表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
完結編:LORD of EVIL
134/145

魔神王と600年前の続き

:魔神王と600年前の続き


「では、最後の戦いを始めましょう魔王様。今一度私に奇跡を見せて下さい。この私を倒す程の奇跡を」


そう言って俺達の前に立ち塞がったのは、魔王軍幹部のウラムだった!

突然の俺達への宣戦布告、だが俺は冷静に言葉を返す


「いきなりバトルとか、随分急だなウラム」

「あまり驚かないのですね?」

「まあ大体予想は出来てたからな、それで?何でこのタイミングなんだ?」

「・・・まあ、こちらにも色々と都合があるとだけ言っておきましょう」


そう言って言葉を濁すウラム、答える気は無いと言った所だろうか


「まあそっちに何か都合があるのは分かったが、生憎こっちに受ける理由は無いぞ?一銭にもならないバトルなんか御免だ」

「ハハハッ、まあ魔王様ならそう言うと思いましたが。ですが、受ける理由ならありますよ」


首を傾げる俺に向かって、ウラムは言った


「最初に断っておきますが。実は私、世界を滅ぼそうと思っていまして」

「なっ!?」

「いえ、正確には世界を創り変えるですが」


そんなとんでもない事を言ってのけるウラム

だがそれは決して妄想でも妄言でもない

何故なら、目の前のこの男は実際にそれが可能な力を持っているからだ


「・・・それで?どんな世界にしようって言うんだ?」


そう質問する俺に、ウラムは静かに答える


「闘争の世界」

「闘争?」

「ええ、人間も魔族も関係ない。全ての命がその存在を賭けて争い続ける世界、強き物だけが生き残るそんな世界です」


ウラムの答えを聞いた俺は声を荒げる!


「ふざけんな!!!そんなもん地獄と同じだろうが!!!そんな世界誰も望んでねーぞ!!!」

「ええ、そう仰るのも予想済みです。ですから私を倒して計画を阻止してみせて下さい、それが世界を救う唯一の方法です」

「ウラム・・・!」


俺はウラムを睨みつける、コイツは本当に本気なのか!?

その時、俺の前にアリアが進み出る


「ソーマさん、下がってください。ここからは私の役目です」

「アリア!」


そう言って聖剣を構えるアリアを見てウラムはニヤリと笑う

そして、アリアに向かって笑みを浮かべたまま言った


「勇者アリア、あの男の末裔。この時を楽しみにしていましたよ」

「あの男・・・。ご先祖・・・アルゼア様の事ですか?」

「ええ、その通りです」

「ウラムさんはアルゼア様と知り合いだったんですか?」


アリアのその言葉に、ウラムは昔を懐かしむ様に言う


「ええ。何を隠そう、私の最初の計画を阻止したのが彼、勇者アルゼアだったのです」

「ご先祖様が!?」

「とは言っても。彼は私を斬った最後の一撃で力を使い果たし倒れ、私もまたその一撃で重傷を負ったので両者痛み分けと言った感じでしたが」

「相打ち・・・」

「そう、私と彼の戦いは決着が付かなかった。そこで私は彼に去り際こう言いました」




(何百年後か、私が力を取り戻したその時。貴方の力を受け継ぐ者が、私を倒しに来るのを楽しみに待っています)




「・・・そして今。私の前にアリアさん、貴方が立っている」


そう言ってウラムは、アリアを真っ直ぐ見据える

それは敵意でも殺意でもない

純粋な闘志、闘いだけを望む意思だ

それを受けたアリアは、少しだけ目を伏せた後語りだす


「600年前、人間と魔族の争いは終結し、そしてそれと同時に勇者の役割も終わった。それでも私達勇者の末裔は、その力を絶やす事なく受け継いできた。それは、先祖代々に語られる言い伝えが有ったからです」

「どんな言い伝えですか?」

「・・・いつの日か、強大な闇が復活する日が来る、私達勇者はそれに対抗する為の存在なのだ・・・と。私だけでなく、私の父も祖父も子供の頃からずっと聞かされてきたそうです」

「・・・なるほど、彼は約束を守ったのですね。ええ、その言い伝えの通り600年の時を経て誓いは果たされました!今この場に「勇者」と「魔神王」が再び相対した!!!」

「ウラムさん・・・いえ、「魔神王ウィズ=ウラム」!!!勇者の末裔の誇りに賭けて!「勇者アリスティア・ハーフェン」が貴方を倒します!!!」


そして二人は戦闘体勢に入る!


