最強の天敵
:最強の天敵
ドオンッ!!!
荒野に凄まじい衝撃音が響き渡る!
それと同時にブオンッと大気が震える音と、ビシィッと地面が砕ける音!
一度だけではない、それが何回も何十回も繰り返し響き渡る!
「おおおおおおおおおおッ!!!!!」
「はあああああああああッ!!!!!」
ドグォッ!!!!!
その一撃は正に山をも砕く威力だ!
仮にここが木々が生い茂る森の中だったとしても、数秒後には何もない荒野へと変貌するであろう
「ぐっ・・・!!!野郎っ!!!!!」
「がはっ・・・!!!まだまだっ!!!!!」
そんな常軌を逸した破壊力の拳の直撃を何十回と食らいながら、二人はその場から一歩も引かず殴りあう!
その時、ラグナが思わず呟く
「凄まじいわね・・・」
「ええ・・・お二人とも流石です」
突然、背後から聞こえてきた声にラグナは振り向きながら言う
「あら?起きたの?ギガス」
そう、ラグナの背後に立っていたのはギガスの端末だった
「はい。本体の方は暫く動けそうもありませんが」
その時、ティスがラグナに問いかける
(ギガスも動けるなら、おとうさんの援護しに行く?)
「いえ、無理よ。あんなのに割り込んだら、こっちがタダじゃ済まないもの」
そう、もはや戦いはラグナ達が介入出来る次元ではなくなっていた
そして、二人の魔王の戦いを眺めながらラグナが呟く
「それに・・・」
拳をぶつけ合うソーマとウラム!
その時、ウラムの口から笑い声が溢れでた
「ハッハッ・・・ハッハッハッハッハッ!!!!!やはりお前だ!!!私は間違っていなかった!!!」
ドグォッ!!!
「あん!?何の話・・・だッ!!!」
ガゴォッ!!!
その拳を振るいながら、ウラムは答える
「私は戦う為に産まれた!それが私に与えられた魔王としての責務だと思っていた!なのに、戦いは私に何も与えてはくれなかった!!!」
「何の話だ!?」
「理由は一つだ!私は強すぎた!私にとって戦いは戦いではなかった!ただの一方的な蹂躙に過ぎなかった!!!」
尚も激しく攻撃を繰り出しながらウラムは叫ぶ!
「誰も私には勝てない!最初から勝敗が決まった出来レース!それが私に与えられた運命だった!こんなくだらない物が私という全てを構築しているのだという絶望!!!だから私は求めた!私と戦える!いや私を倒すかもしれない存在!奇跡を体現する存在!!!」
「それが!俺だとでも言いたいのか!?」
「その通りだ!!!600年・・・いや、1200年待ち続けた!お前が私が追い求め続けた「敵」だ!!!そして・・・!!!!!」
更に激しくなるウラムの攻撃!
その独白と共に強烈な一撃が放たれようとした、その瞬間!!!
「うるせえええええっっっっっ!!!!!」
ドガンッ!!!
「ぐはっ!!!!!」
俺の強烈な頭突きが、ウラムの顔面にカウンターで入った!
そしてウラムが一瞬怯んだ所に、すかさず俺は畳み掛ける!
「テメエの都合なんか知ったことかッ!!!」
今度は俺が叫びながら攻撃を繰り出す!
「喧嘩の最中にベラベラベラベラと!!!相手が誰でどんな事情があろうと関係ねえ!!!俺の商売の邪魔する奴は!例え神だろうと悪魔だろうとぶっ飛ばすッ!!!」
そう言いながら俺は思いきり右手を振りかぶり・・・!
「それが俺のやり方だあああああッ!!!!!」
体勢が崩れたウラムに俺は渾身の一撃を放った!しかし!
「・・・貴方はいつもいつも!!!」
ゴシャッ!!!
「ぐあっ!!!!!」
先にウラムのカウンターが放たれた!
まともに食らった俺は仰け反る!
「どうしていつもそんなに適当でいられるんですか!?理解出来ない!!!」
「知るか!!!俺からすればお前の方が理解できねーんだよ!いつもいつも理屈ばっか並べやがって!!!」
「貴方がいつも考えなしに無茶をするからでしょうが!!!こっちがどれだけフォローに気を配ってるか考えた事はないんですか!?」
「ねーよ!!!大体俺を魔王に仕立て上げたのはお前だろうが!だったらフォローすんのはお前の仕事だ!!!」
バキィッ!!!ドグォッ!!!ゴシャッ!!!
