序章の終わり・魔王は善意を信じない
:序章の終わり・魔王は善意を信じない
そして、クラーケンの襲撃から一ヶ月と少し過ぎた頃、9月
燦々と照りつけていた太陽の日ざしも落ち着き、やや肌寒さを感じ始める頃
「んじゃ、これで海とおさらばって事で。撤収ー」
「「了解ですー」」
俺達はリゾートビーチでの仕事を終え、魔王城に帰還
通常の仕事へと戻る事となった
そして、撤収作業を終え
荷物をまとめ終わった俺の側にウラムがやってきた
「色々ありましたが中々の成果でしたね」
「そうだな。思わぬ出費もあったけどな・・・」
主に魔王ロボ建造にかかった費用だ
まあ巨大ロボを作ったにしては、驚く程安上がりだったわけだが
その後、ギガスから2号機の建造プランを提出されたが、もちろん却下した
「シーズンオフの間のビーチの管理は、パレニスの方で請け負ってもらう事となりました。どうやら今回のリゾート計画の成果を高く評価してもらえたようで、来年のプランについても協力を惜しまないとの事です」
「そうか。まあ、そっちについては任せるさ」
どうせ来年には、俺は元の世界に帰ってるわけだしな
まあ、こいつらなら上手くやるだろう
「ソーマさーーん、ウラムさーーん。帰りの準備が出来ましたよーー!」
その時、アリアが遠くから俺達を呼んだ
「ああーー、今行くーー」
俺は大声で返答すると、手元の荷物を持ち上げた
「よし。じゃあ帰るぞ」
そして、アリア達の元へ歩き出そうとした時
「少しよろしいですか?魔王様」
俺は背後から、ウラムに呼び止められた
「ん?なんだ?」
「いつぞやの話の続きです」
「いつぞや?いつぞやって何時の話だ?」
「私にも少し魔王様の事が分かってきました、という話です」
「ああ・・・」
そう言えばそんな事を言ってたな
その後すぐ、クラーケンがビーチに向かってきたから忘れてた
「で?俺の何が分かってきたって?」
「そうですね・・・」
少し間を置いた後、ウラムは語り始めた
「魔王様は常日頃から金の為、自分の為と、かなり傲慢かつ自己中な発言を繰り返しておられますが」
「喧嘩売ってんのか!?」
「ですが、その行動は真逆。ドラゴン相手の立ち回り、自ら危険を冒してアリアさんを説得・・・」
「ああ?」
「暴走したミケを止める為に巨大猫に突撃し、精神世界ではラグナを相手に立ち向かってみせた。魔王様の行動を見た限り、魔王様は誰よりも善意で行動している様に思われます」
・・・?
いきなり何を言い出すんだコイツは、お前に褒められても気持ち悪くなるだけだぞ。それに
「あのなぁ・・・それは善意なんて物じゃねーよ。言ってるだろ?あくまでそれは自分の為であって・・・」
そうぶっきらぼうに返そうとしたその時、ウラムが意外な言葉を言い放つ
「ええ。貴方は何時もそうやって「言い訳」をしている」
「・・・言い訳?」
なんだと?俺が言い訳をしている?
黙り込む俺に向かって、ウラムが続ける
「貴方はとても善人に見える。アリアさんやティス、ミケに聞いても善人だと答えるでしょう」
「・・・」
「ですが。そんな善人である自分を魔王様自身は認めたくない、いえ恐らく憎んですらいる」
「・・・!」
俺が善人?そんな訳あるか
俺は俺の為に行動している。いつだって・・・そのはずだ
そうだ、そうしなければならない、俺にはその理由がある
何故なら・・・
あの時の光景を思い出す
優しい人が善意に生きた末路を俺は見た
だから俺は違うと、俺はそうはならないと誓ったのだ
俺は決して善意を信じない
「行動と思想が矛盾している。善人である自分を言葉では否定し、それなのにいつも誰かを助ける為に行動している。善意を否定しながら、善意のままに行動している」
ウラムの評は、的確に俺の本質を突いている
それは、目をそらしていた俺の内側を暴く物だった
その言葉に俺は何も言い返す事が出来ない、そしてウラムは俺に向かって告げた
「魔王様。貴方はとても歪んでいる」
・・・・・・
ウラムの言葉が終わり、そして二人の間に沈黙が訪れる
ウラムはそれ以上何も言わない、何時もの冷静な目でこちらを見ているだけだ
その沈黙を破る様に俺は言った
「・・・で?魔王失格だとか、そーいう事を言いたいのか?」
俺の言葉を聞いたウラムは何時もの調子で答える
「いえ、その様な事はありません。魔王様が善人であれ悪人であれ、私は従うまでです」
「そうか」
俺の返答を聞いた後、ウラムは少し咳払いをすると真面目な声で言った
「忘れないで下さい魔王様。我らを繋ぐ物は善意などでは無いのです、ましてや友情や愛情などと言った物でもありません」
「・・・」
「我らを繋ぐ物は契約です。契約がある限り、私は貴方の忠実なる僕です」
そしてウラムは、初めて出会った時の様に跪き頭を垂れた
「契約か」
「はい。善意と違い、契約は絶対です」
「そうか・・・なら安心だな」
俺はフッと頬を緩める
善意を信じられない俺でも契約なら信じられる、コイツは絶対に裏切らないのだと
そんな俺を見てウラムも微笑み
「ええ、ですから魔王様もどうか私の期待に答えて下さい」
「それなりに努力する」
俺はやる気の無い声でそう答えると、踵を返し歩き出した
誰がなんと言おうと、俺は善意って物を信じない
救世主や英雄なんかクソ食らえだ、無条件の善意なんて胡散臭くてしょうがない
(ああ、そうか)
だから俺は「魔王」なのだ
魔王は守る者ではない、壊す者だ
きっと俺は、この世界の常識や価値観を壊す存在なのだ
(それは・・・俺にお似合いだ)
ならばそうあろう
この世界のことごとくを破壊しつくし、そして変える
それが俺の「仕事」なんだ
そしてきっと・・・
その世界は、今よりほんの少しだけ良いもののはずだから




