第005話「持ち物検査」
連続投稿5話目です。
「ふぅ、やっと一息つけるか……」
チィ、と大き目のリュックサックのファスナ―を閉じる。
今日もいつもと変わらず、朝5時半の目覚ましで起床、顔を洗ってお手洗いを済ませたら、軽く30分程ヒナタの散歩に河沿いの土手へ向かう。
散歩から戻って来た時、時計は大体6時15分頃を指している。
ここから、早朝パ―トで6時25分に家を出る妻を見送りながらヒナタの朝ごはんを準備する。
平日なら妻がパ―トに出た後、優貴を起こして学校の準備に掛からせる迄の時間は自由だ。
しかし今日は土曜日、しかも優貴と一緒に俺も通っている空手道場主催のハロウィンパ―ティがある。
俺はいつもなら自由時間であるこの時間を使って、優貴のコスプレ衣装や必要な道具の準備をしなければならないのである。
「いや、結構な荷物だな……これ、俺の空手道着まで持って行くの無理っぽくね?」
仕方ない。
今日は俺の稽古は諦めて、優貴の荷物持ちとして頑張るとしよう。
優貴は随分と前から今日のパ―ティを楽しみにしていたし、パ―ティで使うコスプレ道具を減らす訳にもいくまい。
今居るリビングに置かれたケ―ジの中で、散歩の後の朝ご飯を食べ終わったヒナタが待機中だ。
散歩と朝ご飯を終えたヒナタは朝の準備の障害となる――ヒナタ自身はジャレているだけだが、カバンに入り込んだり道具を加えて持ち去ったりする――ので、お馬の乾燥アキレスガムと一緒にケ―ジに投獄だ。
コスプレ用の手袋を咥えて玄関に逃亡した罪である。
――ギルティ!――
罪犬ヒナタはケ―ジ内のフカフカマットの上で横になりながら、お馬ガムをガジガジと齧りつつ目だけはこっちを見ている。
スマン……もうすぐ出してやるからな!
ケ―ジで恨めしそうにしているヒナタを横目に、リビングのフロ―リングにどかりと座り込んでいる俺の前には、リュックサックが3つと大小の紙袋が合わせて2つ、これで全部なら大した荷物じゃないかと思うかもしれない。
だが、俺たち親子二人の移動方法は自転車だ。
しかも俺の自転車はクロスバイクタイプ、人間の移動方法としては優秀だが荷物を運ぶ用途としては貧弱なのである。
優貴の自転車についても子供用なので言うまでもあるまい。
ちなみに優貴の自転車も子供用のクロスバイクタイプで、カゴは付いているがオマケ程度である。
はてさて、じゃあ何がそんなに嵩張るのかと言うと、まずは通常の空手稽古セットが原因だ。
厚手の空手道着上下に帯、グロ―ブ、レガ―ス、ニ―パッド、ファ―ルカップ、タオルに水筒。
実にこれだけで優貴のリュックサックは一杯だ。
俺も一緒に稽古へ参加する場合には同様の荷物が必要になる。
リュックサックの1つは俺の稽古セットだ。
二人分の稽古セットだけで、それぞれのリュックサック内は一杯なのである。
これに加えてハロウィンパ―ティの目玉であるコスプレセットが増える訳だが、そっちの内訳についてはこうなっている。
まず、鞘に入った長剣と小剣が合わせて2本、それに黒い革と鎖帷子モドキを組み合わせた鎧と黒い革のパンツ、こげ茶のグロ―ブに同色のブ―ツ――手足は最悪装備させたままでも良いとして――後は肩当てやベルトなんかの小物だ。
――結構あるよね?――
優貴の稽古セットはリュックサックに入っているが、コスプレグッズを何に入れて運ぶか?といえば、ここはやっぱり紙袋しかあるまい。
剣は長剣……と言っても子供に合わせたサイズなので1メ―トル程なのだが、元となったゲ―ムの仕様上、小剣との2本セットなのである。
これは大き目の布に包んで紙袋(大)に入れた。
残りの服や小物の類は紙袋(小)の方に入り切ったので問題ない。
大小それぞれの紙袋はどちらも珍しい上下に細長いタイプで、いつか使うかも……と押し入れに長期保存されていたデッドストックである。
――何?断捨離?捨ててたら今日困ってますが?――
自分は断捨離が苦手です。