魔王と覚醒・勇者アリア
:魔王と覚醒・勇者アリア
ロケットを防衛する魔王軍と、天使の激しい戦いが繰り広げられていた最中
魔王城のアリアの部屋では、未だ意識が戻らないアリアの姿があった
城の外の戦いとは無縁の様に安らかに眠るアリア。だが・・・
(聞こえる・・・)
何も見えない暗闇の様な意識の中、アリアの感覚だけはそれを感じ取っていた
(聞こえる・・・皆が戦っている声が・・・。ソーマさん、ウラムさん、ギガスさん、ティスちゃん、ミケちゃん、ウナちゃん、リィちゃん、マウちゃん、スライムさん達・・・)
魔王軍の皆が必死に戦っている
そして、彼らがじょじょに劣勢に追い込まれていくのもアリアは感じていた
(助けに行かないと・・・!)
そう思い、肉体に意識を戻し目覚めようとするアリア。だが・・・
・・・・・・
その意識とは裏腹に、アリアの肉体の方はピクリとも動かなかった
(聞こえるのに・・・皆が戦っている声が・・・。なのに私は・・・)
そしてまた、アリアは暗闇の中で己の無力感に囚われようとしていた。だがその時・・・!
(君は行かないのかい?)
(!?)
突然、自分の物ではない声がアリアの意識に響き渡った!
(誰ですか!?)
咄嗟に意識の中で叫ぶアリア
だが、その声の主は落ち着いた声で答える
(僕が誰かなんてどうでもいい事さ。それより、君は行かないのかい?彼等を助けに行きたいんだろう?)
その言葉に、アリアは目を伏せて答えた
(助けに行きたい・・・今すぐ立ち上がって皆を助けに行きたい・・・けど・・・)
そしてアリアは、自分の身体に目を向ける
しかしそこにあったのは、暗闇に溶け込み全て無くなってしまった様な黒だけだった
(もう私の身体は壊れてしまった・・・もう私は戦えない・・・皆を助ける事も出来ない・・・)
そして、流れない涙をこぼすアリア
だがその時、声の主は意外な事をアリアに言った
(本当にそうかい?)
(えっ?)
(本当に、君の身体は壊れてしまったのかな?)
(それは・・・どういう意味ですか?)
その言葉の意味が分からず聞き返すアリア。そして声の主は答える
(確かに君の身体は黒に染まった。けど、それは「壊れた」と言うのだろうか?)
(え・・・?)
(きっと君の身体は「変化した」んだ。確かに大量の負の魔力は君の身体を黒く染め上げた。だが決して壊れてなんかいない、少し以前と違う形に変わっただけさ)
(壊れていない・・・?変わっただけ・・・?)
その言葉に自身の身体をもう一度見る
何も見えない暗闇、そしてそこに溶け込むような黒。その時、声の主は続ける
(そうだ。君は今まで見てきたはずだ、彼らの事を、魔族と呼ばれる彼らの事を)
(魔族・・・)
(彼らは決して邪悪な存在なんかじゃない。僕ら人間と同じ様に笑い、怒り、悲しむ。そんな当たり前の存在だ)
(はい。そうです・・・だから私は彼らと共に・・・)
(なら分かるはずだよ。今の君なら光も闇も、当たり前の様に共に存在できる事を。それらは「共存」出来るという事を)
(共存・・・)
その時、アリアの脳裏に今までの何でもない日々の風景が浮かびあがってくる
勇者と魔王とその仲間達が過ごした、何でもない日常が。その瞬間・・・!
(あっ・・・!)
僅かに感じた、そこに輪郭があるのを
何も見えない闇の中でも、確かに自分がそこに存在している事を
(そう。そして・・・)
声の主は優しく、それでいて力強い声でアリアに告げた
(どんなに違う形に変わったとしても、君は君だ)
(私は私・・・)
(そう、恐れる事はない。今の自分を強く認識するんだ、そうすれば・・・)
その瞬間!
ピクッ・・・
アリアが意識を広げると同時に、現実のアリアの指先がほんの僅かに動いた!
(今、確かに感じた!私の意識が身体と繋がったのを!)
これなら目覚める事が出来る!私はもう一度戦える!
