魔王とそしてもう一度
:魔王とそしてもう一度
巨大猫事件から数日後、俺は病院で目を覚ます事となった
「んじゃそういう事でよろしく頼む」
「承知致しました魔王殿」
街の復興の指示をギガスに伝える
今回の事故の原因はこちら側にあるので、街の復興も俺達で行う事となったわけだ
「大丈夫です!こちらの事は私達に任せて下さい!ですからソーマさんはゆっくり休んで下さいね」
そう、明るく言うアリア
俺の怪我は大した事は無かったのだが、大事を取って一週間程入院する事となった
そんな俺を、いつもの調子でウラムが茶化した
「それにしても魔王様にも困った物ですね、自分の額をカチ割る程、全力で頭突きをするとは。完全に自爆じゃないですか」
「うっせーな、こちとら必死だったんだよ。いいからとっとと帰れ、仕事に戻れ」
俺がそう言うと、ウラム達は立ち上がった
「そうですね、では我々はこれで失礼します」
「こちらの事は我々にお任せください」
「ソーマさん、お大事に」
最後にそう言って、ウラム達が部屋から出て行った
そして病室は俺一人に、いやまだもう一人残っていたな・・・
「何か用事でもあるのか?ミケ」
「・・・」
俺の問いにミケは答えない、俺から少し距離を置いた場所に申し訳なさそうに立ち尽くしているだけだ
「あーまあなんというか、えっと・・・とりあえず座れば?」
「・・・」
ミケは答えなかったが、俺の言うとおりベッドの側の椅子に腰掛けた
(うーん、気まずいぞ・・・)
今回の事故の顛末については、俺が気を失っている間にウラムが説明しておいたそうだが
「・・・怒らないんですか」
「ん?」
何から話したらいいかと考えあぐねていたが、俺が話し始める前にミケの方から話をしてきた
「・・・今回の事について私を処罰しないんですか?」
続けてミケはそう、か細い声で呟いた
「ああ、えっと」
俺はミケになんと答えるかを考える
(ミケの言う事も当然だ。暴走し制御を失っていたとは言え、街に多大な損害を与えたのだから処罰を受けるのは当然と言えるだろう。だが・・・)
考えをまとめた俺は、ミケに向かってキッパリと言い放った
「しない」
「ッ!?何でですかにゃ!?」
俺の答えに涙目になりながら即座に返答するミケ
そんなミケに対して、俺は諭す様に落ち着いて喋る
「何でって、そりゃ今回の責任は全部俺にあるからだ。これについてはミケが何と言おうと譲る気は無いぞ」
「でもそれじゃあ・・・」
そう呟いて俯くミケ
恐らくミケは罰を求めているのだろう、だがそれだけは譲れない
となればどうすべきか・・・俺は思考を繰り返しながら慎重に言葉を紡いでいく
「何というか・・・今回の事で思い知ったんだけどな」
「?」
「やっぱり、俺は何も出来ない奴みたいなんだよ。こっちの世界に来てから色々と必死にやってるけど、アリアやウラムみたいに戦えるわけでも、ギガスみたいに色々作れるわけでもない。まあ所詮はただの一般人だし、最初から魔王だとかなんだとか向いてなかったわけだ。だから・・・」
「!?」
その時!ミケは咄嗟に続く言葉を遮るように叫ぼうとする!しかし
「待っ!!!」
「これからもみんなに頼らせてもらいたいんだ」
俺が発した予想外の言葉に、口を開けたままぽかーんとした表情になるミケ
そんなミケの様子に、俺は首をかしげながら問いかける
「ん?何かおかしい事言ったか?」
「え?・・・えっと。今の話の流れからして魔王を辞めるって言い出すんじゃないかと思って・・・」
「ん?あ、ああ~確かにそーいう流れだったな」
俺は頭をぽりぽりかいた後、ミケの目を見つめながら続ける
「安心しろ、俺は辞めないぞ。もちろん契約だからってのもあるんだが、俺はまだ魔王としての責任を果たしていないって思うからだ」
