魔王と胃袋へのダイレクトアタック
:魔王と胃袋へのダイレクトアタック
ラボを出た俺達は、フィーリスさんを次の場所へ案内するべく車で移動していた
俺が元の世界から持ち込んだ車を改造した物、名付けて「MAO-0(ゼロ)号」だ
俺が運転、後部座席にはフィーリスさん、助手席にはアリアが座っている
「こんな辺境の星で車まで作っちゃうなんて・・・ギガスさん凄いっス!」
フィーリスさんは感心したように車を見回していた
だが、何やら首を傾げながら呟く
「でも・・・なんていうか、これおかしいような・・・」
「おかしいって何がですか?」
「あーえっと。何て言っていいか分からないんですけど。設計思想と言うか、この星の技術進化の流れと明らかに逸脱してると言うか。凄く浮いてるって感じがして・・・」
趣味が機械いじりと言っていたがそんな事まで分かるのか、もしかしたら結構ガチな趣味なのかもしれない
フィーリスさんの言っている事は的を得ている、何故なら・・・
その時、俺の代わりにアリアが言った
「この自動車は、ソーマさんが異世界から持ち込んだ物なんですよ」
「異世界ですか?それでこんなに技術的に浮いてるんですね~」
そして何か納得した感じに話がまとまろうとした所で
「異世界!!!???」
フィーリスさんは思い切り叫んだ!
「え!?いや!ちょっと待って下さいっス!異世界ってなんスか!?」
「えーっとこことは異なる次元にある世界の事・・・ですよね」
「いや、それはなんとなく分かるっスけど・・・異世界から持ち込んだってどういう事っスか!?」
何やらパニック状態になっているフィーリスさん
俺は慎重に言葉を選んで説明する
「えーっと。この自動車は私が元々住んでた世界から持ってきた物で」
「え?元の世界?それってつまり・・・」
そして、その答えをアリアが答えた
「ソーマさんは異世界人なんですよ」
「異世界人!!!???」
アリアの言葉を聞いたフィーリスさんは物凄く驚いている様だが、はて?
俺はそんなフィーリスさんの態度を不思議に思いながら言う
「あれ?異世界人って珍しいんですか?」
「珍しいも何も!そんなの聞いた事無いっスよ!!!」
「そうなんですか?でも・・・」
そう言って、俺は助手席のアリアの方に一瞬視線を向けると
アリアが俺の代わりに答えた
「この世界ではそれ程珍しくはないですよ?」
そのアリアの言葉に俺は首を縦に振る。だよな、俺も前にそんな話を聞いた覚えがある
しかしそれを聞いたフィーリスさんは更に大声を上げながら言った
「他にも居るんスか!?」
「えっと。まあ、数で言えば元々のセレンディア人の方が圧倒的に多いんですけど、異世界の人って結構目立つというか変わった事をする方が多いので」
セレンディアでは珍しくない異世界人、にもかかわらずフィーリスさんは異世界人の存在を知って物凄く動揺している
一体これはどういう事なのか?俺はフィーリスさんに質問をしてみる
「異世界人って天界だけじゃなくて、他の星にも居ないんですか?」
そんな俺の質問にフィーリスさんは即答する
「居ないっスよ!!!この星だけっス!!!そんなスナック感覚で次元を飛び越えて来られたら、宇宙の法則が乱れるっス!!!」
ふむ、そう言うものなのか?
てことは、スナック感覚で俺を召還したウラムは結構ヤバい奴と言う事になるが・・・
(一体どういう事っスか!?この星には特別な何かがあるって事なんスか!?)
