第038話「戦闘適正検査」
説明が多いです。
申し訳ございません。
「わっ、このソファーふかふかだね!」
「ほんとだ~ふっかふっか~」
「こらヒナタ、余所様の家具でバフバフ遊んじゃ駄目だぞ。」
「わかった~。にーちゃんの膝にいってる~。」
俺達がそれぞれに席に着いたところでサマンサが奥のホワイトボードの前に立つ。
「サマンサさんは座らないんですか?」
優貴がサマンサに確認したが、ヒナタは優貴の膝の上だしエラコは俺の肩の上なのでソファーが2人分空いていたからだ。
「ご一緒に着席する訳には参りませんので、こちらにて説明をさせて頂きます。
先程ご提示頂いた書類につきましては私の方で目を通し確認致しました。
皆様方は冒険者登録と正式な身分証明書の発行をご希望という事ですので、証明書の発行は既に別の者が進めております。
必要な情報は警戒部隊長ノディン様からの紹介状に既に記載されておりましたので、こちらの手続きで皆様のお手を煩わせる事は御座いません。」
さっきまでのジューシーとのやり取りはいったい何だったのか。
隊長の紹介状といい、サマンサの対応といい実に手際がいい。
「それでは冒険者登録の説明に移らせて頂きます。
皆様は新規登録になりますので、お耳汚しとは思いますが冒険者のシステムについて説明致します。
まず冒険者とは冒険者ギルドに登録しギルドからの依頼を完了させた報酬により生計を立てる方々の事を指します。
冒険者ギルドへの登録は人種や性別等の制限は無く固定の住所等も不要となっております。
ですが、住所に関しましては特定の家屋や長期滞在予定の宿泊施設等の拠点をご指定頂けない場合はギルド内のランクにおいて一定以上に昇格する事が出来なくなります。
こちらは住所が決まり次第登録頂ければ問題御座いません。
続いてギルド内のランク、冒険者ランクについて説明致します。
冒険者ランクはJランクがスタートランクとなっておりAランクまで御座います。
尚、 Aランク以降はS、S2、S3と上がって行くのですが、Sランク以上への昇格には条件があり、大型ダンジョンの踏破、特定災害指定された魔獣の討伐、国家指定依頼の完遂等の大きな功績が必要となります。
皆様方の現在のランクはJとなりますが、警戒部隊長ノディン様の紹介状と共にアルケンダス帝国第一皇女ネテーテ様と第三皇子チャーシテ様の連盟にて、要人救出及び警護の完遂についての書状が同梱されておりました。
後日、アルケンダス帝国より正式な書類が届くとの事ですので、Sランク昇格条件自体は満たしている事になります。
そのため、皆様がAランクに昇格した時点で自動的にSランクとなります。」
皇女と皇子は何時の間にそんな書類を入れてたんだ?
まあ、細々した内容を用意したのは従者達で、2人は署名と捺印をしただけなんだろうけど。
『Aランクで自動的にSランクってどういうことかな?』
『優貴、空手で言うと1級に合格すると昇段審査免除で初段貰えるって事だぞ。』
『え~なんかズルいね。』
『お前も頑張って帝国皇子のチャーシテを助けたじゃないか。だったら別にズルくもないだろ?』
『――うん……そうだね。』
コンコン
俺達の居る部屋が一瞬静まったタイミングで扉がノックされた。
「冒険者カード作成機をお持ちしました。入室して宜しいでしょうか?」
扉の向こうから男性の声がし、それを聴いたサマンサさんは俺達に頭を下げた後に返事を返した。
「入りなさい。それでは皆様、機械を入れますので少々お待ちください。」
扉が開きガラガラとその機械が運び込まれた。
袖机のような台に乗せられた機械は大体40センチメートル四方の上面がガラス張りになった白い箱だった。
サマンサはその機械の横を開いてなにやらゴソゴソとやっているようだ。
「それでは準備が出来ましたので、スグル様よりこちらへお越しください。
この機械は冒険者カードに皆様の魔力パターンを登録するものです。
ただ手を乗せて頂くだけですので特に難しい事は御座いません。」
「ランクとかの情報はどうなってるんだ?」
「ランク情報等は魔力パターンが登録されたカードに対して職員が別の機械を使って登録致しますので、この後で別の職員が対応致します。
ではスグル様、手をこちらに。」
促されるまま俺が機械に手を置くと、サマンサがボタンらしき部分を押した。
すると機械のガラス部分がフワッと光り、カタリという音と共にカードが排出される。
(コピー機かよ。)
「はい、スグル様はこれで完了となります。
ではユウキ様、エラコ様の順でお願い致します。」
「あれ? ヒナタはどうなるんだ?」
「ヒナタ様はユウキ様の従魔と伺っておりますので、個人での冒険者登録は不要となっております。
後程、ユウキ様のカードとリンクする従魔用のタグをお持ち致しますのでそちらをご利用ください。」
なるほどね~従魔は使役者とセット扱いか。
優貴とエラコも無事終わったようだな。
「皆様、お疲れ様でした。
次は職業名の登録となりますが、こちらは申告制ですのでご自由に指定が可能となっております。」
「あ、僕は魔法剣士でお願いします。」
「あたしは"美少女"盗賊ね。」
「はい、畏まりました。
ユウキ様は魔法剣士、エラコ様は美少女盗賊にてご登録させて頂きます。」
優貴はこの場合は"魔獣使い"になるんじゃないの?
