異世界から来た魔王の物語
:異世界から来た魔王の物語
俺が異世界に来て2回目の冬が訪れた
そして春がやってきて、あっという間に夏、秋、冬と過ぎていく・・・
セレンディア史上最大の戦い、通称「魔神王結婚事件」より3年の月日が経った
俺、四十万宗真はというと・・・
「ま、いつも通りだな」
「いつも通りですにゃ~」
相も変わらず、魔王城の中に作ったオフィスで書類仕事に励んでいた
あれからもなんだかんだと魔王を続ける事となり、俺は魔王城に居座り続けている
「平和ですねぇ~」
「だな・・・」
とはいえ、こんな生活も悪くはない
隣にミケが居て、それから・・・
「ってあれ?アッシュは?」
「アッくんならティスちゃんと遊びに行きましたよ」
アッシュ(アッくん)というのは俺とミケの子供の事だ
フルネームはアッシュケイオス、アッシュとかアッくんとか呼ばれている
「子供同士で気が合うのでしょう」
そう相槌を打ったのは同じく書類仕事中のウラムだ
3年経つがこいつも相変わらずといった所。そして・・・
「子供は可愛いですよね、ウラム」
「ええ、私も子供を育ててみたくなりますね。メルもそう思いませんか?」
「それは・・・!?ええ、でもウラムの子供なら・・・私・・・」
「メル・・・」
「ウラム・・・」
こっちのバカップルっぷりも相変わらずだ
俺は呆れた様な表情でウラムに言った
「お前ら、3年もよくそのバカップル状態が続くな。いつまで新婚気分で居るつもりだ?」
「無論。死ぬまで(キリッ)」
「そういうのいいから」
ウラムの答えに俺は即座に突っ込みを入れる
しかしその時、ウラムが反撃に出た
「ですが、魔王様もミケとラブラブじゃないですか。期間だけで言えば、私達よりも長いでしょう?」
「それは・・・」
俺がミケの方に顔を向けると、丁度ミケと目が合う
「にゃ・・・にゃ・・・」
ミケは期待に満ちた眼差しで手を広げている、いつでもウェルカムという意味だろう。しかし・・・
「・・・俺はちゃんと時と場所を選んでるからいいんだよ」
そう言って俺は目の前の書類に取り掛かる
「にゃ~・・・(ガッカリ)」
俺が無難な回答でお茶を濁した直後、オフィスのドアが勢い良く開けられ飛び込んできたのは・・・
「ママにゃー!」
「アッくんおかえりなさい~」
俺とミケの子供、アッシュだった
アッシュは勢いよくミケの元へ走っていく、ちなみに何故か俺の方にはあまり懐いてくれない
「・・・子供の相手は大変」
アッシュと一緒に、すごくくたびれた様子のティスも部屋に入ってくる
「お疲れティス、アッシュの相手してくれてありがとうな」
「本当に疲れた、なんで子供はあんなに元気なのか理解出来ない。私はやっぱり部屋の中でゲームしてる方がいい」
そうげんなりした様な表情で答えるティス、発言が完全にインドア派の物だ
出会った頃は「無垢」と言った感じのティスだったが、最近はそれなりに豊かな表情を見せる様になった
「ティスだってまだ7歳だろ?十分子供だと思うが」
俺がそう言うと、ティスはムッとした様な顔で俺を睨む
「そんな事無いよ!私はもう十分大人だもん!おとうさんは私の事いつまで子供扱いする気!?」
「そんな事言われてもな・・・俺に取ってティスはいつまでも可愛い娘だよ」
怒って詰め寄るティスに対して、俺はそう上手い具合に言ってみせたつもりだったのだが・・・
「もう!おとうさんのバカ!!!」
どうやら逆効果だったらしく、ティスは大声で叫んだ!
「ぐはっ・・・!!!」
四十万宗真に強烈な精神的ダメージ!!!
「ギガスの所に行ってくる!」
そう言ってティスは部屋を出て行き
残された俺は瀕死状態で机に突っ伏していた
「大丈夫ですか?魔王様?」
「・・・ぶっちゃけ過去最大のダメージだ」
何故だか最近はティスに怒られる事が多い気がする、反抗期と言うやつなのだろうか?
