魔王と本当の切り札
:魔王と本当の切り札
セレンディアを覆った赤い流星群
その美しい光景に、世界中の人々が空を見上げ見惚れていた
・・・・・・
そして少しづつ流れる星が消えていき、数分も経つと空は元の姿に戻っていく
その元通りになった空を見上げながら、俺は身体を思いっきり伸ばした後・・・
「んじゃ帰るか」
と、全員に向かって言った
「はい!帰りましょうソーマさん!」
アリアがそう答えると、俺達は城に戻って歩いていく。だがその時・・・!
「待て・・・貴様ら・・・」
突然聞こえてきた声に俺達は驚き振り向く!
そこに立っていたのはなんと、セラフ・ロードガイウスだった!
「セラフ!?」
だが、ガイウスは息も絶え絶えと言った状態・・・!
腹部には人間なら即死は間違いないであろう大穴が開いており、羽根は一枚減って7枚
とてもじゃないが、戦闘が可能な状態には見えない
「ッ!!!!!」
しかしその目は死んでおらず、こちらを執念の宿った瞳で睨みつけていた!
俺はウラムに問いかける
「お前、トドメを刺してなかったのか?」
俺の質問に、ウラムは露骨に嫌そうな顔で答える
「え?嫌ですよ。セラフ殺しなんて、全宇宙指名手配ものですよ」
「・・・何を今更、って感じね」
そんなウラムにラグナが呆れたように呟く
まあともかく、セラフが生きていた事には驚いたが特に大した問題ではない。何故なら・・・
「見ての通り、メギドは木っ端微塵に消えて無くなった。俺達の勝ちだ、大人しく天界に帰るんだな」
そう、すでに決着は付いているのだ
俺は余裕の笑みでガイウスに向かってそう言った。だが・・・
「クッ・・・クックックッ・・・」
俺の言葉を聞いたガイウスは何故か笑みを浮かべる
眉をひそめる俺に向かって、ガイウスは言った
「勝利だと?クックッ・・・まだ戦いは終わっていない・・・!」
「まだ続ける気かよ?だがメギドって切り札を失ったお前らに、勝ち目なんて残ってないぞ?」
「切り札を失っただと・・・?クックッ・・・ハッハッハッハッ!」
「・・・?」
不可解なガイウスの様子に俺は疑問を浮かべる
(何だ?負け惜しみ?気がふれた?いや、このセラフはそんな程度の奴じゃない。これは一体・・・?)
怪訝に思う俺に、ガイウスは衝撃的な言葉を告げた・・・!
「たった一つメギドを破壊しただけで勝利したつもりとはな!」
その言葉の意味を理解した俺は叫ぶ!
「たった一つ・・・?それはまさか!!!???」
「お前が想像した通りだ、人工惑星メギドは複数存在している。そして私が命令すれば、すぐさま第二のメギドがこの星に向かって放たれるのだ!」
「なっ!!!」
2発目のメギド!!!メギドがもう一発だと!?
魔力結晶石を失った今、それが放たれればもう防ぐ手立ては無い!!!
「今回の様な奇跡は二度も起こらんぞ!!!」
そしてガイウスは端末を持った右手を高く挙げる!
「マ、マズイ!!!誰か奴を止めろ!!!」
「は、はい!!!」
すかさずアリア達が突撃する構えを見せる!だが!
「もう遅い!!!メギドは今再び!放たれる!!!」
こちらが止める間もなくガイウスは右手の指を動かし端末のボタンを押した!その瞬間!!!
「・・・いいえ、それは不可能っス。ロードガイウス局長」
またもや、今度は別の方向から声が現れる!その人物は・・・!
「なっ!!!フィーリス!!!???」
「お久しぶりっス、魔王さん!」
2枚の白い羽根を持った天使
一ヶ月前に死んだはずのフィーリスだった!
突然現れたフィーリスに驚く俺達!その時!
「フィーリス・ミルドヴァルド二級天使だと・・・!?お前は確か死んだはず・・・!?」
ガイウスが驚いた様な声を上げる
どうやら、フィーリスが生きていた事は天使達も把握していなかったらしい
「ていうか!なんで生きてるんだ!?」
俺はフィーリスの最後を看取ったはずのウラムを問い詰める!