「責任ですか?」
「ああ。辞めるってのは結局、責任を放り投げて逃げてるだけだと俺は思う。俺は何も出来ないかもしれないが投げ出す事、逃げ出す事だけは嫌だ。だからまあ・・・頼る事にしたんだ」
「頼る・・・誰にですか?」
「皆だ。俺一人で頑張って無理なら二人、二人で無理なら三人でやる。そうすれば、何も出来ない奴でも出来る事がある気がするんだ。まあ実際の所、他力本願なのは自覚してるけどな」
「そんな事は!・・・ないと思います」
「そうか?それでな、えっと。これはウラムが言ってた事なんだが」
「?」
「ミケが数合わせの幹部ですか?それはありえません。自己評価の低いミケらしいと言えばらしいですが、ミケはちゃんと四天将軍の一人に相応しい実力の持ち主ですよ」
「ウラムさんがそんな事を・・・」
「ああ。だからミケは自信を持って自分のやれる事をやればいいと思うぞ」
「・・・私は、これからも魔王軍に居ていいんでしょうか?」
「居てくれないと困る、何せ、ミケが居ないと日々の食事にすら困る有様だ」
「・・・ソーマさま」
「だから、これからもミケに頼らせてくれないか?」
「にゃ・・・・にゃああああああああ!!!!!」
突然!ミケが泣き出すと同時に、俺に抱きついてきた!
「ちょっ!おいミケ!」
「ありがとうですにゃあああ!これからもミケは頑張りますにゃああああ!!!」
号泣しながらそう言うミケに、俺は少し困った様に笑う。そして・・・
「あ~・・・程々でいいからな」
ミケが落ち着くまで、俺はミケの頭を撫で続けた
更に数日後・・・
「ソーマさま!退院おめでとうございますにゃ!!!」
「おう、サンキューミケ」
病院を退院した俺をミケが出迎えてくれた
いや、もう一人ウラムもだ
「早速ですが、魔王様には入院していた間の仕事の遅れを取り戻して頂きますよ」
「任せろって、とりあえずレストラン魔王の営業を再開するぞ!!!」
そう意気揚々とレストラン魔王へと向かった俺は、街への到着と同時に
「どうなってんだこれはああああ!!!!!」
と、大声で叫び声を上げた
レストラン魔王の営業を再開すべく戻ってきた俺を出迎えたのは、レストラン街と化した街並みだったからだ
「魔王殿、復帰なされた様ですね」
「あ、ソーマだ。久しぶり・・・」
「ギギギギガス!!!これはどうなってんだ!?」
俺は震える声でギガスを問い詰める
「これと申されますと?」
「この街並みだ!見渡す限り飲食店ばっかりだぞ!?」
「その事でしたか。実は・・・」
そしてギガスが、これまでの経緯を俺に説明し始めた
「実は。ミケが暴走しこの辺り一帯を更地にしてしまい、その復興をこちらで請け負っていたわけなのですが」
「ああ、確かに。そこまでは俺の指示した通りだ」
「どうせ建て直すのなら・・・、という事でレストランを作って欲しい、という方が大勢いらっしゃいまして。こちらの不手際による賠償という立場もあり、無下に断ることもできず」
「なるほど・・・それでこうなった訳か・・・」
そう言って俺は辺りを見渡す
以前レストラン魔王があった通りは、様々な飲食店が立ち並ぶ激戦区と化していた
その時、近くの店の看板を眺めていたウラムがつぶやく
「ふむ、イシュケ肉のハンバーグにミラ草のパスタですか。どうやら料理の知識についてもかなり吸収されている様ですね、人間の知恵の吸収力と言う物は恐ろしい物です」
俺は頭痛を感じよろめく、さらに・・・
「ちなみに以前レストラン魔王の上げた利益ですが、今回街の復興資金でほとんど使い切りプラスマイナスゼロと言った状況です」
その、ウラムのつぶやきとギガスの報告を聞きながら俺は
「難易度調整しろやボケええええええええええええ!!!!!!」
と、天まで届く様な神への呪詛を叫ぶのだった