「それでいい。では、あの日の続きを始めましょう!!!」


ゴオオオオオオオオオオオッ!!!!!


力を解放するウラム!

ウラムの周囲に激しく渦巻く魔力は、もはや竜巻等の自然現象すら超えている!

だがアリアは聖剣を構えると、その中心に向かって一気に突撃する!


「行きます!」

「ええ!来なさい!」


そして二人の剣が交差する!

勇者対魔神王の、世界の命運を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた!






「はあああああああっ!!!!!」


アリアが上段に剣を構え突撃する!そして!


(今のウラムさん相手に手加減なんてしたらこっちがやられる!最初から全力で行く!!!)


その左目が赤に、右目が紫に輝く!!!


「正と負の魔力の同時コントロールですか、本当に人間は予想外の成長をする生き物です」


そう言いながらウラムは剣を構えると、アリアの剣を受ける態勢を取る!


ブンッ!!!


そしてアリアが渾身の力を込めた一撃を振り下ろした!だが!


キイィィィンッ!!!


「なっ!?」


それはまさに達人の技としか言いようがない技、いや業だ!

アリアの渾身の一撃が叩き込まれる刹那!

その驚異的な破壊力を全て、ウラムは刀身を滑らせる様にして受け流した!

力の軌道を逸らされアリアの態勢が崩れる!


「隙ありですよ!」


ブンッ!!!


すかさずアリアの胴体に向かって剣を振るうウラム!


「くっ!!!」


だがアリアは態勢が崩れた状態でなんとかその剣を受け止める!


「まだまだ!防ぎきれますか!?」


ギンッ!!ガァンッ!!


畳み掛けるように連撃を繰り出すウラムの剣を下がりながらなんとか受けるアリア!


(やっぱり強い!力だけならもしかしたらこっちの方が上かもしれない、けど剣の技量はウラムさんの方が圧倒的に上!!!)


このままでは押し切られると判断したアリアは流れを変える為、左手をウラムに向かってかざし!そして!


「ディバインシールド・バースト!!!」


キィィィン!!!ゴオッ!!!


アリアが咄嗟に使った魔法は、以前アリアが天使に操られていた時に使った魔法!

シールドを爆発させるように一気に広範囲に展開し敵を吹き飛ばす魔法だ!


「おっと・・・!」


そのシールドに押し出される様に吹き飛ばされるウラム!

そして間合いを離し、一度仕切りなおしたアリアは聖剣を両手持ちで構える!


「ほう、仕掛けてきますか・・・!」


それはアリアの必殺技の構え!


ゴゴゴゴゴッッッッッ!!!!!


その刀身に光と闇の魔力が捻れながら集中していく!そして!


「ディバインスラッシュ・カオスッ!!!!!」


ゴオッ!!!!!


アリアが掛け声と共に剣を振るう!それと同時に凄まじい威力の魔力の奔流が放たれた!

勇者が全力で放つ、正に世界をも砕く最強の一撃!


「フッ・・・」


だがウラムはこれを回避せず、真っ向から対峙する!

そしてなんと!ウラムは障壁を展開させアリアの一撃を受け止めた!


ゴオオオオオオオオッッ!!!!!


「なっ!?私のディバインスラッシュを!!!」

「ふむ・・・どれ程かと思いましたが、この程度では話になりませんね」


そしてウラムは受け止めた魔力の奔流を・・・!


「はあっ!!!


ドンッ・・・!!!


気合と共に上空へと吹き飛ばした!

そしてウラムは、余裕の笑みを浮かべたまま言う


「さて、では次は何を見せてくれるのですか?」


まだまだ余力を残しているウラムに対し、必殺技を破られた事に動揺を隠せないアリア


「くっ・・・!」


ザッ・・・


その時、アリアの足が無意識に半歩後ろに下がる・・・!


「・・・それで終わりだと言うなら、もう貴方に用はありません」


そして今度はウラムが仕掛けた!

剣を振りかぶりアリアに斬りつけようとする!だがその瞬間!!!


「・・・ッ!!!」


ブンッ!!!


咄嗟にウラムは体を逸らすとその剣をかわす!その一撃は!


「チッ!外した!!!」


それはラグナの奇襲!