とてつもないパワーの二人が全力で殴りあう
それは紛れもなくこの世界で最大規模の争いだ、しかし・・・
「こんな考えなしに行動する単細胞だと分かっていれば魔王になんてしませんでしたよ!!!」
「悩み続けて机にかじりついてる奴よりマシだ馬鹿!!!」
「誰が馬鹿ですか!?人類馬鹿代表みたいな貴方にだけは言われたくないんですよ!!!」
「ああ!?だったら何度でも言ってやる!馬鹿!馬鹿!バーカ!!!」
「このっ!!!貴方以上の馬鹿なんてこの世に存在しませんよ!人類史上最大の馬鹿!!!」
「馬鹿って言う奴が馬鹿なんだよ!宇宙最大規模のバカ!!!」
その争いを見つめながら、ため息混じりにラグナが呟く
「もう子供の喧嘩ね・・・」
「ええ、ですが・・・」
その時、ギガスが呟く様に言った
「私はウラム殿が幼少の頃からお仕えしてきましたが、あんなウラム殿見た事がありません」
「私もよ。そうね・・・二人共凄く・・・」
尚も悪態をつきながら拳を振るう二人、だが・・・
「クッ・・・」
「フフッ・・・」
その顔には笑みがこぼれていた
「二人共、凄く楽しそう・・・」
「ええ・・・本当に・・・」
その光景にギガスが口を開くが、途中で言葉を詰まらせてしまう
その時、ラグナがギガスに問いかけた
「ギガス?貴方まさか泣いてるの?」
そのラグナの質問に対してギガスは・・・
「私は炎の巨人です、そしてこの身体は鋼で出来たまやかし。どちらにしても、私は涙を流しません」
そう答えながらも、続けて
「ですが・・・ええ。きっと、この感情はそうなのでしょう」
そう、感慨深い様に言った
「ウラァァァァァァァァァァムッ!!!」
「ソォマァァァァァァァァァァッ!!!」
その時!互いに大きく右手を振り上げる!!!
この一撃で倒すという渾身の一撃!!!
ドグォッ!!!!!
「がっ!!!!!」
「ぐうっ!!!!!」
だが!その一撃も勝負を決める事は出来ず、互いに吹っ飛ばされ二人の間合いが離れる!
「ハアッ・・・ハアッ・・・」
そしてヨロヨロと立ち上がる二人・・・!
その時、俺は呟く
「そろそろ・・・決着を付けるか・・・」
そして、ウラムに向かって手を挑発する様な形を見せながら言った
「撃ってこい「螺旋」を・・・!」
その言葉に、ウラムがピクリと反応する
「・・・それがどういう意味か、理解しているのですか?私の「螺旋」は全てを穿ちます、つまり・・・」
だが、続きを言う前に俺がその言葉を遮る
「勘違いしてんじゃねーぞ?俺は死ぬ気も負ける気もさらさらねー」
そして、ウラムに対して宣言する・・・!
「来い、お前の「最強」を打ち破って俺達が勝つ!!!」
それまで激しい衝撃音が鳴り響いていた戦場が、俺の宣言にシーンと静まり返った・・・!
「ソーマくん・・・勝算はあるの?」
「魔王殿ならば・・・きっと・・・」
その様子を固唾を飲んで見守る仲間達・・・
「本気にゃ・・・魔王・・・」
「マジでやる気にゃ・・・」
「ホントにやれるのかにゃ・・・」
それはこの戦いの決着を告げる前触れ・・・
「魔王さん・・・。こうなったらもう信じるしかないっス・・・」
(おとうさんなら、絶対勝つ・・・!)
「ソーマさんなら、きっと・・・!」
「ソーマさま・・・!」
そして全員が見守る中、ウラムの瞳がギラリと輝いた!
「いいでしょう・・・!」
その時!ウラムの身体から強烈な魔力が放たれた!!!
「ならば!この私の全身全霊を込めた最強の一撃をもって!この戦いに終止符を打ちます!!!」
そしてウラムは世界への宣言を開始する!
「我は世界に叛逆する!!!」
その右手に集まるのは風・火・水・土の4種類の魔力!
それはウラムの究極魔法「螺旋」の構えだ!しかし!!!
