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魔王軍はお金が無い  作者: 三上 渉
最終章:魔王と星が降る日
110/145

魔王と会議室に光は差さず

:魔王と会議室に光は差さず


上級天使との闘いの翌日、魔王城のアリアの部屋


「・・・」


ベッドの上で安らかな寝息を立てているアリアを、俺はベッドの側の椅子に座って見守っていた。その時


「魔王様」


突然、背後に気配がしたと思うとウラムが現れる

そしてウラムは、静かな声で言った


「報告です。フィーリスさんの遺体ですが、魔法で保護し城の地下に安置しておきました」

「そうか・・・」

「・・・全てが解決した後で、故郷に帰してあげましょう」

「そうだな・・・」


先日の戦いで、俺達はかけがえの無い物を失った

一つはフィーリスの命、そしてもう一つ・・・


「・・・それで、アリアさんの容態は?」

「ラグナが言うには・・・」


そして俺は、ウラムが来る前のラグナとの会話を思い出す






一時間前、ベッドに眠るアリアをラグナが調べていた


「これは・・・」


アリアはガイウスが飛び去った後倒れ、その後ずっと眠ったままの状態が続いていた

一見外傷も無く、ただ穏やかに眠っているだけの様に見える。しかし


「どうなんだ?アリアは」


俺の質問に、ラグナは苦々しい表情のまま答えた


「悪いわ。想像以上に」


そしてラグナは、アリアの現在の容態について語り始めた


「昨日、天使との戦いの時。この子は自らの属性を反転させる為、負の魔力を大量に体に取り込んだわ」

「負の魔力・・・確か、人間の体には毒だって話だが」

「ええ。純粋なエネルギーという意味では正の魔力も負の魔力も同じだけど。人間の体は負の魔力を取り込むと拒絶反応が起きて、それにより自分自身の体を傷つけてしまう」


それに関しては、俺も一度この身で体験済みだった

小瓶一つ分の魔力で卒倒してしまったぐらいの凄まじい拒絶反応

あの時。膨大な負の魔力を取り込んだアリアの身体にかかった負荷は、想像を絶する物だっただろう


「ましてや、この子は普通の人間じゃない。半神計画の因子が深くその身体に刻み込まれた、言わば人間と天使のハーフみたいな物よ。負の魔力に対する拒絶反応も、普通の人間とは比べ物にならないわ」

「それじゃあ、アリアは・・・」

「現状、この子の体内の魔力を通す道とでも言うべき物の大半がボロボロになっている。なんとか生命維持をする分は無事みたいだけど、もしかしたらこのまま一生眠り続けるという事もありえるわ」


ラグナの言葉に、俺は何も言えず立ち尽くす


「・・・」


恐らく、アリアはこうなるのを予測していたのだろう

だがあの時、上級天使を撃退するにはああする他手が無かった

アリアは自分を犠牲にしてでも、俺達を守る事を選んだのだ


「アリア・・・」


ベッドで眠り続けるアリアに、俺はどんな言葉をかければいいのか考える

だが結局どれも口には出せず、俺はただ黙ってその手を握るだけだった






「と言うわけだ」

「そうですか。アリアさんが・・・」


俺はウラムへの説明を終える

ウラムはアリアへ視線を向けるが、すぐに冷静な口調に戻り


「ですが魔王様。アリアさんの事はもちろん心配ですが、我々には他にやる事があります」

「・・・ああ。分かってる」


そう言って俺は立ち上がると、ウラムに言った


「全員を集めろ!会議を開く!」






そして、俺が招集をかけたすぐ後

アリアを除く全員が会議室に集まっていた


「揃ったな。それじゃあ会議を始める、議題はもちろんメギドについてだ」


メギド

その言葉を聞いた全員の顔に緊張が走る


「とりあえずは現状の把握からだが・・・」


俺がそう続けようとしたその時、ウラムが俺の言葉を遮って言った


「魔王様、その前にこれを」


そして、ウラムは俺に小型の端末の様な物を差し出す


「・・・これは」


確か、俺はこれを以前に見た事がある

あれは確か・・・


(何か調べるならやっぱネットで調べるのが一番っスよね~IT革命様々っス)


