魔王と転生する魔神
:魔王と転生する魔神
「もう一人のティス?」
突如現れたティスと同じ姿をした魔族ラグナ
ウラムは彼女の事をそう言った
「ってつまりどういう事だ?二重人格とかそーいう事か?」
「そうとも言えますし、違うとも言えます」
「?」
「ええと、彼女はティスの前世というか母親というかもう一つの人格というか同一人物というか」
「さっぱり意味が分からん」
ウラムの言葉は要領を得ない、俺はなおも首を傾げる
そんな俺に対してウラムは、ティスの存在とは何かについて口にする
「そうですね・・・実は彼女はこの世界で珍しい、というよりただ一人転生をする存在なのです」
「転生?生まれ変わるって事か」
「はい。なんらかの原因で死に至った時、肉体や魂等を全てエネルギー体に変換し長い年月をかけて再生するのです」
ラグナが転生し、生まれ変わった姿がティスと言う事か。つまり・・・
「って事は、ティスが大人の姿をしてるのはもしかして」
「ええ、元の体を再生したわけですからね。産まれた時から、体は完成しているというわけです」
まさか、ティスにそんな秘密があったとは
だが、まだ疑問点は残っている
そう、今この場で一番重要な疑問だ
「でも、なんで突然ラグナに切り替わったんだ?今までずっとティスだったのに」
俺の質問に対し、ウラムは説明しようとするのだが
「転生の際人格はリセットされ、前の人格は無意識下で眠りにつく。そして、いずれ今の人格の中に溶けていき統合される・・・と聞いていたのですが」
そこまで言った所で、ウラムはラグナの方を見る
どうやら、ウラムもその事については原因を把握していないようだ
そして、ウラムの説明の続きをラグナが言った
「ん?そうね、ウラムの言うとおり。私はティスの無意識下で眠っている状態だったわ」
「では何故突然目覚めたのです?」
「それは・・・!」
ウラムの質問に対し、ラグナはビシッと俺を指差して叫んだ
「その男がティスに酷い事をしたからよ!」
ラグナの言葉に全員シーンとなり、周囲の空気が冷たくなる
いや、その言い分はひょっとすると、というよりかなりの確率で問題発言なのでは!?
「ソーマさん・・・ティスちゃんに何か酷い事をしたんですか・・・?」
「にゃああああ!!!まさかソーマさまがティスちゃんにあんな事を!?!?」
案の定、女性陣の反応は予想通りの物だった
というかアリアの目が怖い!これは命に関わる!!!
「いや!待て待て待て!!誤解だって俺は何もしてない!!!」
そう、俺はただベッドで寝ていただけなのだ!
寝ぼけてベッドに入り込んでいたティスを抱き寄せたりしたがそれ以上の事はしていない!
そう続けようとした俺に向かって・・・
「そう!その男何もしなかったのよ!!!」
とラグナは叫んだ、またもや辺りがシーンとなる
俺はその静寂の中、恐る恐る聞いてみる
「え?それはつまりどういう事?」
「そんなの決まってるでしょ?こんな絶世の美女が側に寝ていて男だったら、いえ女だったとしてもイタズラの一つや二つしてしかるべきじゃない!」
(えー・・・それはどんな駄目出しなんだ)
手を出した事で怒られるならともかく、手を出さなかった事で駄目出しを食らうとは
「それなのにその男、何もしないでベッドから出て行こうとするし!思わず私も無意識下から飛び起きたって訳よ!」
そんな下らない理由で彼女は覚醒したのか・・・
なんでこうアホばっかりなんだ、この世界は・・・
「なるほど。魔王様のヘタレ力によって、魔神の封印が解かれたというわけですね」
「えーっとその・・・ソーマさんは奥手と言うか、色々慎重なだけですよ!大丈夫です!」
「そうです!アリアちゃんの言う通りです!ソーマさまはちょっと女性に対して奥手というか、積極性が無いだけです・・・!うにゃあ・・・ホントに」
各々感想を述べる幹部達
何やら酷い言われようだが、手を出したら出したで色々言われていただろう
つまりどう足掻こうとこうなる運命だったわけだ、俺は諦めて運命を受け入れる事にした
「さて私が表に出てきた理由はそんな所だけど、今度はこっちの質問に答えてもらうわよ」
ラグナはそう前置きしウラムに向かって言った
彼女の雰囲気が真面目な物に変わる
「それで?私が死んでからどれくらい時間が経ったの?」
「おおよそ600年程になります、ティスが産まれたのは3年前ですよ」
「そんなに!本当なら数年で肉体の再生は完了するはずなのに・・・そんなに時間が経てば、アルゼアの子孫とか言うのも出てくるわけね」
俺はラグナが口にした名を呟く
「アルゼア・・・」
さっきも聞いたが、アリアの子孫にして初代勇者らしい
ラグナは600年前の人物だったらしいし、知り合いなのだろうか?