フィーリスさんは何やらブツブツ呟いて、考え込んでいるようだが・・・
(・・・まあ、黙っておこう)
そんなヤバい奴が居ると知れたら、査定に悪影響を及ぼすかもしれないしな
俺は何やら考え込んでいるフィーリスさんをそのままにして、運転を続けるのだった
そして、車を走らせる事1時間程
俺達が到着したのは、レストラン魔王のある飲食街だった
フィーリスさんはその街並みを、興味深そうに眺めている
(はー・・・確か、文明レベルはそれ程高くないって話だったはずっスけど、結構進んでるんでスね)
キョロキョロと辺りを見回すフィーリスに、アリアが話しかける
「元々は普通の街並みだったんですけど、少し前に色々あってこの辺り一帯再開発されたんですよ」
「そうなんですか・・・」
そんな話をしている間に、俺達は目的地に到着する
「フィーリスさん、ここです」
そして、フィーリスさんはその店を見上げ呟く
「レストラン魔王・・・まんまっスね・・・」
「それじゃあ、中にどうぞ」
「あ、はい」
そして俺達は店のバックヤードに向かう、そして俺達3人を出迎えたのは
「にゃ?魔王にゃ」
「海以来だにゃ、何しに来たにゃ?」
「見ての通りレストラン魔王は大忙しにゃ、猫の手でなんとか回してるにゃ。用が無いならとっとと帰れにゃ」
おなじみとなった猫娘3人組、ウナ、リィ、マウ、それともう一人
「あれ?ソーマさま?何かご用ですか?」
この店を預かる責任者ミケである
「ああ、実は例の天使査定の件で・・・」
俺はミケに、軽く天使査定に関して説明を行う
「という事はそちらの方が・・・」
「あ、はい。フィーリス・ミルドヴァルド二級天使です」
「えっと。私はこの店を預けさせてもらっている、店長のミシュケイオスです」
そしてミケとフィーリスが互いに頭を下げる
その時、例の猫娘達がこちらに寄ってきた。そしてマウが開口一番、毒舌を吐く
「てっきり、また新しい女を連れてきたのかと思ったにゃ」
「またって何だ、人聞きの悪い」
「そうにゃ?アリアちゃんにティスちゃんにミケ、十分すぎるにゃ」
うっ・・・
ウナの言葉に俺は一瞬言葉を詰まらせるが
「まあ・・・そういう縁があるのは認めるが、別に変な事は考えてないぞ?俺はあくまで上司と部下としてだな・・・」
「にゃー・・・これは駄目だにゃ、まだまだ先は長そうだにゃ」
そう言ってため息をつくリィ、それと同時にウナとマウもため息をついた
その時、俺と猫娘3人組が雑談している間に色々話を済ませたらしい、ミケとフィーリスさんがやってくる
「とりあえず、店の中を見てもらう事になりました」
「ああ、じゃあ案内はミケに任せるよ」
「ミケちゃん、よろしくお願いするっス」
「はいにゃ。それじゃフィーちゃんこっちへ」
そう言ってミケは、フィーリスさんを連れてフロアの方へ向かっていった
そんな様子を見ながら、アリアはニコニコと笑って言う
「さすが、ミケさんですね」
「ああ、「ミケちゃん」に「フィーちゃん」か。もう仲良くなったのか」
まだ出会って数分も経っていないというのに、ある意味これもミケの才能だろう
そして、フィーリスはミケの案内でフロアの様子を伺っていた
(結構繁盛してるっスね、お客さんも満足そうっス)
店内には様々な年齢の男女が居たが、皆一様に笑顔を浮かべていた
それ程に、この店の料理は美味しいのだろうか?
その時、近くのテーブルに居た男性客二人組の会話がフィーリスの耳に入ってきた
「この辺りも美味い料理店が増えたけど、やっぱりレストラン魔王は別格だな」
「だな、この店が無くなったら生きていけねーよ」
そう、男二人は何気ない談笑をしていただけなのだが
(レストラン魔王が無いと生きていけないって・・・もしや!!!)
その会話から、フィーリスの暴走脳が導き出した解答は・・・
「ああぁぁぁぁ・・・・魔王様ぁぁぁ・・・魔王様ぁぁぁぁ・・・」
正気を失った目で魔王を呼ぶ男、だが様子がおかしいのは彼一人だけではない
「魔王様ぁぁぁぁ・・・早く・・・早く・・・」
「おめぐみを・・・おめぐみをぉぉぉ・・・」
辺りには彼と同じ様に正気を失った住人達、それはまるで死者の群れを思わせた
誰も彼もが正気を失い、うつろな視線で空を仰いでいた、その時!
「・・・!!!魔王様!!!」
「ああ!!!魔王様!!!おめぐみを!!!おめぐみを!!!」
空から現れたのは魔王ソーマだった、彼は側にいた幹部に命令を下す
「はい、わかりましたにゃ」
そして、合図と共に地上にばら撒かれたのはそれは見事な料理の数々だった
「魔王様への忠誠を誓った者だけ、が料理に口をつけていいにゃ!」
その言葉を聞くや否や、我先にと料理へと群がる民衆達
「卑しい民衆共にゃ!餌はまだまだあるからがっつくんじゃないにゃ!」
「魔王様へ感謝しながら食べるがいいにゃ!フハハハハにゃ!!!」
民衆達は涙を流しながら料理を口に運び、そしてその口から魔王を讃える言葉を紡ぐのだった
(食の魔王が降臨したっス!!!)
もはや三度目だが、突拍子も無い妄想をしていたフィーリスは己の恐ろしい考えに震える
(直接的な武力支配だけかと思ったら、こんな搦め手も用意してあったなんて!!!世界を征服するにはまず胃袋を掴めという事っスか!!??しかもこの様子じゃすでに、かなりの数の人間が魔王軍の支配下にあると見ていいっス!!!既にこの世界の大半は魔王の物!!!他の星にその手を伸ばし始めるのも、時間の問題っスよ!!!!!))
「ところでお前誰派?」
「みんないいけど・・・やっぱりミケちゃんかな」
「分かる!!!」
フィーリスが妄想の世界で魔王軍の強大さに打ち震えていたその時
先程の二人組は自分の推し猫について語っていた
(これはもうSSSしかないっス・・・天界史上初の超緊急事態っス!!!!!)
そして今回も致命的な誤解を残し、天使査定は最悪の結末に向かって進んでいくのだった




