魔王と失敗と後悔だらけの人生
:魔王と失敗と後悔だらけの人生
ドサッ
上半身と下半身に両断されたウラムの身体が崩れ落ちる・・・!
「そ・・・そんにゃ・・・ウラムさんが・・・」
そして俺の正面に立ち塞がる八枚羽根の天使、セラフ・ロードガイウス
その手には、ウラムを両断し血に濡れた剣が握られていた
「くそっ!!!」
ダッ!!!
ロケットまではあとほんの少し!俺はガイウスをかわして走り出そうとする!その瞬間!
ドグオッ!!!
「うぐぁ!!!」
強烈な腹部への一撃!
ガイウスが放った拳により俺は後方に吹っ飛び地面を転がる!
「ゲホッ・・・!ゲホッ・・・!ぐっ・・・ガハッ!!!」
うずくまったまま俺は激しく咳き込み、そして・・・!
ビチャッ!
口から血を吐き出した・・・!
「失敬。力加減を間違えた様だ」
その様子を見ながら、ロードガイウスは冷静な態度のまま言う
「ソーマさん!!!」
「助けに行きますにゃ!!!」
すかさずソーマの元へと駆け出そうとするアリアとミケ、だが!
「駄目よ二人共!動いちゃ駄目!!!」
「なっ!?」
それをラグナが制止した!
「ここからじゃ間に合わない・・・!私達が助けに入ろうとすれば、アイツはすぐさまソーマくんを殺すわ。だから動いちゃ駄目よ・・・!」
それを聞いたガイウスはアリア達に告げる
「その通りだ、お前達はそこで見ているがいい。そして・・・」
そしてガイウスはスッと右手を上げると
「全部隊、攻撃を一時中止せよ」
周囲のロボット達に攻撃中止命令を出した、すぐさま行動を停止するロボット達
・・・・・・
先程まで苛烈な戦いが繰り広げられていた戦場がシーンと静まりかえる
そしてガイウスは、意外な言葉をソーマに言った
「さて、これで落ち着いて話が出来るな」
「話・・・だと?」
地面に膝をついたまま、俺はガイウスを睨みつける
だがそんな俺の様子を気にすることなく、ガイウスは語り始めた
「魔王ソーマ、いや四十万宗真よ。お前の行動はこの宇宙の秩序を乱す行動である、故にそれを許す事は出来ない。これは神の代理人たるセラフの一人、このセラフ・ロードガイウスの決定であり、それが覆る事は無い。だが・・・」
そしてガイウスは、俺の目を見たまま続ける
「だが・・・この星を守ろうとするその心を、正義を私は評価しよう。そこで一つ、お前に機会を与える」
「機会?」
「そうだ。四十万宗真よ、天界に来る気はないか?」
「なっ!?」
その提案は、この場の全員にとって全く予想しない物だった・・・!
「俺を天界に!?お前達の部下になれって事か!?」
「そうだ。偽りの正義を捨て、この宇宙を守る正しき正義の為に生きるのだ。そうすればこの世界の存続を認め、そしてお前に新たな力を与えよう」
「力だと・・・?それってまさか・・・!」
「半神計画、神の力を人の身に宿す計画だ。奇しくもこの星で計画は完成した、その力をお前に与えよう」
俺がアリアみたいな力を得る?
それは・・・
「そしてお前はその力で、全ての世界を救う救世主となるのだ。全ての世界の民がお前を讃えるだろう、救世主ソーマの名を」
「俺が・・・全ての世界を救う救世主に・・・?」
「さあ、この手を取れ」
そしてガイウスは、俺に向かって手を伸ばす
「新たな生を、私が与えてやろう」
・・・・・・・
その提案に静まり返る周囲
俺はその手を暫く見つめた後俯き、そして呟いた
「救世主・・・新たな生・・・それは・・・いいな」
俺の言葉を聞いたガイウスはフッと笑うと言った
「では神への忠誠を・・・」
だが俺は、その言葉を最後まで聞くことなく言い放つ
「だが断る」
「何?」
俺の返答に眉を潜めるガイウス、俺は続けて言う・・・
「いや、本当にいいと思う・・・。力も新しい生ってやつも、心の底から欲しいってそう思ってるよ。何せ俺の人生なんて、これまでろくでもない事続きで。幸せな出来事なんて殆ど無かったからな・・・」
「ならば断る必要は無いだろう?私の手を取るだけで、お前はそれらの苦しみから解放されるのだぞ?」
ガイウスの言葉は全くもってその通りだ・・・
それは間違いなく、全ての苦しみから俺を救ってくれるであろう提案だろう・・・
「けどなぁ!!!」
だが!俺は立ち上がると大声で叫んだ!!!
「それが俺だ!!!ここに立っている四十万宗真だ!!!」
そして俺は続けて大声で叫ぶ!!!
「ああそうだよ!!!何百回も失敗して、その何百倍も後悔してきた!!!俺の人生なんてそんなろくでもない物だったさ!!!けどそんな失敗や後悔を否定したら、ここに立っている「俺」が「俺」じゃなくなっちまうだろうが!!!そして!!!」
俺は左手の親指を自分に突きつけながら言った!
