魔王とアリア
:魔王とアリア
街に着いた俺は、適当な場所に自転車を停め買出しに向かった
買う物は主に食料品の類だ
異世界での俺の食事は基本自炊である
というのも俺以外に料理を出来る奴が居ないからだ、いや俺もそんなに上手いわけではないのだが
「人間の料理は専門外でして」
「機械を作るのはともかく料理を作るのは無理ですね」
「料理・・・したことない・・・」
「ぷるぷるぷるぷる」
というわけで自炊するしかなかったのだ
電話一本で食事が届く生活が懐かしい
「魔王が自炊とか威厳もクソもないな・・・」
買う食材は基本適当だ、何せ異世界の食材の事など何も分からない
じゃがいもの様な野菜が売っていたので食べてみたら物凄く甘かったりと、日本育ちの俺には意味不明な食材ばかりだ
とりあえず焼いてみたり煮てみたりと試行錯誤しているのだが、あまり旨い料理が作れた試しはない
「どうにかしないと俺のテンションゲージが下がる一方だ」
そんな事を考えながら歩いていると、何やら声が聞こえてきた
ソーマ「ん?」
見ると店の中テーブルを囲んだ人々が談笑している所だったようだ、その手にはなにやら大きなジョッキのような物を持っている
アルコールの類なのだろうか、顔を赤らめた男が何やら大声で話している
「もしかして酒場ってやつか?」
RPGとかではよくあるが、実際に見るのは初めてだ
よく見るとテーブルの上には料理の様な物も置かれていた
ゴクリ・・・
「異世界の料理を知るためにも何か食べていくのも悪くないな」
俺はフラフラと誘い込まれるように酒場へと向かっていく、そして中に入ろうとした所で
ガシッ!
何かに足を掴まれた
「ん?」
目線を下に向けると、そこには倒れ伏せた人間が一人、俺の足を掴んでいた
「ううう・・・」
どうやら行き倒れか何かのようだが、さてどうしたものか
その時、行き倒れが顔を伏せたまま呟いた
「な・・・何か食べ物を・・・」
もしかしなくても俺に言っているのだろうか?声はかぼそく独り言を呟いているようにも聞こえるが
声の感じからして女性、いや女の子か
「ふう・・・」
しかたあるまい、俺は足を掴まれたままの状態で酒場の店員に向かって声をかける
「何か適当に食べるもの、二人分頼む」
「いやー助かりましたーー!本当にありがとうございます!!!」
追加の料理を軽く平らげた後、先程まで死にそうだったのが嘘のような快活な声で行き倒れが言った
「あーまあ、困った時はなんとやらって言うし気にすんな」
ちなみに先程平らげた料理で5人分食べた事になる、金は足りるだろうか・・・?
「いえ気にします!もう何週間も何も食べてなくて本当に危ない所でしたし、感謝してもしきれません!!!」
「あー、まあ分かった分かったから」
行き倒れはテーブルから乗り出すようにして、真っ直ぐ俺の顔を見つめて礼を言う
こう真っ直ぐに感謝を伝えられると照れくさくなってしまう
「そうだ!私アリアって言います!えっと・・・」
「ん?ああ、俺は四十万宗真」
「シジマさん?変わった名前ですね?」
「ああ、ソーマの方が名前。こっちだとソーマ・シジマになるのかな」
「ソーマさんですか、よろしくお願いします!」
俺はアリアと名乗った少女に視線を向ける
年齢は十代後半ぐらいだろうか?女性と言うよりは女の子と言う表現が相応しいだろう
肩までの短めの金髪、見ようによっては少年にも見える
行き倒れていた結果薄汚れてはいるが、造形的には整った形をしていると思う。ボーイッシュな美少女と言った所か
服装はボロのマント?らしきものに軽装の鎧姿。この世界の常識がよく分からないのだが旅人、冒険者等だろうか?
まあそれはともかく。どうやら落ち着いた様だし、俺は色々事情を聞いてみる事にした
「えーっと、アリアはなんであんな所で行き倒れてたんだ?」
「えっと、実は私旅をしてまして」
「旅?」
「はい。ですがちょっと色々事情があって道に迷い森を彷徨っていて、それでもなんとかこの街にたどり着いたのですが、どうやら森の中で路銀を落としてしまったようで」
「それで行き倒れていたと」
「お恥ずかしい限りです・・・」
「それにしても若いのに旅なんて大変だな」
「いえいえ、これは私の使命ですから!」
「使命?」
「はい!使命です!!!」
そう言って豊か・・・とは言えない胸を張るアリア
どんな使命なのか分からないが、まあ異世界だし色々とあるんだろう
こっちの世界に来てから色々と細かい事を気にしなくなってきた様だ
遠い目をしていた俺にアリアが聞いてきた
「そうだソーマさん、魔王城って知りませんか?」
「魔王城?」
そりゃまあ、よく知ってますが?
「はい、この辺りにあると聞いてやってきたのですが」
「何か用事でもあるのか?」
「はい!私の旅の目的地でもありますから!!!」
・・・?あんな所に用事なんて珍しい
魔王城なんてこの世界ではド田舎にも程がある場所なのに
「ふーん、じゃあ案内しようか?」
「ソーマさん魔王城の場所ご存知なんですか!?」
「えっとまあ、結構距離あるけど平気?」
「有難うございます!よろしくお願いします!!!」
というわけで、俺は旅人の女の子アリアを連れて魔王城へ戻る事となった




