魔王と一筋の涙
:魔王と一筋の涙
「待ってください!!!」
今正に!アリアのトドメの一撃が放たれようとしていた絶望的な瞬間!
それを止めたのは、ウラム達とアリアの間に立ちはだかった二枚羽根の天使、フィーリスだった!
「・・・何の真似だ二級天使?さっさと退け!」
トドメを邪魔されたジョシュアは、イラついた様な声でフィーリスに命令する。だが
「か・・・彼等にはもう戦う力は残っていません!我々の目的は既に達成されたかと・・・!」
アリアの前に立ちはだかったまま、ジョシュアに反論するフィーリス
「あ?何を馬鹿な事を言ってやがる二級天使!そいつ等はまだ生きてるだろうが!?」
「ですが・・・既に彼等は世界の秩序を乱すような驚異ではなく!今後は我々の監視の元、更生を促す様努めて・・・!」
ジョシュアに反論し続けるフィーリスだったが
よく見れば、その脚が震えているのが分かる
「フィーリス殿・・・」
「あの子・・・天使なのに私達を庇って・・・?」
一向にその場を動こうとせず反論を続けるフィーリスに、ジョシュアは更に苛立った様に叫ぶ!
「監視!?更生!?何を生ぬるい事を言ってやがる!いいか!?コイツ等はこの宇宙の秩序を乱す病原菌だ!俺達はその駆除の為に来たんだぞ!?コイツ等を一匹残らず皆殺しにする事!それが俺達の仕事であり!あの方の決定だ!」
その時、ウラムはその言葉にピクリと眉を上げる
(「あの方」・・・ですか・・・)
そして、ジョシュアは更にフィーリスに向かって怒鳴りつける!
「テメエは!二級天使の分際であの方の決定に異を唱えるつもりか!?」
「そ・・・それは・・・」
ジョシュアの言葉にフィーリスは俯く
(そう。あの方の決定は絶対・・・二級天使の自分が異を唱えるなど持っての他・・・)
黙り込むフィーリスに対して、ジョシュアが言い放つ
「分かったなら、とっととそこを退け!」
だが、そのジョシュアの言葉にフィーリスは静かな声で返答した
「・・・いいえ」
フィーリスの放った言葉に、その目を鋭くするジョシュア
「・・・あ?」
「・・・ッ!」
ビクッ!
その冷酷な言葉と視線の圧力にフィーリスの体がすくむ!
だが、その圧力を押し返す様にフィーリスは叫ぶ!
「どきません!!!私には彼等がそんな邪悪な存在とは思えません!!!」
涙目になりながらも、フィーリスはその場を動こうとしなかった。そして更に大声で叫んだ!
「私は魔王軍に対する再度の査定を進言します!!!あの方にも理解していただけるはずです!!!」
「テメエ・・・!」
フィーリスの言葉に更に苛立ちを募らせていくジョシュア!だが・・・
「・・・どうあっても、その場を動くつもりは無いって事だな?」
「はい・・・!」
「そうか・・・なら・・・」
次の瞬間・・・ジョシュアが放ったのは、意外な言葉だった
「なら・・・仕方ない、好きにしろ。お前の意思は、どうあっても覆せない様だからな」
「!!!」
その言葉に顔を綻ばせるフィーリス、そして後ろを振り向くと俺達に向かって叫ぶ
「や・・・やったっスよ皆さん!!!これで魔王軍の処遇もなんとか出来るかもしれないっス!!!」
その瞬間!!!
俺は大声で叫んだ!!!
「フィーリス!!!!!よけろーーーーーー!!!!!」
「え?」
ビシュッ!
振り向こうとしたフィーリスの胴体を光が貫いた!
「お前・・・もう消えろ」
それは!ジョシュアが取り出した銃から放たれた光だった!
「あ・・・」
ドシャッ・・・
そして、血を流しながらゆっくりとその場に崩れ落ちるフィーリス
「アレはいけません!!!」
即座にウラムがフィーリスに駆け寄り、治癒の魔法をかける!
「フィーリスーーーー!!!」
「あ!ソーマさま!!!」
ダッ!!!
俺もたまらずフィーリスに向かって駆け出す!