「どんなに哀れまれようが!!!どんなに蔑まれようが!!!俺は俺を捨てたいなんて思った事は一度もねーんだよ!!!!!」
その言葉を聞いたガイウスはため息をつきながら呟く
「あくまで哀れな人の身に拘るか・・・」
「当然だ!!!それにな、テメェは大きな勘違いをしてんだよ!!!」
「勘違い?」
思い当たる事が無いと首をかしげるガイウスに俺は言う!
「この星を守る!?正義の心!?なんだそりゃ!?俺がそんな物の為に戦ってるとでも思ったか!?」
「何?では何故私の前に立ち塞がる、何の為にお前は戦うのだ?」
「何でだと?分からないのか?だったら教えてやるから、耳をかっぽじってよく聞け・・・!」
そして俺は大きく息を吸うと、これまで以上の大声で叫んだ!!!
「テメーらが!!!!!俺の仲間に手出したからだろうが!!!!!」
「なっ!?」
「だから気にいらねえテメーらの気にいらねえ計画を全て叩き潰す!!!それが俺がここに立っている理由だ!!!それ以上の理由なんて存在しねえ!!!」
そう、それが俺にとって一番大事な理由。だから・・・!!!
「世界の運命なんか知った事か!!!俺は英雄でも救世主でもねーんだよ!!!俺は「魔王」だ!!!俺は「魔王ソーマ」だ!!!!!」
昇ってくる朝日を背にしながら俺は魔王である事を宣言する!
そうだ、力も新しい人生もいらない!
俺は俺のまま生きる!!!
「はい!!!それでこそソーマさんです!!!」
(いいわね・・・ソーマくん。ねえ、ティスほんのちょっとだけ・・・)
「絶対に駄目。おとうさんは私だけのおとうさん」
「ずっとずっと着いていきます!ソーマさま!!!」
俺の決断を喜ぶ仲間達!そして・・・
「そうか・・・確かに私は思い違いをしていた様だ」
ガイウスがこちらを向く、その目に宿るのは明らかな敵意!
「やはり貴様はこの宇宙の秩序を乱す邪悪だ!この場で消滅させなければならない!」
「そうかよ。だったらやってみろ!」
そして俺は、ガイウスに対して正面から向かい合う!
そんな俺をガイウスは不可解な物を見るかの様に首を傾げる
「正気か?ただの人の身でこのセラフ・ロードガイウスに立ち向かうなど、万が一にも勝機は無いぞ?」
「さあ?もしかしたら案外、奇跡ってのが起こるかもしれないぜ?」
「・・・聞くだけ無駄だな、ではさらばだ!」
そしてガイウスは剣を構えると俺に向かって突撃する!その時!
「!?」
キィィィン・・・!
中段に構えた俺の拳に光が集中する!
「なっ!?あれは一体!?」
「何をするつもり!?ソーマくん!?」
俺の拳が放つ光に動揺するアリア達!そして!
(なんだこれは!?この男はただの人間のはず!?)
予想外の事態にガイウスも焦りを見せる!
そして俺は光を纏った拳を思い切り引くと、ガイウスに向かって狙いを定めた!
(いや、もしそれが嘘だったとしたら!?この男は戦えないのではなく、戦えない「フリ」をしていただけだったとしたら!?いずれ来るかもしれないこの様な時の為に!!!)
俺の拳に、そして俺の眼に宿った光にガイウスは気圧される!
(そうだ、何の力も持たないただの人間にこれ程の力を持った魔族達が従うはずがない!だとしたらこの一撃は危険だ!!!何としてでも防がねばならない!!!)
そして!危険を感じたガイウスは攻撃を中断し神聖防壁を展開させた!
「くっ!!!神聖防壁!!!」
キィィィン・・・!!!
だが!俺は構わず拳を振るう!!!
「ダークロードォ!!!ナアアアアァァァァァァクルッ!!!!!」
光に包まれた俺の拳が思い切り突き出される!!!そして!!!!!
・・・何も起こらなかった。
拳を突き出したまま固まる俺と、防御の体制のまま固まるガイウス・・・
他の皆も唖然としたままその光景を見つめていた、その時・・・!
「くっ・・・くっ・・・はっはっはっはっはっ!!!!!」
俺は堪えきれず大声で笑いだす!
「そんな都合よく秘められた力とかが目覚めるわけねーだろバーーーカ!!!この光もただのホログラムだっつーの!!!」
そう、俺の拳が放った光は昔ギガスに作ってもらった腕輪型のホログラム装置が放った物だ
ヒーローショーに使えたらカッコイイかも、と用意してもらっていた物だったのだが
「それなのに「くっ!!!」って、「くっ!!!」って!!!びびってやんのこのセラフ!!!」
そのまま馬鹿笑いをしながらガイウスを煽る俺
「え・・・えーっと・・・」
(うーん、やっぱナシかも?)
「おとうさん、かっこ悪い」
「そ、それでもミケは着いていきますにゃ!!!」
そんな俺の様子に、周りの反応も微妙と言った所だ
だがその時!強烈な殺気が放たれる!!!