俺はボソリと呟く
「可愛い娘の何がいけなかったんだ・・・?」
「さあ~?なんでですかにゃ~?」
頭を抱える俺を、ミケはニコニコとした表情で見つめていた
その時、俺はある事を思い出しウラムに問いかける
「あ~・・・そう言えばティス、ギガスの所に行くって言ってたけど」
「ええ。確かそろそろ、アレが完成すると言っていましたね」
丁度その頃、ギガスのラボでは・・・
「フッフッフッ・・・ついに完成したっスよ!」
怪しげな笑みを浮かべる二枚羽根の天使フィーリス
そしてそのフィーリスの言葉にギガスが相槌を打つ
「ええ。我々魔王軍の科学力と天界の科学力があわさって作られた、人口人型生命体ホムンクルス」
「つまり・・・ラグナさん専用の新しいボディの完成っスよ!」
プシューーー!!!
その言葉と同時に、ポッドの様な機械から蒸気が噴出する!
そしてその中から現れたのは・・・!
「って何よこれ!!!」
おおよそ10歳ぐらいの銀髪の少女だった、そしてその中身は・・・
「可愛いっスよ!ラグナさん!」
そう、もう一人のティスことラグナだった
そんな可愛らしい少女となったラグナは、フィーリス達に向かって大声で怒鳴り散らす
「ちょっとギガスにフィーちゃん!これはどういう事よ!?私はもっとこうボンキュッボンって感じの大人のボディを注文したはずよね!?それがどうしてこんなロリィな身体になるわけ!?」
「無茶言わないで欲しいっス。現状の技術力じゃ、その子供の身体を作るのが精一杯っスよ」
「うう・・・」
そのフィーリスの答えに頭を抱えるラグナ
その時、ラボのドアが開きティスが現れる
「あ、もうポッドから出てたんだ」
そのティスの姿を見つけたラグナはすかさず・・・!
「ティス!丁度良かった!身体交換しましょ!」
そう言って詰め寄る。しかし・・・
「ティスは子供なんだから、こっちの身体の方がいいでしょ!?」
「・・・!」
ラグナは先程ソーマが踏んだのと同じ地雷を踏んでしまう
ティスはムッとした顔になると答える
「ヤダ」
「何でよ!?」
「私は大人だもん、だからこっちがいい。ラグナにはその子供ボディがお似合い」
そう言って顔を背けるティス、ラグナはがっくりと項垂れると呟いた
「うう・・・こんな身体じゃ男漁りも出来ないじゃない・・・」
「大丈夫っスよラグナさん!その身体も十分可愛いっスから!モテモテっス!!!」
そうフォローするフィーリスだったが・・・
「こんな身体で寄って来るのはロリコンだけよ!!!」
ラグナは大声でそう叫んだ!
そんなラグナの様子を眺めながら、ギガスは呟く
「・・・まあある意味、ラグナ殿には丁度良いボディでしょう」
「同感」
そしてティスも、そのギガスの言葉に同意しうなずくのだった
そしてまた、オフィスで仕事に励む俺達の姿
その時、オフィスのドアが開き入ってきたのは・・・
「ただいまにゃー」
「ふいー疲れたにゃー」
「魔王、何かお菓子でもよこすにゃ」
猫娘3人組、ウナ、リィ、マウだった
「みんにゃお帰りにゃ」
「ただいまにゃーミケ、それにアッくんもただいまにゃー」
そう言ってアッシュを可愛がり始めるウナ
「うにゃ~、アッくん~」
「癒されるにゃ~、仕事に疲れた体にアッくん粒子が染み渡るにゃ~」
リィとマウもそれに続き3人、でアッシュを撫でたりして可愛がっている
その時、俺は3人に質問した
「にしても、3人一緒なんて珍しいな」
「たまたまそこで会ったにゃ」
「ウチらもそれぞれの店を任されてからは会う機会も減ってたからにゃー」
そうしみじみと言うマウ
その時、リィが思い出したと言った様子で俺に言った
「そうだ魔王!人手が足りないにゃ!増員を希望するにゃ!」
「人手?スライムがいるだろ?」
「スライム達もよく働いてくれてるけど、それでも手が足りんにゃ!」
「ふーむ・・・だったら」
そう考えていた俺に、ウナとマウが言った
「人手ならウチも足りてないにゃ、増やしてほしいにゃ」
「それならウチだって慢性的な人手不足にゃ!店長のウチのシフトが凄まじい事になってるにゃ!」
「あ、二人共ずっけーにゃ!ウチが先に言ってたのに!」
そう詰め寄る3人をなだめながら、俺は言う
「あ~分かった分かった、ちゃんと3店舗全部考えておくから」
「む~、分かったにゃ」
とりあえず納得する3人
だがその時、それを見ていたアッシュが3人に向かって言った
「だったら僕がお手伝いするにゃ!」
その純真な眼差しと言葉に感動する3人・・・!
