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魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第六章:魔王と天使査定
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魔王と新米天使の旅立ち

:魔王と新米天使の旅立ち


惑星セレンディアから遠く遠く離れた星、惑星アロンドヴァス

高度な科学文明を誇り、都市機能の大半を管理システムが自動で維持している

俗に天界と呼ばれている惑星

そして、そこに住むのは羽根の生えた人型の生命体、天使と呼ばれる人々だ

地球と同じ程度の大きさの星だが、その人口は少なく20万程度しかおらず

都市部以外は自然が多く残る、美しい惑星だ

今、その星から旅立とうとしている一人の天使が居た


「えーっと、荷物はこれで全部っスかね・・・?」


その天使、フィーリスはレトロな旅行トランクに荷物を詰め込んでいく

見た目こそレトロではあるが中は異次元空間に通じており、容量より遥かに多くの荷物を持ち運べる最新式だ

着替えに歯磨き、シャンプー、リンス。メカメカしい工具セットも忘れてはいけない

これなら任地で趣味の機械いじりも出来るというものだ

まるで修学旅行に行く学生の様に、ウキウキ気分で準備をしている天使

その肩まで真っ直ぐと伸びた金色の髪は時々光を反射し美しく煌き、真っ白な二枚の羽根も相まって正に天使と言った外見をしている

だが、女性と言うにはまだ幼い顔立ちをしており

小さな体はどこか頼りなさを感じさせ、美しいと言うよりは愛らしいという印象だ


「やっぱりお姉ちゃん心配だわ・・・」


それを心配そうに見ているもう一人の天使、フィーリスの姉メルフィリスだ

妹よりも長い、腰まである金色の髪に八枚の羽根

まだ成長途上を感じさせる妹とは違い、その完成された美は正に天上の美しさを讃えていた

その美しさは、比較的容姿の整った者が多い天使達の中でも際立っており

彼女に言い寄る男性はかなりの数になる


「ねえフィーちゃん、やっぱりお姉ちゃんも付いていこうか?」

「何言ってるっスか、二級天使の仕事に付いていくセラフなんて聞いた事無いっスよ」


二級やセラフと言うのは天使の階級である

階級は主にその天使の生まれもった能力、それを示した羽根の数によって決まる

二枚羽根の二級天使、四枚羽根の一級天使、六枚羽根の上級天使

そしてその上

アロンドヴァスにに十二人のみ存在する八枚羽根を持った最上級の天使、それがセラフである


「でもでも!もしフィーちゃんが危険な目に合ったらと思うと、お姉ちゃん居ても立っても居られなくて!!!」


だが、心配そうな表情で妹に詰め寄る彼女には、最上級の天使の威厳など微塵も無かった


「ちょっとお姉ちゃん!そんなにくっつかないで欲しいっス!」


こんなのでも、天界のトップの一人だと言うのだから社会は分からない

妹離れ出来ていない姉に対しての不安、そしてこんなのが率いる社会は大丈夫なのだろうかという不安を感じつつ、詰め寄ってくる姉を引き剥がすフィーリス

引き剥がされた姉は泣きそうな表情で、妹をじっと見つめていた


「大丈夫っスよ、任地は危険度の低い辺境の惑星だし。今回査定する組織も、事前の情報じゃDランク相当の危険度だそうっスから」

「いくら危険度が低いからって、可愛い妹を3年も他所の惑星に送るなんて!」

「それが仕事っスから・・・って!ちょっと!首をガクガクさせるの止めてほしいっス!!!」


その後、何度も詰め寄ってくる姉を数時間かけて説得しようやく家を出たフィーリスは

現在、外宇宙移動用の駅まで来ていた


「一日に一回は連絡してね!何かあったらすぐお姉ちゃんに言うのよ!」

「せめて一週間に一回ぐらいにして欲しいっス・・・」

「でも万が一何かあったら!!!」


どうしようもない程に妹離れ出来ていない姉だ、物心ついた頃からずっと変わらない

フィーリスは少しだけ笑みを浮かべると、姉に向かって言った


「たまには妹の事を信じてほしいっス、初仕事しっかりこなしてみせるっスよ!」

「フィーちゃん・・・そうね、お姉ちゃんが妹の事を信じてあげなくちゃね」


そう言ってメルフィリスは妹を抱き寄せる


「本当に辛くなったら、何時でも帰ってきていいからね」

「お姉ちゃん・・・分かったっス」


そう言ってフィーリスも姉を抱き返し、しばらく二人で別れを惜しんだ

そう、どうしようもない姉だが

フィーリスにとって姉のメルフィリスは、誰よりも大切な存在なのだから

そして、出発の時刻となり


「それじゃあ行ってくるっス!」

「頑張ってね、フィーちゃ~~~ん!」


フィーリスを乗せたシャトルは、アロンドヴァスの地表から飛び立った






「えっと・・・外宇宙78番ステーションまで移動して、そこからは個人用ロケットで任地まで行く事になるっスか・・・」


シャトルの中で任地までの移動手順を確認するフィーリス

個人用ロケットで移動なんて、辺境にも程がある

それなりに生活していける文明レベルの様だが、不安の種は尽きない


(いやいや、弱気になってちゃ駄目っス!)


首をぶんぶんと振って気持ちを切り替えるフィーリス

これがフィーリスが外惑星管理機構に所属して初の仕事だ、失敗は出来ない


外惑星管理機構

天界以外の全ての惑星を管理し、秩序と平和を保つ為の組織

末端とは言え、世界の秩序の為に働く事は、天使達にとってこれ以上無い程の名誉だ


その時、フィーリスが手元の端末を操作すると

今回の仕事の資料が表示される


「惑星セレンディアの魔王軍っスか・・・」


危険度が低いとは言え油断は出来ない、これも悪の組織の一つなのだから

フィーリスはそう気を引き締めると、自分を奮い立たせる様に言った


「よーし!頑張るっス!!!」


こうして

これから行く星へ期待と不安を混じらせたまま、新米天使は旅立ったのだった

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