「これは・・・フィーリスの・・・」

「とりあえず、まずは端末を開いてみて下さい」


ウラムに言われた通り、俺は端末を操作する

どうやらロックなどはかかっておらず、すぐに端末を開く事が出来た。そして


「これは・・・」


トップの画面に置かれている文字ファイル、タイトルは「魔王さんへ」となっていた

俺はそのファイルを開く




魔王さんへ、フィーリス・ミルドヴァルド二級天使でス

恐らくこのファイルを魔王さんが読んでいるという事は私は抜き差しならない事態、もしくは死んじゃってるかもしれないって事っスね

なのでその時に備えて、この端末に私が知る情報をなるべく鮮明に記録しておくっス、役立てて欲しいっス

今回の天界の行動、私は納得出来ない物を感じているっス。魔王軍に関しても、何かの間違いだと思ってるっス

私は魔王さん達の事を、皆さんの事を信じてるっスよ。頑張って下さい!




そして端末には、外宇宙管理機構や天界について様々な情報が記録されていた


「フィーリス・・・」


俺は俯くと、震える声で呟く


「魔王様・・・」

「ああ・・・」


ウラムの呼びかけで俺は気を取り直すと、端末に記載されている情報からある項目を探す

そしてそれは見つかった


「あった!最終浄化作戦メギドについて!」


目当ての項目を見つけ出した俺は、会議室の全員にむかって端末の情報を読み上げる


「「最終浄化作戦メギドとは。アロンドヴァス周辺宙域に存在する人工天体、通称メギドを対象の星に移動、激突させ、星を破壊する正に最終作戦と呼ぶに相応しい作戦である(メギドの質量は大体月と同じくらいっス!)。発動するにはセラフの承認が必要であり、一度発動したメギドを止める場合も同じくセラフの承認が必要となる。だがその場合、議会に於いてメギド停止案を提案、12人のセラフにより協議する必要がある為、事実上不可能と言っていいだろう(今まで発動された事が無い作戦だったので、その対応案も深く議論される事なく放置され続けてきたっス・・・)」だそうだ・・・」


俺がそこまで読み上げた所で、ウラム達が意見を出し合う


「政治的な搦め手は時間が足りないという事でしょうか?」

「仮に、あのガイウスとか言うセラフを糾弾する事が出来たとしても。アイツはなんとしてでも、一ヶ月という時間を稼ぐでしょうね」

「時間を稼げばその間にメギドは落ちる。そうなれば、あの天使の思惑通りと言う事ですねラグナ殿」

「ええ。メギドが落ちてしまえば、もうあの天使を処罰する事は誰にも出来なくなるわ」

「にゃ!?何でですにゃ!?星一つ破壊しておいて、何のお咎めも無しになるんですにゃ!?」

「メギドが落ちてこの星が滅んだ場合。その後にあの天使を処罰すれば「天界は不祥事で一つの星を滅ぼした」という事になってしまいます。それはあの天使だけではなく、天界全体にとってかなり大きなダメージとなるでしょう。つまり・・・」

「その場合は、メギドは正当な物だったと主張するのが天界全体の利益に繋がるってわけだ。しかもそれに反論する為の証拠は、全て星ごと木っ端微塵に無くなってるわけだからな」

