魔王とスピードの向こう側
:魔王とスピードの向こう側
メルヒェンス山の麓にある名も無き古城
今俺達が居城としている城、魔王城である
魔王城の背にはメルヒェンス山が、そして前方には魔王城を中心とし数キロ程の荒野
さらに、その荒野を鬱蒼とした森が囲んでいる
「改めて思うが・・・何も無いな」
「それはそうですよ、何せ魔王城ですからね、ロケーションには気を配りました。静かな湖畔や美しい森の中にある魔王城なんておかしいでしょう?」
「そんなこだわりは求めてねーよ。もっと人里に近い場所に引越しした方がいいんじゃないか?」
「とは言っても、勝手に他国の領土に城は建てられませんよ。普通の民家に住む魔王軍というのも格好がつきませんし」
「ここは良いのかよ、どっかの領土とかじゃないのか?」
「・・・ええ、ここは何処の国の領土でもありません。フリーな土地です」
一瞬、ウラムが言いよどんだ気がしたが
その時、ギガスが俺を呼んできた
「お待たせしました魔王殿。テスト走行の準備が整いました」
「では参りましょうか魔王様」
その言葉にウラムは、ギガスの元へ向かおうと俺に促す
「ん?ああ分かった」
という訳で、俺は自動車のテスト走行をする事となった
バタンッ
俺は自動車の運転席に乗り込む、どうやら車内に関しても特に変わりは無さそうだ
「んで、何でみんな乗ってるんだ?」
そう言って後ろを振り向く
後部座席にはアリア、ティス、ミケが座っていた
「外から見るより乗った方が楽しそうじゃないですか!」
「・・・(コクコク)」
「にゃ・・・狭いです・・・」
「まあ、別にいいけど」
俺がそう言うと、横からウムラの声が聞こえてきた
「まあ、何かあった時の備えというやつですよ」
そう言うウラムは、ちゃっかり助手席に座っていた
「聞こえますか魔王殿」
その時、ギガスから通信が入る
「ああ聞こえてる」
「車内は特に変わりないと思いますが、問題点などはございますか?」
「いや特に無い。いつも通りだと思うぞ」
「そうですか。ではまずエンジンの始動をお願いします」
「了解」
そう言った俺はキーを回す
キュルキュルキュルと言う音が鳴り、その後すぐエンジンがかかった
「何か振動がしてます~!」
「爆発・・・?」
「しないから。というわけでエンジンはかかったぞ」
「ではまず適当にその辺りを走ってみてください」
「了解」
そして、俺はアクセルを軽く踏み込む
それと同時に、ゆっくりと外の景色が動き始める
「動き始めました!」
「ほほう」
速度は時速40キロ程になる、自動車にこれと言った問題は無い
そしてさらにスピードを上げようとアクセルを踏み込んだ、その時
ガクン!
「うおっ!」
「一体何が!?」
「軽く乗り上げたみたいだな」
どうやら地面の凹凸に乗り上げ、車体が揺れたようだ
ガクン!ガクン!ガクン!
それからも、がくがく揺れが続く
「オフロードにも程があるって感じだな、失念してた」
「にゃ~~ぐわんぐわん揺れます~~」
「これはなかなか楽しい・・・」
そこまでスピードを出しているわけではないが、整備された道路を走っているわけではないので車内の振動も結構な物となっていた
「少し慎重に走った方がよさそうだな」
そして、地面の凹凸に揺られながら自動車は走り続けるのだった
数分後、軽く周囲を走ってきた俺は魔王城まで戻ってきた
そして自動車を降りた俺に、ギガスが感想を聞いてくる
「どうですか?自動車の調子は」
「車体その物は、これと言って問題無さそうだ。だが、問題があるとしたら地面だな。オフロードで使うには、それなりの工夫が必要になるかもしれない」
「ですが魔王様。元々荒野で馬車を走らせる者もおりませんし、街道等で使う分には今のままで問題ないと思いますよ」
俺の感想にウラムがそう付け加える
そして、3人で問題点や改善点について話し合う
(だがまあ、今回の開発に関しては概ね成功と言っていいだろう)
色々改良する必要はありそうだが、そもそも自動車が動いたという事が大きな進歩だからだ
今後の展開を思い浮かべた俺の口元が、自然と笑みを浮かべる
「クックック・・・」
「何やら悪そうな笑いですね。何か良い事でも?」
「そりゃそうだろう。このまま自動車の量産が成功すればどれだけの利益が得られるか!しかも自動車の燃料であるマネラルガソリンの製造も独占しているんだぞ!?これからずっと収入を得られ続けられるって寸法だ!!!」
そう、言わば自動車工場と油田を同時に手に入れた様なものだ!
