二人の魔王
:二人の魔王
やや時間は遡り
破壊された観客席で俺達は話し合っていた、そして・・・
「・・・以上が作戦だ!」
作戦の打ち合わせが終わり、俺は全員に告げる
「フィーリスが教えてくれた聖剣の機能をフルに活用する為の作戦だ。・・・というより、ぶっちゃけ他に打てそうな手はない」
「はい・・・。これが今出来る、最善の手だと思います」
俺の作戦にアリアが同意する、だが・・・
「で、でも!やっぱり無茶っスよ!」
フィーリスが不安そうな顔で言う
「大体の流れは分かったっス。でも!肝心要の部分の根拠が「地面に落ちていた携帯」だなんて!せめてなんとかして「螺旋」を撃たせて一回だけでも効果を検証すべきっス!それからでも!」
今フィーリスが言った「地面に落ちていた携帯」
それはウラムがアリアにトドメを刺そうとした後・・・
(ん・・・?あれは・・・?)
そう、あの時俺の視界に映った不可解な物
アリアを庇って破壊されたギガスの端末の側に落ちていた物、それがその「携帯」だった
確かに、フィーリスが言う様に根拠には弱い。しかし・・・
「いや、ダメだ。勘の良いアイツの事だ、一度でも効果を確認する素振りを見せればこちらの狙いに感づかれる恐れがある」
「でも!いきなり本番で、もし失敗したら!」
「・・・まあ、間違いなく死ぬだろうな」
俺はあっさりと言う
だがそれは、決して自暴自棄などではない。俺は続けて言った
「これは賭けだ、命を賭けたギャンブルだ。だが、ウラムに勝つにはこれしかない。たった一つの勝機を掴む為、俺は俺の命を賭ける!」
俺は全員に向かってそう宣言する!
「ソーマさん・・・!」
「魔王さん・・・!分かったっス!なら自分も全力でサポートするっスよ!」
そのフィーリスの言葉に、全員が首を縦に振る
そして俺は覚悟を決め、ウラムの元へ向かおうとする。だがその時・・・
「ソーマさま・・・!」
俺の元にミケが駆け寄って来た、そして・・・
「んっ・・・」
そのまま自然にスッと顔を寄せると、互いに惹かれる様に口づけを交わす
触れ合うだけではない、互いを奪う様に求め合うキスだ
「うにゃ・・・!」
「ミケ・・・大胆にゃ・・・!」
「もう、見てられんにゃ・・・!」
「・・・っス!」
そんな俺達の様子を赤面しながら見ているウナ、リィ、マウとフィーリス・・・
・・・・・・
「・・・ん、はぁ・・・」
暫くして、ミケは唇を離すと俺に笑顔を見せながら言った
「どうか、無事に帰ってきてくださいソーマさま」
そんなミケの笑顔に、俺は不敵な笑みで答える
「ああ、任せろ!」
そして改めて、俺はアリアとフィーリスを連れて戦場へ向かおうとした。しかしその時・・・
「んー・・・」
「アリア?」
何やらアリアが不思議なポーズで固まっているのが見えた
「んー・・・!」
こちらに向かって両手を広げ、目を閉じ、唇をこちらに向けている
「んー・・・!!!」
当然、俺はその意味が分からない程の馬鹿ではない・・・。だが!
「・・・よし!行くぞ!」
ここはあえてスルーだ!
「もおおおーーー!!!なんでですかーーーーー!!!!!」
辺り一帯にアリアの叫び声が響き渡る
そして、頬を膨らませたアリアと緊張した様子のフィーリスを連れ
俺は再び、戦いの場へと戻っていくのだった
そして・・・
「待たせたな・・・。決着付けにきたぜ、ウラム!」
俺はウラムの前に立つとそう宣言した!
「よく時間を稼いでくれたなティス!後は俺に任せて下がってくれ!」
俺はティスに向かって後退する様、指示する
「・・・分かった、後はおとうさんに任せる」
そう言って頷くと、俺達から離れるティス。そして・・・
・・・・・・
俺とウラムは一対一で向かい合う・・・!
