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魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第四章:魔王と二人のティス
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魔王と優先順位

:魔王と優先順位


ラグナとティスの戦いは全くの互角だった

しかし、状況は一変した!


「ッ!!」


ドガガガガガッ!!!


ラグナに向かって氷の魔法を放つティス!しかし!


「もう十分試したはずでしょ?」


ティスの放つ氷系の魔法はラグナに全く効果が無い!

そしてお返しとばかりにラグナはティスに火炎を放つ!


ゴオオオオオッ!!!


「くっ!!!」


ティスは氷の障壁で防御する!

しかし、ラグナが放つ火炎系の魔法はティスにとって相性が悪いらしく

その威力を相殺しきれず、火炎はティスの肌を焼いていく!


「氷の将軍なのに炎を使うっておかしいだろ!」


俺は思わずそう叫んだ、だが


「本来の私なら無理ね、でもまあ経験の差って事よ」

「・・・どういう事だ?」


ラグナの答えに俺の思考が一瞬止まる、その瞬間!


「ソーマ下がって!!!」

「うおあっ!!!」


ドオオオンッ!!!


俺は二人の力のぶつかり合いの衝撃で吹っ飛ばされ、地面を転がる!

なんとか攻撃を防ぐティスだったが、ラグナの攻撃はじょじょに激しくなっていく!


「くっ!!!」

「ふふっ・・・」


このままじゃマズイ、今はなんとか凌ぎきれているがそれも時間の問題だ!

何か打開策を考えなければ・・・


(とは言うもの、のティスの攻撃は全く効いていないようだし、助けに入りたいが俺が何か出来るわけもない・・・)


ハッキリ言って打開策など何も思いつかない、状況は完全に詰みと言っていいだろう

だが次の瞬間!


(ってアホか俺は!)


パァァァンッ!!!


俺は両の手で頬を思い切り叩く!!!


(考える事ぐらいしか出来ないくせに、それすら止めてどうする!?)


打開策が無いなら作り出せ!よく考えるんだ!!!


(俺が魔法を使えたら・・・って無理に決まってる!普通の人間は火炎を手から放ったりは出来ない)


そう考えながら、俺は地面につけた自分の手を見つめる


(?)


その時、違和感を覚えた

辺り一面氷の世界、当然地面も氷で出来ている、だが・・・


(冷たくない?)


そう考えた瞬間、一気に氷の冷たさを感じる!


(冷たッ!けど・・・)


しかし、先程の違和感は拭えない

そう、数秒前まで俺は確実に地面の冷たさを感じていなかった

実際に冷たいと感じたのは手を地面に当てて数秒経ってからだ、何故こんな時間差が?

だがその時、俺の脳裏にある仮説が浮かぶ


(そう言えばここに来た時もそうだ。俺は最初、こんな服装だったにもかかわらず寒さを感じていなかった。だが周りを雪景色だと認識した途端、急激に寒さが襲ってきた。それはつまり・・・俺が寒い冷たいと思ったから、実際に寒く冷たくなったと言う事か?何故?いや待て、そうか・・・!)


そもそもここは現実の空間ではない、ラグナはここを「心の中」と言った

つまり、最初からここは通常の物理法則が成り立つ空間ではない

ここは、本人の認識で世界が変わる空間って訳か

と考えるなら、さっきのラグナの台詞も説明がつく


(本来の私なら無理ね)


その言葉の通り、本来のラグナは炎を扱う事は出来ないのだろう。だがここは精神世界だ

本人が出来ると思い込めば、炎を扱う事も出来るという事


「確かにインチキだ・・・」


つまり、この空間においてラグナに出来ない事は一切無いと言う事に等しい

思い込めば何でも出来るなんて・・・


(いや、それはラグナに限った話じゃないはずだ・・・!)


そう、実際俺にも認識と現実のタイムラグが発生している訳で

それなら、俺も思い込めば何でも出来るという事!


(だったら!!!)


そこまで考え付いた俺は、手を構え炎を出すイメージを考える


(炎、炎、炎・・・手のひらから火炎を・・・!!!)


シーン・・・


だが、俺の手からは何も出たりはしなかった


「駄目だ、何も起こらない・・・」


何故だ?前提条件が間違っていたのか?

それとも他に何か・・・


ドグオォォォンッ!!!


その時突然!轟音が鳴り響いた!!!


「うあっ・・・・!!」

「ティス!!」


吹き飛ばされるティス!俺はすぐさまティスの元に駆け寄った!


「もう終わりかしら?ティス」


そして、歩いて向かってくるラグナからティスを庇う様に立ち、ラグナに向かって手を構える!!!


