魔王とヘッドバット
:魔王とヘッドバット
走る!ただまっすぐに走る!
方向は当然前だ!前に向かって走る!
後ろに下がる道などあるものか!!!
(こっちの世界に来てから、こんなのばっかだな!)
「ソーマさん!」
「魔王様!?何故ここに!?」
俺は街を破壊し続ける巨大猫に向かって!
いや、その本体であるミケに向かってまっすぐ走っていく!
「うにゃ・・・?」
その時、巨大猫の視線がこちらに向けられた気がした!
「いや、来る!」
気のせいじゃない!こちらを認識した巨大猫の前足が振り下ろされる!
「うにゃあああ!!!」
「おあああああっ!!!」
ダンッ!!!
俺は横に転がるようにして跳躍して回避する!
ブンッ!!!ドォォォォンッ!!!
間一髪!振り下ろされた前足が地面に巨大な穴を開ける!
だが、俺はスピードを落とさずそのまま巨大猫に向かって突っ込んでいく!
「くそっ!正面からじゃ無理か!?後ろに回りこめば!!!」
そのまま俺は巨大猫の背後に回りこむように走っていく、さらに振り下ろされる前足!
ブオンッ!!!
当たれば一撃で俺の体は潰されるだろう、道路の染みになるというやつだ!
「だああああっっっ!!!」
ドォォォォンッ!!!
だが!そんな致命の一撃も俺はなんなく回避!そのまま巨大猫の横へ回りこむ!
「どーだ!攻撃も防御も無い代わりに回避だけは結構たけえぞ!!!」
走り続けながら顔だけ振り返り、的を外した前足を確認し勝ち誇る俺
そして、このまま後ろに回りこんで!と顔を正面に向けたその瞬間!
ゴシャッ!!!
「ぐえっ!!!!!」
何かに吹き飛ばされるようにして思いっきり後方に吹っ飛ぶ!
俺を吹き飛ばしたもの、それは巨大猫の尻尾だった
「うにゃん・・・うにゃん・・・?」
といっても、巨大猫にとってそれは攻撃でもなんでもなかった
特に意味も無く振った尻尾が、俺に当たっただけに過ぎない
そんな一撃でも俺にとっては強烈!車に轢かれたかの様な衝撃を全身で味わう事となった!
(轢かれた事ねーけど!!!)
ダアンッ!ゴロゴロゴロッ!!!
しかも、その一撃で吹き飛ばされた俺は
運が悪い事に、丁度巨大猫の正面に戻ってきてしまった!
(マズイ、動けない!!)
俺はすぐさま立ち上がろうとするが、先程の強烈な衝撃の為か全身が麻痺して動かない!
「うにゃ・・・?うにゃあああああ!!!!!」
ブオンッ!!!
そして!その場から動けなくなった俺に向かって、トドメの一撃が振り下ろされる!!!
「ソーマさん!!」
ギインッ!!!
だが!その一撃を間に入ったアリアが受け止める!!!
「アリア!・・・ッ!!!うおああっ!!!」
その時突然!体が後方に引っ張られる!
ゴロンゴロンゴロンッ!!!ドガッ!!!
そして、後方に十回転ほどした所で壁にぶつかって止まった!
俺はすぐさま、横に立っていた人物に向かって叫ぶ!
「何しやがるウラム!」
だがウラムは、そんな俺に冷たい目線を向けたまま言った
「それはこちらの台詞です。何をしているんですか?貴方は・・・」
「見りゃわかんだろアレを止めにきたんだよ!」
すぐさま答えを叫ぶ俺
そんな俺を、唖然とした表情でウラムは見下ろしていた。そして・・・
「・・・言ったはずですよ?貴方に出来る事など何も無いと」
突きつけられる現実的な言葉
俺はその言葉に俯きながら答える
「・・・だろうな」
「だったら何故」
だが!俺は歯を食いしばって立ち上がり、そしてウラムに向かって叫ぶ!!!