そんな俺を倒れたまま、虚ろな表情でフィーリスは見ていた
なんで・・・魔王さんがそんな必死になってるんスか・・・?
自分天使っスから・・・皆さんの敵のはずなのに・・・
今までずっと皆さんを騙して・・・苦しめてきたのに・・・
「目を閉じるな!!!フィーリスーーー!!!」
ああ・・・そうっスよね・・・それが魔王さんっス・・・
魔王さんは全てを知っても・・・自分の事を仲間だと思ってくれてたっスね・・・
それなら・・・やっぱり自分は・・・間違ってなかったっス・・・
そしてフィーリスは、その瞳から一筋の涙を流すと
そのまま・・・スッと目を閉じた
「くっ!!!」
尚もフィーリスに魔力を注ぎ続けるウラム!
だが、フィーリスの瞳は閉じられたままだった。そして・・・
「・・・ッ!」
ウラムは治癒魔法を止めると
フィーリスの顔に耳を近づけ何かを確認し・・・
「・・・」
そして・・・そっとその体を地面に横たえた
「ハアッ・・・ハアッ・・・!」
その直後、フィーリスの側にたどり着いた俺はウラムの背中に向かって問いかける
「ウラム・・・フィーリスは・・・?」
ウラムは俺に背を向けたまま、一言だけ答えた
「残念ながら・・・」
その言葉にミケが膝をつく
「そんな・・・フィーちゃんが・・・!」
「フィーリス殿・・・無念です・・・」
(フィーリス・・・?)
「くっ・・・!」
そして、フィーリスの死に全員が悲しみの表情を見せる。だが・・・
「ハッハッハッハッハッ!!!」
その時、荒野にジョシュアの笑い声が響き渡る!
「使えない奴だとは思っていたが、魔族に寝返るとはな!所詮は二級!出来損ないの天使が!・・・だが、せめてもの情けだ・・・!お前は魔族と戦って死んだと上には報告しておいてやるよ!ハッハッハッハッハッ!!!」
そして尚も笑い続けるジョシュア・・・その瞬間
ブチッ・・・
「てめえ・・・」
ザッ
俺はゆらりとジョシュアの方を向くと、足を一歩踏み出す
その俺のただならぬ様子に、ウラムが口を開く
「魔王様・・・」
「分かってる・・・冷静になれって言いたいんだろ?ここで冷静さを失ったりしたら奴の思う壺だってな・・・」
「はい。ですから・・・」
「だがな・・・ウラム・・・」
俺は静かにウラムの言葉を遮り
そして直後!!!最大の怒りを込めて叫んだ!!!!!
「これでキレない奴は人間じゃねえ!!!!!!!!!!」
そして俺はジョシュアを睨み付けると一歩一歩近づいていく!
近づいてくる俺をジョシュアは鼻で笑うと、嘲る様に言う
「それで?キレたらどうするんだ?ただの人間であるテメエ如きが」
「どうするって?そんなの決まってんだろ・・・?」
そして俺は!拳を握り締めると一気に駆け出す!!!
「ブッ殺す!!!!!!!!!!」
拳を構えたままジョシュアに突っ込む俺!
咄嗟にそれを止めようと叫ぶミケとラグナ!
「ダメ!!!ソーマさま!!!」
「無茶よ!!!ソーマくん!!!」
だが!怒りに身を任せた状態の俺の耳には届かない!
俺はそのままジョシュアに向かって行く!
「フッ・・・」
チャキッ・・・
そしてジョシュアが、フィーリスを撃った銃をこちらに向けようとした!その瞬間!
ドグオッ!!!
「ぐおあッ!!!」
とてつもなく強烈な衝撃が俺の腹部に突き刺さり!体がくの字に曲がる!
「・・・」
それは!ジョシュアと俺の間に立ちはだかったアリアが放ったボディーブローだった!
「ぐっ・・・あっ・・・!」
そしてアリアは、その場に崩れ落ちた俺のスーツの襟を掴むと・・・!
ブンッ!!!
「うおああああっ!!!」
アリアはボールを投げるかのように軽々と!俺の体を放り投げた!
ドシャッ!!!
