表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第六章:魔王と天使査定
57/145

魔王と妄想天使

:魔王と妄想天使



コンコンコン


「ソーマさんー、天使査定の方をお連れしましたー」

「はいーどうぞー」


どうやら到着したようだ、アリアと共に金髪の女性が部屋に入ってくる


「し、失礼しますっス・・・いえ!失礼します!」


彼女が天使査定の人、つまり天使って事か

金髪と真っ白な二枚の羽根、なるほど天使っぽい感じがするが

見た目は20代前半、どこか着慣れてなさそうなレディーススーツも相まって

新社会人ってイメージの天使だ

とりあえず相手が相手だけに、俺は慎重に言葉を選びながら応対する


「どうもはじめまして。私が魔王軍の・・・えっと・・・魔王の四十万宗真です」

「あ、ご丁寧にどうも。自分は外惑星管理機構辺境査定課査定員のフィーリス・ミルドヴァルド二級天使と申します」


俺は事前に用意しておいた紙の名刺を渡そうとすると、フィーリスさんも同じく名刺を取り出した

お互いに体を45度曲げながら名刺交換を行う俺達を見ながら、アリアが言った


「私、お茶を用意しますね」

「ああ、よろしく」


しばらしくしてアリアの淹れてくれたお茶を飲みながら、テーブルを挟んでフィーリスさんと対面する


「えっと。それでフィーリスさん、今回の査定についてなんですけど」

「あ、ハイ。それでは簡単に説明させていただきますと」


そう言ってフィーリスは天使査定の説明を始める


「今回行うのは、外惑星危険組織の危険度査定になります。ちなみにこの査定は任意で受けてもらう物になるので、何か都合が悪い場合は断っていただく事も出来ます」


断る事も可能なのか。だがしかし・・・


「いえ、特に問題ありません」


この場合、断った事でつけられる評価がどうなるか分からない。俺は即座に了承する


「そ、そうっスか?いえ、問題無いなら大丈夫です」


それまでどこか緊張した様子で説明をしていたフィーリスだったが・・・


(あ、あれ?魔王なんですよね?なんか思ったより普通の人っスけど・・・)


相手の対応が思ったより普通だった為、困惑を隠せずにいた


「それで、具体的にはどんな査定を?」

「えっと、特に変わった事をしていただく必要はありません。普段通りの行動じゃないと正しい査定も出来ないので」

「普段通りでいいんですか?」

「その通りです。普段通り行動していただければ、こちらで査定させてもらいますので」

「そうですか、分かりました」


その後も、何の問題もなく査定の説明が続いていく

だが、それが逆にフィーリスを不安にさせていった


(なんか見れば見る程普通の人っスね・・・でも、もしかしたらって事もあるっス!)


そう考えたフィーリスは、それを確かめてみる事にした


「それじゃとりあえず、戦闘力査定だけさせてもらっていいですか?」


そう言ってフィーリスは、手に持っていた鞄の中から小型の機械を取り出す


「戦闘力査定?」

「はい、戦いにおける純粋な力をこの機械で測定します。もちろんそれだけで危険度を判定する事は出来ないのですが、とりあえず参考までに」

「えーっと・・・まあ平気か・・・それじゃあどうぞ」


(ん?なんスか?今の間は?)


魔王が言いよどんだ事に少しだけ疑問を抱くフィーリス

そして小型の機械を魔王の方に向け、数秒後

機械の数値を見たフィーリスがボソリと呟く


「えっと・・・。戦闘力たったの5・・・ゴミっスね」

「え?」

「ああ!いえ何でもないっス!あれ!?おかしいっスね!?なんでこんな数字が!?壊れたっスか!?」


機械を調べながら焦ったように喋るフィーリス

だが、そんなフィーリスに向かって魔王は落ち着いた声で言う


「えっと多分それ機械の故障じゃないですよ?」

「え?どういう事っスか?」

「えっと俺・・・いや、私は普通の人間なので」

「普通の人間なのに・・・魔王なんでスか?」

「まあ、色々ありまして」


(どういう事っスかね?何か人に言えないような事情でもあるんでしょうか・・・?)


疑問は尽きないが、とりあえず機械の故障ではないと言う事の様だ。だが念のため


「そうですか。あ、一応そちらのメイドさんの戦闘力も測らせてもらっていいですか?」

「私ですか?構いませんけど」


本人の了承を得たフィーリスは、メイドさんに先程の機械を向ける


(これで普通の数値が出れば問題無いっス)


どう見ても可愛らしいだけの普通のメイドさん

当然、戦闘力も普通に違いない


「まあ、アリアさんは普通の人間みたいですし、そんな変な数値は・・・。えっと・・・戦闘力は・・・53万!!!???」


機械に出た数字を見て思わず大声で叫ぶフィーリス


「53万って!!!上級天使どころか、セラフ3人がかりでも勝てるかどうかってレベルっスよ!!!やっぱり故障してるっスよ!!!間違いないっス!!!」


そう叫びながらフィーリスはあたふたと取り乱す、しかし・・・


(かなり取り乱してるようだが、まあこれも・・・)