その時、アリアがラグナに向かって問いかける
「貴方は、アルゼア様の事を知っているんですか?」
「ええ、よく知ってるわよ。幾度となく戦ってきたからね」
勇者と魔王軍幹部、幾度となく戦ってきた相手
どうやら、ラグナとアルゼアは因縁の相手という事だろうか
「最初はなんだったかしら?なんか勇者アルゼアとか名乗って挑んできて、それで半殺しにしてやったのよね」
「えっ!?」
「にもかかわらずそれから何度も何度も挑んできて、その度に返り討ちにしてやったのにしつこく何度も挑んできて・・・」
勇者負けっぱなしだったのか・・・よく死ななかったものだ
いや、あえて見逃されていたのだろうか
「そうそう思い出してきた・・・あの正義バカ!時間も場所も弁えず、何度も何度も・・・!!!」
ラグナは何か色々思い出しているようだが
どうやら、ロクな思い出ではなさそうだ
「酷い時なんか、私が宿に男連れ込んでさあこれからお楽しみって所に突撃してきやがったのよ!正義の時間だオラァ!!!とか言って!!!ホント何度も何度もしつこく!!!!!」
かなりストレスが貯まっていたらしい、ラグナはどんどんヒートアップしていく
それを横目にしながら、ウラムが俺とアリアに手招きをしヒソヒソと話し始める
「えーっと実はですね。そのアルゼアさんですが・・・ラグナに対して何というか、特別な感情を抱いていたようで」
「なんだ、その気になってる女の子に嫌がらせする中学生みたいな思考は」
「その何度も何度もアプローチする様が、後世には何度倒されても立ち上がる不屈の勇者!みたいな感じに伝わったそうです」
「知りたくなかったそんなの・・・」
ウラムの言葉に、アリアががっくりと項垂れる
知られざる勇者誕生の話という所か、やっぱりろくでもない・・・
「・・・まあ、あの正義バカの事はどうでもいいのよ」
どうやら落ち着いたらしく、ラグナは改めてウラムに質問をし始めた
「次はそうね・・・ここは何処なの?」
「・・・ここは魔王城ですよ」
「魔王城?ここが?」
今のやりとりに、俺は軽い違和感を覚える
(ラグナは何故・・・?)
「ええ、メルヒェンス山の麓の名も無き古城。今は魔王城と呼ばれています」
「メルヒェンス山?・・・成程、そういう事。それで?お前が今の魔王と言う事かしら?」
「いいえ、違いますよ」
「?」
首をかしげるラグナに、ウラムは答えた
「今はこの方が、我らが魔王様です」
そう言ってウラムは俺の方を向く
「魔王?その人間が・・・?」
キィィィィン・・・
その瞬間、部屋の温度が一気に下がった気がした
いや、それは気のせいではない!
目の前のラグナから放たれていた氷の魔力が、一気に増大した為だ!
そして、それと同時に放たれていたのは強烈な殺意と呼ぶべきものだった!
「っ!!!」
一歩でも動けば首を飛ばされるかもしれない!そんな恐怖に身がすくむ!
だがラグナの視線、その強烈な殺意が向けられている相手は俺ではなく・・・
「それはどういう事かしら?ウィズ=ウラム」
そう彼女が殺意を向けていた相手、それはウラムだった
だが、その強烈な殺意を受け止めながら、ウラムは何時もの調子で言った
「どうもこうも。魔王軍の財政難を救う為、私がスカウトして魔王様になっていただいたのです」
「へえ?」
そのウラムの態度に、ラグナの殺意が更に高まる!
まさに一触即発と言った状況!
「っ・・・!!!」
「にゃ・・・・にゃあああああ・・・・!!!」
俺だけではなく他の幹部達も一歩も動けない状態だ
それ程までに、ラグナの殺気は激しい物だったのだろう。だが突然
「まあいいわ・・・」
ヒュゥゥゥゥ・・・
そう言って、ラグナは臨戦状態を解除した
「よろしいのですか?」
「ええ、私はあくまで過去の人間。私の命は600年も前に終わっているわけだし、今更どうこうする気はないわ」
「ご納得頂けたようでなによりです」
ウラムはあくまで普段通りにそう答える、しかし・・・
「でも、その前に・・・」
そう言ってラグナは俺の方を見た、俺とラグナの目が合ったその瞬間!
「な・・・?」
突然視界がぼやけた
平衡感覚を失い地面に倒れこむ、だがその地面の感覚すらも今の俺には無い
「っ!!!一体何を!!!」
異常事態を察知したアリアが瞬時に、ラグナに詰め寄る!
だがそんなアリアに、ラグナは至って冷静な声で答えた
「心配しなくていいわよ、これから少し魔王として相応しいかテストさせてもらうだけだから」
「テスト?」
「ええ、テストに合格すればすぐに元に戻してあげるわ」
そして、ラグナは妖艶な笑みを浮かべ
「ただし不合格だった場合は・・・」
その続きを聞く事なく、俺の意識は途絶えた




