魔王とミケのお願い
:魔王とミケのお願い
レストラン魔王が開店した、その数週間後
ガヤガヤガヤ・・・!
店の外には入店を待つ、長蛇の列が
そして、店の中では忙しそうに駆け回るアリアの姿があった
「お待たせしました~!こちらイシュケ肉のハンバーグとミラ草のパスタになります~!」
「おーい、こっち注文いいか~?」
「はい!ただいま~!」
元々外食産業というものがあまり発展していない世界、それに加えミケの超美味な料理
これで繁盛しないわけがないのだが・・・
スライムA「ぷるぷるぷる!」
スライムB「ぷるぷるぷる!」
スライムC「ぷるぷるぷるぷる!」
それでも、この繁盛っぷりは予想以上だったと言う他無い
アリア一人では手が足りず、スライムの手も借りる有様だ
「おーい、こっちも頼む~」
「すぐに参ります~!」
それでも
なんとか今日も客を捌ききり、閉店時間を迎える事が出来た
「フフフ・・・ハッハッハ・・・アーーハッハッハッハッハ!!!」
閉店後
今日の売り上げ金を確認しながら、俺は高らかに笑い声を上げた
その笑い声を聞きつけ、ウラムがやってくる
「なにやら悪人っぽい笑い声が聞こえましたが、何か愉快な事でも?」
「愉快かって?これが笑わずにいられるか!?連日大行列の大繁盛!!黒字も黒字真っ黒黒字だ!!!」
ここまで魔王軍の財政が潤った事が今まであっただろうか?いやない!!!
最初はどうなることかと思った魔王軍経営だったが
これなら1年どころか、数ヶ月で大企業に成長するのではないだろうか!?
「この調子で2号店・・・3号店と各地に店舗を増やして、この世界の外食産業を全て牛耳る事も夢じゃ・・・!!!」
これからの展望を思い描きながら笑みを浮かべる俺
しかしその時、ウラムはやや真面目な表情で言った
「ですが魔王様。一つ問題が」
「問題?」
俺はその言葉に首をかしげる
ハッキリ言って全て順調に思えるのだが、一体どんな問題が?
「ええ。レストラン魔王のあまりの繁盛っぷりに従業員の手が足りなくなっています」
「む、確かに。今はスライムの手も借りて、ようやく店を回しているぐらいだからな」
「その通りです。そして、特にミケの負担がかなり大きくなっています
「ミケの?」
「・・・従業員はアリアさんにスライム、いざとなれば私や魔王様が手伝う事が出来ますが、調理に関してはそうはいきません。調理は全て、ミケが請け負う事になりますので」
「そうか、そうだな・・・。調理に関しては、誰かが代わりにというわけにもいかない」
なんてこった、コック不足か・・・これでは店舗を増やす所ではない
それどころか、ミケが倒れればこの店は立ち行かなくなってしまう
眉間に皺を寄せながら考え込む俺に、ウラムが報告する
「とりあえず、人手不足解消の方法については私の方でも考えておきます。ですので、魔王様はミケのケアの方をお願いします」
「・・・そうだな、ミケに仕事を押し付けすぎだ。店の方を休みにする事も考えておかないと」
俺はそう呟くと、ミケの元へ向かうのだった
ぐにゃぁ~~~
レストラン魔王の休憩室、ミケは椅子に座った状態から上体をテーブルに投げ出していた
ミケの小柄な体格に不釣り合いな大きな胸が、テーブルに押しつぶされて歪んでいる
「ふにゃあああ・・・・」
その時
休憩室のドアを開き、ソーマが部屋に入ってきた
「ミケ、ちょっといいか?」
「にゃ!ソーマさま、なな・・・なんでしょう?」
ぐだーっと伸ばしていた体を戻し、ピンッと背中を立てる
その様子を見ていた俺は、微笑みながらミケに言う
「悪い、休んでいた所だったか?あまり気を張らないで楽にしててくれ」
「は、はい・・・」
ミケはその言葉を聞いて伸びていた背をやや緩めるが、それでもまだ緊張した様子で俺に目を向けていた
「それで話なんだが。・・・ミケ、体の方は大丈夫か?」
「え?体ですか?」
俺の突然の質問の意味が分からず、ミケは目を丸める
「あ~えっと、ここ数日ずっと働きづめだろ?キツくないかなって」
「そ!そんなことないです!全然平気です!!!」
そう言ってミケは、胸の前で両拳を握ってみせる
しかし、先程の様子を見る限り疲労が貯まっているのは確かだろう
「別に無理しなくていいんだぞ?ミケのお陰でレストランは大繁盛だしな、1日や2日休んだ所でどーって事はない。ミケが疲れてるなら休みにしよう」
「えっと・・・」
俺の提案を聞いた後、ミケは暫く考えてこんでいたが
「その・・・本当はちょっと大変です。で、でも!それ以上に嬉しいんです!」
意を決した様に、俺の目を見つめながら言った
「嬉しい?」
「はい!その、お恥ずかしい話なのですが・・・。四天将軍の中でも私は一番下っ端というか、前の将軍が抜けた穴埋めで昇格しただけのお飾りの将軍でして。それまでは、一般の魔王軍構成員だったんです」
「そうだったのか」
「はい・・・将軍になってからもあまり私が役に立てるような事はなく、精々魔王軍の食事事情を改善する程度しか出来なくて・・・。だ、だから!今こんなに皆さんの役に立てているのが凄く嬉しいんですにゃ!」
恐らくそれはミケの本心なのだろう、迷いのない声でミケは言った
そして次に、ミケはやや顔を赤くしながら呟く
「だから・・・その・・・。ソーマさまには凄く感謝しているというか・・・」
「感謝?俺は別に感謝されるような事は」
「いえ!ソーマさまのお陰でミケはミケの出来る事が見えてきた気がするんですにゃ!だから・・・その、もう少しだけ頑張ってみたいんですにゃ!!!」
ミケは真剣な眼差しで俺を見つめる、その純粋な思いに俺は・・・
「・・・分かった、ミケの好きな様にやっていい」
「にゃ!本当ですかにゃ!?じゃなくて・・・本当ですか!?」
「ああ、だけど本当にキツくなったら言えよ。ミケにダウンされると店の経営が立ち行かなくなる」
「分かりました!ありがとうございますソーマさま!!」
俺の言葉に、ミケは満面の笑みで答えた
(まあ、本人がやりたいというなら仕方ない。人手不足に関してはウラムも動いてるしどうにかなるだろ)
というわけで、ミケには引き続き頑張ってもらう事になった
まあ、俺も出来る範囲で店の手伝いに回る事としよう
こうして、俺は引き続き明日からの営業、今後のプランについて考え巡らせていくのだった
つまりは
この時、俺はまったく分かっていなかったのだ
上に立つ人間の責任や、義務という物を