「これはっ!!!さっき私達と撃ち合った「螺旋」とは比べ物にならない!!!」
「これが本当のウラム殿の力!!!ウラム殿の全力の「螺旋」!!!」
ウラムの右手で極限まで高められた4種の魔力!それらが回転を始める!!!
「是なるは魔神王ウィズ=ウラムの究極魔法!!!世界の全てを崩壊させゼロへと還す究極の終わり!!!」
その宣言と共に、まるで世界そのものが捻じれていく様に大気が荒れ狂う!
それは今まで見てきた魔法とは比較にならない程の凄まじさ!だが・・・!
「・・・ッ!!!」
俺はその場から一歩も動かず、その「螺旋」を待ち構える!
「なっ・・・!?」
「螺旋」に対して正面から挑もうという俺の姿に、魔法の体勢に入っているウラムも目を見開いた!だが!
「ええ、ならば見せて下さい。この私の「螺旋」に対してどんな奇跡を見せるのかを!!!」
ウラムはすぐにその動揺を振り払うと、ニヤリと笑みを見せながら呟く・・・!
そして!ウラムの右手に作られた魔力の循環が螺旋の形になり発射体勢に入る!!!
「これが私の最強!!!「ウィズ=ウラムの螺旋」!!!!!」
その叫びと同時に!その手から「螺旋」が放たれた!!!
ギュオオオオオンンンンンッッッッッ!!!!!
俺に向かって迫り来る「螺旋」!!!今までのソレとは桁違いの大きさ!!!
ドガガガガガッッッッッ!!!!!
それは全てを飲み込む様にしながら俺に襲い掛かる!!!
だがその瞬間!俺は・・・!!!
「行くぜッ!!!!!」
ダッ!!!
なんと!「螺旋」に向かってそのまま突っ込んだ!!!
「まさかっ!?正面から挑むつもりなの!?無茶よ!!!」
「一体何を!?魔王殿!?」
俺は全てを穿つ「螺旋」に向かって突撃していく!だがその途中・・・!
ブンッ!!!
俺は上空に「それ」を放り投げた!
「何ッ!?まさか!!!」
それは先程まで右手に握っていた「聖剣の柄」だ!そしてそれを失うという事は!!!
ガクンッ・・・!
「ぐっ!!!」
先程まで羽根の様に軽かった自分の身体が急激に重くなる!
そしてウラムが信じられないと言った様子で叫んだ!
「聖剣の柄を捨てるという事はアリアさんの身体強化を受けられなくなるという事!ただの人間に戻ると言う事!!!」
「ああ!チートタイムはここまで!!!ここからは俺自身の力で勝負だ!!!」
完全に力を失った俺は、そのまま「螺旋」に向かって突っ込みながら右手を中段に構える!!!
(ここからが本当のギャンブルだ!全てを得るか全てを失うか!この一瞬で決まる!!!)
そして!迫り来る「螺旋」に向かってその拳を放った!!!
「ダークロードォ!!!!!ナァァァァァァァァァァッッッッックルッ!!!!!」
それは先程までとは違う!何の力も持たないただの拳だ!!!
ゴオッ!!!
そして「螺旋」と俺の拳がぶつかろうとした・・・!次の瞬間!!!
ドシュッ!!!
「なっ・・・?」
俺の拳は・・・ウラムが放った「螺旋」の中心を打ち抜いた!
ドオンッ!!!
「うおあっ!!!」
次の瞬間!中心部を打ちぬかれ循環のバランスを崩し「螺旋」が崩壊する!
そして同時に放たれた衝撃で俺は吹っ飛ばされ地面に転がった!だが・・・!
「・・・何故?私の「螺旋」が・・・一体何が起こった?」
ウラムは何の行動も見せず、目の前の光景に唖然としている。その時・・・!
「全てを穿つだっけか?確かにその通りなんだろうさ・・・けど、例外があるみたいだな」
「何・・・?」
俺は地面に転がったまま、ニヤリと笑うと言った
「お前の魔法、世界を構成する4種の魔力の循環だっけか。高速回転する循環に物質に含まれた魔力がその物質ごと巻き込まれて、分子単位でバラバラに分解され崩壊する。・・・けどそれって、魔力を含む物質だから巻き込まれるんだろ?だったら、魔力を含んでいない物質だった場合どうなるんだ?」
「魔力を含まない・・・?」
「魔力が含まれない物質なら、魔力の循環に引きずり込まれる事はないんじゃないか?」
「何を馬鹿な!!!この世界に魔力を持たない物質など存在しな・・・!!!」
そこまで言った所で、ウラムはその答えを導き出し
同時にその顔が驚愕に見開かれる・・・!
