第020話「倒すべき敵」
恵良の神域でのお話に区切りが付きます。
「これから行く星に名前は無いわ。
と言うか、あたしたちはどの星にも名前を付けてないのよね。
あんたたちの居た地球なんかも、星に住んでる生命体が、自分たちの文化の中で勝手に決めてるだけでしょ?
ま、現地で話す時には地球って言っとけば自動翻訳で勝手に変換されるわよ。
その異世界地球(仮)だけど、人族が他種族構成になってるのが特徴ね。
例えばシャムの管理している星は猫人族が中心で人族は他に居ないわ。
他の星も人族は単一種族で、守護神の種族がベースの星になってるの。」
「これから行く星以外は、元居た地球みたいな構成って事ですか?」
「そうね、シャムの星は猫種の違いが人種の違いみたいになってる所は、白人や黄色人なんかの分類分けと似てるわね。」
なるほど。
「で、これから行くところは色んな人族がいる……と。」
「そう。で、その星は守護神不在でね。
ちょっと混沌としてるのよ~。」
そんな所に行って何すんの?
「そこで何をすればいいですかね?」
目的が解らないな。
「ん~、まずはヒナタを育てる。
ま、鍛えて欲しいって所かな?」
「ヒナタを……ですか?」
「そう、ヒナタ。
その異世界地球(仮)なんだけど、元は犬人族が土着の人族だったんだけど、歴史の中で権力者が召喚した猿人族が大増殖しちゃってね~。
異世界じゃなくて同じ世界の中での召喚よ?
他の種族も一杯召喚してたみたいだから、色々と居るってわけ。
でね、その増えた猿人族の一部が人間と名乗って他の種族に対し亜人だ、やれ獣人だ、とかって見下して迫害し始めたの。
変な宗教を興して居もしない神を崇めだしたり、挙句の果てには信仰を掛けて戦争したりと迷惑極まりないのよ?」
恵良さんがプンプンと頬を膨らませて怒っている。
どこから声だしてんだ?
「で、ヒナタを中心に犬人族を纏めて、取り合えず猿人族を間引いてくんない?」
ちょっとまて、俺と優貴はその猿人族なんだが?
「俺たちに同族を狩れと?」
俺の問いに空気が少し剣呑になった気がする。
「スグル。」
シャムが重い空気を割いて声を掛けてくる。
「スグルの星の人間と、この世界の猿人族は違います。
王慧様は外見が似ている事と、この世界での分類のため、お二人の種族をあえて猿人族にしたのだと思います。
この世界の猿人族は本当に愚かなのです……。」
そう言われてもなぁ……。
ヒナタは先程俺の腕に飛びついたかと思うと、つまらないのか丸くなって眠りそうな勢いだ。
だが、優貴の方はこの展開にちょっと困っているようである。
『お父さん、多少人と戦う事になるのは仕方ないのかもしれないけど、僕は虐殺とか嫌だよ……。』
俺だって嫌だ。
例え違う人種だと言われてもね。
「絶滅させろって訳じゃないのよ?
その星の主たる生命体が、この場合犬人族が守護神に昇華出来るようになればいいの。
そうすれば他の星のように落ち着くと思う。
いずれにせよこのままだと、星の守護神が猿人族になって、ちょっと困った事になるのよ……。」
「ね、恵良さんや、他の守護神で何とかすることはできないの?」
優貴もそう思う? 俺もそう思った。
「出来ないのです。
私達守護神は星単位でしか操作権がありません。
そういう仕組みなんです……。」
「じゃあ恵良さんは?」
「恵良様に関してですが、種族全体や星のレベルで干渉する場合、恵良様では創造神の力を上手くコントロールする事が出来ません。」
でも王慧さんは、俺たちの夢みたいな凄く小さなレベルに干渉してきたよね?
「いいですか? 恵良様は出来ない……のです。」
恵良さんが横でチッっと舌打ちする。
「以前さあ、文明の進んだ猿人族が宇宙へ進出して戦争を始めたのよ。
でね、この世界の宇宙は一つに繋がってるから、すっごく遠いとは言え、いずれは他の守護神の星に干渉するかもしれないじゃない?
で、ちょっとお灸を据えようと思って干渉したら……。」
「したら……どうなったの?」
「猿人族の住む星系が、守護神の存在もろとも消滅したわ。
あたし、創造神では新神(新人)なのよ?
王慧とかジジイならいざ知らず、まだ細かいコントロールが出来ないのよ!
だからあんたに付けた加護も碌な効果付けらんなかったし、呪いの修正も上手くいかなかったの!
練習中なの!」
恵良さんが腕を組んでプイと横を向いた。
拗ねた。
しっかし元居た地球で考えてみて、太陽系丸ごと消されるって事ならそりゃ困るわ。
「うーん、言いたい事はなんとなーくだけど分かる気もするけど、ヒナタを鍛える理由が分からないんだよな。」
「やったら分かるわよ!」
ご立腹だな。
ムカ着火ファイヤー位か? なつかしい。
「分かりました。善処するので、話を進めませんか?」
『お父さん……いいの?』
優貴が心配そうに聞いてくる。
『このままだと時間だけが過ぎて、結局やることは変わらないだろ……俺たちで上手くやるしかない。』
『う~ん……そうだね。ヒナタを鍛えて強くするのは悪い事じゃないと僕も思うから、出来る事をやればいいよね。』
とは言ったものの、なんかこう違和感が拭えないんだよな……。
よし、現地では出来るだけ穏便に進む方向性を模索しよう!