「さて。私の前に立つと言う事は、何か良い作戦でも浮かんだという事でしょうか?」
「さあな?ただまあ、破れかぶれの特攻をしにきたわけじゃないぜ」
「ふむ・・・。まあさしずめ、何処かに姿を隠したアリアさんが奇襲を狙っている。と言った所でしょうか?」
そう余裕を見せながら言うウラム
だが、俺は即座にそれを否定した
「アリアならあそこだぜ?」
そう言って俺は、後ろを指差す
「・・・ソーマさん」
そこにはアリアとフィーリスが、俺達と距離を取ったまま待機していた
それを見たウラムは不思議そうに首をかしげる
「ふむ?アリアさんの奇襲ではないと?」
そして、ウラムは俺に問いかける
「それでは一体どの様な作戦を?お教え頂いてもよろしいですか?」
「そうだな・・・」
その質問に少し考え込む様子を見せながら、俺は堂々と答えた
「まあとりあえず・・・「俺がお前をぶっ飛ばす」」
その答えに思わず目を丸くするウラム
「・・・今、なんと?」
「聞こえなかったか?俺がお前をぶっ飛ばすと言ったんだ」
再度そう答えた俺に対して
ウラムはゆっくりと息を吸い、そしてフゥ・・・とため息をつく
「・・・失礼ですが魔王様、気は確かですか?ただの人間である貴方が私を倒すと?殴ったその手の方が砕けると思いますが」
「ああ、俺は正気だし大真面目だ。それに、案外効くかもしれないぜ?とりあえず試すってのが俺のモットーなんだ」
俺は柔軟体操をしながらそう言う
そんな俺の様子に、ウラムは再度ため息をつくと・・・
「はあ・・・。そこまで言うのなら、存分に試されるといいでしょう」
そう言ってウラムは戦闘態勢を解除する、完全にノーガードだ
全く何も警戒する事なく、こちらの動きを待っている
「んじゃ・・・遠慮無く」
そして俺は柔軟を終えると構える
何かの武術の構え、などと言った物ではない
素人丸出しのファイティングポーズ。だが・・・次の瞬間!!!
ドンッ!!!
「なっ・・・?」
突然、目の前で起こった変化にウラムが戸惑いの声をあげた
俺は20メートル程の間合いを一瞬で詰め、そのまま右腕を振り上げる!そして!!!
ドグォッ!!!!!
「ぐはっ!!!」
俺の強烈な拳がウラムの顔面に直撃!ウラムを吹っ飛ばした!!!
ノーガードのウラムに俺の先制攻撃が突き刺さる!
「なっ・・・!?何!?」
何が起こったのか理解出来ず困惑するウラムに対して!すかさず俺は追撃を加える!
「もう一撃っ!!!」
ドグォッ!!!
「ぐふっ!!!」
今度は左のボディーブロー!ウラムの身体がくの字に折れる!
そして俺はすかさず3撃目、4撃目と拳を放つ!
ドガァ!!!ドグオッ!!!
次々と放たれる拳!
その人間離れした強烈な攻撃に、ウラムは戸惑う!
(なんだこれは・・・!?一体何が起こっている!?魔王様・・・四十万宗真はただの人間のはず、それがこんな異常な戦闘力を発揮するなどありえない!一体何故!?)
そして次の瞬間!
ソーマの右拳が目の前に迫る!
「おらああああ!!!」
バキイッ!!!
その拳を顔面に食らいながら、ウラムの目はソレをはっきりと捉えた・・・!
(あれは!聖剣の柄か!?)
ソーマの右拳に握られていた物、それはアリアが持っていた聖剣の柄だった!そして・・・!
(これは!?聖剣の柄を通じて魔力が魔王様の身体に送られている!これは・・・「身体強化」!ではまさか!)
ウラムがソーマに送られている魔力の出所を察知する!
「んっ・・・!」
それは、距離を置いて二人の戦いを見守っているアリアからだった!
その時、俺の戦いを見ていたフィーリスが呟く
「全く無茶苦茶っスよ・・・。いくら素材が何でもいいからって、まさか「自分の身体」を聖剣の一部にしようとするなんて・・・」
そう、フィーリスの言うとおり
この超パワーのからくりは聖剣の機能の一つ、接続したユニットへの強化の伝達だ
自分の身体を刀身の代わりに接続し、聖剣の柄を通してアリアの身体強化を受け取る
これによって、俺の身体はアリアと同等のパワーとスピードを発揮する事が出来るという訳だ
(聖剣に接続する素材は、魔力が含まれていない物が良いんだろ?だったら俺の身体はうってつけだ!何しろ、魔力なんて全く無いからな!)
そして俺は畳み掛ける様に連打を繰り返す!
だがウラムは、その攻撃を食らいながらも冷静に状況を分析していた!
(やはりこれはアリアさんの「身体強化」!身体強化の効果は魔力量と身体への伝達効率で決まる、だとするなら・・・)
ドグォッ!!!!!
(今の魔王様はアリアさんと同等の力・・・!いや、もしくはそれ以上!!!)
俺が放ったアッパーカットがウラムの顎を跳ね上げる!
「やったにゃ!勝てるにゃ!」
「すげーにゃ魔王!」
ミケ達と共に遠くでそれを見ていたリィとマウが声を上げた!
「このまま決めてやる!!!!!」
そして俺はトドメとばかりに右のストレートを放つ!だが次の瞬間!!!
