魔王と頼れる幹部達
:魔王と頼れる幹部達
俺達が賞金を手に入れる為、セレンディア一武道会に参加する事を決定してから2週間
あっという間にその日がやってきた
「さあ皆様!間もなく始まります!セレンディア最強を決める戦い!セレンディア一武道会が!!!」
ワアアアアアッ!!!
実況の声に沸く観客席
遥かな昔の戦場跡には、この戦いを一目見ようと大勢の人々が集まっていた
「16組の屈強な戦士達による5対5の戦い!そしてトーナメント方式で勝ちあがった最後の一組が、優勝となります!」
観客席近くの大型モニターにトーナメント表が表示される、そして
「それでは、第一回戦第一試合を始めます!まずはいきなり優勝候補最有力チーム!「魔王軍」の登場です!!!」
実況の合図と共に俺達がゲートから現れ、観客席から歓声があがる!
「おお、結構人気みたいだな俺達!」
「緊張するっスねぇ~・・・」
おどおどした様子で辺りを見渡すフィーリス
その時、観客席から聞きなれた声が聞こえてきた
「ソーマさま~頑張って下さい~~!」
「おう~~!」
手を振りながら声を上げるミケに、俺も手を振って応える
そして、ミケの他にも俺達を応援する声
「にゃー!みんな頑張れにゃー!」
「やっちまえにゃー!塵しにゃー!」
「賞金ゲットの邪魔する奴は指先一つでダウンにゃー!」
そう、ミケの横には例の3人の姿もあった
「アイツ等、忙しいんじゃなかったのか・・・」
呆れたように呟く俺
まあ合コンが流れて、憂さ晴らしに歓声をあげに来たって所だろう
その時、一回戦の相手が姿を見せる
「対するは!北方ウィングラス地方で最強と名高い傭兵!チーム「焔の剣」!!!」
俺達の前に現れたのは、正に屈強と呼ぶのが相応しい戦士達
一般的な剣を持った男が二人に、大きな斧を持った巨漢の男が一人
そして魔法使いなのだろうか?杖を持った男が二人
そんないかにも強そうな面々を目の前にしながら俺は・・・
「え?ていうかこの世界に傭兵とか居るの?」
と、素朴な疑問を呟く
「戦争はずっと昔に終わりましたけど、凶暴なモンスター達が多い地域もまだまだ沢山ありますから。そこで護衛等の為、武装した人達が必要になるというわけなんです。かくいう私も、旅の途中で日銭を稼ぐ為傭兵をやってた事もありますし」
俺の素朴な疑問に対し、そう笑いながら答えるアリア
「日雇いのバイトみたいなもんか」
「勇者じゃお金は稼げない・・・現実は無常」
「うう・・・ティスちゃん~~」
と言った感じで和やかに談笑する俺達
だがどうやら、それが相手のカンに触ったらしい
相手のリーダー格と思われる男が俺を睨みつけて言った
「魔王だかなんだか知らないが、いつまでそんな余裕で居られるかな?北方の厳しい雪の中、幾多のモンスター達を葬ってきた俺達の力を見せてやるぜ!」
「え?えーっと・・・まあよろしく」
と言われても、俺は全くの無力な一般人なんだけどな・・・
何やら気合十分と言った相手リーダーに、俺は間のぬけた返事を返すのだった
そして戦闘開始の時間が近づき、俺達はそれぞれの戦闘開始地点に移動する
「皆様お待たせ致しました!セレンディア一武道会第一回戦第一試合!!!「魔王軍」対「焔の剣」!!!それでは・・・試合開始!!!」
その言葉と同時に、試合開始のブザーが鳴る!
そしてそれと同時にこちらに向かって突撃してくる「焔の剣」の5人!
「よし!いつも通りのフォーメーションで・・・!」
「リーダーあれを見て下さい!!!」
「何?・・・あれは!!!」
突撃しながらこちらの布陣を確認した男が驚きの声を上げる!
「おーーーっと!?これは魔王軍どう言う事だ!?前に出ているのはティスプリア選手とギガメリウス選手の二人だけ!あとの3人は後方で待機している!!!」
そう、実況の叫んだ通り
あの傭兵達と戦うのはティスとギガスの二人だけだ
まあ、そもそも俺とフィーリスは最初から戦力外だしアリアは・・・
「あの~、私も待機でいいんでしょうか?」
「ああ。参加前はああ言ったが、アリアが戦闘に参加すると一瞬で試合が終わっちまうからな。それはこのイベント的に非常にマズイ」
「むう~・・・」
そう残念そうにするアリア
だが、前線に目を向けると落ち着いた声で言った
「でも、私が参加しなくてもあまり変わらないと思いますよ?」
その時、「焔の剣」のリーダーが忌々しそうに呟く
「クソっ!ナメやがって・・・!」
そして他のメンバーに向かって叫んだ!
