別のルートを探すっス・・・!)
そして正面口付近を後にするフィーリス
だがその時、見つからないように恐る恐る立ち去るフィーリスを・・・
「あれ?フィーリスさん?・・・トイレかな?」
気配だけで完全に察知していたアリアだった
先程と同じように、通路の壁に張り付きながら進んでいくフィーリスだったが
出口らしき物を見つける事は出来ず、ひたすら魔王城をさまよっていた
(うう、見つからないっス・・・。このままずっと、この城を彷徨い続けるっスか・・・?)
出口が見つからず、精神的に疲弊したフィーリスが壁にもたれかかろうとした、その時!
「・・・っス!!!」
ドタンッ!
フィーリスはそのまま、背後へと倒れこんだ!
「いたた・・・って、何スか?」
確かにそこには壁が見えていた
だがその壁を通過するようにして、壁の向こう側にフィーリスは倒れこんだのだ
そして・・・
「これはもしかして隠し通路ってやつっスか?」
フィーリスの視線の先にあるもの、通過した壁の先に続いていたのは地下へと続く階段だった
何故こんな所にそんな物が?そう考えるフィーリス
(はっ!もしかしてこれは城からの脱出ルートっスか!?)
そう、古来から城には敵に攻め込まれた際の緊急脱出ルートが存在するものだ。古事記にも書いてある
(という事は、この先に進んで行けば城から脱出出来るという事っス!!!)
念願の脱出路を見つけ出したフィーリスは笑顔を浮かべる
そしてフィーリスは、地下へ通じる階段を降りていった
地下は真っ暗だった
その暗闇を、フィーリスは鞄の中に入っていたライトで照らしながら進んでいく
通路はいくつもの分かれ道になっており、その構造は迷宮
つまり、ダンジョンと言っていいものだった
(とにかく進むしかないっス・・・)
そんなダンジョンを勘だけを頼りに進んでいくフィーリス
その時、フィーリスの持っていたライトがある物を照らし出した、それは・・・!
「あ!宝箱っス!!!」
ふぃーりすはたからばこをみつけた!
そして、すぐさま宝箱を開けようと近づ・・・
(っていやいや!!!オカシイっスよ!!!ゲームとかならともかく、ダンジョンの通路にいきなり宝が置いてあるなんて有り得ないっス!!!危うくゲーム脳で近づく所だったっスよ・・・)
フィーリスはなんとか宝箱に近づくのを踏みとどまった、そして目の前の箱が何なのかを考える
(まあ、一番考えられるのは何かの罠っスよね・・・いやまさか!これはもしかして!)
その時、フィーリスの脳裏にある考えが導き出される
そして、フィーリスは距離を置いたまま箱を観察する
一見、その箱は普通の箱に見える・・・が、しかし
ガタッ・・・
「!!!」
その時!その箱がわずかに動いたのを、フィーリスは見逃さなかった!
「やっぱり!こいつミミックっス!宝箱に擬態して、近づいてきた者を襲うっていう魔物っス!!!」
そう、宝箱に見えていたのはミミックだったのだ。フィーリスは見事にその正体を看破する
そうと分かれば近づく必要は無いのだが・・・
「それじゃ、さっさと逃げるっス・・・って、いやそれはそれで危険かもしれないっス」
そう、このまま放置して、後で襲ってこないという保証は無い
この暗闇の中で背後から忍び寄られればひとたまりもない
しかしその時、フィーリスはニヤリと笑みを浮かべて言った
「フフフ・・・ついにコイツを使う時が来たっスね」
そう言って、手元の鞄からガラス玉の様な物を取り出すフィーリス
そのガラス玉の中には、何やら怪しい霧状の物が封じ込めてある
「これぞ自分が開発した、超即効性の睡眠薬っス!!!」
誰も居ないのに説明を始めるフィーリス
これはガラス玉を投げつけ、中に入っている薬品が外に開放されると近くの魔物を眠らせる事が出来るという物だ
何かの役に立てばと持ってきたのだったが
(こんな所でテストが出来るとは思わなかったっス~)
そして、フィーリスはガラス玉を手に持ち構え・・・
「食らえっス!!!」
シュッ!!!
ミミックに向かって思い切り投げつけた!そして!
ドゴッ!!!
フィーリスが投げつけたガラス玉はミミックに直撃し!そして跳ね返ると地面に落ち・・・
「あれ?」
・・・そのまま転がっていった
それを見ながら、フィーリスは腕を組んで呟く
「・・・もしかして、外殻の耐久度が高すぎたっスか?外殻が割れないと薬品が放出されないっス・・・改良の余地があるっスね・・・」
そんな事を考え始めるフィーリスだったが、突然聞こえてきた声にすぐ正気に戻る
「ウ・・・グウ・・・」
フィーリスの視線の先、声が聞こえてきた方向
そこには、ガラス玉の直撃により目を覚まし、今正に襲いかかってこようとしていたミミックが居た!