「・・・だから、なんだと言うのです!!!」
ドグォッ!!!!!
「・・・なっ!?」
俺の顔面に強烈なカウンターが突き刺さった!
ウラムは俺の右をかわすと同時に、左の拳を俺の顔面に返したのだ!そして!
「勇者と同等のパワーとスピード!?「その程度で!」この私に勝てると思っているのですか!?」
今度はウラムが攻勢に出る!
シュッ!バババッ!!!ドガッ!!!
素早いジャブの連射が俺の顔面を捉え、怯んだ所にすかさず強烈な右が放たれる!
「くっ・・・!くそおっ!!!」
その強烈な連続攻撃を食らいながらも俺は反撃に移る!しかし!
ブンッ!
俺の拳はウラムにかわされ空を切る!
「なっ・・・!?」
「そんなパンチじゃ、もう当たりませんよ!」
そう言いながらウラムが拳を放つ!
シュッ!ドガァッ!!!
空を切る俺の拳とは反対に、ウラムの拳は全て俺を捉えていた!
その戦いを見ながらラグナが呟く・・・!
「ダメよ・・・今のソーマくんでもウラムには勝てない」
(どういう事?)
心の中から聞こえてきたティスの声に、ラグナは答える
「いくらパワーとスピードが上がっても、ソーマくんは戦闘の素人よ。身体が強化されたからって、それに見合う技術まで身に付くわけじゃないわ。それに対してウラムの方は・・・」
華麗なステップで攻撃を攻撃をかわしながら、的確にこちらの身体を捉えるウラム!
「くっ・・・速いっ!」
そのウラムの動きを追いきれず、俺の足がふらつく・・・!その瞬間!!!
ドグォッ!!!!!
すかさず放たれたウラムの右アッパーが、俺の顎に炸裂した!
「・・・ぐあっ!」
その強烈な一撃で、俺は吹っ飛び・・・!
ドサッ・・・!
地面に倒れた・・・!
仰向けに倒れたソーマに対し、ウラムは告げる
「私は素手でも十分強いので」
そしてソーマに背を向けると、手に付いた汚れを払いながらウラムは呟く
「こんな一発芸で私を倒せると思っていたのなら、私もナメられた物です。さて、後は残った全員にトドメを刺せば終わりですね・・・」
だが!その時・・・!
「・・・待て」
その言葉にくるりと振り返るウラム
その視線の先には、ゆらりと立ち上がるソーマの姿・・・!
「まだ一回ダウンしただけだろうが、テンカウントにははえーぞ・・・!!!」
だがその姿に、ウラムはため息をついてから答える
「フゥ・・・、懲りない方ですね・・・。では、貴方の気が済むまで相手になりましょう」
「上等だ!!!」
そして!構えるウラムに対しソーマが猛然と突っ込む!しかし!
バキイッ!ドガッ!ドグォッ!!!
やはり戦力差は歴然!
一方的にウラムの攻撃を食らい続けるソーマ!そして!
「フッ!!!」
ドグォッ!!!!!
強烈な右ストレートがソーマの顔面に突き刺さる!
そしてソーマはその一撃で吹っ飛び、またもや地に伏した!
「それでは今度こそ・・・」
今度こそ終わりだ。と言わんばかりに背を向けようとするウラム。だが・・・!
「・・・待てって言ってんだろーが」
そう呟きながらソーマが立ち上がる!
「う・・・ぐぅ・・・!!!」
ソーマの身体に刻まれたダメージは決して軽くはない・・・!
だが、ソーマは歯を食いしばりながら立ち上がる!しかし!
「・・・いい加減しつこいんですよ!」
ドグォッ!!!
立ち上がったソーマに対し放たれるウラムの強烈な一撃!
すぐさまソーマは先程と同じ様に地面に倒れる・・・!しかし・・・!
「まだだ・・・!まだ終わりじゃねえ・・・!」
「なっ・・・!?」
またもや立ち上がるソーマ!そして・・・!
ドガァッ!!!バキィッ!!!ドグォッ!!!
何度も何度も倒され、しかしその度に立ち上がる・・・!
そして何度も何度もその光景が繰り返される内に、ウラムの目が驚愕に見開かれていく・・・!
(これは・・・この光景は・・・)
そう私は知っている、この光景を見た事がある・・・!
あれは600年前・・・魔神王に立ち向かった勇者と呼ばれた男
何度倒れても立ち上がった、金色の髪の青年・・・!
「俺はまだ負けてねーぞ!ウラム!!!」
目の前に立つ男はまさにその再来だ!
満身創痍のはずが、その瞳に宿る闘志は更に強く強く燃え盛っている!