「まずは雑魚からだ!こいつらを倒して後ろの奴等を引きずり出してやるぞ!!!」
その時・・・
ピキッ!
「雑魚・・・?」
ティスの表情が僅かに厳しくなる、そして・・・!
「へぇ・・・この私達を雑魚呼ばわりするなんて・・・人間も偉くなったものねぇ・・・」
妖艶な笑みを浮かべながら、ラグナの人格が表に表れた!
舌なめずりしながら獲物を見定めるラグナにギガスが言う
「ラグナ殿・・・」
「分かってるわよ、殺しは無しでしょ?ちょーーーっとキツめに教育してあげるだけよ!」
ピキピキピキッ!
その言葉と同時に空気が凍り剣となる!
そして剣を精製したラグナは次の瞬間!!!
ドンッ!!!
ブースターで加速したかの様に一瞬で間合いを詰める!!!
「なっ!?」
そして振り下ろされるラグナの剣!しかし!
ガキィンッ!!!
その凄まじい速度の踏み込みの一撃をなんとか受けとめる焔の剣のリーダー!
「へえ?今のを受けるなんて褒めてあげるわ」
「くっ!」
その一撃で瞬時に力の差を理解する焔の剣のリーダー!
(目の前の魔族は自分より遥かに強い!だが!!!)
次の瞬間!焔の剣のリーダーは剣を引くと即座に間合いを離す!
「あら?引くの?」
「自分より強い相手に正面から挑む程馬鹿じゃないんでな!」
「冷静ね、相手との実力差を正しく認識する判断力もある。でも、逃がすと思うのかしら?」
そう言ってラグナが追撃を行おうとした、その瞬間!
「ファイアボール!!!」
ゴオッ!!!
ラグナの左右にそれぞれ回りこんでいた魔法使いが炎の魔法を撃ち込んだ!
「ッ!?」
ラグナは氷の障壁を展開すると攻撃を防御する!
「包囲された?誘い込まれたって事?歴戦の兵ってのは嘘じゃなさそうね」
「当然だ。俺達焔の剣を甘くみるなよ!」
正面に一人、左右に一人づつ、いつの間にか後ろにも一人剣を持った男、合計4人による包囲
あとの一人はギガスの所だろうか?一人が足止めをして4人で一気に一人を倒し、数的有利を作り出す作戦だろう
その時、ギガスがラグナに向かって声を上げる
「援護は必要ですか?ラグナ殿」
「要らないわ、邪魔よ」
そしてラグナはニヤリと笑みを浮かべながら4人を相手に剣を構える!
「強がりを!いくら強くても4対1でどこまで保つかな!?」
じりじりとラグナとの間合いを詰めていく4人!そして!
「ファイアボール!!!」
左右に回り込んでいた魔法使いが同時に炎の魔法を撃った!次の瞬間!!!
ドォンッ!!!
「ぐあっ!!!」
「うああ!!!」
左右の魔法使い達が攻撃を食らって怯む、二人に向かってきた攻撃は・・・!
「おい!何やってる!?敵を攻撃しろ!!!」
「そっちこそ!俺を攻撃してどうする!?」
そう、それは左右の魔法使いがそれぞれ放った攻撃魔法だった!
二人が放った攻撃魔法はラグナの横をかすめ、互いへと向かっていったのだ!
「一体何してるお前達!?」
ラグナの正面に立っている剣士、焔の剣のリーダーが叫ぶ!
(何が起こった?今、あの魔族はその場を一歩も動いていなかった。あいつらがただ攻撃を外してお互いめがけて撃った?いや、そんな素人みたいな失敗をするわけ・・・)
その間もラグナはその場を動かず、何か集中している様子で剣を構えたまま立っているだけだ
「くそっ!もう一撃!ファイアボール!!!」
ゴオッ!!!
その時、魔法使いの一人がもう一度攻撃を仕掛けるが!
ドォンッ!!!
「ぐあっ!!!おい!だから敵を攻撃しろ!!!」
やはりその魔法は、ラグナではなく向かい合う味方に向かって飛んでいった!
「いや!俺は確かにあの魔族に向かって!!!」
敵は一歩も動いていないにも関わらず、こちらが勝手に同士討ちをしてダメージを蓄積している
その不可思議な状況に、訳が分からないと言った様子の4人
「くっ!魔法が駄目なら!!!」
背後に回っていた剣士が業を煮やしラグナに向かって突っ込む!
だがやはり、それに対してラグナはその場から動かない!
ブオンッ!!!
そして剣士が剣を振り下ろした瞬間!
ヒュンッ!!!ギンッ!