「グゥアォゥッ!!!」
「ギャーーーーーーーっス!!!!!」
すぐさま走り出すフィーリス!後ろからは四本足で追いかけてくるミミック!!!
「ヴォウ!!!オゥ!!グァアオゥ!!!!」
「ワギャーーーーーーーーーン!!!」
そしてダンジョンを滅多矢鱈に走り回ったフィーリスは、今ダンジョンの壁によりかかりながら息を整えていた
「なんとか振り切ったっス・・・死ぬかと思ったっス・・・」
彼女を追ってきていたミミックは、どこかで姿を見失ったのか、もう追ってきてはいなかった
そして、現在地を確認すべく辺りを見回していたフィーリスは、ある物を見つける
「これは・・・」
フィーリスが見つけたのは扉だった
ただの扉ではなく、辺りとは不釣合いな程に大きく立派な扉だった
「もしかして出口っスか!!??」
喜び勇んでドアの中に飛び込むフィーリス
だが、ドアを開けた先は出口ではなく、なにやら広い空間だった
「何スか?この部屋」
辺りを見回しながら部屋の中へ進んでいくフィーリス、そこで部屋の中央に何かがあるのを見つけた
「箱?またミミックじゃないっスよね・・・」
慎重にその箱の様子を伺うフィーリス
しかしすぐに、それがただの箱ではない事に気付く
「これは・・・棺っスか?」
何やら凝った装飾の施されたそれは、中に眠っている人物がそれなりの立場である事を思わせた
その時、フィーリスは棺に何やら文字が書かれているのを見つけた
「えっと・・・「魔~~の眠りを覚ます者に大いなる災いを」」
名前の部分は削られておりほとんど読めなくなっていたが、しかし名が分からずとも分かる事はある
それを見てサッと顔が青くなるフィーリス
(もしかしてここは封印の間とかそういうアレだったっスか!?魔王城の地下に封じ込められていた存在とかどう考えてもヤバイっス!!!)
とりあえずここは見なかった事にしようと、その部屋を立ち去ろうとしたその時!
ツルッ
「えっ?」
何も無いはずの空間で思い切り足を滑らせたフィーリスは、そのまま背後に倒れると
ガンッ!!!
思い切り棺にぶつかった!
そしてその衝撃で棺の蓋が開かれてしまう!
「っスーーーーーーーーー!!!」
すぐさま棺に向かって土下座の体勢を取るフィーリス!
「すいません!わざとじゃないっス!殺さないでほしいっス!!!」
そして即座に謝罪を始めるが・・・
シーン・・・
辺りは静まりかえったままで何も起こらなかった
「あ・・・あれ・・・?」
フィーリスは慎重に立ち上がると、蓋の開いた棺の中を伺う
「何も・・・無いっス・・・」
蓋の開かれた棺の中には何も入っていなかった、一体どういう事だったのだろうか?
(誰かが眠っていたのは確かみたいっス・・・でも、何百年か前に「もう目覚めていた」って事っスかね?)
棺の中身について、不思議に思っていたフィーリスだったが
「おや、こんな所に居られましたか」
「!!!」
突然!背後から声をかけられ全身を硬直させるフィーリス!
そしてフィーリスが振り向いた先に居たのは、微笑を浮かべた魔族の青年ウィズ=ウラムだった
「ウ・・・ウラムさん?」
「用意が整いましたのでお迎えに上がりました、さあ参りましょう」
そう言ってフィーリスの手を引くウラム、そしてそのまま迷宮を迷う事なく進んでいく
「えっと、用意って何のですか?」
「おや?魔王様から聞いてませんでしたか?食事の用意です」
「食事?」
(なんだ・・・ただの食事の用意だったっスね・・・。って!いや!まさか!!!)
ウラムに手を引かれ歩きながら、フィーリスの思考は別の場所へと向かっていった
魔王城のとある一室
部屋の中央にある大きなベッド、つまり寝室である
フィーリスはその中央のベッドに座らされていた、そしてその前に現れたのは
「クックック・・・」
魔王ソーマだった、魔王は幾人もの女性をはべらせながらフィーリスに近づく
「それでは、今夜の相手はお前にしてもらおうか」
「・・・・っス!!!」
そう言ってさらに近づいてくる魔王
その時、彼の側に居た女性がフィーリスに告げる
「彼はスゴイわよ」
そして、魔王によってベッドに押し倒されるフィーリス
もはや彼女に抗う術は無かった
「いやーーーーーっスーーーーー!!!!!」
そして、この日を境に
新米天使は魔王の手により堕天していくのだった
(メインディッシュは自分っスかーーーーーーー!!!???目的は世界征服じゃなくて自分だったなんて!!!とんだ色欲の権化っス!!!)
これから連れて行かれるであろう場所に恐怖するフィーリス!
