魔王とMAO-1号
:魔王とMAO-1号
「ん・・・んん?」
目を覚ます、体の感覚が一気に戻ってくるのを感じる
どうやら現実の体に戻ってきたようだ
「・・・!ソーマさま大丈夫ですかにゃ!?」
「ん~~、まあなんとか」
最初に見えてきたのは、心配そうに俺の顔を覗き込むミケの姿だった
そして、目を覚ました俺に他の幹部達も駆け寄ってくる
「ご無事で何よりです魔王殿、どうやらテストは合格と言った所ですね」
「まーな、今回も死ぬかと思ったが」
「一体どんな内容だったんですか?ソーマさん?」
「あー、ラグナと戦えって内容だったんだが」
「あのラグナ殿と戦闘ですか?精神世界でとは言え、よくぞ切り抜けられたものです」
「いや、ほとんどティスのおかげだ」
「それでラグナはどうしたんです?」
その時、同じく眠っていたらしいラグナが目を覚ます、だが
「ラグナなら疲れたから寝るって言ってた」
「ティスちゃん!」
どうやら中身はティスだったらしい、ミケが安心した様にその手を取った
「何かあったらまた起きると思う」
「そうですか、まあラグナらしいですね」
そう言うとウラムはフッと笑みを浮かべる
そしてその後、ティスが俺の側にやってきて言った
「「またいつか会いに行くからよろしく」ってラグナが言ってた」
「そうか、今度はバトルとか無しにしてもらいたいが・・・」
(いい加減命を賭けなくて済む日常が欲しいものだ、まあ無理だろうけど・・・)
俺が遠い目をしていたその時、ティスが何かを思い出したといった感じで言った
「そう言えば、ラグナがちゃんとお礼をしろって言ってた」
「お礼?」
そうティスに聞きなおした、次の瞬間
「ありがとうおとうさん」
チュッ
ティスの唇が俺の頬に触れていた!
「ティ!ティスーーー!?」
「ギニャーーーーーー!!!!!」
「ティスちゃん!なな、何をしてるんですかー!?それにお父さんってどういう事ですか!?ソーマさん!?」
「こうすればおとうさんが喜ぶ、ってラグナが言ってた」
あの女ーーーーー!!!!!
別れ際にとんでもない爆弾を残していきやがって!!!!!
そして場の雰囲気が混迷を極めようとした、その時!!!
ウーウーウー!!!!!
けたたましいサイレン音が聞こえてきた!
「な!今度は何だ!?」
「これはマズイですね・・・来ますよ」
「来るって何が!?」
「それはもちろん・・・ポリスです!!!」
そのウラムの言葉と同時に!
バンッ!!!
部屋のドアが勢いよく開け放たれた!!!
「汝はロリコン!罪ありき!!!」
「なっ!?いや!これは違う!!違うんだーーーー!!!!!」
「言い訳は署で聞かせてもらおう!!!」
そして俺はポリス達に拘束され、そのまま連行されていった
・・・・・・
「・・・・ハッ!どど、どうしましょう!ソーマさんが捕まっちゃいました!!!」
いち早く正気に戻ったアリアが焦ったように言う、だが
「まあ2、3日もすれば戻ってきますよ。それでは夜も遅いですし、私はそろそろ休ませてもらいます」
「私も失礼します。開発の途中でしたので」
「ええ!?ちょっとそれでいいんですか!?」
そう言って、ウラムとギガスは部屋から去って行った
「ミケさん!どうしましょう!?」
「知らんですにゃ!ロリコンで浮気者のソーマさまの事なんて知らんですにゃ!!!ティスちゃんは今日はミケの部屋で寝るにゃ」
「行く・・・!!!(モフモフ!)」
「ええ~~、ちょっとみなさん~~ええええ~~~~~~~~!!!」
そして部屋にはアリア一人が取り残され・・・
何事も無かったかの様に、夜は更けていくのだった
「しょうがないじゃないですか・・・あの見た目で無防備にじゃれついてこられたら・・・」
「気持ちは分かるけど3歳は駄目だよ、3歳は。ほらカツドゥーン食えよ」
「頂きます・・・」
そして一週間後、俺はギガスのラボにやってきていた
マネラルエンジンを搭載したこの世界初の自動車がついに完成したのだ!
「ついに完成したんですか!?」
「楽しみです!」
「ええ。それでは、これがこの世界初の自動車、MAO-1号です」
そして!MAO-1号の姿が露わになった!
「あ、あれ?」
「これは?」
「思ってたのと違う・・・」
皆が困惑した理由は明白だ
その車体は木の板で出来ており、車輪もタイヤなどではなく木製となっている
馬が引いていない事とエンジンが付いている事を除けば、それはどこから見ても一般的な荷馬車そのものだった
唖然とする皆に代わって、ウラムが言った
「かなりダウングレードした感じが致しますが、これは一体?」
「いや、これで仕様通りだ。MAO-1号はこれでいく」
「あまり自動車らしくない感じですが・・・よろしいのですか?」
ウラムの疑問ももっともだ、だが俺はそれに対してこう答えた
「この前、自動車のテストをしただろ?あの時痛感した事がある」
「と言いますと?」
「安全第一だ!!!」
そう。道路整備も法整備もされていない異世界で、鉄の塊を走り回らせるなんて危険極まりない
そんな物を販売したら大問題だ
どれだけの被害、どれだけの損害賠償を支払う事になるか想像するだけで恐ろしい
「とりあえずは馬が居なくても動く便利な荷馬車程度でいい、そのうちニーズに合わせてバージョンアップしていくさ」
「当初見込んでいた程の利益は出ないでしょうが、まあ致し方ありませんね」
「いいさ。一発逆転はもちろん魅力的だが、堅実にコツコツやっていく方が性に合ってるみたいだしな」
そうニヤリと笑いながら笑みを浮かべる俺に向かって、ティスが一言言った
「地道なレベル上げは大切」
そして、俺達は今日もほんの少しだけ前に進む
ほんの少しづつだが、後ろに下がらないだけマシだろう?
いつかは大企業になる事を夢見て