エラコの方も美少女の部分は職業に関係ないよね?
「あ~自分は格闘回復士で頼む。」
「畏まりました。それではカード発行手続きはこれにて終了となります。
最後に対人戦闘による冒険者適応審査が御座いますので、ギルド裏手の訓練スペースへご案内させて頂きます。」
なんだよ、やっぱ定番のもあるんだな。
……
サマンサに案内されてギルドの裏手にあるという訓練場にやってきた。
裏手と言うからてっきり外だと思っていたのだが、入口が建物の裏にあるだけで訓練場は地下施設だった。
地下の訓練施設は一辺50メートル程の四角い空間で天井も5メートル程ありなかなか広い。
その訓練施設の中には俺達が来る前から3人の冒険者が待ち構えていた。
サマンサは俺達をその冒険者達の前へと案内すると彼等の紹介をしてくれた。
「お待たせ致しました。彼等が皆様の戦闘適正の検査官となります。
では検査官の方々は自己紹介をお願い致します。」
まずは大柄で筋肉質な中年の男が前に進み出て来た。
グレーの短髪の間に毛の生えた丸っこい耳が見える。
丸顔で口のまわりの髭剃り跡がちょっと青い。
『あれは熊人族ね。』
(ベアーでもテディでもなくてテッドかよ。大丈夫か?)
「ワッシはダール、斧戦士だぁ。ヨロスグ。」
次にヒョロッとした魔法使い風の中年男だ。
背は俺と同じ位だろうか。
三角帽子を頭に被っていて髪型は見えないが、カイザル髭に尖った顎が特徴的だな。
「ワタシは魔法使いのマサンガでーす。ヨロシクでーす。」
『こっちは鼠人族よ。』
(いや、鼠だとしたらどう見てもラットだろ?)
そして最後はスタイルの良い20代前半位のお姉さまであった。
ウェーブした金髪を後ろに纏め、大きいが目じりが少し垂れた碧い目、とても長い睫とぷっくりとした唇が印象的だ。
色白の肌で170センチ程の身長にメリハリのあるグラマラスな体形をしており、ボンキュッボンとはこの事だろう。
(間違いない、こいつは豚人族だ!)
「アタイはコロンダ、職業は盗賊よ~ん。よ・ろ・し・く・ね~ん。」
じゃあ俺達も挨拶がいるな。
「格闘回復士のスグルだ。ユウキとヒナタ、あとエラコも挨拶しとけ。」
「魔法剣士のユウキです。こっちは従魔のヒナタです。」
「ヒナタだよ~。」
「エラコよ。"美少女"盗賊よ!」
あら、コロンダがなんかピキッっと来たように見えるな。
エラコも煽るのやめろよな~
「それではお互いの自己紹介も終わりましたので、私から補足致します。
ダールさん、マサンガさん、コロンダさんの3人は先月Cランクに昇格したベテラン冒険者パーティです。
スグル様とマサンガさん、ユウキ様とヒナタ様がダールさん、エラコ様がコロンダさんと戦って頂く予定ですが、変更の希望は御座いますか?」
「ああ、俺はダールで頼む。」
「じゃあ僕とヒナタがマサンガさんで。」
「あたしは"美少女"じゃない方の盗賊でいいわ。」
だから煽るなってもう。
コロンダはにこやかに微笑んで見せているが、青筋と右手の震えが隠せてないんだぞ?