「そう「この世界」にはな。覚えてるか?お前が言ったんだぜ?俺が里帰りに元の世界に戻った時だ・・・!」
(魔力が全く存在しない世界とは・・・興味深いですね)
「!!!」
「って事は・・・、俺の身体は全く魔力を含んでいない物質って事じゃねーのか?」
もしかしたらと思ったのはあの時、地面に落ちていた携帯だ
アリアを庇ったギガスの端末は、ウラムが放った「螺旋」の直撃を受けた
そのボディには綺麗な大穴が穿たれ、穴の内側にある物は全て消滅していた。ただ一つを除いて・・・
あの時、俺が違和感を感じた物。螺旋の直撃を受けながらも消滅していなかった物体
それが、俺が「元の世界から持ち込んだ携帯」だったわけだ
「馬鹿な・・・。たったそれだけの根拠で、私の「螺旋」に挑んだというのですか・・・?」
「まあな。とは言っても・・・これは俺にとって賭けだった」
正直、確証はなかった。「もしかしたら」というだけの話
かと言って、俺が「螺旋」を無効化出来るかどうか検証をする素振りを見せれば、ウラムは間違いなくこちらの狙いに感づいていただろう
そうすれば、俺に「螺旋」を撃ってはこなかったはずだ
「だが・・・結果は見ての通りだ!!!」
その時、ウラムの脳裏にはある考えが浮かんでいた・・・
(私は以前、彼を「無作為」に選び出したと言った。だがそれは違った)
「大富豪って知ってるか?言ってみればお前はジョーカーだ。ジャックでもクイーンでもエースでも勝てない最強の札だ」
(彼も、彼以外の異世界人もそうだ、何故「異世界人」だったのか。今ハッキリと分かった)
「けど、そんなジョーカーにも勝てる札が一枚だけある。スペードの3だ」
(敵を追い求める私は無意識の内に呼び寄せていたのだ、この世界に・・・)
「いつだってそうなんだ、お約束って奴さ。つまり・・・」
そして俺が叫ぶと同時に!ウラムが一つの答えを導き出す!
「「最強」の天敵は・・・!!!」
「「最弱(私の天敵)」を!!!」
その事実に愕然とするウラム!だが!
「いいえ・・・まだだ!!!」
そう叫ぶと!倒れた俺に向かって再度構える!
「「螺旋」が効かないからなんだと言うのです!?それならば!通常の魔法を撃てばいいだけの事!ましてや聖剣の柄を捨てたその身はただの人間と同じ!一発で勝負は終わる!!!」
だがそんなウラムに向かって、俺はニヤリと笑いながら言う・・・!
「・・・いや、もう遅いね。チェックメイトだ!」
「なっ!?」
俺の勝利宣言に動揺するウラム、そして俺は続けて言った・・・!
「さっき言っただろ?お前の最強を打ち破って俺達が勝つってな」
その言葉に違和感を感じ、それを呟くウラム
「俺・・・「達」・・・!?」
即座に!辺りを見回すウラム!!!だが!
「居ない!?何処へ!?」
その時、ウラムは先程のソーマの行動を思い出す・・・!
(あの時、「螺旋」に向かって突撃してくる最中。魔王様は聖剣の柄を放り投げた・・・「上空」に向かって!!!まさか!!!!!)
そしてウラムは直上に向かって顔を上げる!そこには!!!
「アリスティア!!!!!」
そこに居たのはアリアと!
アリアを抱えながら二枚の羽で空中を駆け、ウラムに向かって突撃するフィーリスだった!
「気付かれたっス!!!」
「もう遅い!このまま行きます!!!」
「了解!!!離すっスよ!!!」
そしてフィーリスから離れたアリアは魔力の噴出で更に加速する!
その手にあるのは!先程ソーマが放り投げた「聖剣の柄」!!!
「はあああああっっっっっ!!!!!」
ブオンッ!!!
アリアが魔力を込めると同時に聖剣の柄から魔力の刀身が形成される!そして!!!
「ディバインッ!!!スラァァァァァァァァァァッシュッ!!!!!」
「ッ!!!!!」
アリアの全力の一撃がウラムに向かって叩きつけられた!!!