「にゃ~、アッくん~!」
「可愛いにゃ~!」
「ホントだにゃ~!魔王と違って」
そしてまたもや猫可愛がりが始まりそうになったその時、メルフィリスがポツリと言った
「ふふ、アッシュくんは将来カッコ良い男の子になりますね」
ピカーン!
同時に!猫娘3人の目が怪しく光った!そして・・・
「アッくん~?アッくんは~、どのお姉ちゃんが好きにゃ~?」
そう怪しい雰囲気でアッシュに詰め寄る3人
「おいお前ら、子供に変な気起こすんじゃねーぞ」
「そんな事考えてないにゃ~。ちょっと子供の頃から良い男になるよう教育しつつ、親睦を深めておくだけにゃ~」
光源氏計画かよ・・・
親として、それは断固阻止しなくては
「アッシュ、ソイツらに付き合わなくていいからな」
「魔王は黙ってろにゃ!それでアッくん、どのお姉ちゃんが好きにゃ~?」
アッシュはその問いに少し考えこむが、すぐにハキハキした声で答えた
「僕は3人とも好きにゃ!」
ズキューン!
「にゃっ!アッくん!」
「3人ともなんて欲張りさんだにゃ!」
「でもいいにゃ~!3人でアッくんのモノになってあげるにゃ!」
「?」
頬を染めて身体をくねらせる3人に対して、不思議そうに首を傾げるアッシュ
(我が息子ながら恐ろしい、天然ジゴロか・・・)
なんか別の意味で息子の将来が心配になってきた
俺が頭を悩ませていた、その時・・・
「皆さん、そろそろ休憩にしませんか?」
トレーにティーカップを乗せたメイド服の女性が現れる
「そうだな、じゃあ一杯淹れてくれるか?」
「はい!」
そう答えた金髪の女性、そう勇者にして魔王軍メイドのアリアだ
「それでは、私の分もお願いします」
「はい!ちょっと待ってて下さいね」
そうウラムに答えると手早く全員分のお茶を用意するアリア、もう手馴れた物と言った感じの動きだ
俺がそんなアリアの仕事ぶりを眺めていたその時、アリアがそれに気付き声をかけてくる
「どうしましたソーマさん?」
「ん?いや手馴れた物だなと思って」
「もう4年も続けてる仕事ですからね」
「そうか・・・もうそんなに経つのか」
そう言って俺は、目の前のアリアを見つめる
初めて出会った時は肩までだった金色の髪も今は背中まで伸び、キラキラと光を反射し輝いている
ボーイッシュだと思っていた外見も、いつの間にかメイド服が似合う立派な女性となっていた
(なんていうか、時が経つのは早いな・・・)
俺がそんな感慨に耽っていたその時・・・
「ん~・・・」
気付くと、アリアが俺の顔を覗き込むようにしていた
そしてニンマリと笑みを浮かべると言った
「もしかしてソーマさん・・・ムラムラしちゃいましたか?」
「は?」
そのままアリアは暴走状態、スイーツモードに突入すると早口で喋り始める
「そうですよね!ずっと身近にこんな可愛いメイドさんが居るんだから、劣情を催すのは男性として当然ですよね!けど大丈夫です!私はいつでもソーマさんを受け入れる準備は出来ていますから!だから今夜こそ・・・!私を抱いてくれるんですね!?」
そう言って潤んだ瞳で見つめてくるアリア、それに対して俺は・・・
「いや、そーいうのは無い」
と慣れた様子でアッサリ言った。次の瞬間!