俺はそう考えると、もう一度彼女を落ち着かせる様に言った


「それも故障じゃないと思いますよ?」

「え!?いやいや53万っスよ!!ありえないっス!!!」


さすがにそれは信じられないと言った状態のフィーリス

その時、アリアが遠慮がちに言った


「えっと、私これでも勇者でして・・・」

「勇者?」


その単語を聞いたフィーリスは、セレンディアについて調べた資料を思い出す


(そう言えば。事前の調査でこの星には、尋常じゃなく強い勇者が居るって話だったっスね。・・・けどまさか、こんなシャレにならない戦闘力だったなんて、さすがに予想外っスよ~・・・)


まあそれならこの数字もなんとか納得できる・・・かもしれない

しかしその時、フィーリスの頭にごく自然な疑問が浮かんできた


「あれ?でも・・・なんで勇者さんが魔王軍でメイドを?」

「それはまあ・・・それも色々ありまして」


そのフィーリスの疑問に、アリアはやや恥ずかしそうにした後、顔を背ける


「はあ・・・」


そのよく分からない答えに、フィーリスの脳は回答を探して動き始める


(こんな尋常じゃなく強い勇者が魔王軍でメイドをやってる理由なんて・・・ま!まさか!!!)


そこで、フィーリスの脳裏に浮かんだのは・・・






カッ!!!


雷光煌く中、二人の人物が立っていた・・・

一人はこのセレンディアを我が物としようとする魔王ソーマ

そしてもう一人は、その魔王ソーマを倒す為に魔王城までやってきた勇者アリアである。だが


「はあっ・・・はあっ・・・」


すでにアリアは満身創痍

その手に持った剣を支えにして、ようやく立っている状態だ


「クックック・・・」


それに対し魔王ソーマには全くダメージは無く、余裕の笑みを浮かべている。そして次の瞬間!


グンッ!!!


一瞬でアリアとの間合いを詰める魔王ソーマ!

そして魔王ソーマはアリアの首元を片手で掴み、持ち上げると地面に叩きつける!


ドグォッ!!!


「うあっ・・・!!!」


だがそんな攻撃に対して、アリアは回避する事も出来ずされるがままになっている

すでにアリアの体力は限界を迎えていたのだ

そして、倒れたアリアの顔を持ち上げ魔王ソーマは言った


「もはや万策尽きたようだな、勇者アリアよ」

「くっ・・・」

「だが・・・貴様程の力を持つ者をこのまま殺してしまうのは、あまりに惜しい」


そう言って、魔王ソーマはアリアに顔を近づけ囁く


「この我の物となるのだ勇者アリアよ、そうすれば命だけは助けてやろう」


しかし、その言葉にキッと魔王を睨みつけると勇者アリアは言い放った


「誰が貴様などに・・・!」


貴様などには屈しない

しかしそんな勇者の意思を折るかの様に、魔王は続けて囁く


「それならば貴様を殺した後、世界全てを滅ぼすだけだ」

「なっ!?」

「貴様が我の物となるならば、滅ぼすのだけは止めておくが。さあ、どうする?」


自らの死は恐れない勇者アリアだったが

その魔王の言葉には首を横に振ることは出来ず・・・


「わ、分かった・・・」

「分かった?」

「・・・っ!わ・・・分かりました、私は魔王様に従います・・・」


その要求を飲み、魔王への忠誠を誓う事となった


「フフ・・・ハーッハッハッハッハッハッ!!!」


そして、勇者を手に入れた魔王の笑い声が高らかに響き渡ったのだった






(なんて事があったに違いないっス!!!)


自らの妄想の世界に入っていってしまったフィーリスは一人でブツブツ呟きながら、慌てたり青い顔をしたりしている


「ん?このお茶美味しいな」

「そうですか!?今の季節のオススメの茶葉なんですよ!」


妄想の世界で激しい戦いを繰り広げていた魔王と勇者は、勇者の淹れたお茶を飲みながら和やかに会話していた


(こんな尋常じゃない強さの勇者を屈服させるなんて!?でも、ただの戦闘力じゃ勝てないはずっス!何か秘密があるっス!!!)


だがそんな周りの様子に気付かないフィーリスは、さらに考えを巡らせる


(どんな秘密があるかは分からないっスけど、とにかく物凄く危険な組織って事は間違いないっス!!!これはもしかしたらSランクもありうるっスよ!!!初仕事からいきなりとんでもない大物に当たったっス!!!)


七面相を見せながら慌てふためくフィーリスの様子に、魔王が声をかけるが


「・・・?どうしました?」

「い!いいえ!なんでもないっス!!!」


咄嗟にそう誤魔化すフィーリスだったが・・・


(これは気を引き締めていかないとならないっスね!!!)


心の中では、何やら間違った情熱を燃やしていた

そして、新米天使の勘違いを加速させていきながら天使査定は始まっていくのだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