アリアがそう思った瞬間、暗闇に包まれた意識に光が差し込んできた
(これで君は目覚める。さあ行くんだ)
そして、暗闇で見えなかった声の主の姿も見えてくる
その金色の髪の青年はアリアに向かって微笑んだ
(貴方は・・・!もしかして・・・!)
意識が戻る直前、アリアは青年に問いかける
青年はその言葉に答える代わりに一言だけ、アリアに向かって告げた
(世界を頼むよ、七代目)
(・・・!!!はい!!!)
アリアがそう答えた瞬間!
暗闇は消え去り、アリアは目覚めた・・・!
「私・・・」
目が覚めたアリアはそこが自分の部屋である事を理解する
それと同時に行かなければならない事も理解した
アリアはベッドから立ち上がると、側に立てかけてあった聖剣グランドリヴァイブを手にする
そして部屋を出て行こうとしたその時、部屋の隅に置かれていたそれを見つける
「これは・・・鎧・・・」
それはアリアが天使達に操られていた時身に付けていた、白い甲冑だった。その瞬間・・・
(私に出来るのはこの鎧を用意する事ぐらいっス・・・アリアちゃん、どうか無事で・・・)
アリアの意識にそんな声が聞こえてきた
それは意識を奪われていた時、聞いた声だった
「使わせてもらいます・・・!フィーリスさん!」
そしてアリアは甲冑の胴体、脛、腕のパーツだけを身に付けると、部屋を出て走り出した!
ダッ!!!!!
疾風の様に駆けるアリアは城を出るとまっすぐそこに向かって走り出す!
銃を構える天使とその銃の先に座り込むミケ!そして引き金が引かれた瞬間!
「ディバインシールド!!!!!」
「何だと!?これはっ!!!」
ミケとジョシュアの間に飛び込んだアリアは、咄嗟に防御魔法を使いミケを守る!
そして不思議そうにこちらを見上げるミケに答える様に、アリアは聖剣を構え宣言した!
「声が聞こえました、皆の戦う声が、助けを呼ぶ声が。ならばどんなに傷ついたとしても立ち上がる、それが・・・勇者です!!!!!」
そしてその声に呼応する様に、周辺の大気が爆発する!
ここに勇者アリアが復活したのだった!!!
目の前の光景に驚きの余り声を失っていた俺だが、すぐに正気を取り戻すと通信機に向かって叫ぶ
「アリア!!!目が覚めたんだな!!!」
アリアはミケから予備の通信機を受け取り装着すると答えた
「ご心配おかけしましたソーマさん!この通り、勇者アリア!完全復活です!」
アリアの隣に居たミケも、その瞳に涙を浮かばせながら喜ぶ
「アリアちゃん・・・!よかったにゃ・・・!」
「ミケちゃんにもご心配をおかけしました」
そしてアリアはミケに手を差し出し立ち上がらせながら言った
「とりあえず、ミケちゃんは一度後退して下さい。ここは・・・!」
その時、全身から怒りをむき出しにしたジョシュアが叫ぶ!
「見つけたぞ!!!勇者ァァァァァァァァッッッッッ!!!!!」
「ここは!私が引き受けます!!!」
「わ、分かったにゃ!アリアちゃん、気を付けて!」
そう言ってミケがその場から離れる
そして、聖剣を構えジョシュアに相対するアリア!次の瞬間!
「お前だけはッ!!!この手で殺してやる!!!!!」
問答無用とばかりにジョシュアがアリアに襲い掛かった!
ドガガガガガッ!!!
ジョシュアの二挺拳銃から魔力弾が連射され!アリアに襲い掛かる!
「フッ!!!はあっ!!!」
ギィンッ!!!
しかし!アリアはその弾丸を切り払いながら前に進む!
「銃での攻撃!間合いは離させない!」
そしてアリアが前に突撃しようとしたその瞬間!
「勇者ァァァァァァァ!!!」
「なっ!?」
意外にも!ジョシュアもアリアに向かって突撃を仕掛けてきていた!
ブォンッ!!!
その手の拳銃がブレードモードに変形し斬撃が振るわれる!
「くっ!!!」
ガギィンッ!!!