「・・・寿命が数秒延びただけだったな」
俺に向かって放たれた殺気!それはガイウスが放った物だった!
ドンッ!!!
そして!もう一度ガイウスが攻撃態勢に入り俺に突撃してくる!
そんなガイウスを見ながら、俺は余裕の表情を浮かべて言った
「・・・数秒延びただけ?」
俺の言葉を意に解さず突撃してくるガイウス!だが俺は構わず続ける!
「数秒も延びれば十分なんだよ。そう、数秒もあれば・・・!」
そして!ガイウスの剣が俺に突き立てられようとした、その瞬間!
「ええ、私が間に合います」
ドグォッ!!!!!
超高速で突っ込んできた影がガイウスを横から思い切り蹴り飛ばした!
「ぐはっ!!!」
凄まじい勢いで吹っ飛んでいくガイウス!
そしてガイウスを蹴り飛ばし、俺の横に立った影に俺は言った
「おせーぞウラム、危うく死ぬ所だったわ」
「申し訳ありません魔王様。何しろ身体を両断されるなんて久々でしたので、再生に手間取りました」
そう、俺の危機を救ったのは死んだと思われていたウラムだった!
「ウラムさん!?」
「生きていたんですかにゃ!?」
「ったく・・・遅いわよ」
驚くアリアとミケに、安堵しため息を吐くラグナ
そしてウラムはニヤリと笑うと俺に向かって言った
「それにしても、魔王様が私の意図を理解してくれていた様で助かりました」
そう、あの時・・・
「ウラムッ!!!!!」
「魔王・・・様・・・」
ウラムは何かを言おうと口を動かす、だが
「・・・・・・・」
重傷を負ったウラムの口からは言葉が出てこない
だがその時、その口の動きはある言葉を紡いでいた
ジ・カ・ン・カ・セ・ギ・ヲ
「ちゃんと魔王様が唇を読んでいてくれた様で何よりです」
だが俺は、そんなウラムに首をかしげながら言った
「あ?唇?そんな物読めるわけねーだろ」
そう、そんな特殊技術を習得した覚えは無い
俺はウラムの唇など読めていなかったのだ
「・・・では何故?」
当然の疑問を口に出すウラム、そんなウラムに俺はあっさりと答えてみせた
「あの程度でくたばる様な奴なら、俺はこんなに苦労してねーんだよ」
俺のその答え、にウラムは目を丸めた後
「フッ・・・ハッハッハッ!確かにその通りですね!」
そしてウラムが大声で笑い始めた、その時!
ドオンッ!!!
「キサマっ!!!」
怒りの魔力を放出させながらガイウスが立ち上がる!
「おっと、ちょっと煽りすぎたか?」
「怒り心頭と言った感じですね。アレの相手は私がします、魔王様はロケットへ」
そう言ってガイウスの前に立ちはだかるウラム
俺はその場をウラムに任せ、背を向けロケットへと向かおうとする。その時・・・
「ウラム」
「まだ何か?」
俺は背を向けたまま、ウラムに告げた
「後の事は全て任せた」
・・・・・・
その言葉を聞いたウラムは少しだけ黙った後・・・一言
「承知致しました」
そう、答えた
ダッ!!!
そして俺はロケットに向かって走り出す!
「見逃すと思うのか!!!???」
即座にガイウスが俺を追う!
ガイウスは一瞬で俺に迫ると、その背に剣を向ける!だがその瞬間!
「貴方、馬鹿ですか?」
ゾクッ!!!
背後から聞こえてきた声に強烈な悪寒を感じ振り向こうとするガイウス!しかし!!!
ブチィブチィ!!!
その前に!ウラムはガイウスの背の羽根の一枚を掴むと、力任せにもぎ取った!
「ぐああああああああっ!!!!!」
強烈な痛みにたまらず間合いを離すガイウス!
そしてウラムは普段通りの微笑を浮かべたままガイウスに言った
「戦いの最中に敵に背を向けるなんて、迂闊にも程がありますね」
そんなウラムを睨みつけながらガイウスは叫ぶ!
「よくも・・・!!!私の羽根を・・・!!!」
「丁度掴みやすい位置にあったものでつい。そう言えば、天使は羽根の枚数で階級が決まるとか。だとしたら貴方は降格になってしまうのでしょうか?そうであれば申し訳ない事をしました」
そしてウラムはガイウスの羽根を無造作に放り捨てる
「くっ!!!死にぞこないの魔族風情が!!!」
「死にぞこない?」
その言葉に首を傾げるウラム
そして自分の身体に視線を落とし、両断された時の血で濡れた衣服に気付く
「ああ、なるほど。確かに先程の一撃は痛かったですよ、あんな怪我を負ったのは数百年ぶりです。ですので何と言うか・・・その・・・私、数百年ぶりに・・・」
そしてその瞬間!!!
「「!!!!!」」
ガイウスだけではなく、この場に居る全員が戦慄した!!!!!
「ブ チ ぎ れ ま し た」
そして!ウラムとロードガイウスの戦いが幕を上げるのだった!!!




