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魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第四章:魔王と二人のティス
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魔王とゲーム廃人

:魔王とゲーム廃人


自動車の走行テストから数日、俺は執務室で書類の整理をしていた

執務室とは、ギガスに作ってもらった俺の私室兼仕事部屋である

これで俺もようやく、落ち着ける場所が出来たというわけだ


「「シャドブレイー」」


「んーちょっと人手が足りなくなってきたか?」

「ならスライムを増やしますか?」

「え?増えんの?スライム」


「「キュイーン!ガッ、ドッドッドッガッ!」」


「ええ、増えますよ。1体のスライムが100体程まで分裂できますから、最大700体ぐらいだと考えてもらえれば。ただし食費も700体分かかりますのでご注意を」

「んー、ギガスの所が手足りてないし。少し増やすかなぁ・・・」


「「お仕置きよ・・・ドンドンドンガッガッガッガッガガガガガガッ!気持ちいいでしょう?」」


「ところで魔王様」

「ん?」

「あれは何をやっているのですか?」


そう言って、俺と仕事の相談をしていたウラムが指をさす

ウラムが指す方向には、俺が元の世界から取り寄せたテレビがあった

当然異世界なのでどのチャンネルも映らない、ゲーム専用だ

そして、今はというと


「・・・・・ん」


一心不乱に格ゲーをやり続ける、ティスの姿があった


「あれはなんというか・・・説明すると長くなるんだが」


そう、どうしてこんな事になってしまったのか?

それは、自動車の走行テストをした翌日に遡る






「という感じで頼む」

「承知致しました」


自動車の走行テストの翌日、俺は自動車の製造プランについてギガスと打ち合わせをしていた


「しかしこのプランでよろしいのですか?」

「あ~、まあこの世界に合わせるって感じで」

「そうですか、ではこのプランで試作を開始します」


そして打ち合わせを終えようとした、その時

俺は別の案件について思い出し、ギガスに問いかける


「ああそうだ。自動車の事もだが大事だが、次の商売の事はどうなってる?」

「その件でしたら。既に国の許可は取り付けましたので、あとは開発を開始するだけです」

「おっ、そうか。じゃあそっちも併せて頼む」

「承知致しました魔王殿」


毎度毎度頼もしい将軍だ、俺のプランを確実に形にしてくれる

ともかく、ギガスとの打ち合わせは終わったので後は自分の仕事に戻るだけなんだが・・・


「何か用か?ティス」

「・・・」


俺の真後ろにはティスが立っていた

何時から居たのか分からないが、ずっと俺とギガスの話が終わるのを待っていた様だ


「ソーマ、車・・・」

「車?」

「またドライブしたい」

「うっ!それは・・・」


どうやら前日のアレで、ティスは相当車を気に入ったらしい

ティスの顔は相変わらず無表情だが、目の奥が爛々と輝いているのが分かる


(けど、ティスに運転をさせると・・・)


とは言え、こちらとしては二度と乗りたくはない。今度こそは命に関わるかもしれない、主に俺の命にだ

そんな俺の心情を察したのか、遠目で見ていたギガスが声をかける


「申し訳ありません。現在魔王殿の車は技術解析の為に分解状態になっております」

「んう・・・(ガッカリ)」

「まあそういうわけでドライブはしばらく我慢してくれ」


ティスには申し訳ないが車が無いのでは仕方ない、俺はその場を後にした






という訳で、自室に戻ってきたわけだが


「まだ何か用があるのか?ティス」


俺の後ろにはずっと、ティスが付いてきていた


「とくにない」

「そうか」


まあティスは大人しいし仕事の邪魔をしたりと言った事もない、自由にさせておいて大丈夫だろう

俺の部屋でくつろぐティスを横目に、俺は自分の仕事を進めていた。その時


「・・・?ソーマ」

「なんだ?」

「ハンドルがあった」

「ハンドル・・・?ってああ、レーシングコントローラーか」

「れーしんぐこんとろーらー?」

「ああ、ゲームのコントローラーだよ」


その時、俺はふと思いついた


(そうだ、ゲームならどうだろう?)


そして、長らく起動していなかったゲーム機の電源を入れると、ティスにコントローラーを持たせた


「まあ試しにやってみるといい」

「・・・」


ブオオオオオオンッ!!!