その剣はラグナの体を通り抜けた!そして剣先が地面にぶつかる!
「なっ!?」
目の前の光景に動揺する剣士!
そして次の瞬間、剣士の目の前に居たラグナの姿がスッーと消えていく
「何なんだこれは!?」
その時、困惑する4人にどこからともなく声が聞こえてきた
「ここは結界の内側、この「霧氷将軍ティスプリア」の霧の結界」
それは先程の魔族の声こそ同じではあるが、喋り方は全く違う声
「結界だと!?」
「今、目に見えている物が目の前にある光景とは限らない・・・えっとVRゲームみたいな物」
「VRゲーム?」
その言葉に首を傾げる4人、そして声は続けて言った
「そう、本当の私は・・・」
ピキピキピキッ!!!
次の瞬間!彼等が持っていた武器が瞬時に凍りつき!
ガシャーンッ!!!
コナゴナに砕け散った!そして・・・!
「貴方の真後ろに居た」
「なっ・・・!」
自分の真後ろから聞こえてきた声!
咄嗟にリーダーが振り向いたと同時に、スッと目の前にティスの手が突き出される。そして!
バチーン!
ティスのデコピンがリーダーの額に炸裂!
「うぐあ・・・」
その一撃を食らってリーダーは昏倒した!
その時、ティスの内側からラグナの声が聞こえてくる
(ほらティス、何か言ってやりなさい)
「何か・・・?う~ん・・・」
唖然とした様子で尻餅をついている他の3人の前で、何を言うべきかティスは考え込む
そしてしばらくしてから・・・
「えっと・・・やーい、ざこー・・・」
と無表情のまま煽って去っていった
「さすがはラグナ殿・・・いえ、今のはティス殿ですか」
その様子を少し離れた所から眺めていたギガス、その時!
「もらった!!!」
ブオンッ!!!
ギガスの背後から巨大な斧が振り下ろされる!
その斧は完全にギガスのボディを捉えていた!だが!
ガキィィイィン!!!
ギガスのボディに直撃した斧が砕け散った!
「なっ!?」
敵のボディではなく、逆に自分の武器が砕け散った事に驚く巨漢の男!
その時、ギガスが砕け散った斧の破片を解析し言う
「タグライト製ですか、なかなか良い金属を使っていますね。ですがこの超合金Mのボディは、こんな攻撃ではビクともしません」
次の瞬間、パシュッとワイヤーに繋がれた二本の針の様な物がギガスのボディから射出される
そして二本の針が巨漢の男にプスリと刺さった次の瞬間!
バリバリバリバリッ!!!
「ごえええええええええええ!!!!!」
ワイヤーを通して送られたを強烈な電気ショックで倒れる男!
そして倒れた男に対しギガスは
「代わりの武器が必要であれば、是非我々魔王軍にご注文下さい」
そう冷静に営業トークを告げた
その次の瞬間・・・!
「し・・・試合終了ーーーーー!!!!!」
実況の声が辺りに響き渡った!
「圧倒的!!!なんとあの「焔の剣」をたった二人で完封!!!強い!強すぎる「魔王軍」!!!」
ワアアアアアッ!!!
それと同時に観客席から歓声が沸き起こる!
その時、後方で待機していた俺達の下にティスとギガスが戻ってきた
「お疲れティス、ギガス」
「よゆー」
「この程度ならば何の問題もありません」
ティス達を労う俺、その時アリア達が言った
「ほら、私の言った通りじゃないですか~」
「ティスちゃんもギガスさんも強すぎっス!」
「そうだな、でも相手も決して弱かったわけじゃないんだろ?」
「人間にしては強い方だった、でも私達の相手じゃない」
「ふーむ」
ティスの言葉の通りなら、この大会の中では焔の剣はかなりの強豪チームだったのだろう
しかし、人間レベルの強豪程度では魔王軍幹部の相手は全く務まらない様だ
(こいつらが強いのは分かってたが、ここまで圧倒的だったとは・・・)
となると、他のチームも大体これぐらいと言う事だろうか?
確実に賞金が手に入りそうなのは良い事ではあるのだが・・・
(一瞬で終わったり、つまらない試合展開だとイベントが盛り下がっちまうだろうしなぁ・・・)
そう、この時点で俺の狙いは賞金だけではなくなっていた
このイベントを成功させ、魔王軍の知名度も上げる一石二鳥の作戦というわけだ
(まあ、適度に手を抜きつつやっていくしかないか)
そして二回戦へと備え、控え室に戻っていく俺達
その時、俺達を見つめる黒い影が一つ
「・・・魔王・・・勇者・・・テメエ等を・・・!!!」
密かに向けられる敵意、いや殺意に
俺達はまだ気付いていなかった