「ぐっ!!!」
そのまま地面に叩きつけられた俺は、フラフラになりながらもなんとか立ち上がる。そして
「クソッ・・・正気に戻れアリアーーー!!!」
あらん限りの大声で叫んだ!!!
「・・・」
だが俺の叫びにも、アリアは何の感情も持たない目でこちらを見ているだけだった・・・
荒野に俺の叫び声が空しく響く、そしてそれを嘲る様にジョシュアが言った
「ハッハッハッ!無駄だ!勇者は完全に俺の制御下にある!」
そして改めて、アリアに命令を下す
「さあ!今度こそ奴等にトドメを刺せ!」
その言葉と同時に聖剣を構えるアリア!だがその時!
「これ以上はやらせないわよ!!!」
「ええ!我々の意地を見せましょう!!!」
アリアが行動する前に!ラグナとギガスが先に仕掛けた!
キィンッ!!!ガガガガガガッ!!!
もはや満身創痍の状態でありながら、二人は必死にアリアの動きに食らい付いていく!
その時、俺の側に駆け寄って来ていたウラムが俺に言う
「大丈夫ですか、魔王様?」
「ああ・・・なんとかな・・・」
そしてウラムは、続けて俺に問いかける
「・・・頭は冷えましたか?」
「ああ、アリアのおかげでな・・・。だが、お陰で確信した事がある」
俺は呼吸を整えると、冷静な口調でウラムに言った
「さっきの俺は完全に頭に血が上っていた、あのまま突っ込めばまず間違いなく死んでいただろう」
「ええ、全くです」
「けど・・・結果として俺は生きている。何故だ?」
その言葉にピンと来たのだろうか、ウラムが眉を上げた
「魔王様が生きている理由。それは・・・」
「ああ、「アリアのお陰だ」。あの瞬間アリアが俺を攻撃しなかったら、俺はあの天使に撃たれて確実に死んでいた。あの時、アリアは俺を攻撃したんじゃない、俺を守ったんだ」
「なるほど、合点が行きました。何故我々がここまで耐えてこられたのかも」
「そうだ、アリアがずっと「手加減をしていた」からだ。お前等と戦っている時、本気で戦えと命令された時も。さっきあの天使に向かって突っ込んでいった俺を殴った時もな」
「もし本当にアリアさんが本気だったのなら、我々は一瞬で全滅しているはずですし。さっきの魔王様も一撃で死んでいるはずですからね」
「ああ、そうだ。つまり・・・」
それは、この最悪な状況で見えた一筋の光明
「アリアは完全に操られているわけじゃない、まだギリギリで自我を保っている。そして・・・」
そう、あの瞬間・・・
「クソッ・・・正気に戻れアリアーーー!!!」
だが俺の叫びにも、アリアは何の感情も持たない目でこちらを見ているだけだった・・・
しかしその時、俺は見た
「・・・」
「・・・ッ!」
その赤く輝く左目から、一筋の涙がこぼれ落ちたのを
「おそらく。今アリアは相当な精神的ショックを受け、術が解けかけている・・・」
であるならば、賭け時は今しかない!
今がこの状況を打破する、最初にして最後のチャンスだ!
「それで具体的にどうします?正気に戻る様、大声で呼びかけてみますか?」
「それぐらいで術が解けるならさっきので解けてるはずだ。もっと、他の一手が必要だ・・・」
何か、もっと強力にアリアの自我に訴えかける方法が必要だ。俺は考える
だがそんな俺に、ウラムは当然の事の様に言った
「魔王様はもう分かっているのでは?」
「・・・!?」
その言葉に俺は目を丸くしたが、すぐにその意味を理解し思案する。そして・・・
「・・・俺に「お約束」をやれって言うのか?」
「他に名案があるなら、他の案でも構いませんが?」
「いや、無い」
そして、俺は覚悟を決めると立ち上がる
「今度もまた命がけだな・・・援護は任せたぞウラム」
「全身全霊で務めさせていただきます」
そして!俺とウラムは一度だけ互いにアイコンタクトを交わすと行動を開始する!
「よし・・・!行くぞ!アリア!!!」
そして俺はアリアの方を見据えると、アリアの元へ向かって全力で駆け出した!