「何でですか!?」
そう言って俺のスーツの襟を掴んでがくがく揺さぶるアリア!
「自分で言うのもアレですけど私可愛いですよね!?可愛くなりましたよね!?金髪美少女メイドの一体何が不満なんですか!?・・・まさか胸!?胸がないのが駄目なんですか!?ソーマさんはおっぱい大好きなおっぱい星人なんですかーーー!!??」
「ぐえっ!人聞きの悪い事を大声で叫ぶな!!!」
そんな様子をニコニコと笑顔で眺めていたミケに向かって、ウナ達が話しかける
「ミケ、ほっといていいにゃ?あれじゃ魔王が押し切られるのは時間の問題にゃ」
「別に問題ないにゃ、一夫多妻なんて里じゃ珍しくないにゃ」
「それはそうなんだけどにゃ・・・」
それでも不安そうにミケを見つめるウナ達に、ミケが小さな声で言った
「ホントは、ソーマさまには私だけを愛していて欲しいって思う事もあるにゃ・・・。けど同じくらい、アリアちゃんにも幸せになって欲しいから」
「ミケ・・・」
なおも心配そうにミケを見つめる3人
だが、ミケはそんな3人に向かって答える
「でもミケは大丈夫にゃ、だって・・・」
そして、ミケは側に居たアッシュを抱きかかえると・・・
「ソーマさまがいくら側室を増やしても、ミケの正妻の座は揺るがないにゃ!」
と、自信たっぷりの表情で言った!
「ミケ・・・いや、ミケさん!」
「マジパネーにゃミケパイセン!ウチらに言えない事を堂々と言ってのけるッ!」
「そこに痺れる憧れるゥッにゃ!」
その時、ラボに居たギガス達もオフィスに入ってくる
「ただいま。って、アリアがまた暴走してる」
「ソーマくんも、いい加減諦めたらいいのにね」
そう、呆れた様にラグナは呟いた
そしてオフィスに全員が集まっていた、その時!
ウー!ウー!ウー!
魔王城の緊急警報が鳴り響いた!
「な、何だ!?何が起こった!?」
そう叫ぶ俺に、ウラムはいつもの冷静な声で言った
「どうやら問題発生の様ですね。詳細は確認中ですが、いかが致しますか?魔王様」
そう問いかけるウラムの口元がニヤリと歪む
「なあに、いつもの事だ。いつも通り対処するだけだ」
そう答える俺の口元もいつの間にか笑みを浮かべている
平和な日常よりトラブルが楽しいなんて、我ながらマトモじゃないな
「いつでも準備できてますよ!ソーマさん!」
アリアをはじめ、魔王軍の面々は既に臨戦態勢に入っていた
そして俺は自ら先頭に立ち歩き出す、その「魔王」の背に続く配下達・・・
異世界セレンディアに現れた魔王ソーマ
世界を救ったとも世界を滅ぼしたとも言われる人間の魔王
彼と彼の仲間達の物語はこれからも続いていく
伝説とは程遠い、ロクでもない物語が
「では、ひさびさの戦いです。楽しませてもらうとしましょう」
「ウラムが出る幕は無い、私だけで十分」
「やる気ですねティス殿。ラグナ殿はどうします?身体が出来たばかりですし無理はせずとも」
「冗談。丁度いいし、新しい身体のテスト代わりにさせてもらうわ」
「ウラムに皆さん。無理はしちゃダメですからね?」
「大丈夫っスよお姉ちゃん!自分も後方支援で頑張るっスから!」
「にゃ!私もフィーちゃんと一緒に応援していますにゃ。アッくんも一緒に」
「みんな頑張れにゃー!」
「「「アッくん~~、ウチらの活躍見ててにゃ~」」」
「ふふっ。それじゃあ行きましょう!ソーマさん!」
「ああ。んじゃまあ!軽くひねってやるか!」
「「おー!!!」」
俺達はそう言うと、部屋の外へ飛び出して行った
魔王軍はお金が無い・おわり




