表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
第四章:魔王と二人のティス
33/145

魔王と魔神の記憶

:魔王と魔神の記憶


そこはこの世界の北の果て、全てが凍りついた場所

人間はおろか、植物や生物の一切が存在しない死の大地

今そこに、二人の魔族が立っていた


色素の薄い透き通る肌に水のヴェールの様なドレスを身にまとっている

銀色の長い髪が彼女の動きと共に風に舞っていた

それはまるで、この極寒の大地を支配する氷の女王の様だ

そして、その女はその外見とは似つかないサバサバとした口調で言った


「わざわざこっちの得意なフィールドで待ち合わせだなんて、生意気すぎて殺したくなるわね」


一見酒の席の冗談の様な口調で話しているが、辺りに漂う殺気がその言葉が本気だという事を証明していた

その殺気を、まるで心地よい風の様に受け流しながら相対していた男の魔族が答える


「生意気なのは自覚してますよ、昔からね。その上で付け加えさせていただくと・・・これぐらいのハンデでも無いと勝負にならないというか・・・」


そして困ったような表情のまま


「・・・一瞬で消滅させてしまいますから」


そう言った

その言葉からは圧倒的な自負、自らが絶対強者である事を当然と考える傲慢があふれ出ていた


「本気で言ってるのかしら?」

「冗談だと思いますか?」

「そう・・・なら死になさい」

「ッ!!!」


ドガガガガ!!!


次の瞬間、女のまるで小指の先についたゴミを払うかの様ななんでもない動きと同時に男は無数の氷の槍によって串刺しになっていた


「裏切りには死をってやつね・・・例外は無いわ。例えお前でも」


そして、体の面積よりもそこに開いた穴の方が広くなったような男に背を向けその場を去ろうとする・・・が


「・・・まあまあ痛いですね」


その声に女が振り向くとそこには己に突き刺さった氷の槍を一つづつ引き抜いている男の姿があった


「大した耐久力、ゾンビか何か?」

「不死ではありませんよ。刺されれば痛いですし、体をバラバラにされれば死にます。おそらくですが」


ズシュッ・・・


そう喋りながら、なおも氷の槍を引き抜く男

槍を引き抜いた男の体の穴は、引き抜いた先から再生し塞がっていく


「それに不死と言うならそちらの方では?」

「正確には死ぬわよ、人をゾンビ扱いしないでくれる?」

「先に言い出したのはそちらの方では・・・。まあいいでしょう、少し興味がわきました」

「・・・ロクな事じゃないでしょうけど、一応聞くわ」

「貴方をどれくらいバラバラにすれば、完全に殺せるのか興味がわきました」

「そーいう教育をした覚えは無いんだけど」

「いえ、残酷表現は控えますよ。バラバラと言うのは五体がという意味ではなくて」


次の瞬間!男の力が一気に開放された!!!


「分子レベルでバラバラという意味です」

「それはコナゴナって言うのよ」


そう呆れた様に言う女

だが次の瞬間、殺意のこもった眼差しを男に返す!


「いいわ、私も興味が沸いてきた所よ。・・・お前をコナゴナにしてやるわ」


こうして、極寒の地にて二人の魔族

いや、魔神達の戦いが始まった






今や、その最果ての地は二人の魔神が争う戦場と化していた


キィンッ!!!ドォォォンッ!!!ドガガガガガッ!!!


二人の魔神の戦いは大気を震わせ地を揺らす

それは天変地異を思わせる神々の戦い、人間の争いとは全く違う次元の戦いだ

幸いなのは、それに巻き込まれる者が存在しない場所だったという事だろうか

場所が場所ならば、国の一つや二つが滅ぶ程の戦いだった


「槍よ!」


女がそう叫ぶと、空気中から氷の槍が一瞬で作り上げられ男に襲い掛かる!

詠唱を必要としない

人間達が使う技術として体系化した魔法ではなく、純粋な能力としての魔法がそこにあった


「フッ。さすがにそう何度も串刺しはごめんですよ」


そう言うと、男も無詠唱で炎の壁を作り出す!

氷の槍は炎の壁に遮られ蒸発していった!


「防御は炎で相殺。では攻撃は・・・風にしましょうか」


男は左手で炎の壁を展開したまま、右手から竜巻を発生させる!


ゴオッ!!!


「チッ!」


その威力を脅威と感じた女は、防御を諦め回避を選択する

だが、女が回避しようとしたその時!大地が隆起し檻の様になり、女の逃げ場を塞いだ!

意表を突かれた女を見ながら、男はいたずらっぽい笑みを浮かべながら言った


「すみません、さっきのは嘘です。風と土の同時攻撃という事で」

「このっ!!!」


ドガガガガガッ!!!


回避が間に合わず女は竜巻の直撃を食らう!

その竜巻は彼女を封じ込めた大地の檻ごと、辺り一帯を吹き飛ばす!しかし!