「奇跡を起こす人間・・・再び私の前に現れたのですね・・・」
一瞬、ウラムの口元がフッと笑みを浮かべる
だが次の瞬間!ウラムの瞳が鋭く光った!
「ならば「今度こそ」!!!お前を倒す!!!」
ダッ!!!
そして!今まで反撃をするだけだったウラムが自分から突撃を仕掛ける!
「ヤバイ!ウラムの奴本気よ!!!」
ラグナが叫ぶ!
ウラムの瞳には今まで見た事のない様な気迫が宿っていた!
「おおおおおっ!!!」
猛然と雄たけびをあげながらソーマに襲い掛かるウラム!だがその時!
(ここだっ!!!)
その瞬間を待っていたとばかりにソーマが拳を振り上げる!
(何だか知らんがウラムの様子は明らかに冷静さを欠いている!そして!その隙を見落とす俺じゃない!)
迫り来るウラムの右手に対し、ソーマが左手を合わせる!
「あれはまさか!?」
「クロスカウンターにゃ!?」
狙いは完璧!
ソーマとウラムの拳が交差した!そして!
ドグォッ!!!
「ぐはっ!!!」
強烈な一撃を食らい吹っ飛ぶウラム!だが同時に!
バゴォッ!!!
「うぐぁ!!!」
ソーマの方もウラムの攻撃を食らって吹っ飛んでいた!
「って!魔王もモロに食らってるにゃ!」
「あれじゃカウンターじゃなくてただの相打ちにゃ!」
思わずそう叫ぶリィとマウ、だが・・・!
「いや、これでいい!これが狙いだ!!!」
そしてソーマは大声で叫んだ!
「どんなに強烈な攻撃だろうと!耐えればノーダメージだ!!!」
「「意味わかんねーにゃ!!!」」
そしてソーマはすかさず距離を詰めると追撃を放つ!
ドグオッ!!!
「このっ!!!」
お返しとばかりにウラムも拳を放つ!しかし!
バキィッ!!!
「ぐっ!!!・・・効かねぇえええええ!!!」
ソーマはその拳をかわそうともせず!ウラムの攻撃を食らいながら更に攻撃を続ける!
(戦闘技術の違い?百も承知だ!アイツの攻撃をかわすような技術は俺にはない!なら最初からやるべき事は決まってる!)
「うおおおおおおっ!!!」
「くっ!!!このおおおおおっ!!!」
ドガッ!バキィ!!ドグォッ!!!
(避けられないなら耐えるしかない!一発でも多く耐えて!代わりに一発でも多くぶち込む!これは最初からそういう勝負だ!)
お互いに激しく殴りあうソーマとウラム!
その時、ウラムに一つの疑問がよぎる・・・
(私は何をやっている・・・!?)
それは、不可解な自分の行動に対する疑問
(いくらパワーとスピードがあろうと、相手はただの素人だ。技を使え、剣を使え、魔法を使え!!!そうすれば一瞬でカタがつく!!!)
そして迫り来る拳を見据え反撃の態勢に移る!しかし!
(いや駄目だ!それでは勝てない!!!)
ドグォッ!!!
ウラムはその拳をかわさず受け止める!
(ここで引けば戦いに勝利したとしても。「私の心」が!この男に敗北を認める事になる!だから!決して引くわけにはいかない!!!)
そしてすかさずソーマを殴り返す!
「くっ!!!いい加減倒れたらどうですか!!!」
「お前こそ!!!とっとと倒れろ!!!」
ガンッ!!!ドガッ!!!
互いの強烈な攻撃に耐えながら、更に攻撃を繰り返す二人!
その時、ウラムは一つの答えにたどり着いていた
(そうか・・・今分かった。600年前、何故あの男が倒れなかったのか・・・)
余命幾ばくもない、既に限界を迎えた身体でありながら
何度でも立ち上がり、私に立ち向かってきた勇者と呼ばれた青年
(勇者の使命、世界を救う為。もしかしたらその様な物の為なのかと、私は思っていた。だがそれは違った。彼も同じだったのだ。「今の私と」同じなのだ・・・!)
そしてソーマとウラム!二人の魔王は!
拳と共にその心をぶつけ合う!
「そう、これは!」
「ええ、これは!」
ドグオッ!!!!!
「「これは!!!ただの意地の張り合いだ!!!」」
目の前の男に負けたくないという意地!!!
それだけが身体を奮い立たせ、拳を前に突き出させている!
そうだ、理由はそれだけで十分だ!
そして!互いに咆哮を上げながら拳を振るう二人!
「「うおおおおおおおおおっ!!!!!」」
交差する拳!
ドガァッッッッッ!!!!!
二人の魔王の戦いは更に激しさを増していくのだった!!!