咄嗟にそれを聖剣で受け止めるアリア!
だが!アリアの防御に構わずジョシュアは尚も激しい斬激を繰り返す!
「強いっ!!!」
意表を付くジョシュアの行動に圧され!じょじょにアリアが後退していく!
「そんにゃ!アリアちゃんが押されてるにゃ!」
無敵の力を誇るはずのアリアが劣勢を強いられている!その光景に驚くリィ達!
だが、その理由は明白だ
「まだ本調子じゃないんだ・・・!」
こちらから見ても、アリアの動きは明らかに精彩さを欠いている
ジョシュアと同じく、アリアも完治していないのだろう
いや、恐らく見た目よりも遥かにアリアの状態は悪い
「それでも!負けるわけには!」
グググッ!!!ガァンッ!!!
アリアは力を振り絞るとジョシュアの剣をその身体ごと押し返す!
「チィッ!!!」
本調子でないにも関わらず凄まじいパワーを誇るアリアに圧され、ジョシュアは一旦間合いを離す
そして二人は互いの武器を構えた状態で向かい合う
「勇者・・・テメエだけは許せねえ・・・お前だけは絶対に・・・!」
殺意のこもった瞳でアリアを睨み付けるジョシュア!
だが、アリアは負けじとジョシュアを睨み返し言った!
「私だって負けるわけにはいかない!貴方達の自分勝手な正義や秩序を認めるわけにはいきません!」
だがその言葉を聞いたジョシュアは、意外そうに目を丸めた後
「クッ・・・ハッハッハッ・・・ハッハッハッハッハッハッ!!!!!」
大声で笑い出した。そして・・・!
「ハッハッハッ・・・正義?秩序?・・・関係無いんだよ・・・」
「関係無い?」
そしてジョシュアは、またもや殺意のこもった声でアリアを睨むと怒りのまま叫んだ!!!
「ああそうだ!!!もう任務なんて関係ない!!!俺がお前等を許せねえ!!!ただそれだけなんだよ!!!」
そのジョシュアの叫びを聞いた俺は呟く
「奴は単独行動で動いてたって事か・・・!」
そう、もはやあの男は任務の為に敵対していた天使ではない
ただただ自身の憎悪に突き動かされているだけの狂人だ
「俺は!俺自身の憎悪でお前等を皆殺しにする!!!それが俺の意思だァァァァァ!!!!!」
「そうですか・・・ならば・・・」
ジョシュアの叫びに対し、アリアはそう静かに呟くとは聖剣を地面に突き立てた!
「貴方のその怨念!私が祓います!!!」
アリアがそう叫んだ次の瞬間!!!
ギュオオオオオオオッ!!!
アリアの肉体が周辺の魔力を一気に取り込み始めた!
「なっ!?これはまさか!!!」
「アリアちゃん!まさかまた負の魔力を!!!」
これは以前と同じ現象!またアリアは俺達を守る為にその身を犠牲にしようとしている!
「駄目だ!!!アリア!!!」
俺はそれを止める様に叫ぶ!だが!
「大丈夫ですよソーマさん!」
「なっ!?」
「この一年で私は変わりました。けど、変わってしまった私も間違いなく私なんです!だから!!!」
カッ!!!!!
そして大量の魔力を取り込んだアリアの左目が赤に!右目が紫に輝いた!
「私は!!!新しい私になる!!!!!」
そうアリアが叫ぶと同時に!凄まじい量の白い光と黒い光がアリアを包み込んだ!!!
それを見たジョシュアは驚愕する!
「馬鹿な・・・!正の魔力と負の魔力を同時に体内でコントロールしているとでも言うのか・・・!?」
それはありえない現象だ!
だが現実に、目の前の人間はそれを可能にしている!
「光の力と魔の力、それらを人の力で束ね共存させる!それが勇者の力です!!!」
そして!かつてない魔力を迸らせながらアリアは叫んだ!!!
「今の私は!!!勇者史上最強です!!!!!」
ゴゴゴゴゴッッッッッ!!!!!
その圧倒的な魔力を前に、ジョシュアは拳銃を握る手を強く握り締める・・・!