「・・・ナメた小細工をしてくれたわね」


山をも抉るその一撃に女はその場で耐え切ってみせた!


全属性対応者マルチキャスターだなんて。猫被ってるとは思ってたけど、ここまでだったなんてね!」

「脳ある鷹は爪を隠すと言って下さい」

「そう!だったら!」


遠距離戦を不利とみた女は、氷の剣を形成すると一気に間合いを詰め斬りかかった!


「はぁッ!!!」

「おっと!近距離戦闘ですか!あいにくこちらは剣は得意ではないのですが!」


ギィィンッ!!!


同じく、男も氷で刃を形成し女の剣を受け止める!

そのまま激しく打ち合う二人!お互いの剣が激しく交差する!


ガンッ!ギイイインッ!!!


「フッ・・・!!!」


どちらも剣の技量は相当に高く、一合一合が全て達人同士の打合いのようだった


「ちいッ・・・!!!」


だが互角に見えたその打合いだが、じょじょに男の方が押されていく!


「剣術をサボってたツケね!」

「返す言葉もありません」


ブンッ!!!キィィィィンッ!!!!!


そして次の瞬間!女の渾身の一撃が放たれ、男の剣が宙に弾かれた!


「・・・脳と心臓、両方潰すわ。それでも再生するかしら?」

「どうでしょう?さすがに死ぬと思いますよ。考え直してみては?」

「却下よ」


ブンッ!!!


すかさず!返す刃が男を切り裂く直前!!!


「そうですか、それは残念です」


ドシュッ!!!


その、一瞬の間に決着は付いた






戦いは終わった

倒れたのは・・・女の方だった


「ガハッ・・・」


勝ちを確信したあの瞬間、カウンターで放たれた一撃が女の体を抉った

魔法による防御等を一切無視した不可解な一撃

胴体に開いた大穴はまるで、その空間には何もなかったかの様に綺麗に無くなっている


「こふっ・・・これはもたないわね・・・」


血を吐きながらそう呟く女

その一撃はまさしく致命の一撃だった、あと数分と持たずに女は絶命するだろう

その時、仰向けに倒れた女に男が近づいていく。そして・・・


「何か言い残す事はありますか?」


男は、そう呟く様な声で言った

女は視線を空に移すと、遠くを見つめながら言った


「・・・どうして裏切った」

「理由ですか・・・」


その言葉に少しどう答えるか悩んで見せた後、男は答えた


「・・・古より続く光と闇の戦い。魔族達の王である魔王、人間達の希望である勇者。幾度と無く繰り返されてきた戦いの歴史」

「何の話・・・?」

「今新たな闇の王は目覚め、同時に光もまた現れる。幾度となく繰り返されてきた舞台がまた幕を上げようとしている、ですが・・・」


そして、男の魔神は心底冷め切った表情で言った


「そんな世界はつまらない」

「つまらない・・・?」

「ええ、つまらない。何度も同じ事の繰り返し、しかも「結果は決まっている」ときている。これ程くだらない事がありますか?」

「・・・それとお前の裏切りに、何の繋がりがあるのかしら?」

「この世界に私が求める物は無い、だから世界を作り変える事にしたんです。その為にはあの方は邪魔だった、ただそれだけです」


その男の答えに

不可思議な物を見るかの様に、男に視線を向ける女


「世界を変えるなんて、正気?」

「もちろん正気ですよ、それこそが私が目的を達成する唯一の手段。そして私にはその力がある、それは今貴方も思い知ったのでは?」

「・・・目的?そこまでして何を求めるの?」

「それは・・・」


・・・・・・


男の答えを聞き、理解出来ないという表情で女が言った


「・・・たったそれだけの事?」

「ええ、たったそれだけです。ですが、誰もが簡単に手に入れられるそれが、私にとっては永遠に手に入らない物なのです、それを私は知ってしまった」


男は、その見果てぬ願いに手を伸ばすかのように手を空に伸ばす


「だが私は諦めない。この世界でそれが手に入らないならば世界を変える、仕組みを変えルールを変え、人を国を価値観を、全てを変える。そして新しい世界からそれが産まれるのを私は待つ。何年でも、そして何度でも」


そう決意の様な物を口に出す男に対し、女はふうっと息を吐くと呟いた


「・・・お前の好きにしなさい、どうせ私はここまでみたいだし」

「貴方には少し期待していたのですが、残念です」


そして男が右手に小さな魔力の塊を作る、先程カウンターで放たれた魔法と同じ魔法だ


「ではさようならラグナ、わが師よ。貴方の事は嫌いではありませんでしたよ?」

「くたばれクソ弟子・・・」


そして男の一撃が放たれ・・・


(アル・・・)


光に呑まれる様にしてラグナは消滅した

消滅したその後には、小さな光の球が残されている


「・・・」


男はそれを手に取ると、どこへともなく去っていった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