魔王とオーバーラン
:魔王とオーバーラン
というわけで、突然気を失ったミケが目覚めた後
俺、ウラム、ミケの3人は玉座の間でこたつを囲んでいた
だだっぴろい広間の中央にこたつのみというシュールな絵面だが、他に人が集まるようなスペースも無いためこうなっている
余裕が出来たら、生活環境の改善を行いたいものだ
「うにゃあ・・・」
ミケは先程の事もあって、これ以上無い程赤い顔でうな垂れている
俺はなんとかフォローを試みるが
「えーっとまあ、猫の姿だったしギリセーフという事で・・・」
「その事はもう忘れてくださいにゃ~~!!!」
更に顔を赤くし、涙目になりながらミケは叫んだ
よっぽど恥ずかしかったのだろう、頭から湯気が出ている様に見える
「ソーマさん、お茶をお持ちしました」
その時、お茶を乗せた盆を持って、アリアが玉座の間に入ってきた
「ああ、サンキュー」
「ウラムさんとミケさんも」
「ありがとうございます」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
お茶を受け取るミケの表情が引きつっている様に見える、まだ勇者がここにいる事に慣れないようだ
そして、アリアも入り4人でコタツを囲む
しばらくして、ウラムが話を切り出した
「それで魔王様、何故ミケがここに?」
「ああ、偶然街で保護してここまで連れてきた」
「ふむ。ではそれまでミケは何を?数ヶ月程、音信不通となっていましたが」
「それは・・・その・・・実は」
やや言いづらそうにしていたミケだが、ぽつりぽつりとこれまでの出来事を語っていった
~数ヶ月前~
とある町の酒場にて
「にゃーーー!!!労働の後の一杯はサイコーですにゃーーー!!!」
「ぷるぷるぷる」
「スライムCさんもそう思いますかにゃ~~」
スライムB「ぷるぷるぷる」
街での用事を済ませた後、ミケとスライムは酒場で飲んでいた
と言ってもスライムは酒を飲まない為、ミケが一人で飲んでいるだけといった状況だったが
「しかし、働けど働けど我が暮らし楽にならず・・・魔王軍の財政は悪化の一途をたどるのみにゃ・・・」
「ぷるぷるぷる」
「スライムさんもそう思いますかにゃ~、折角幹部にまで昇格したのに田舎への仕送りすらままならないんですにゃ~~!」
「ぷるぷるぷる」
その時、隣のテーブルで食事をしていた人物がピクリと反応した
「もし」
「んにゃ?」
「話が聞こえてきたのですが、あなたが魔王軍幹部というのは本当ですか?」
「にゃ?そうですにゃ~、私が魔王四天将軍が一人!震央将軍ミシュケイオスにゃーー!!!頭が高いーーー!!!なんてにゃ~」
「ぷるぷるぷる」
「そうですか」
次の瞬間!
そう答えたその人物は目深に被っていたフードを外し、腰の剣を抜き放った!
そこに立っていたのは金色の髪の少女、そう!
「覚悟して下さい魔王の手先!!!この勇者アリアが聖剣の錆にしてあげます!!!」
「んにゃ・・・?」
一瞬、彼女が何を言ったのか把握できずミケの思考が止まった
だが1秒後、言葉の内容を把握すると同時に一気に血の気が引く!
「勇者あああああああああああ!?」
ブンッ!!!
ミケが叫ぶと同時にアリアが剣を振り下ろす!だがミケは振り下ろされた剣を間一髪の所でかわした!
ドガァッ!!!
そのまま振り下ろされた剣はテーブルを両断!テーブルの上に乗っていた料理や酒がその場に散乱した!!!
「にやあああああああっーーーーーー!!!」
生命の危機を感じたミケはその場から全力で逃げ出した!
街を抜け森に入り、なおも全力で走る!
そして数時間程走った後、ミケは大きな木によりかかり息を整えていた
「こ・・・ここまで逃げれば・・・」
そのままへたり込むように木の根元に座った、その直後!
ドガッ!!!
どこからか飛んできた剣がミケのよりかかっていた木に突き刺さった!
剣はミケの頭の数センチ上に突き刺さっており、もう少し座るのが遅ければ見事に串刺しになっていただろう
剣の飛んで来た方向には、森の中に輝く赤と碧の瞳!!!
「チッ・・・外しましたか」
「ぎにゃあああああああああーーーーーーーーー!!!!!」
ミケは立ち上がると即座に全力で逃げ出す!
背後には木に突き刺さった剣を引き抜き、こちらに視線を向ける勇者の姿!
こうしてミケは数日の間、ひたすらに追いかけてくる勇者から森の中を一心不乱に逃げ回るのだった
「・・・というわけで。その後なんとか振り切ったのですが、気付いたら全く知らない土地に居てここまで戻ってくるのに数ヶ月かかったというわけです・・・」
「ああ・・・それはまあ・・・なんというか・・・」
ご愁傷様・・・
俺は心の底からミケに同情した
「え!?えっと・・・そういえばそんな事もあったような~・・・。で、でも!そのせいで私も森を彷徨う羽目になったんですから!おあいこ・・・ですよね!?」
魔族絶対殺す追跡者ことアリアはバツが悪そうな顔をしていた、森を彷徨っていたのは完全に自業自得だろう
「まあ天災なら仕方ありませんね」
ウラムはそれなら仕方ないと言った表情で納得する、その話を聞きながら俺は・・・
(良かった・・・やたらと生命の危険に晒されているのは、俺だけじゃなかったんだな)
と、ミケに謎の仲間意識を感じながら、安堵のため息をついていた