「ウラム!確かフィーリスは死んだはずじゃ!?お前あの時「残念ながら・・・」って言ってたよな!?その後も「フィーリスの遺体は地下室に安置しておいた」って!」
焦ったように言う俺に対して、ウラムはあっさりと答えた
「ああ、あれは嘘です」
「嘘ぉっ!?」
俺はウラムに掴みかかると更に問い詰める!
「嘘ってどーいう事だお前えええええええええ!?」
「まあまあ落ち着いて下さい魔王様。あれです、敵を欺くにはまず味方からと言うやつです」
「欺く?それって一体・・・」
そう首を傾げる俺
その時、ガイウスがフィーリスに向かって言った
「いや、それよりも。不可能とはどういう事だ!?」
先程の言葉についてフィーリスに問い詰めるガイウス
フィーリスは今まで見た事の無い毅然とした態度で、それに答える
「ロードガイウス局長。貴方にはセラフ権限の一時剥奪、及び査問会への出頭命令が出ています」
「何だと!?」
「この星での強引な作戦行動の数々、独断でのメギドの使用。本国はそれらの行動を全て把握しています」
そのフィーリスの言葉で、俺にもなんとなく話が見えてきた
俺はウラムに問いかける
「もしかしてこの為か?フィーリスが死んだと思わせていたってのは」
「ええ、私が会議の時に言った言葉を覚えていますか?あれです・・・」
(政治的な搦め手は時間が足りないという事でしょうか?)
「ん?ああ、確かにそんな事を言ってたな」
「つまりですね・・・。逆に言えば、時間さえあれば搦め手が可能であるという意味です」
その時、フィーリスがこちらに向かって言った
「はい。あの時、ウラムさんのお陰で死んだ事になった自分は、秘密裏に本国との交渉の橋渡しをしていたっス!」
「交渉?何の為にそんな事を?」
「別にそれほど難しい話ではありませんよ。我々の力を結集すれば、天使達を撃退する事は可能であると信じていました。ですが、それでは根本的な解決にはなりません。彼等を撃退した所で、天界との関係がこじれたままでは、更なる敵を呼び寄せてしまう事になってしまいますから」
「確かに。元を押さえない限り、同じ事の繰り返しだ」
「ですから。彼等の目がメギド破壊の為のロケットに向いている間に、その元を押さえておいたというわけです」
説明されてみれば、確かに理に適っている
だが、だとしたらコイツは・・・
その時、ガイウスが驚愕した顔でウラムに言う
「ではまさか・・・あの時。一ヶ月前のあの時からすでに、この状況を想定していたという訳か・・・?」
「いえ?もっと前からです。ですがフィーリスさんがいくら良い人だと分かっていても、彼女も天界の一員である事に変わりはない。ですからすぐに協力を求めるのはリスクがありました。そこで、フィーリスさんが確実にこちらに協力してもらえると確信が得られるまで待っていたという訳です」
「全て・・・貴様の計算の内だったと・・・?」
「私はそこまで万能ではありませんよ。実際、貴方がメギドなんて物を持ち出してくるとは思いませんでしたし。メギドが落ちていれば、時間稼ぎも何もありませんでしたし。ですが皮肉にも、そのメギドが決定打になった。天界と交渉し、貴方を追い落とす決定打にね」
「馬鹿な・・・」
自らの行動により、自らにトドメを刺していた事を知るガイウス
そしてウラムは、この一ヵ月間の作戦の本当の意味を告げた
「つまり、このロケット防衛戦自体が世界の運命をかけた壮大な「陽動作戦」。我々の本当の切り札はロケットではなく、そこにいるフィーリスさんだったと言う訳です」
これまでの状況、それらが全てウラムの掌の上だった
ガイウスだけではない、俺達も含めて全員がそうだったのだ
だが、ガイウスは納得いかないと言った様に呟く
「いや・・・だがそれはありえない。我々は本国にこの星での作戦行動が漏れない様に厳重な情報統制を行っていた、通信網の掌握もその一つだ。フィーリス・ミルドヴァルド二級天使が生きていたとしても、本国への連絡手段は存在しない。万が一本国に通信が行えたとしても、二級天使の訴えを本国が聞き届けるはずが・・・!」
だが・・・その時!