「出来るとか出来ないとか関係あるか!!!」
「!?」
突然叫びだした俺に、意表を突かれた様に動揺するウラム
だが俺は構わず叫び続ける!
「いいか!今回の事は俺が原因だ!何もかも俺が悪い!それなのに俺は後ろでのんびり眺めてろだと!?ふざけんな!!!」
「なっ・・・!?ですが!それがこの場における最良の選択です!」
「最良だろうと最悪だろうと知った事か!「俺が」!やらなくちゃいけないんだよ!それが俺の!魔王としての責任なんだよ!!!俺をなめんじゃねーぞ!!!」
そして、俺は巨大猫を見据える!
その時、後ろからウラムの声が聞こえてくる
「・・・その結果、死んだとしてもですか?」
ウラムの声はいつもの冷静さそのものだ
脅しなどではない、冷静に状況を分析した上でそうなる事を分かっているのだ。だが
「いや、俺は死なねえ」
「何故です?結果は明白、貴方にもそれは分かっているはず。なのに何故、そんな事を言い切れるのです?」
そんなウラムの質問に対して、俺は顔だけ振り向くと当然の事だとばかりに言ってみせた
「その為にお前らが居るんだろうが」
「!?」
その言葉を聞いたウラムは顔を伏せる様にして黙りこむ、そして・・・
「フッフッフッフッフッ・・・・・・ハハハハハハハハハッ!!!!!」
思いっきり噴出した!
「ハハハハハハッ!!なんという傲慢さ!!!」
「何だ?無理なのか?」
「いえ確かに!その為の我々です!ええ、それでこそ魔王というものです!!!」
「納得したんだったらとっとと行くぞ!付いて来い!!!」
「ええ、魔王様・・・承知致しました!!!」
その答えに俺はニヤリと笑みを浮かべると、巨大猫へ向かって行った!
「くっ!だあっ!!」
ガンッ!キィンッ!
聖剣を手に、巨大猫の攻撃をしのぎ続けるアリア!
(どうにかしてミケさんを正気に戻さないと!!)
だがどうすればいい!?多少の攻撃ではすぐ再生してしまう
だからと言って、本気で打ち込めばミケさんを巻き込む事になる
どうしようもない、アリアの思考は出口の無い袋小路に入りこんでしまう・・・
だが、その時!
「アリアさん!!」
ウラムの声が響き渡った!
「ウラムさん!それにソーマさんも!?」
「先程と同じ手順で行きます!合図と同時に仕掛けて下さい!」
「でも!それじゃあすぐ再生されてしまいます!」
「大丈夫です!詰みの一手は見つかりましたので!」
そう、自信満々にアリアに告げるウラム
アリアはその言葉に笑みを浮かべると、大声で答えた!
「・・・分かりました!」
アリアへ作戦を伝えたウラムは、続けて横に居た俺に向かって確認を取る
「では魔王様、準備は宜しいですね?」
「ああ、いつでもOKだ」
「承知しました。・・・アリアさん!!!」
ウラムの合図と同時に、アリアが聖剣を構え飛び上がる!!!
「だああああああっ!!!」
ザシュウゥッ!!!!!
アリアの斬撃が巨大猫の胴体を切り裂く!そして露出した本体に向かってウラムが追撃を放った!
「螺旋貫通弾!!」
ウラムの腕から先程よりも強力な一撃が放たれる!
だが巨大猫の再生は素早く、その一撃は再生した体によって受け止められてしまった!
「ええ、計算通り完璧です」
ギュイィィィィィンッ!!!
だが!先程の一撃と違い回転する魔力の一撃は弾かれずそのまま体へと突き刺さり、巨大猫の表面に穴を開けた!!!そして!!!
「これが2発目の弾丸です!!」
「どああああああああ!!!」
ボシュッ・・・!
すかさずウラムによって投げ飛ばされた俺が、その隙間から巨大猫の内側に侵入した!