「今回こそは勝った!第三部完!!!」
俺が勝利の余韻に浸っていた時、すでにおなじみとなった服の袖を引っ張る感覚がした
「どうした?ティス」
「あれ」
そう言ってティスは、自動車の方を指差す
「ん?車がどうかしたか?」
「動かしてみたい」
「ティスがか?」
ティスが何かに興味を持つなんて珍しい、しかし自動車の運転か・・・大丈夫だろうか
考え込む俺にウラムが言った
「別に良いのでは?自動車を運転できるのが魔王様だけというのは、色々と不便でしょうし」
「だったら、お前が運転すればいいじゃねーか」
「私は魔王軍幹部筆頭であって運転手ではありません、その様な役目は魔王様にこそ相応しいのでは?」
「なんでだよ!組織のトップに運転させんじゃねーよ!」
丁寧な口調と裏腹に、魔王に対する敬意が全く感じられない奴だ
その時、不安そうな瞳でティスが見つめてくる
「駄目?」
「うーむ・・・」
いくら異世界だからといって、三歳児に車を運転させて良いものだろうか?
俺が更に悩んでいた所にギガスが助け船を出す
「私も良いと思いますよ。もう少し走行データが欲しかった所ですので」
「そういう事なら・・・」
ギガスの言葉を聞いた俺は、OKのサインをティスに返す
「・・・!(グッ!)」
そのサインにティスはサムズアップをして見せると、車へと向かう
という事で、ティスにもテスト走行をしてもらう事となった
運転席にはティス、助手席には俺、後部座席にはアリア、ミケ、ウラムが乗っている
「これがハンドル、進みたい方向に回せば車が曲がる。それでこっちが・・・」
とりあえず、軽くだが運転の説明をする
「大丈夫・・・完璧」
ティスは自信満々と言った表情で、それを聞いていた
「ティスちゃん、頑張ってくださいね」
「ソーマさん!次は私が運転したいです!!!」
説明を終え雑談をしていた所に、ギガスから通信が入る
「それでは準備はよろしいですか」
「いつでもオッケーだ」
「では先程と同じように適当に周囲を走り回ってみて下さい」
「分かった。それじゃあティス、まずはエンジンをかけて」
「うん・・・」
ティスはキーを回してエンジンをかける
「よし。それじゃ次はアクセル、とりあえずは軽く・・・」
「アクセル」
俺が最後まで言う前にティスはアクセルを全力で踏み込んでいた
グオンッ!!!!!
その次の瞬間、車は一気に加速する!
「おおお!!!!ティス!!ティスーーーーーーーーーーー!!!!!」
「大丈夫、問題ない」
速度計は一気に100キロを超え、120、140とどんどん上がっていく!
ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!
そして!荒れた荒野をロデオの様に跳ねながら自動車は爆走する!!!
「ぎにゃああああああああああああああ!!!!!止めてにゃあああああああああ!!!!!」
「自動車って凄いです!次は絶対私ですからね!!!」
「ふむ、なかなかの速度が出るものですね。まあ私の飛行速度程ではありませんが」
もはやジェットコースター状態と化した車内!
後部座席の3人は三者三様の反応を見せていた
俺はティスに、アクセルを緩める様指示しようとするが・・・
「ティ・・・ティス!もう少しスピードを・・・!」
「大丈夫もっといける」
そう言うとティスは更にアクセルを踏み込む!
速度系は180キロを超えた!だが加速は止まらずさらに周囲の流れる速度は上がっていく!
「あ・・・ヤバイ、見える・・・見えてきちまう」
時速は200キロを超え、弾丸のような加速のまま岩に乗り上げた車が空中に飛び上がった!!!
「スピードの・・・向こう側がヨ?」
!?
そして、視界が急速に白くなっていき・・・後の事はよく覚えていない