「もちろん、今回の事はそれを計算に入れた上での作戦なのでしょう。セラフ・ロードガイウス・・・思ったより厄介な相手の様ですね」


という訳で、天界の良心に期待するのは無理。他の案は・・・


「ハッキングなどで、メギドのコントロールを奪うという案はどうでしょう?」

「ギガスが言うハッキングが無理なら、直接メギドに乗り込んでって手もあるわ」

「メギドのコントロールを奪うか・・・」


俺は関連する項目が無いか端末を調べる

そして、目的の項目をを見つけ出したのだが


「・・・どうやら難しそうだ。フィーリスの情報によると、メギド自体が過去の超技術の産物で。権限を持っているセラフですら、単純な移動命令ぐらいしか出来ないらしい」

「過去の超技術ですか・・・限られた時間で解析するのは、私でも難しいかもしれません」

「乗っ取るって案も無理ね・・・」

「・・・となると、残った案は一つしかありませんが」


そう、止めるのが不可能なら必然選択肢は一つしかない

俺はその最後の選択肢を口にする


「メギドを破壊する・・・だな」


そして、それはもっとも無茶な選択肢でもある


「それこそ無理だにゃ!月をぶっ壊すなんて!」

「そうにゃ!そんなのアリアちゃんだって・・・!」


マウがそこまで言いかけた所で口を詰まらせる

部屋の皆が押し黙ろうとする所で、ウラムが続きを続けた


「・・・ええ。仮にアリアさんが万全の状態だったとしても、メギドを破壊するのは難しいでしょう」

「お前等全員の力を合わせてもか?」

「無理でしょうね。問題は二つあります」


そしてウラムは、メギドを破壊する為の問題点を説明する


「まずは距離です。地上から攻撃する場合、我々の魔法をメギドに届かせるには魔法の射程距離が圧倒的に足りません。メギドがこの星に接近してくるのを待ち、我々の攻撃の射程距離内ギリギリで破壊した場合。そのままメギドの破片が降り注ぎ、この星への被害は甚大な物となるでしょう」

「地上からの迎撃は無理・・・それじゃあ、こっちからメギドに向かって行くしか・・・」

「ええ、そこで二つ目の問題点。メギドがある場所はこの星の外、つまり宇宙という事です」

「宇宙・・・」

「当然ながら、宇宙には酸素がありません。そして、宇宙空間には魔力も存在していないのです」

「宇宙には魔力が存在しない?」

「はい。宇宙服を着れば、我々でも短時間の宇宙戦闘が可能になるかもしれませんが。魔力が拡散する宇宙空間に於いて体内の魔力のみで戦闘。我々の戦闘力は著しく低下するでしょう」

(そうなの?ラグナ?)

「・・・ウラムの言う通り、私達は宇宙じゃ3割も力を出せない。そんな状態でメギドを破壊する。どう考えても無理ね」

「にゃ・・・そうだ!ギガスさんの発明ならなんとか!」

「申し訳ありませんミケ殿、一ヶ月という時間では難しい案件だと思われます。私が用意出来るのは宇宙服や宇宙まで移動する手段を作るぐらいでしょう、破壊する手段までは・・・」

「にゃあ・・・」


政治、制御、破壊

どの手段もメギドをなんとかするには足りない、会議が煮詰まっていく。そして・・・


「ここは一度正しく現状を把握するべきでしょう。つまり・・・」


ウラムが決定的な言葉を告げた


「現時点で、メギドを阻止する手段は存在しない」


その言葉に全員が沈黙する

それは認めたくはないが、どうしようもない事実でもあるからだ


グイッ


その時、俺の服の袖を引っ張る懐かしい感覚がした


「ティス?」

「おとうさん・・・諦める・・・?」

「・・・」


俺は決して諦めない

漫画のヒーローやなんかなら、そう言うべきなのだろう


「それは・・・」


だが俺は、ティスに何も返せず苦悩した表情を浮かべるだけだった

その時、ウラムが全員に向かって提案をする


「少し休憩を挟んだ方がいいかもしれませんね」

「・・・ああ、そうだな。明日改めて会議を行う事にしよう。それまで各々何かアイデアが無いか考えておいてくれ」

「了解です、魔王様」

「一応考えてはみるけど・・・期待はしないで」

「私はもう一度、情報の整理を行ってみます」

「よし、以上解散」


そして俺達は何の対抗策も立てる事が出来ないまま、会議室を後にしたのだった

メギドが落ちるまであと一ヶ月、まだ俺達に光は差さない

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