その背後からの一撃をかわしたウラムは一度間合いを離す!

そして、いつも通りの微笑を浮かべたまま、ウラムはラグナに言う


「おっと、そう言えば貴方も居たんでしたねラグナ」

「ええ。私はソーマくんに付くわよ、文句は無いわよね?」

「まあ当然と言えば当然です。まだ昔の事を恨んでるんですか?」

「当たり前でしょ?私、借りは必ず返すタイプなの、600年分の借り、返させてもらうわ!」


そう言ってウラムに殺気を向けるラグナ、そしてラグナは続けて大声で叫んだ!


「ギガス!アンタはどっちに付くの!?」


それは後方でこの闘いをじっと見つめていたギガスへの言葉、だが


「・・・・・・」


ギガスはその言葉に答えず、無言でその場に立ち尽くしている


「無視・・・!?まあいいわ、敵でないだけマシね」

「ラグナさん!」

「アリアちゃん、二人同時で行くわよ」

「で、でも!」

「今のウラム相手に一人で戦うなんて無謀よ!」

「・・・はい、分かりました!」


そして剣を構えるアリアとラグナ!


「というわけで、二人がかりでやらせてもらうわ」

「ええ、もちろん構いませんよ」


そう言ってウラムも剣を構える!

そしてアリア達とウラムの闘いは、更に激しさを増していくのだった!






闘いが更なる展開を迎えようとしていた、その時・・・

俺はある場所へ向かう人影を見つけ、その後を追っていた


「グ・・・ガハッ・・・クソが・・・!」


瀕死の状態でなんとか立ち上がる六枚羽根の天使ジョシュア

だがその足元がフラつくと、その場に膝をついた


「・・・ジョシュア先輩」


その時、ジョシュアの目の前に一人の人物が現れる

悲しそうな表情でジョシュアを見つめる二枚羽根の天使、フィーリスだった

自分の目の前に現れたフィーリスを見ながら


「生きていたとは聞いていたが・・・クッ・・・クックックッ・・・」


そう言って笑うジョシュア。そして・・・


ブンッ!


「えっ!?」


ある物をフィーリスに投げてよこす

それは、ジョシュアが手に持っていた拳銃だった

その銃を手にして戸惑うフィーリスに向かって、ジョシュアは言った


「今の俺なら、二級天使のお前でも引き金を引くだけで殺せるぞ。復讐しにきたんだろ?殺れよ」

「ッ!!!」


その言葉に動揺するフィーリス

そして、半年前の事を思い出す




(お前・・・もう消えろ)




そう言って、目の前の男は私を撃ったのだ

運良く助かったが、間違いなく殺すつもりだった銃弾


(そうっス、あの時自分は殺されかけた・・・ここで復讐するのは当然・・・でも・・・自分は・・・)


何かを考える様に俯くフィーリス、そして・・・


ガシャン・・・!


「いえ、自分は撃たないっスよ。ジョシュア先輩」


そう言って持っていた銃を落とす、その瞬間!


「ふざけるな!!!」


ジョシュアがフィーリスに向かって大声で叫んだ!

そして続けて叫ぶ!


「二級ごときが!俺に情けをかける気か!?俺を哀れむ気か!?」

「違うっスよ!そんなんじゃなくて!」

「俺はエリートだ!お前とは違う!俺には力があるんだ!!!」


そう叫ぶジョシュアに向かって、フィーリスはボソりと呟く


「力がなくちゃダメなんでスか・・・?」

「何だと・・・?」

「力なんてなくたって、いいじゃないっスか!」


そうジョシュアに向かって叫ぶフィーリス、だが・・・


「ふざけた事をぬかすな二級天使!俺はそんな生温い考え方をする気はない!俺には誰にも負けない力がある!それを証明する!そうすれば、今度こそ世界は俺を認める!!俺を認めようとしなかった奴等も、力さえあれば俺を認めざるを得ないはずだ!!!この世界は力が全てだ!!!」

「ジョシュア先輩・・・どうして分かってくれないっスか・・・」


何を言っても彼の心は変えられない

その事をフィーリスが悟った、その時!


「だったら、何度でも相手になってやる」


背後から聞こえてきた声に振り向くフィーリス!