「そんな事はありません。例え誰からであろうとも切なる願いを向けられれば、それに応えるのがセラフの責務。それすらも忘れてしまったのですか?セラフ・ロードガイウス」
今度は聞きなれない声、フィーリスの手元の端末からその声は聞こえてきた・・・!
「映像出るっス」
ブンッ・・・!
フィーリスがそう言うと同時に、ホログラムの像をが空中に映し出される!
そこに映っていたのは、腰まである美しい金色の髪、優しげでいてそれでいて強い意志を思わせる瞳
まさに美しいと呼ぶべき姿をした八枚羽根の天使だった!
「八枚羽根!?まさか!!」
思わずそう叫んだ俺の疑問の答えを、ガイウスが叫ぶ!
「お前は!!!セラフ・メルフィリス!!!ではまさか!!??」
「お久しぶりです、セラフ・ロードガイウス。ええ、先程そこのフィーリス・ミルドヴァルド二級天使が告げた通り、貴方のセラフ権限の一時剥奪及び査問会への召集、全て私の権限で行わせていただきました」
その時、何かに気付いたようにガイウスが言った
「そうか・・・そういう事か!セラフ・メルフィリス、いやメルフィリス・ヴィアーナ=ミルドヴァルド。お前は・・・!」
「ええ、そこに居るフィーリス・ミルドヴァルドの姉です」
その言葉に驚くミケ達!
「あれがフィーちゃんのお姉さん!?」
「物凄く綺麗な人です・・・!」
「ラグナも「あれは私でも流石に負けるかも・・・」って言ってる」
そしてメルフィリスは、ガイウスに向かって続けて言う
「フィーリス二級天使が使ったのは私のプライベート回線。セラフだけが所有を許されている完全秘匿回線で、傍受などを防ぐ一般の回線とは全く別系統の回線。もしもの時は連絡する様にと、彼女に教えておいた物です」
「それが、通信が可能だった理由・・・」
「ええ、そして・・・!」
その時、今まで威厳を持って話していたメルフィリスの表情が子供の様になると・・・!
「可愛い妹の助けを呼ぶ声に応えないお姉ちゃんなど存在しません!!!」
メルフィリスは、何故かそこだけ堂々と宣言した・・・!
「・・・」
突然の豹変に呆気に取られる俺達
だがメルフィリスは一度咳払いをすると続けた
「コホンッ・・・。さて、セラフ・ロードガイウス。今回の貴方の行動、セラフでありながら星を滅ぼそうとする行い。私達はこれを決して看過する事は出来ない。詳しい事情は査問会で説明してもらう事となるでしょうが、重い罰が下るであろう事は覚悟しておいて下さい」
そう冷たく告げるメルフィリスにガイウスは反論する!
「馬鹿な!!!考え直せメルフィリス!!!奴等はこの宇宙の秩序を乱す存在だ!これを放置しておけばこの星だけではなく、いずれ全ての星に災いをもたらす事になるのだぞ!?」
「それが貴方の正義ですか。ですがその様な事にはなりません、彼等には彼等の正義がある、私はそれを信じます」
「人の正義を信じるだと!?人間は弱く卑しい生き物だ!我々上位者である天使が管理しなくてはすぐに邪悪に染まってしまう!彼等は管理されなければならない!それが彼等自身の安寧と幸せの為でもあるのだ!!!そうだ、それこそが神が望んだ完全なる世界!!!神なき今、我々がやらねばならんのだ!!!メルフィリス!!!」
それは自らの正義を全く疑わない言葉、自らを「神の代理人」と称した男の言葉だ
しかし、そんなガイウスの正義を前にしながら
メルフィリスは静かに、だが力強く告げた
「いいえ、神はそんな世界など望んではおられません。我々は彼等を見守り、時にほんの少し手助けをする、それだけで良いのだと。それこそが、本当に神が望んでおられた事です」
「何を馬鹿な!!!」
平行線を辿るガイウスとメルフィリスの言葉、そしてメルフィリスは告げる
「・・・続きは本国で聞きます。フィーリス・ミルドヴァルド二級天使、強制転送を」
「はいっス!!!」
フィーリスが手元の端末を操作すると、ガイウスを囲むように光の球体が現れた!
恐らく転送されるのだろう
「馬鹿な!!!メルフィリスウウウウウウウウッ!!!!!」
まるで断末魔の様な声を上げるとガイウスの姿は光に包まれ見えなくなり!