「では相手の検査官が決まりましたので、さっそく始めさせて頂きます。では……。」
「はいは~い。あたしが最初にやるわ。」
どうしたエラコ、珍しくやる気満々じゃないか。
「それではエラコ様、コロンダさん。備え付けの武器を一つお取りになって中央へ。」
訓練場の武器置場ではコロンダが困った顔をしていた。
「あら~ん。困ったわね~鞭がないじゃな~い。」
「あんたは自分の鞭を使っていいわよ? あたしはこの木のナイフでいいわ。」
「あっら! なっまいきね~、大怪我どころか死んじゃっても知らないわよ~ん?」
「大丈夫よ? どうせすぐに終わるからね。」
それを聞いていたサマンサが、二人の間に割って入った。
「エラコ様、コロンダさん、適性検査では殺傷力の高い武器の使用は認められません。
コロンダさんは代用武器の使用をお願い致します。」
「じゃアタイは木のショートソードにするわね~ん。」
「じゃ、はじめましょ?」
エラコとコロンダが中央の地面に書かれた向かい合う線にそれぞれ並び、サマンサが開始の合図を出す。
「始め!」
勝負は一瞬だった。
エラコは全力で木のナイフをコロンダに投げつけたかと思うと透明化で姿を消した。
コロンダは自分に向かって飛ぶナイフをショートソードで払い退けたかと思うと急に体を硬直させる。
その後コロンダは木のショートソードを地面に落とし、両手を上げて降参を宣言した。
「ま、参ったわ。降参よ~ん……。」
何が起こったかさっぱりわからん。
後でエラコに聞いてみるか……。
「次、僕でもいい?」
「ぼくと、にーちゃんがやる~。」
と言う事で俺は最後になった。
「じゃあ僕は魔法使いっぽい木の杖を使うね。」
「ぼくはいらな~い。」
「ワタシは魔法使いのでーすので、自分の杖でいいでーすか?」
「魔法使いのマサンガさんはそれで構いません。ユウキ様とヒナタ様も宜しいですか?」
「うん、いいよ。」
「いいよ~。」
優貴、ヒナタ、マサンガが中央に到着する。
「始め!」
さあ、どうなる。
まず優貴とヒナタは左右に分かれ、マサンガを挟み込むように移動する。
マサンガは完全に挟まれないよう素早く後ろに下がりながら呪文を詠唱していた。
<ファイヤーボール>
マサンガがユウキとヒナタに向け、それぞれ2つずつ、合計4つのファイヤーボールを飛ばす。
優貴は自分に向かって放たれた2つのファイヤーボールの下を潜って躱しマサンガへと駆けだした。
対してヒナタは自分に迫りくるファイヤーボールは無視し、頭上に50本程のファイヤーアローを浮かべている。
ヒナタに命中したかと思われたファイヤーボールが王慧の加護――敵性魔法攻撃無効化――により霧散すると同時に、ヒナタはマサンガに向けて全てのファイヤーアローを発射した。
ヒナタから放たれたファイヤーアローは、別方向からマサンガに走り寄る優貴より先にマサンガへと辿り着き、次々とマサンガに襲い掛かる。
<ファイヤーウォール>
マサンガは既に詠唱を終えていたファイヤーウォールを展開してヒナタのファイヤーアローを防ぎ切った。
その隙にマサンガの後ろに回り込んだ優貴は、木の杖でマサンガの膝の裏を打ち付けた。
「イダッ!」
膝カックンで後ろに倒れこむマサンガから優貴が飛び退くと、その隙に駆け寄ってきたヒナタが新たな魔法をマサンガに放つ。
突如、マサンガの居た地面に穴が開き、マサンガはドサリとその中に落下した。
優貴が穴の上から止めとばかりにウインドバレットを打ち込んでいると穴の中から叫び声が聞こえた。
「降参でーす! 降参しまーす!」
エラコが勝って、優貴とヒナタも勝ったし、俺も頑張るか~。
「それでは最後の適性検査はスグル様とダールさんです。」