「炎!炎!炎!・・・クソ!駄目だ!!!」


先程と同じように炎を放つイメージを浮かべるが、やはり何も起こらない

そんな俺の行動を見たラグナは一瞬目を丸くするが、笑みを浮かべながらこう言った


「へえ?どうやらこの世界について理解したみたいね、頭の回転は悪くなさそう」

「クソッ!出来るはずなんだ!どうして!?」


そう自分の手を見つめながら叫ぶ俺に対して、ラグナはこの世界について説明をし始める


「イメージさえあれば何でも出来る、でもそれは言う程簡単な事じゃないわ。たとえ精神世界でも「自分」は「自分」であるというイメージからは簡単に逃れられるものじゃない。尻尾の生えていない人間が尻尾を動かすイメージが持てないように、翼を持たない人間が翼を羽ばたかせるイメージを持てないように、魔法が使えない人間が魔法を使うイメージは簡単に持てるものじゃないわ。人も魔族も・・・誰もが「自分」という存在に心を縛られているのだから」

「つまり自分に出来ない事は当然ここでも出来ないって事か・・・」

「そうね。でもそれを覆すのが強力な意思の力」

「意思?」

「そう、それが貴方には無かったという事」


ラグナが言った言葉を心の中で反芻する

自分と言う認識すら変える強力な意思・・・


「じゃあ、改めてさようなら」


キィィィィンッ・・・!


そしてラグナがその手に魔力を集中させ・・・!


ドシュッ!!!


トドメの一撃を放った!

そして、俺の全ては終わりを迎え・・・!


「・・・やらせないっ!!!」


バッ!!!


その時!俺を庇うようにティスが立ちふさがった!

だがティスはもはや障壁などを張る事は出来ず

それは、その体を盾にした決死の行動だった


「ティス!!!」


あと数秒もしないうちに、ラグナの放った一撃がティスに突き刺さるだろう

だがその瞬間

世界が止まった様に感じられ、俺の思考もクリアになる




俺に出来る事など何も無い


魔法も剣も使えないし、神から与えられたチート能力なんて物も当然持ってない


だからどうした?何も出来ないから、俺はティスを見殺しにするのか?


考えるまでもない、それだけは駄目だ!!!


なら・・・行くしかない!!!!!




体が本能のままに動いた、俺の前に立つティスの横を抜け!

迫り来る一撃に対して拳を振るう、その瞬間思い出したのは・・・!




「宗真はそのアニメ好きなのね、いつも真似してばっかり」

「でもそれ、悪役の技じゃないのか?宗真は悪役の方が好きなのか?」

「いいじゃない、宗真が楽しそうなら」




死地へと向かうその時、脳裏に浮かんだ光景に自然と笑みが浮かぶ


(そう言えばそんな事もあったな)


イメージだって言うなら完璧だ!

子供の頃何度も何度も真似してきた技だからな!

よく分からない魔法なんかより遥かに簡単だ!

中段に構え、力を貯めた拳を思い切り前に突き出しながら叫ぶ!!!


「ダークロードォッ!!!ナアアアアァァァァックルゥッ!!!!!」


その瞬間!


ゴォッ!!!!!


俺の拳から放たれたエネルギーの奔流が目の前に迫っていたラグナの魔法を吹き飛ばし!そして!!!


「なっ!!!」


ドオオオオオッッッン!!!!!


そのままラグナを飲み込み!遥か彼方まで吹き飛ばした!!!






「出来た・・・」


俺の拳から放たれたエネルギーがラグナを吹っ飛ばし、空を切り裂いた

その光景を、俺は唖然とした表情で見つめながら呟き、そして


「おおおおっ!なんかすげえのが出た!!!」


そう叫んだ


「すごい・・・」


俺の横にへたり込んでいたティスも、俺と同じく唖然とした表情でそれを見つめていた

それに気づいた俺は、すぐさまティスに駆け寄る


「っと、そうだ。ティス無事か?」

「大丈夫。それよりソーマ、今のどうやったの?」

「いや夢中でよく分かってない・・・なんか、勝手に体が動いたというか」


俺の一撃は雲を裂く程の強烈な一撃だった、そのエネルギーの奔流が通った後は全て消滅して・・・


「って!ラグナはどうなった!これもしかしてやりすぎたか!?」


手加減だとかそんな事考える余裕は全く無かったからな、OVER KILLになってないだろうか!?

いくらなんでもさすがに殺してしまうのはマズイ、焦る俺だったが


「まだ生きてる」


そう言ってティスが指をさす、その指し示した方向にラグナが立っていた

無傷という訳では無さそうだが、大したダメージがある様にも見えない

俺は驚愕のあまり叫ぶ


「あれ食らって平気なのかよ!?」

「平気ってわけでもないわよ、かなり驚かされたわ」


まだ余裕があると言った表情で笑うラグナ、その時


「ソーマ下がって!」


またもや俺の前に出るティス

だが俺はその肩を掴むと、今度は自分が前に出る


「ソーマ?」

「いつも守られてばっかりだからな、こんな時ぐらいは俺に守らせてくれ」


そう言いながら正面に立つ俺に向かって、ラグナは目を細める


「魔王が部下を庇って前に立つなんておかしい話ね。自覚が足りないのかしら?」


だが俺は、そのラグナの言葉に対して呟く様に

それでいて、ハッキリとした意思を込めながら言った


「・・・俺には魔王の資格だとかそーいうのはよく分からないし、そんな物の為に戦う気も無い」

「そんな物・・・?」


俺の言葉にピクリと反応するラグナ、魔王というものを軽視した俺の発言にカチンと来たのだろうか?

