魔王と自動ドア
:魔王と自動ドア
それから数日後、魔王城の前に佇む影が一つあった
「や・・・やっと着いたっス・・・」
そう、新米天使のフィーリスである
彼女がアロンドヴァスを発って、セレンディアに到着するまで約一ヶ月
そしてセレンディアに到着してから、魔王城に到着するまでさらに一ヶ月の時間を要した
しかし、これらの行程は本来の予定を大幅に超える物であった
本来であれば、セレンディアに到着して翌日には魔王城に到着する予定だったのだが
にもかかわらず、何故一ヶ月も到着に時間がかかってしまったかと言うと・・・
「それもこれもこの地図データのせいっス!!!」
フィーリスは端末のデータを見ながら叫んだ
彼女の手元の端末には、惑星セレンディアの地図が表示されている
だがそのデータは相当古い物だったらしく、現在のセレンディアとは全く異なる物だった
一ヶ月前、つまり彼女がセレンディアに到着した翌日
彼女はその地図データにある魔王城へと向かったのだが・・・
「誰も居ないじゃないっスかーーー!!!」
そこにはおどろおどろしい廃城があるだけで、中はもぬけの空だったのだ
そして彼女は、地元民に聞き込みをしながら移動し、長い旅を経て
ようやく、現在の魔王城までたどり着いたのだ
これまでの道のりを思い出しながら、彼女は手元の端末に目をやる
それには、現在地はエキザカム王国の城下町とある・・・のだが
「何が城下町っスか!?そんな物影も形も無いっスよ!!!」
フィーリスが辺りを見渡すが、そこにあるのは魔王城と思わしき城だけ
それ以外は一面の荒野が広がっているだけだった
「一体何百年前の地図データっスか!?前任者は一体何してたっスか!?地図データの更新もしてないなんてありえないっスよ!!!前代未聞っスよ!!!」
誰も居ない荒野を前にしながら地団駄を踏むフィーリス
そして数分後、ようやく落ち着いた彼女は目の前の城に目を向ける
「まあそれはともかくとして、どうしよう・・・」
目の前にある大きな城門を前に戸惑うフィーリス
「Dランクとは言え、一応ここも悪の組織の一つっスからね、天使が正面からお邪魔していい物かどうか・・・。あー、でも中に入らないと査察にならないっスし・・・他の査察官はどうやってお邪魔してるんスかね・・・?」
どうしたものかとブツブツ呟きながら城門の前をうろつく
その時、そんなフィーリスの目に不思議な物が映った
「え?こ・・・これは・・・」
彼女はそれが何なのか知っていた
だがそれは、魔王城などという場所には明らかに不釣合いな物でもあった
彼女の目に映った物、それは・・・
「どう見ても・・・インターホンっスよね・・・」
城門の脇に設置されたボタンとマイクらしき機械、まごうことなきインターホンである
「な・・・なんで魔王城にインターホンが付いてるっスか・・・?」
目の前のそれを不思議そうに眺めながら考えるフィーリス
だがここで悩んでいてもしょうがない、これは渡りに船と考えるべきだろう
「と、とりあえず押してみるっスか・・・」
フィーリスは恐る恐るインターホンのボタンに指を伸ばす・・・そしてその指がボタンを・・・押した
ピンポーン
いたって普通の呼び出し音が鳴り、そして数秒後
「はーい、どちら様ですかー?」
インターホンに出た男性らしき声が聞こえてきた
「あ!えっと!自分は天界から来ました査察官の者ですが!」
突然の応答に緊張してしどろもどろに答えるフィーリス、それを聞いたインターホンの声は
「天界?もしかして天使査定の方ですか?」
「あ!ハイっス!そうでス!」
「ああやっぱり。それじゃあ門開けるので、城入った所で待ってて下さい」
「分かりましたっス!」
そしてインターホンが切れると同時に、目の前の巨大な城門がギギギと音を立てながら開いていった
それを見ながら、フィーリスは思わず呟く
「自動ドアだったんスか・・・」
しばらくして
城門を抜け城に入ったフィーリスを出迎えたのは、金色の髪が可愛らしい人間のメイドさんだった
「いらっしゃいませ。えっと、貴方が天使査定の方ですか?」
「ハイっス!えっと貴方は・・・」
「私はここで働いてるメイドでアリアって言います。それじゃあ、魔王さんの部屋までご案内しますね」
「はいっス・・・」
そして、そのメイドの案内でフィーリスは魔王城の奥に進んでいくのだった
その頃、その城の主である魔王こと四十万宗真は
自室で数日前のウラムとの会話を思い出していた
「天使査定?」
「ええ。この宇宙に数多く存在する悪の組織、それらの危険度を天使の査察官が調査し、ランク付けするのです」
「危険度をランク付け?」
「はい。最低ランクのEからAまで、さらに上のSランクなんて言うのもあるらしいですが。まあ危険な組織と、そうでもない組織を事前に調査し対応している、という事なのではないでしょうか?」
「ふーん」
詳しい意図までは分からないが、まあ世界の警察みたいな物らしいしそう言う感じの何かなんだろう
「なお、このランクは悪の組織の格付けみたいな物としても機能しておりまして、それぞれの組織はあの手この手で高ランクを狙って活動しています」
「悪の組織の格付け?ん?つまりどういう事?」
「つまりですね・・・」
悪の組織A「この前、向こうの国の騎士団長と肩ぶつかってよ~。マジイラってしたから、国まで殴りこみかけて、騎士団員全員ボコボコにしてやったわ!」
悪の組織B「うわー肩ぶつかっただけで騎士団潰すとか!マジパネエ!」
査察官「なんて危険な奴らだ!危険度A!!!」
「と、こんな感じです」
「ヤンキーの武勇伝自慢かよ!?」
またしてもくだらない理由に俺は大声でツッコミを入れる
「悪の組織はナメられたらおしまいですからね。触れる物全てを傷つける様な、キレッキレな所をアピールしていかないと」
「いらねーよ!そういうアピールは全くいらねーから!他の所は知らねーが魔王軍は真っ当な商売で稼いでいかないとならないんだし、危険度が高いなんて世に知れ渡ったら、確実に商売に支障をきたす!」
「分からなくはありませんが、それでは?」
「ああ。もちろん俺達の狙いは最低ランクのEだ。あの手この手で、魔王軍が危険でない事をアピールしていくんだ」
そして時は移り、現在
(魔王軍の今後の為にも、ここで下手な事をして天界に目をつけられるわけにはいかない!)
俺はこの天使査定を無事に乗り切る為、考えをめぐらせるのだった




