魔王と夏の計画
:魔王と夏の計画
今は、7月の半ば
俺が異世界セレンディアに召還されてから、3ヶ月程経った頃
照りつける日差しは眩しく気温は上がる一方、つまり夏である
異世界にも四季があるのかとかぼんやり考えつつ、俺は今日も自室で書類整理に励んでいたのだが
「アリアさん、紅茶を頂いてよろしいですか?」
「はい只今。最近オススメの茶葉があるんですよ」
「ほう、それはなかなか楽しみですね」
・・・・・・
「「爆炎龍!タッタッタ・・・百舌落とし!・・・滅せよ」」
「「エタリロクワカケー!」」
「にゃあ!また負けた・・・」
「ふっ・・・ミケ弱い」
「ティスちゃんが強すぎるんですにゃ!少しは手加減してくれても・・・」
「勝負の世界は非情・・・」
・・・・・・って
「お前らなんで俺の部屋でくつろいでるんだよ!」
書類整理に明け暮れる俺を横目に、ウラムは優雅にティータイムを
ティスとミケは、格ゲーで対戦していたのだった
アリアの淹れた紅茶を一口してから、ウラムが答えた
「何故と言われてましても、夏ですしね。魔王城周辺は日差しを遮るような物は何もなく、城の中の気温は上昇する一方。これぞ正にコンクリートジャングルと呼ばれる物です」
「ちげーよ、どこら辺がジャングルなんだよ」
「ですが。この魔王城でエアコンが付いているのは魔王様の部屋のみ、涼を求め、ここに皆が集まるのは必然という物でしょう?」
「魔族が暑いからエアコンの効いた部屋に退避してくるってどうなんだよ、全くファンタジーじゃないぞ」
「それは魔族差別と言う物です。魔族でも暑ければエアコンを全開にし、寒ければコタツに入ったまま動かなくなる物」
「寒いのは平気だけど、暑いのは無理」
格ゲーをしながらティスが答える
俺はそう答えるティスに視線を向ける、そして一言
「暑いって言うならその服装はどうなんだ?」
「?」
ティスの服装と言えば、氷と水で出来た様なドレス姿
そこに、腰まである銀の髪が印象的だったのだが
今は上下ジャージに、髪はポニーテールとなっていた
氷の女王と言った威厳は、もはや欠片も残っていない
「ジャージはオタクの戦闘服・・・(ドヤァ)」
「スーツは男の戦闘服みたいに言うな、どこから調達してきたんだか」
そう喋りながらもコントローラーを持つ手は止まっていない、ティスはすっかり世俗に染まってしまった様だ
だが今更、ゲームは一日一時間と言うわけにもいかない
その時、ティスがこちらに顔を向けて聞いてきた
「似合ってない?」
どう返答すべきか、俺は一瞬迷うが
とりあえず思った事を正直に言った
「ジャージ姿を似合っていると言うのは褒め言葉なのかどうなのか、まあ髪型はかわいいから良いと思うぞ」
「むふー」
「にゃ!!!」
どうやら、この答えで納得してもらえた様だ
ティスは満足そうな顔をしている、ミケが驚いている理由は謎だが
「ですが、魔王様。話は戻りますが・・・」
ティスがミケとの対戦に戻ったのを見てから、ウラムが続ける
「そもそも、我々を集めたのは魔王様ではありませんか?」
そう、普段は各自の仕事がある為、こうやって全員が集合する事は珍しい
今日は話があると言う事で、俺が全員を集合させたのだ
「ああ、それはちょっと待て。もうしばらくしたら・・・」
丁度その時、部屋にギガスがやってきた
「おや皆様、ここにおいででしたか。ではこれで、全員集合という事ですね」
「ギガス、わざわざ俺の部屋に?」
「はい。会議の前に、魔王殿に借りていた物を返却しようと思いまして」
そう言って、ギガスが俺に手渡したのはDVDのケースだった
それを覗き込みながら、ウラムが不思議そうに言った
「詭道兵士ガンガル・・・?ロボットアニメですか?」
「ええ。全話視聴完了しました」
「意外ですね。ギガスがこう言った物に興味があるとは」
「なかなかに興味深い物ですよウラム殿。ロボットアニメには、既存の常識に囚われない発想があります。再現不可能な物も多いですが、それもまた発明意欲を掻き立てられるという物です」
そう答えるギガスに言葉に、俺が一言付け加える
「そういう意味では、フィクションも馬鹿に出来ないんだそうだ」
「なるほど」
最初は俺も意外に思った物だが、ウラムと同じく理由を聞いて納得した
それ以後、何かの参考になればと、部屋にあったアニメDVDをギガスに貸す様になったのだ
「ああ、すみません。私事で会議を遅らせてしまって」
「いや構わない。とりあえず全員揃ったし、会議を始めるか」
部屋に居た全員が俺の方を向いて、次の言葉を待っていた
そして俺は宣言する
「お前ら海に行くぞ!!!」
「「海?」」
ポカーンとした顔を浮かべる面々を他所に、俺はニヤリと笑みを浮かべるのだった
それから一週間後
パレニスという国の近くの海岸線に、俺達は居た
「おお~~~!!!」
「凄いです!!!」
思わず感嘆の声をもらす俺とアリア
そこにはリゾートホテルにビーチショップ、海の家までもがあり
まさに、レジャービーチと言った風貌になっていた
「さすがギガスだ!注文通り!!!」
「ありがとうございます魔王殿」
俺は興奮を抑えきれず、ギガスにそう言った
そう、何を隠そう。このレジャービーチの建設をギガスに依頼したのは俺なのだ
「突然、海に行くなどと言うから、ありったけの夢をかき集めて、海賊でも始めるのかと思いましたよ」
「そんな何十年もかかりそうな財宝を探す旅なんかしてられるか。トレジャーよりレジャーだ」
「レジャーですか」
ウラムはそう言って砂浜を眺める
まだオープンしていない為、人影は全く無いが
明日の為に整地された砂浜にはゴミ一つ無く、どこまでも美しい海岸線が続いていた
「まさに夏のバカンスと言った感じでしょうね、仕事でなければ」
「んう・・・」
「そうでしたにゃ・・・」
ウラムの言葉にガックリと肩を落とす面々
そう。当然ながら俺は、バカンスをする為にビーチを建設したわけではない、その逆だ
俺は前々から夏場のビジネスについて考え、企画をしており
それを実現させる為に、国の許可を得てレジャービーチの建設を進めてきたのだ
「この世界では、レジャー産業が発展してないみたいだったからな。こんなビジネスチャンス逃せるかっての」
「ぷるぷるぷる」
「スライム達もご苦労だったな」
セレンディア初の、夏のレジャービーチ計画
すでにスライム達によって、各地での宣伝活動も行ってある
あとは、明日のオープンを待つのみだ
「それじゃあ明日のオープンに備えて、各自準備開始だ!このビジネス、絶対に成功させるぞ!」
「「おおーーー!!!」」
そして、日差しが照り付けるビーチにて
魔王軍の、夏のお仕事が始まったのだった