だが俺は恐れず前に一歩踏み込むと、叫んだ!


「けどな、ティスを守る為なら別だ!!!相手が魔神だろうと神だろうと知った事か!!!」


その俺の叫びに、ラグナが動揺する


「どうして?貴方がそこまでする必要は・・・」

「大アリだ馬鹿野郎!!!」

「!?」


そして俺は畳みかける様に、出来る限りの大声を上げて叫んだ!!!


「子供を守るのが保護者の責任だろうが!!!魔王の資格とかなんだとかより、その方が遥かに重要だ!!!それが!俺に取って今一番優先すべき事なんだよ!!!!!」


俺は大声で宣言する!!!


「・・・あ」


俺の宣言にラグナは面を食らったような顔をしていたが、しばらくして


「あはははははは!!!!!」


お腹に手を当てながら、大声で笑い始めた!そして


「あははははははは!!いいわね貴方!!アルゼア以来の大ヒットよ!!!」


更に笑いながら、今度はそのまま地面を転げまわる


「ツボった?」

「さ、さあ?」


唖然とその光景を眺める俺とティス

しばらくして、ラグナは立ち上がると俺に向かって言った


「あーもう、合格よ!合格!貴方を魔王として認めてあげるわ!!!」

「えーっと、それは良かった」

「いやー普通言えないよ!?大声であんな恥ずかしい台詞!愛の告白かと思っちゃったわよ!!!」

「はあ!?いや、あれはそういう意味ではなく!純粋に・・・!!!」

「分かってる分かってる!あくまで保護者としてだものね!」


ラグナは俺の背中をバンバン叩く

いきなり殺し合いになったり馴れ馴れしくなったり、魔族のコミュニケーションはよく分からん

その時、ラグナは人差し指を顎に当てながら考え込む


「んー?という事は貴方はティスの父親代わりになるって事なのかしら?」

「は!?父親って!!!」


俺が驚きの声を上げた、その時


「ソーマがおとうさん?」


ティスがその言葉を繰り返した

俺は咄嗟に否定しようとするが・・・


「いや、それは・・・!!!」

「いいんじゃないの?私達に本当の意味での両親は存在しないわけだし、保護者なんでしょ?」

「それはそうなんだが・・・」


(まだ結婚どころか彼女すら居ないのに、子持ちになるとか・・・)


考え込む俺の袖を引っ張るいつもの感覚、俺が振り向くと

どこか爛々とした瞳で俺を見つめるティスの姿があった


「おとうさん」

「えーっと・・・ティスそれはな・・・」

「おとうさん」

「ティ、ティスさん?」

「おとうさん」

「・・・」


OH・・・どうやらもう手遅れのようだ、ティスの中で俺は父親と認識されてしまったらしい

そんな俺を茶化す様にラグナが言った


「まあそういう事でよろしくね、お・と・う・さ・ん。ってそういえば貴方の名前も聞いてなかったわね」

「四十万宗真、ソーマが名前だ」

「ソーマくんね」

「・・・くんは止めてくれ、俺はもう29歳だ」

「何言ってるの?100年も生きていない人間なんて、私からすればみんな子供よ。子供なら子供らしく「ソーマちゃん」って呼んでもいいけど?」

「くんでいい・・・」


俺は諦めてそう呟く

そして次の瞬間、俺の体がふわふわと浮き始めた


「な、なんだ!?」

「心配しなくていいわ、元の体に戻るだけよ」


そして俺は、空に吸い込まれるようにふわふわと浮き上がっていく

その時、ラグナが何かを呟く


「人間だけが奇跡を起こす・・・か。アルゼアもそうだった。アイツもそれに賭けたという事かしら」

「?」

「もしかしたらソーマくんなら・・・アイツの望みを叶える事が出来るかもしれない」

「アイツ?望み?」


その言葉に対して問い返す、だが


「・・・いえ、なんでもないわ。そんな日が来ない事を祈っている」


ラグナはそう言ってほほ笑んだ

次の瞬間、俺の意識が遠くなっていく、元の体に戻るのだろう

そして、俺の体は精神世界から消えた






「それじゃあ私も帰る」

「ああ、待ちなさいティス」


ラグナはティスの側に寄ると耳打ちをする


「本当?」

「ええ、試してみなさい」


そしてティスはその場から去ろうとするが、途中で振り返る


「ラグナ、また会える?」


そのティスの言葉に、ラグナは微笑みながら答えた


「そうね・・・しばらくはここに居るつもりよ。何か困った事があったら呼びなさい、私はいつでも貴方の中に居るわ」


その答えを聞いたティスは、やはり無表情のまま言った


「うん、じゃあまたねラグナ。もう一人の私」

「ええ、またねティス。もう一人の私」


そしてその世界からは誰も居なくなり、霧の様に消えていった

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