魔王と新たな道しるべ
:魔王と新たな道しるべ
「え?」
計画は完璧だったはず、全く隙の無い降伏宣言だったはずだ
ところが、アリアが発した言葉は全く予想しない物だった
「え?困るってどーいう・・・?」
「あっ・・・!それは・・・その・・・」
言いづらそうにしていたアリアだったが、俺が待っているとポツリポツリと言葉をもらす
「つまり・・・魔王軍が悪じゃなくなったら・・・、勇者が・・・その・・・」
「うん?」
「勇者が・・・、そうしたら私は・・・」
アリアの言葉は要領を得ない物だったが、ウラムは何かを理解したように頷く
「なるほど、そういう事ですか」
「ん?どーいう事?」
「つまりですね、勇者という存在は魔王という絶対的な悪が存在するからこそ成り立つ物なのです。逆に言えば魔王が居なくては勇者という存在は必要とされない存在だという事です」
「絶対的な悪とか言ってて恥ずかしくないか?何処に居るんだ?そんなの」
「まあまあ。ともかく絶対的な悪に対抗する存在であるからこそ、他人の家に勝手に入ってタンスの中身を漁るという行為も許されるというわけです」
「いや、それ普通に不法侵入及び窃盗だからな」
ビクッ!!!
今アリアが凄いビクッ!ってしたような気がするが・・・あまり気にしない事にしよう
「でもそれはそんなに気にする事なのか?勇者でなくなるってだけだろう?」
「ではお聞きしますが、勇者でなくなった勇者は一体何者だと思いますか?」
「それは・・・なんだろう?」
「「何者でもない」のです、世界と一切関わりない何かになるという事です」
「それは・・・」
世界と一切関わりない何か・・・それはきっと・・・
「つまり無職ですね」
「あうっ!!!!!」
アリアに精神的ダメージ!クリティカルヒット!
ウラムの言葉にアリアはその場に崩れ落ちる
「無職かよ!でも、だったらまた新しく何かになれば・・・!」
「世界はそう簡単ではありません、元勇者という肩書では再就職も望めないでしょうし」
「いやいや、元勇者とか立派な肩書じゃないか?」
俺の言葉にアリアが目を輝かせながら立ち上がる、だが
「何を言いますか、面接官に「元勇者?え~ウチではそういう暴力的な子雇えないんだよね~」とか嫌な顔されるのがオチですよ」
「うぐっ!!!!!」
アリアに精神的ダメージ!こうかはばつぐんだ!
またもや膝を付き崩れ落ちるアリア
「大体再就職しようにもスキルがありませんしね、ギガ○インとかアバ○ストラッシュとか使えても何の役にも立ちませんし」
「そうなのか?探せば何処かにそーいうスキルを必要としてる所が」
「全くありませんね、世界が平和になって何百年経つと思ってるんですか、前々から思っていましたが今時勇者ってのが時代遅れなんですよ」
「ああうううう~~~っ!!!」
アリアに精神的ダメージ!こうげきはアリアのきゅうしょをついた!アリアはたおれてしまった!
「ああ・・・うう・・・」
「ああ!しっかりしろアリアーーー!!」
心に傷を負ったアリアの肩をゆさぶる、正気に戻れーー!!
「ああ・・・、すいません、もう大丈夫です・・・」
数分後、正気を取り戻したアリアがゆっくり起き上がる
「その、なんだ、何て言ったらいいのか分からないけど・・・」
「いえ、いいんです、本当は分かっていたんです」
「えっ?」
分かっていた?
何の事かと首をかしげる俺に、アリアはポツポツと自分のこれまでの話を語り始めた
「私の家は代々勇者の家系なんです、父も祖父も曽祖父も勇者でした。そんな家に生まれた私は子供の頃から勇者という存在に憧れて育ったんです」
「だからアリアも勇者に?」
「はい、勇者になる為の特訓はそれは厳しいものでした。ですが私は全く辛くは無かった、一つまた一つと本物の勇者へと近づいていく。その過程が本当に楽しかったんです。そして私は15の時に父の後を継いで7代目の勇者になりました。その時、私も祖先達の様な立派な勇者にならなくちゃいけない、そう思ったんです。ですが旅に出た私を待っていたのは平和そのものの世界、色々な国を巡りましたがどこの国でも勇者が必要とされる事はありませんでした」
「・・・」
「もう勇者の時代は終わったのかもしれない、でも私はそれを認めたくなかった。だからここに来れば、魔王城に来れば何かが変わるかもしれない、もしかしたら勇者が必要とされる何かが、勇者が立ち向かうべき世界の危機がここにあるんじゃないかって、魔王城にならきっと。そう夢見ていたんです」
「ごめんアリア・・・俺は・・・その」
「はい・・・ここに居たのは世界の危機でもなんでもない、見ず知らずの旅人を助けてくれた優しい魔王さんしか居ませんでした」
そして
「だから・・・私の旅はここで終わりなんです」
泣いている様な笑顔でアリアは言った
「アリアはこれからどうするんだ?」
「分かりません、とりあえず故郷に帰ろうと思います」
「そうか・・・」
「心配しなくても大丈夫です、世界は平和だったよってそう伝えようと思います。父もそれで納得してくれると思います」
何を言っていいか分からない、いや、俺にかけるべき言葉などあるのだろうか?
だって俺は何も出来ない、魔王なんて名前だけで何の力も持ち合わせていない
世界の危機になるどころか、今日の生活にすら困っている有様だ
「それじゃ・・・私、行きますね」
彼女が去っていくのを見送るしか出来ない、現実に抗う事なんて出来やしない
俺は何時だってそうだった
「さようなら、ソーマさん」
だから、去っていく彼女に伸ばした手をそっと降ろした
世界を変えたいと思う程愚かでは無い
だからと言って醜い物を受け入れられる程賢くも無かった
だから一人になった、綺麗な物も汚い物もまとめてゴミ置き場に捨ててきた
子供にも大人にもなれない、俺は一体何者なのだろうか?
俺は一体、何になりたかったんだろうか?
「待った!!!!!」
突然声が響き渡った、声は俺の口から出ていた
叫ぼうと思ったわけではない、勝手に口が動いていた
「ソーマさん?」
「その・・・」
何も思いつかない、だがこのままではいけない事だけは分かる
だから俺は心のままに叫んだ
「ウチで働かないか!?」
自分の言葉にハッとなる、それだ!それしかない!
「その!今魔王軍って凄い人手不足で!だから猫の手も・・・!っていやそうじゃなくて!もちろん悪い事とかしないし、だから!」
アリアは俺の言葉を聞いて呆気に取られている
けれど、しばらくしてポツリと呟いた
「私は・・・勇者ですよ?」
「構わない!」
「ここ魔王軍なのに勇者が居たら困るんじゃないですか?」
「困らない!」
「でも・・・その・・・」
「どんな理由があっても問題ない!!!」
俺はきっぱりと断言する
「私は・・・私は・・・」
アリアは迷っていたようだったが、意を決したように俺に向き直り
「はい!ここで働かせてほしいです!!!」
さっきの泣きそうな笑顔ではなく、迷いの晴れた表情で答えた