「いやーーー!!!自分まだそういうのは早いっス!!!」
「そうですか?それほど固くならずとも良いですよ、気楽に混ざって頂ければよろしいかと」
「でも!自分経験無いっスから!初めてはもっと大事にしたいっス!!!」
「気にすることはありません。誰しもが、最初は初めての経験なのです。大丈夫ですから一緒に参りましょう」
「いーーーーやーーーーーー!!!!!」
そして、ウラムがフィーリスを連れてそのドアを開け
「あ、来た。ウラムと知らない人」
「お。戻ったか」
そのドアの先に見えたのは、食卓を囲む魔王軍幹部達だった
「魔王様、フィーリスさんをお連れしました」
「・・・っス?」
「おうセンキュー。ああ、こっちに座って下さいフィーリスさん」
魔王に促され、食卓につくフィーリス
「丁度今出来た所ですよ~フィーちゃん~」
「それでは、私も運ぶのを手伝いましょうミケ殿」
「私も手伝います」
しばらくして、食事が並べられたテーブルを全員で囲み
「んじゃ、いただきますっと」
そして各々、料理を取り分けていく
(えっと・・・?これは一体・・・?)
フィーリスは呆然とその光景を眺めていたが
「フィーリスさんもどうぞ遠慮なく」
「え?」
「にゃ。フィーちゃん、これとかオススメですよ」
ミケが取り分けてくれた料理を口に入れるフィーリス
ニコニコと笑顔を浮かべながら感想を求めるミケ
「どうです?」
「美味しいっス・・・いや、滅茶苦茶美味しいっス!!」
そう言うと、フィーリスはガツガツと料理を食べ始める
「にゃ~。他のもあるから遠慮しないでほしいにゃ」
「それじゃ遠慮なく頂くっス!」
そして、しばらく皆でミケの作った料理を楽しんだ
料理を食べおわった頃、俺にフィーリスさんが質問をしてきた
「あの~、つかぬ事を伺いますけど。魔王軍って悪の組織なんですよね?」
「んー?どうでしょう?一応、目的は世界征服なんて事になってますけど。まあご覧の有様なんで、真っ当な商売をしていくしかないと言うか」
「本当にそうですか?」
その時、フィーリスさんは今までにない険しい表情で疑問を突きつけてきた
「魔王軍の現状を見させてもらいましたが、その気になればいくらでも、世界征服できるんじゃないですか?」
「・・・」
俺はその言葉に、少し動揺する
そう、それは「事実」だ
「別に商売なんてしなくても全てを奪ってくればいい、自分にはそれが可能に思えます。なのに・・・」
「何故、武力を行使しないか・・・ですか」
その気になれば、いつでも武力で世界を支配出来る
しかし、俺はそれをしようとしなかった
何故なのか?理由は色々あるが、多分それは・・・
「武力だけじゃ、本当の世界征服は出来ないと思うからです」
俺の言葉にフィーリスさんは首を傾げる
「本当の世界征服ですか?」
「ええ。なんというか力づくで言う事を聞かせたってそんなのは一時的な事だし、こっちの力が弱まればすぐに立場は逆転する。本当の意味で世界を征服するなら力づくじゃダメだ、もっと・・・他のアプローチをしていかなくちゃならない」
「他のアプローチ?」
自分でもハッキリと分かっているわけではない
だが、俺はそれを言葉にしていく
「私も・・・いや、俺もはっきり分かっているわけじゃないけど。世界の王になりたいなら、国民には慕われていないといけないって言うか。じゃないと、いつか駄目になる」
「じゃあ・・・魔王さんの考える世界征服って言うのは一体・・・?」
本当の世界征服、多分それはきっと・・・
「世界中に信頼・・・いや、信用されるって事だと思います」
「信用ですか?」
「世界中が魔王軍を信用して、その商売の一挙手一投足に注目する。そうすれば、世界が魔王軍を中心に変わっていく・・・俺達が世界を壊して作り変える」
「・・・」
「それってある意味・・・世界を征服してるって事になりません?」
ソーマの発言にぽかーんと口を開けたまま固まるフィーリスだったが
しばらくして、その顔に笑みを浮かべる
「ふふっ・・・」
「あれ?やっぱおかしいですか?」
「はい、おかしいっスよ。そんな世界征服聞いた事無いっス・・・ふっ・・・あはははは!!!」
笑いをこらえていたフィーリスだったが、ついに噴出して笑ってしまう
「やっぱ可笑しかったですか?」
「そうっスね・・・けど。広い宇宙に一つぐらい、そんな可笑しな世界征服があっても良いと自分は思うっスよ」
そう言ってフィーリスは
正に天使の笑顔で微笑みかけた
辺境の星セレンディアの小さな悪の組織、魔王軍
フィーリスにとって初めての任務
(自分、ここが任地で良かったっス)
そして遠い星の彼方にいる姉に向かって
(お姉ちゃん、フィーリスは頑張っていけそうっスよ)
そう、心の中で呟いた