巨大猫の内部は、巨大な水槽の中の様だった
俺は、その充満した魔力の中を泳いでミケの元へ向かう
「・・・!!!」
呼吸は出来ない
ウラムによると、魔力を一気に吸い込めば普通の人間なら命に関わるとの事だ
だからと言って、呼吸をせずとも高濃度な魔力の中に浸っていれば同じ事
死ぬまで一瞬か、少し時間がかかるか程度の差でしかない
しかしそれらは今は問題ではない
ミケの所までは、濃霧の様な魔力の中でも視認出来る程の距離なのだから
俺はミケの元へ泳ぎながら考える
今回の事はミケは何も悪くない・・・ミケに負担を押し付けた俺のせいだ
無理をしてるのを分かっていて、ミケのお願いを聞き届けた俺のせいだ
一から十まで全部俺のせいだ、ミケは何も悪くない
そして・・
俺はあともう少し手を伸ばせば、ミケに届く距離まで近づいてきた
(けどその辺りの事を全部棚上げして言わせてもらうぞ!!!)
ミケの側まで泳いできた俺は、ミケの顔に手を添えると自身の顔を近づけていく。そして!!!
「いいからとっとと休めオラアアアアアアアッ!!!」
ドグォッ!!!!!
「ギニャアアアアアアアアアッ!!!」
俺はミケに向かって、渾身の頭突きを食らわした!!!
「う?にゃ・・・?にゃあああ~~~・・・・}
シュゥゥゥ・・・
「・・・!!巨大猫が!!」
「どうやら成功したようですね」
突然、無差別に破壊活動を続けていた巨大猫がピタリと止まると
そのまま水に溶ける様に霧散していった
そして、その猫の胴体から・・・
「うぐえっ!!」
「ふにゃっ!!」
俺とミケが落下し、地面に激突した
「お・・・ぐおおっ・・・」
背中を思いっきり地面に打ち付けた俺は、うつ伏せになり痛みに耐える
「う・・・?にゃ・・・?・・・にゃ!ソーマさま大丈夫ですか!しっかり!!!」
そんな俺に、正気に戻ったミケが心配そうに寄り添う
そして、アリアとウラムもすぐさま駆け寄ってきた
「ソーマさん!ミケさん!無事ですか!?」
「ああ、大丈夫・・・着地に失敗して痛いだけだ・・・」
背中を抑えながら苦しむ俺に、ウラムが呆れた様な声で言った
「全くあの猫に魔王様を侵入させる所までは作戦通りでしたが、その後があんな適当な手段だったとは」
「うるせーな、結果オーライだろうが。問題ないだろ?」
そう、全ては結果オーライ。だと思ったのだが・・・
「駄目ですよソーマさん!女の子に向かって思いっきり頭突きするなんて!!!」
「え!?ああいや、その・・・。他に思いつかなかったというか・・・」
「もっとその・・・他にロマンティックな方法というか・・・」
「ロマンティックな方法?」
「そ・・・それは・・・」
その時、突然アリアが顔を赤くする。そして
「と、とにかく反省して下さい!!!」
「・・・?分かったよ、反省する」
アリアの言葉に、俺は首をかしげながらも答える
その時、ミケが辺りを見渡しながら言った
「頭突き・・・?というよりこれは一体・・・?」
ミケからすれば
厨房で料理をしていたはずが、気付けば辺り一面更地と化していた
という、不可思議な状況だろう
「ああ。それはなんというか、説明すると・・・」
ミケになんと伝えるべきなのだろうか?
俺が考えながら口を開こうとした、その時
「魔王様、頭から血が」
「血?」
ウラムの言葉に、俺は自分の額の辺りに手を添える
するとそこにはべったりと血がついていた。そして次の瞬間
ぴゅー
ウラム・アリア・ミケ「あっ」
噴水のように頭から血を噴出させながら俺は・・・
「お?おおおおお・・・」
バタリと地面に倒れると、そのまま意識を失った




