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魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第五章:魔王と海と怪獣大決戦
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序章の終わり・魔王は善意を信じない

:序章の終わり・魔王は善意を信じない


そして、クラーケンの襲撃から一ヶ月と少し過ぎた頃、9月

燦々と照りつけていた太陽の日ざしも落ち着き、やや肌寒さを感じ始める頃


「んじゃ、これで海とおさらばって事で。撤収ー」

「「了解ですー」」


俺達はリゾートビーチでの仕事を終え、魔王城に帰還

通常の仕事へと戻る事となった

そして、撤収作業を終え

荷物をまとめ終わった俺の側にウラムがやってきた


「色々ありましたが中々の成果でしたね」

「そうだな。思わぬ出費もあったけどな・・・」


主に魔王ロボ建造にかかった費用だ

まあ巨大ロボを作ったにしては、驚く程安上がりだったわけだが

その後、ギガスから2号機の建造プランを提出されたが、もちろん却下した


「シーズンオフの間のビーチの管理は、パレニスの方で請け負ってもらう事となりました。どうやら今回のリゾート計画の成果を高く評価してもらえたようで、来年のプランについても協力を惜しまないとの事です」

「そうか。まあ、そっちについては任せるさ」


どうせ来年には、俺は元の世界に帰ってるわけだしな

まあ、こいつらなら上手くやるだろう


「ソーマさーーん、ウラムさーーん。帰りの準備が出来ましたよーー!」


その時、アリアが遠くから俺達を呼んだ


「ああーー、今行くーー」


俺は大声で返答すると、手元の荷物を持ち上げた


「よし。じゃあ帰るぞ」


そして、アリア達の元へ歩き出そうとした時


「少しよろしいですか?魔王様」


俺は背後から、ウラムに呼び止められた


「ん?なんだ?」

「いつぞやの話の続きです」

「いつぞや?いつぞやって何時の話だ?」

「私にも少し魔王様の事が分かってきました、という話です」

「ああ・・・」


そう言えばそんな事を言ってたな

その後すぐ、クラーケンがビーチに向かってきたから忘れてた


「で?俺の何が分かってきたって?」

「そうですね・・・」


少し間を置いた後、ウラムは語り始めた


「魔王様は常日頃から金の為、自分の為と、かなり傲慢かつ自己中な発言を繰り返しておられますが」

「喧嘩売ってんのか!?」

「ですが、その行動は真逆。ドラゴン相手の立ち回り、自ら危険を冒してアリアさんを説得・・・」

「ああ?」

「暴走したミケを止める為に巨大猫に突撃し、精神世界ではラグナを相手に立ち向かってみせた。魔王様の行動を見た限り、魔王様は誰よりも善意で行動している様に思われます」


・・・?

いきなり何を言い出すんだコイツは、お前に褒められても気持ち悪くなるだけだぞ。それに


「あのなぁ・・・それは善意なんて物じゃねーよ。言ってるだろ?あくまでそれは自分の為であって・・・」


そうぶっきらぼうに返そうとしたその時、ウラムが意外な言葉を言い放つ


「ええ。貴方は何時もそうやって「言い訳」をしている」

「・・・言い訳?」


なんだと?俺が言い訳をしている?

黙り込む俺に向かって、ウラムが続ける


「貴方はとても善人に見える。アリアさんやティス、ミケに聞いても善人だと答えるでしょう」

「・・・」

「ですが。そんな善人である自分を魔王様自身は認めたくない、いえ恐らく憎んですらいる」

「・・・!」


俺が善人?そんな訳あるか

俺は俺の為に行動している。いつだって・・・そのはずだ

そうだ、そうしなければならない、俺にはその理由がある

何故なら・・・






あの時の光景を思い出す


優しい人が善意に生きた末路を俺は見た


だから俺は違うと、俺はそうはならないと誓ったのだ


俺は決して善意を信じない






「行動と思想が矛盾している。善人である自分を言葉では否定し、それなのにいつも誰かを助ける為に行動している。善意を否定しながら、善意のままに行動している」


ウラムの評は、的確に俺の本質を突いている

それは、目をそらしていた俺の内側を暴く物だった

その言葉に俺は何も言い返す事が出来ない、そしてウラムは俺に向かって告げた


「魔王様。貴方はとても歪んでいる」


・・・・・・


ウラムの言葉が終わり、そして二人の間に沈黙が訪れる

ウラムはそれ以上何も言わない、何時もの冷静な目でこちらを見ているだけだ

その沈黙を破る様に俺は言った


「・・・で?魔王失格だとか、そーいう事を言いたいのか?」


俺の言葉を聞いたウラムは何時もの調子で答える


「いえ、その様な事はありません。魔王様が善人であれ悪人であれ、私は従うまでです」

「そうか」


俺の返答を聞いた後、ウラムは少し咳払いをすると真面目な声で言った


「忘れないで下さい魔王様。我らを繋ぐ物は善意などでは無いのです、ましてや友情や愛情などと言った物でもありません」

「・・・」

「我らを繋ぐ物は契約です。契約がある限り、私は貴方の忠実なる僕です」


そしてウラムは、初めて出会った時の様に跪き頭を垂れた


「契約か」

「はい。善意と違い、契約は絶対です」

「そうか・・・なら安心だな」


俺はフッと頬を緩める

善意を信じられない俺でも契約なら信じられる、コイツは絶対に裏切らないのだと

そんな俺を見てウラムも微笑み


「ええ、ですから魔王様もどうか私の期待に答えて下さい」

「それなりに努力する」


俺はやる気の無い声でそう答えると、踵を返し歩き出した






誰がなんと言おうと、俺は善意って物を信じない

救世主や英雄なんかクソ食らえだ、無条件の善意なんて胡散臭くてしょうがない


(ああ、そうか)


だから俺は「魔王」なのだ

魔王は守る者ではない、壊す者だ

きっと俺は、この世界の常識や価値観を壊す存在なのだ


(それは・・・俺にお似合いだ)


ならばそうあろう

この世界のことごとくを破壊しつくし、そして変える

それが俺の「仕事」なんだ

そしてきっと・・・

その世界は、今よりほんの少しだけ良いもののはずだから

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