「魔王さん!」

「テメエ・・・魔王・・・!」


こちらを睨みつけてくるジョシュアに向かって、俺は続ける


「俺達が気に入らないんだろ?殺したい程憎いんだろ?」

「ああ!そうだ!!!テメエ等だけは絶対に許さねえ!!!」

「だったら挑んで来い。何時でも何度でも相手になってやる」

「何っ!?」


俺の放った言葉に意外そうに声を上げるジョシュア、だが俺は続けて・・・


「ただし言っておくぞ、今のお前じゃ俺達には絶対に勝てねえ」


そう、俺はジョシュアに向かって断言する


「何だと・・・!?」

「お前が言う通り、力が全てってのは間違っているとは思わない。けどお前は本当の力が何なのか見えてない、だから俺達には勝てない。少なくとも今のままならな」


俺はキッパリと、ジョシュアに向かって言い放つ


「テメエ・・・!」


その言葉に、ジョシュアはしばらくそのまま俺を睨みつけていた


「・・・・・・」


だが、俺は無言でジョシュアに相対する

いくら瀕死とはいえ、ジョシュアにとってただの人間である俺を殺す事など簡単だろう

今仕掛けられれば俺が助かる術は無い、だが・・・


「チッ・・・」


ジョシュアは仕掛けて来なかった


「・・・いつか、今の言葉を後悔させてやる」


そして俺に向かって一言告げると空へ飛び上がり、遠くに飛び去って行った






ジョシュアが飛び去って行った方向を、俺とフィーリスは二人で見つめていた。その時・・・


「これで・・・良かったっスか?」


フィーリスがボソリと、呟く様に言った


「さあな」


俺は空を見たままそう言う、そして


「アイツは紛れもなく悪党だし、アイツのやっていた事は絶対に間違っている」

「だったら・・・」

「けどな、それでもアイツにはアイツなりの理由があってそんな悪党をやってたんだ。それを突然全て無かった事にして改心しましたなんて、そんな簡単にはいかないだろう」


実際の所、アイツが本当は何を考えていたかなど分からない、理解する気もない

だが、アイツにも命を賭けて戦う理由があったのだろうと言う事だけは分かる


「・・・じゃあ、もう分かり合うのは無理って事っスか?」

「いや、後はアイツ次第って事だ。少なくともアイツの目的は変わったはずだしな」

「目的?何か変わったっスか?」

「アイツはさっき、俺に向かって仕掛けて来なかった。それはつまり俺を殺す事より、俺に勝つ事がアイツの目的に変わったって事だ。無防備な俺を倒した所で、俺達に勝ったなんて言えないからな」

「あ・・・」


そう、確かにアイツは悪党だが今までとは何かが変わったはずだ

その何かが、アイツをどう変えるのかは今はまだ分からないが


「これでアイツの目的は自分を認めなかった世界を見返すなんてよく分からない物じゃなく、俺達魔王軍を倒すって言うシンプルな物になったはず。やる事がシンプルになった分、周りを見渡す余裕も出来るだろ。そうなりゃ、今まで見えなかった物も見えてくるはずだ」


そう淡々と言う俺に向かって、フィーリスが少し笑みを浮かべながら言った


「ジョシュア先輩の事・・・よく分かってるみたいっスね」

「・・・まあ、なんとなくだけどな」


俺は苦笑しながらそう言い、そして続けて呟いた


「アイツは俺だ。力だけを信じ、その他の何も信じようとしなかった昔の俺だ。この世界にやってこなければ、俺はアイツと同じになっていたはず。だから、なんとなく分かるんだ・・・」


そう、俺とアイツは似た者同士だったのだ

同じように世界を憎み、同じ様に力だけを信じた

アイツに対する嫌悪は、鏡に映った俺自身に対する嫌悪でもあった

だが、たった一つのきっかけが俺とアイツを分けた

偶然俺の所に転がり込んできた物が、アイツの所にはやってこなかった

ただそれだけの差だったのだ


・・・・・・


その後、俺とフィーリスは無言で立ち尽くしていた。だがしばらくして・・・


「自分は・・・信じてるっス」


そう、フィーリスは呟いた


「信じてる?」

「ジョシュア先輩も、いつか信じられる何かを見つけられるって・・・」


そう、フィーリスは迷いのない顔で言った






二人で行動した期間はほんの僅か

性格は最悪だと思ったし、ハッキリ言って大嫌いだった。もちろん今でも・・・


(けど、自分だけは・・・ジョシュア・レドヴァインという天使を認めてたっスから)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