「こんな馬鹿な事はありえない・・・!人間ごときがこんな力を・・・!俺以上の力を持つなんてありえない・・・!!!」
そうだ・・・俺には力がある!誰よりも強い力があるはずだ!
俺を認めようとしなかった天界の連中にそれを認めさせる!
その為に!俺はこんな泥の中を這いずってきたんだ!
そして!いつか俺は天界の頂点に立つ!!!
こんな所で!!!俺は!!!
「俺は負けるわけにはいかないんだよォォォォォォッ!!!」
叫びながらアリアに突撃していくジョシュア!
そしてアリアは!それを迎撃する様に聖剣を両手持ちにして構えた!
「必殺・・・!!!」
ギュオオオオオッッッッッ!!!!!
膨大な量の正の魔力と負の魔力が捻れ、螺旋を描きながら聖剣に集中していく!
カッ!!!!!
そして!聖剣から捻れた正と負の魔力が同時に放たれた!!!
「ディバインスラッシュ・・・!!!カオスッッッッッ!!!!!」
ゴオオオオオオッッッッッ!!!!!
圧倒的な威力の一撃がジョシュアを飲み込む!
だが!その魔力の奔流に飲み込まれながらもアリアに向かってこようとするジョシュア!
「がああああああっ!!!!!俺はエリートなんだ!!!力があるんだ!!!俺はいつかセラフの座に!!!その頂点にたどりつく男なんだ!!!それがこんなァァァァァッッッッッ!!!人形なんかにィィィィィッ!!!!!」
そのジョシュアの憎悪の叫びに、アリアは強く!叫び返した!
「人形なんかじゃありません!!!!!」
そしてアリアは、世界に向かって宣言する!!!
「私は偉大なる勇者!アルゼア・ハーフェンの末裔!!!七代目勇者!!!アリスティア・ハーフェンです!!!!!」
その宣言と同時に聖剣から放たれる魔力が一気に増大する!!!そして!!!!!
ゴォッ!!!!!
その魔力の奔流は一瞬にしてジョシュアを飲み込み、吹っ飛ばした・・・!
ドォォォォォォンッ・・・・・!!!
荒野から戦いの音が消え、ジョシュアはボロボロになりながらもその場に立っていた。だが・・・
「俺は・・・」
そう呟くと、ジョシュアは力尽き倒れる
その時、倒れたジョシュアに向かってアリアは静かな声で呟く
「とは言え・・・命までは取りません・・・」
「なっ・・・?」
不思議そうにアリアを見上げるジョシュアに対し、アリアは凛とした声で言った
「勇者ですから!!!!!」
こうして、アリアとジョシュアの戦いはアリアの勝利に終わったのだった
「しっかり反省して下さい!!!!!」
倒れるジョシュアにそう言いながら剣を収めるアリア。その時
「どうやら、既に決着が付いた後の様ですね」
アリアの上空からウラムが降りてきた
俺はウラムに向かって通信を送る
「ウラム!転移装置は・・・!?」
「もちろん破壊完了しました。ティスとギガスも、それぞれ転移装置を破壊しこちらに戻っている最中です」
「そうか!作戦成功だ!!!」
これで敵増援の心配はなくなった!
俺は拳を握るとガッツポーズを決める!
「こちらも帰還致しました、魔王殿」
「戻った。ミケ大丈夫?」
「はい。私は大丈夫ですにゃ!」
その時ウラムと同様にギガスとティスも帰還し、ミケがそれを出迎えた
「よし!こちらの部隊も壊滅ギリギリだったがなんとか持ちこたえた。後は残っている敵を殲滅するだけだ!」
「それでは、もう一仕事と言った所でしょうか」
「ここまで来ればクリアは目の前、余裕」
「にゃ!それにアリアちゃんも目覚めてくれましたし!」
「アリア殿の力があれば、正に鬼に金棒です」
「はい!遅れた分、全力で頑張ります!」
ここに、魔王軍幹部+勇者が揃った!
もはや怖い物は何も無い!
「よし!残りの敵を片付けるぞ!全軍攻撃開始!」
「「了解!!!!!」」
そしてロケットを巡る防衛戦は、最終局面に向けて動いていくのだった・・・