「話は纏まりましたか?
恵良様もそろそろ機嫌をお直しください。
見っとも無いですよ?」
シャムのフォローがありがたい。
「はいはい……見っとも無い新人の恵良ですよ~だ。
もう、仕方ないから気を取り直していくわよ!」
復活早いな。
なんか恵良の話を聞いてるとイライラしてくる。
この創造神への口調に気を遣うのは止めだ、止め。
「その星についてだけど、人種はそれこそ宇宙中の人種が居るわ。
まさにファンタジー世界ね。
陸地は人間の地図だと、北を上にして左に獣人の土地、真ん中に人間の土地、それを挟んで右に魔族の土地の3つの大きな大陸構成されてるの。
北と南にも土地はあるけど氷の大地、北は竜種、南は氷狼種の土地ね。」
「竜種はいいとして、氷狼種はイヌ科じゃないのか?」
「氷狼は、あんたたちにはフェンリルって言えばいい?
この世界では犬型の固有種で、強くて独自の文化を持ってるけどただの魔物よ。
ドラゴンもそう。
どちらも長命で人語を理解したりして、力も魔力も強いから神の眷属の如く思われてるみたいだけど、あたしたちの眷属じゃないし、いくら長く生きてても神格化もしないわ。」
フェンリルもドラゴンも只の魔物とか、恵良の世界なんだし創造神が言うならそうなんだろう。
「でね、引き籠りのドラゴンやフェンリルは無視するとして、人間の土地の西部に降りて欲しいわけ。」
ふむ、獣人の土地に近い所って事か。
「そこから獣人の土地へ行って、犬人族を纏めろってか?」
「ちがうちがう、それなら直接行って貰うわよ~。
そうじゃなくて、そこが一番安全そうなのよね~。」
あれ?
でも人間と名乗る猿人族は、他種族を見下してるって言ってたよな……。
「獣人と人間の種族間で揉めたりしてないのか?」
「あー、分かり難かったわね。魔族が問題なの。」
「でも人間って名乗ってる猿人族が問題って言ってただろ?」
「さっき人間の地図って言ったじゃない?
魔族の土地って言ったけど、人間も魔族も猿人族よ?
猿人族のまま今に至ったのが人間、合成や変異なんかで人外化して種族を分離させて行ったのが魔族、あたしが駆除して欲しいのは、その魔族とそっち寄り猿人族のなのよ。」
「恵良様、最初から魔族が居るので排除して欲しいと伝えればよかったのでは?」
だよね~。
で、猿人族がやってる迫害とか宗教とかはどうなのよ?
結局大元の魔族って方の猿人族駆除しろって話なのか?
シャム、説明代わってやってくれよ……。
『魔族だったら悪い奴らなのかな? 倒しても大丈夫かな?』
優貴が心配そうに聞いてきた。
うーん、親としては無駄な殺生は避けて欲しい所だけど……。
『どうだろう。魔族が本当に悪い奴らで、自分や家族、仲間に危害を加えてくる敵なら倒せばいい……いや、倒すしかない……だろうな。』
「魔族は悪い奴らなの?」
意を決した優貴が質問する。
「ユウキ、魔族は星の覇権を狙っている、と言って過言ではありません。
猿人族は現在は大きく2つの勢力に分かれています。
魔族寄りの猿人族は魔族の力を利用していると思っているようですが、実際は魔族の掌の上で踊らされているに過ぎません。
このままでは猿人族を含めたその他の人族は滅ぼされてしまうでしょう。
恵良様は魔族を排除し犬人族の守護神の問題を解決した後で、新たな星系を創造して猿人族を移住させるおつもりです。
ですが、このままでは全ての計画が崩れ、その星や星系自体が消滅せざるを得ない事態になりかねません。」
シャムがそう言うって事は、恵良がまたムカついて暴走しちゃうって事?
魔族が居るのは事実なんだろうし、シャムの言ってる事も立て付けとしてはそうなんだけど……何だろう。
正直言って、理由の筋がブレて見えるんだよな。
新たな猿人族の星系ってのも、結局、恵良が自分のケツ拭いてるだけだよね?
何か裏がある、そう思って動くしかない。
「そうなのよ。この可愛い恵良ちゃんを助けると思って。ね? お願い!」
だから、その格好は「メンゴ! てへぺろ」であってお願いのポーズとは違うわ、マジムカツク。
シャムの方は正しく腰を折り、頭を下げてお願いしているってのに……。
ここは一旦肯定しておくしかないよな。
「あ~わかったよ。いいよな、優貴?」
「うん……出来るだけ頑張ってみる。」
恵良とシャムの顔がパアッっと明るくなったようだ。
言っとくけど、シャムのお願いポーズ免じてだからね?
ヒナタ……は白目を剥いて寝てるからいっか。
「ありがとうね、あんたたち。
でもボチボチやってヒナタが育って強くなれば……多分大丈夫だから!
あんまり無理はしなくていいわよ?」
何が大丈夫なんだか分らんが、取り合えず俺と優貴は大きく頷いておく。
「じゃ、そろそろ行って貰うけどいい?
土地に降りたら服は戻しとくから。
愛しいあたしとは当分会えないとは思うけど……分体の事を宜しくね?」
また会えるフラグだろそれ?
――しかし……なんだこの違和感。――
何?倒すべき敵って魔族って言ってるけど、結局は猿人族なんじゃない?
皆騙されてる気がするけど……
卓はなんか気になってるみたい。
さて次回、ヒナタ(異世界の)大地に立つ?




