魔王と暴走巨大猫
:魔王と暴走巨大猫
その日も、レストラン魔王は大繁盛となっており
開店直後から今に至るまでずっと、その客足が途絶えずに続いていた
「お待たせしました~」
「ぷるぷるぷる」
店の中ではアリアにスライム達
「ご注文お伺い致します」
「はい、ただいま~!」
それだけではなく、ウラムに俺も忙しく駆け回っていた
さらにバックヤードではティスとギガスも手伝いをしてくれており、まさに魔王軍の総力を挙げての体制となっていた
(とりあえず、人手不足解消まで少しでもミケの負担を軽くしないと!)
それぞれの仕事との兼ね合いもある所、無理を言って他の幹部達にも手伝いを頼んだのだ
この体制でなんとか乗り切ろうと考えていたその時、それは起こった!
ドンッ!!!
「な!なんだ!?」
突然!厨房の辺りから爆発音の様な物が響き、店全体が激しく揺れ動き始めた!
その直後!バックヤードの手伝いをしていたギガスがホールに現れ叫んだ!
「緊急事態です!皆様、店から退避を!!!」
「何だ!?一体何が起こった!?」
「説明している時間はありません!一刻も早く脱出を!!!」
だが!お客達が避難する間もなく店の柱が、天井が崩れ落ちてきた!!!
「うわああああああ!!!」
悲鳴を上げるお客達!
その時!メイド服を着たままのアリアが左手をかざした!
「・・・ッ!ディバインシールド!!!」
それと同時に展開されるアリアの防御魔法!
その防壁はお客全達に降り注ぐ瓦礫を全て遮る!!!
「今のうちに避難を!!」
そして、店内に残っていた客を全員避難させ、俺達も店の外に脱出する!
その時!店の外に脱出した俺達が見たものは!
「な、なんだありゃあ!?」
巨大な猫が店を突き破り、暴れている光景だった!!!
~数分前~
「注文・・・AセットとBセットが一つづつ、シデ魚のソテーが一つとガラム貝の蒸し焼きが一つ」
「か!かしこまりましたにゃ~~!!」
厨房では、忙しなく調理に取り掛かるミケの姿があった
その日も連日と変わらず大忙しであり、次から次へと注文が入ってくる
ソーマや他の幹部の方も手伝ってくれているものの、それでもミケの仕事はかなりの量となっていた
(ふー・・・やっぱりキツいですにゃ・・・)
さすがの仕事量に、弱気な考えがミケの頭に浮かぶ
(いやいや!他の方も忙しい中、店を手伝ってくれているのに!私が頑張らないと!!それに・・・)
ミケの脳裏に、昨日ソーマが言った言葉が思い浮かぶ
(・・・分かった、ミケの好きな様にやっていい)
そして、昨晩のソーマとの会話を思い出す
私のワガママを受け入れてくれたソーマさまのためにも
「もっと頑張らないと・・・頑張って働かないと・・・」
その時、食材の補充に向かっていたギガスが厨房に戻ってきた
「ミケ殿、食材の補充終わりましたよ。他に足りない食材は・・・ミケ殿?」
だが、ミケはギガスの言葉に反応を示す事なく意識が朦朧とした様子で何かを呟いていた
「頑張らないと・・・もっと・・・」
「・・・?ミケ殿?大丈夫ですか?ミケ殿」
そして!
ドン!!!
ミケの様子を伺うべく近づいていたギガスが吹っ飛ばされた!
壁にめり込んだボディを引き抜きながら、ミケの方にカメラを向ける!
するとそこには、ミケの体から魔力が噴出し何かを形作っている所だった!
「まさか!魔力が暴走している!?これはいけません!!!」
そしてギガスは、店内に残ったお客達に避難を促すべくフロアに向かった!!!
「というわけです」
「・・・」
「恐らくは一時的に自身の魔力を制御出来ていない状況にあると思われます、原因は・・・」
ギガスが俺に報告をする、しかし・・・
(原因?そんな物は聞かなくても分かっている・・・俺のせいだ、俺がミケに負担を押し付けすぎたせいだ・・・)
「ともかく、このままだとミケが正気に戻る前に街が崩壊しかねません。魔王様如何いたしましょう?」
ウラムの言葉通り
ミケの魔力が暴走したと思われる巨大猫は、辺り一帯を無差別に破壊し続けていた!
「魔王様・・・魔王様!!!」
「・・・あ?なんだ・・・?」
「この状況をなんとかしなくてはなりません、指示をお願いします」
「指示?あ、えっと・・・」
ウラムの言葉に俺は思考を働かせようとする、しかし・・・
(駄目だ・・・頭の中がぐちゃぐちゃになっている・・・)
何かをしなくちゃいけないのは分かる、だが色々な後悔が頭に押し寄せてきて考えがまとまらない
ウラムは茫然自失に陥っている俺から目を背けると、他の幹部達に指示を出していく
「・・・仕方ありません。ティス、ギガスは街の住民の避難を。アリアさんは私と共にミケを食い止め、街の被害の拡大を防ぎます!」
「承知しました」
「了解・・・」
「分かりました!」
そして、ウラムの言葉に従い全員が行動を開始しようとする
だがその時、俺は咄嗟に声を上げた
「ま、待った俺は!」
俺も何かしなくては!そんな思いから咄嗟に出た言葉だった
だが、そんな俺にウラムは冷たく言い放つ
「この状況で、魔王様が出来る事はありません」
「な!俺だって何か・・・!」
「今、魔王様は著しく冷静さを欠いています、そんな状況で動かれても足手まといになります」
「なっ・・・!」
ウラムの言葉は冷淡かつ辛辣な物だった、しかし俺は何も言い返す事が出来ない
何故なら、ウラムの言っている事は何一つ間違っていないからだ
今の俺が出来る事は何もない、それはどうしようもない程に真実なのだから
「ですので。事が収まるまで、魔王様も街の住民と一緒に避難をしていて下さい」
「・・・ッ」
俺は悔しさに唇を噛みしめる
だが、そんな俺に構わずウラム達は行動を開始する
「・・・。では行きましょうアリアさん、ミケを食い止めます!」
「は、はい・・・!」
そう言うと、ウラムとアリアは巨大な猫に対して向かっていくのだった!
「・・・」
そして・・・
何も出来ない俺は、その場に一人取り残された