「俺は無手でいい。」
「ワッシはこの棍棒だぁ。」
俺とダールはさっさと中央へと進み合図を待つ。
「始め!」
サマンサの合図と共に棍棒を小さ目に振りかぶったダールが爆発するような勢いで俺に飛び掛かってきた。
斜め上からブンと振り下ろされた棍棒を、俺は軽いステップで後ろに躱す。
ダールは棍棒を完全に振り下ろし切る前に、力づくで棍棒を戻し、軽く振り被った姿勢で一歩下がった。
(へぇ、意外と隙がないな。もっと大雑把な奴かと思ったが厄介だな……。)
俺は念の為ファイティングポーズを取り、素早くダールへと間合いを詰める。
それに合わせてダールがブンと棍棒を振り下ろしたが、今度は後ろではなく前に距離を詰め、前蹴上で棍棒の持ち手付近を蹴り上げた。
ガンッ! と凄い音がしたが、中途半端な振り上げと、引き戻しを考えた打ち込みであった棍棒にそこまでの威力は無く、俺の蹴りはダールの腕を高く蹴り上げる事に成功する。
俺が蹴り上げた脚を引き戻す力を利用して、二段蹴りの要領で跳ね上げた棍棒を持つ手を蹴り飛ばすと、またもやガツンと大きな音を立て、今度は棍棒が遥か遠くに吹き飛んでいった。
「さぁて、ここからは殴り合いだ!」
(反撃させずに速攻で決める。)
その後は俺の独壇場だった。
先制攻撃を入れようと踏み込んだダールの最初の出足を内腿へのローキックで止め、態勢の崩れた一瞬の停止を狙ってハイキックを放つ。
頭への攻撃が腕で止められるのは予想していたので、同じ脚で続けざまに脇腹への三日月蹴りを放った。
ダールの鎧に中足がガンとあたり、その衝撃でダールの体が少し傾く。
脇腹を蹴られた事で腕を下げた所に鳩尾を狙った前蹴りをフェイントで打ち込んでさらに胴を意識させた後、間髪を入れず繰り出した胴回し蹴りにダールのガードが間に合わず、踵が頭に入って止めとなった。
……
――<ヒール>――
俺は綺麗に踵が頭に入り、気を失ったダールの治療をしていた。
マサンガの方は軽傷だったので既に治療済みだ。
「スグル様、ユウキ様、エラコ様、ヒナタ様、お疲れさまでした。
皆様の戦闘適正が非常に優秀であることは確認出来たのですが、検査官全員に勝利してしまう想定では御座いませんでしたので、本検査結果による冒険者ランクの査定に少々時間が掛かると思われます。
とは言え、30分程でランクが確定しカードが発行される見通しで御座いますので、この後は先程の部屋にてお待ち頂けますようお願い致します。」
俺とダール、優貴とマサンガは互いに握手を交わした。
ヒナタはその後でマサンガに頭を撫でて貰い尻尾を振っていた。
何故かコロンダがエラコにペコペコと頭を下げていたのが非常に怪しい……。
そうして最初に案内された部屋で俺達は先程の3人の話をしていた。
「コロンダさんって豚人族だよね?」
「そうよ~豚人族であってるわ。」
「豚人族って美人揃いなのか? スタイルもいいし、コロンダもそこそこいい女じゃないか。」
「はあ? 何言ってるのよスグル。」
「お父さん、エロい話はだめだよ?」
「???。 にーちゃん、とーちゃん。さっきの3人に女の人はいなかったよ~?」
「……え?」
「いや、コロンダがいただろ?」
「スグル、あいつは男よ? 上手く女の格好はしてたけどね。
あたしはコロンダに性転換の魔道具について良い情報があるから、知りたかったら降参しなさいってコッソリと言っただけなの。
マジ楽勝だったわ。」
「そうなんだ……僕、人を見る目に自信が無くなって来たよ……。」
(優貴、お前の人を見る目はネテーテ皇女の時点で大分怪しいからな?)
まだ冒険者ギルドから出れてませんね…