ブォンッ・・・!!!!!
・・・そして消え去った
転送を確認した後、メルフィリスは呟く
「ロードガイウス・・・我々は決して上位者などではないのです。我々、そして神ですら、この世界の一部に過ぎないのですから・・・」
神を失った事により正義を暴走させた男
メルフィリスは目を瞑ると、いつかその魂が安らぐ時が訪れるのを祈るのだった
そして、しばらくして
俺とウラムは状況を確認する様に話す
「えっと・・・どうやら片付いたって事でいいのか?」
「おそらくは」
そんな俺達に、メルフィリスさんが声をかけてきた
「えっと、そちらが魔王ソーマさんでいらっしゃいますか?」
「え!?ああ、そ、そうです・・・」
穏やかな笑みを浮かべながら優しく問いかけるメルフィリスさんに圧倒され、俺はすこしどもってしまう
「・・・むっ!」
「・・・?」
「・・・んにゃ!」
何やら他から厳しい視線を向けられてる気がするが、とりあえず落ち着きを取り戻しながら続きを聞く
「この度は、天界の不始末を押し付ける様な形になってしまい誠に申し訳ありませんでした。深くお詫び致します」
そう言って頭を下げるメルフィリスさん
「ああいえ!気にしないで下さい!貴方が謝るような事じゃ!」
なんとかフォローして頭を上げてもらう、そして頭を上げたメルフィリスさんは続けて
「そして有難うございます。この星を救っていただいた事、感謝などという言葉では言い表せない程です。貴方方の勇気ある行動を、心から讃えさせて下さい」
星を救った英雄か・・・
いやまあその通りではあるんだが、面と向かって言われると気恥ずかしい
俺が顔を赤らめていると、メルフィリスさんはにっこりと笑い
「それともう一つ」
メルフィリスさんは今までの畏まった態度を解き言った
「私の妹を助けてくれて有難うございました」
それはまさに花開くと言ったような満面の笑み
だがその笑みを浮かべた後・・・メルフィリスさんは少し俯くと
「一ヶ月前・・・フィーちゃんが辺境の魔族に殺されたと報告を受けた時は「許せない・・・汚らわしい悪魔共め・・・ありとあらゆる苦痛を何百年もかけて味あわせた後、無間地獄に落としてあげます・・・」なんて思っていましたが・・・」
その言葉にゾクリと背筋が寒くなる・・・!
「でもすぐその後、死んだはずのフィーちゃんから連絡が来て!嬉しくて嬉しくて!!!お姉ちゃんすっごく心配したんだからね!!!」
「ちょっ!!みなさんが見てるっス!!!恥ずかしいっス!!!」
そう言って姉馬鹿モードに入るメルフィリスさん、どうやら妹のフィーリスをかなり溺愛していたらしい
俺はそんなメルフィリスさんに引きつった笑みで返す
その時、俺に向かってウラムがそっと耳打ちをした
「危うく、第二のセラフが襲撃してくる所でしたね」
「止めろ・・・洒落にならん・・・」
これは俺の勘だが、メルフィリスさんはあのロードガイウスよりも数倍ヤバイ相手だ
絶対に敵に回してはいけないと本能が危険信号を告げている
「いい加減にするっス!お姉ちゃん!!!」
しばらくして、フィーリスの言葉でどうやら正気を取り戻したらしいメルフィリスさんは少し顔を赤らめながら咳払いをすると
「すみませんお見苦しい所を・・・。いずれ、今回の件について詳しく事情を窺う事になりますが・・・」
「ええ、構いません」
「有難うございます。では、詳しい話は妹のフィーリスを通していずれ。それではまたお会いしましょう、皆様の道行きに神の祝福があらんことを」
ブンッ・・・!
そう言って微笑みながら、メルフィリスの姿は消えた
そして俺は頭をかきながら呟く
「魔王に神の祝福か・・・」
「まあいいんじゃないですか?貰える物は貰っておきましょう」
「そうだな。んじゃ、改めて帰るとするか。フィーリスも来るだろ?」
「はい!お邪魔するっス!」
そして今度こそ、全ての決着を付けた俺達は魔王城へと帰っていく
明日から始まる日常に思いを馳せながら・・・