その後、ティスは無言でゲームの車を操作していた

最初の内は色々説明を要求してきのたが、すぐに覚えてしまった様だ


「んじゃ俺は仕事してるから」

「・・・」


集中モードに入ったティスには俺の言葉が届いていない

食い入る様に画面を見ている


(まあ気に入ったみたいで良かった)


そして、俺は自分の仕事に戻るのだった






「で、それから?」

「それがな。どうやらゲームにハマったらしく、それからずっとここで色んなゲームをプレイしているって訳だ」


俺の説明を聞いたウラムは、ふーっとため息をつくと言った


「全く魔王様は浅はかですね。猫にマタタビ、子供にゲーム、夢中になるのは当然と言えましょう」

「まあ、言われてみりゃそうなんだが。あそこまでハマるとは」


最初はレースゲームだけだと思っていたのだが、その後他のジャンルにも片っ端から手を出し

今や、ティスは立派な廃人ゲーマーと化していた


「見てから反撃余裕・・・」


そう言って牽制の立ち中Pをガードキャンセルで返してきた時は、恐ろしいゲーマーを作り出してしまったと思った


「仕事に差し支えは無いのですか?」

「それがどうやら全く無いみたいでな」


俺の知る限り、ティスはほとんどずっとゲームしてるだけに見えるのだが

不思議な事に、ティスの仕事は全く滞っていない様だった


「ふむ・・・まああれも、魔族の中でトップクラスの天才ではありますからね」

「そうなのか?」

「ええ、伊達に誕生した瞬間に将軍の座に付いているわけではありません」

「そう言えば、ティスの両親とかそーいうのはどうなってんだ?聞いた事ないが」

「その辺りの説明は色々とややこしいのですが・・・まあいずれ、本人に聞いてみると良いと思われます。そんな大した話でもないので」

「ふーん」


ウラムの口ぶりからすると、本当に大した話では無い様だが

まあ、魔族が普通に両親から産まれるとも限らないしな


「ともかく、子供の教育はしっかりした方がいいと思いますよ」

「努力はする・・・」


ウラムの言葉に、俺は俯きながら答える

結婚もしてないのに子供の教育とか言われても困るが、放り出すわけにもいかない

そのうち、ゲーム以外に興味を持ちそうな事を試してみるか






そして時間は過ぎ、夜

夕飯を済ませ、後は寝るだけなのだが


「ティス?俺はそろそろ寝るけど」

「・・・」


ティスはまだゲームを続けていた、こちらの言葉が聞こえていないかの様にゲームに集中している


(今は・・・どうやらアノロンに到着した所の様だ、良い所だな分かるとも)


折角の良い所を邪魔するのもアレなので、とりあえずゲームをしているティスはそのままにし俺は寝てしまう事にした


「んじゃ、お先におやすみ」


そうして俺はベッドに入り、数分後には眠りについたのだったが・・・


「ん・・・?」


夜中、何やら違和感を感じ目を開けた

半分寝ぼけたまま、懐にあった抱き枕を抱き寄せる


「・・・んう」


そしてその瞬間!俺の意識は瞬時に覚醒した!


(ってどうなってんだこの状況は!!!!!)


俺が抱き寄せたのは抱き枕ではなく、いつの間にかベッドに入り込んでいたティスだった!


(てゆーか抱き枕なんてもってねーだろ俺!!最初に気付けよ!!!)


俺の懐に入り込んだ、というよりさっき自分で抱き寄せたティスは熟睡しているようだった


(いや待てもちつけ・・・じゃない落ち着け!これは簡単な事件のはずだ、真実はすぐに分かる!)


テレビとゲーム機の電源は消えており、つけたままにしたはずの明かりも消えている

要は眠くなったのでゲームを止めてベッドに入り込んだ、とそれだけの話だ

何故自分の部屋でなく俺のベッドに入り込んだのかは・・・恐らく自分の部屋に帰るのがめんどくさかったからだろう


「全くしょうがない・・・」


ふとその時、懐のティスに目がいく

何の警戒心も無いかの様に、おだやかに寝息を立てている


「・・・んう」

「うっ・・・!」


中身は子供だ、それは分かっている

だが外見は完全な大人、いや美女である

美しい銀の髪に、人形の様に完成された造形美

綺麗などという言葉では表現しきれない、正に美しいと呼ぶのが相応しい完璧な美女だ

そんな美女が俺の懐で寝息を立てている、そんな状況に俺の心が穏やかでいられるわけがない!


(つうか!こんな状況で冷静でいられる奴なんかいねーよ!!!)


そして、俺は寝息を立てるティスの肩に手をかけ・・・


(って駄目に決まってんだろ!!!)


いやいやいやいや!それは駄目だポリス沙汰だ!!!

惑わされるな!KOOLに!いやCOOLになるんだ!!!


(とりあえず頭を冷やすか・・・)


そう思いいたった俺は、とりあえず頭を冷やす為にベッドから離れようとして


グイッ


その手を引きとめられた


「えっ?」


振り返ると、そこには俺のベッドに横になったままのティス

だがその目は開いており、彼女はどこか艶やかな笑みを浮かべ俺を見つめている。そして


「ねえ・・・しないの?」


と言った

その時の俺にはそれが天が与えた幸運なのか、悪魔の罠なのか知る由もなかった

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