第009話「予兆」
続きを投稿致します。
一章だけは早めに投稿を完了する予定です。
慣れぬ作業で不定期更新である旨、ご了承頂ければ幸いです。
よし、時間だ!
「ケルベロス!Go!!!」
ワン!ワンワン!
優貴の寝ている部屋の扉を少しだけ開くと同時に、ヒナタが扉の隙間を鼻先でこじ開け、一目散に優貴の寝床へ駈け込んでいった。
俺はその姿を尻目にリビングに戻る。
後はヒナタに任せておけば、優貴が起きるまでゾンビの如くアタックを続けるだろう。
何でもない時に寝床へ潜り込んだ場合だと、ヒナタは優貴の横に丸まって一緒に寝てしまう時がある。
だが、あのセリフ――ケルベロス!Go!!!――でけしかけた時は、優貴が起きるまで延々とちょっかいを掛け続けるのだ。
――ヒナタは賢いのぅ――
さて、朝ご飯はどうしようかと考えていると、優貴の寝ている部屋から
「やめてー」
と言う声が聞こえる。
どうやら優貴も目が覚めたようだ。
「優貴ー!起きたんだったら着替えて顔洗って朝ごはん食べろよー。今日の空手は午前の稽古の後でハロウィンパーティだから。早く食べて用意して出ないと間に合わないぞー!」
こう言っておけば急いで用意するだろう。
「いまいくー!」
優貴の返事が聞こえ、暫く待っているとドタドタと洗面所に向かう音が聞こえる。
さらに暫く待つと、ヒナタを抱っこした優貴がスッキリした顔でリビングに入ってきた。
「おはよー」
「おう、優貴。おはよう。よく寝れたか?」
優貴は一瞬変な顔をしたが、まぁまぁ……だそうだ。
「さて、朝ご飯なんだけど、お父さんは食べないけど、優貴はどうする?パン?ご飯?」
今日のハロウィンパーティーは昼を挟むので、実は食べ物が用意されている。
こういったイベントの食べ物はピザやオードブル等の重たい物が多いと予想しているので、ダイエットの必要がある俺としては朝ご飯は抜いておきたい。
「うーん、じゃあ僕もいらないや。お菓子とか沢山貰えるって先生たちも言ってたし」
――優貴君、お菓子はご飯じゃないぞ?――
「まぁそれだけだと稽古中持たないから、コーンスープ位は途中で買って飲んでいこうか。あと、お父さんは銀行に寄りたいから、朝ご飯食べないならそろそろ出発してもいいかな?」
両替の件を思い出し、優貴にそう提案する。
「それはいいけど、今日土曜日だよ?銀行やってる?」
しまった……やってない。
銀行の店舗に置いてあるATMなら硬貨入金も出来た筈だが、確か一度に投入できる硬貨は50枚?だったかな。
行きがけにやるには時間も掛かるし面倒臭い。
「そ、そうだったな……じゃあ帰りに銀行ATMの方に寄るかな」
アハハハハハ……
「ねえ、お父さん。道場の飾り付けの手伝いは?早めに行くんじゃなかったっけ??」
――!!!!!!!!!!――
「やばい、急ごう!今からなら間に合う!!」
「もーっ!もっと早く起こしてよー!」
完全に忘れてました!
優貴君、ご立腹である。
優貴に抱かれた状態のヒナタは首を傾げてハテナ顔をしていたが、優貴が床に下してやると、空気を察して自分からケージに戻っていった。
「ヒナタ、いい子で留守番しててな」
俺はヒナタの好きなおやつのチューブ状の甘いジェルを指に掬い、ペロペロとヒナタが舐めとった事を確認してケージの扉を閉める。
「荷物の準備は出来てるぞ、お前は自分のリュックサックと小さい紙袋な」
自分のリュックサックは優貴が自分で背負うだろうから、小さい紙袋の方を手に取り優貴に渡す。
「あ、お父さん、お父さんの空手用リュックサック、リビングに置いたままにするとお母さんが帰ってきた時に大目玉だよ?」
それはイカン。
しかし、俺は丁度ガムテープやらカメラやらが入ったリュックサックを背負って大きな紙袋を抱えた所だ。
「お、そうだな。悪いけど、俺の空手用のリュックサックを隣の部屋に置いてきて貰えるか?その紙袋は持っててやるから。戸締りも確認しないといけないし頼む」
優貴はまだ自分のリュックサックも背負っていない状態だったので、とりあえず俺の不要な方のリュックサックを別室に運んでおいて貰う事にしよう。
「うんわかった」
優貴が俺のリュックサックを持ち上げる。
「あ、お父さん、そういえば今朝、変な夢を見たよ?」
――ズグンッ――
なんだ……?
優貴の姿が完全にブレる……
――ズグンッ、ズズズズズ――
なんなんだ……
視界が……おかしい……
俺に話しかけた半透明の優貴と、話しかけた時点で分離したいつもの優貴が分離し、いつもの優貴が隣の部屋へリュックサックを運んでいく。
半透明の優貴は同じく半透明の俺のリュックサックを持ってその場に立っている。
「お父さん!お父さんが二人いる!!」
半透明の優貴の声に驚き、後ろを振り返ると、俺だと思われる人物が部屋の窓のカギや台所のガス栓の確認をしている。
俺らしき人物がヒナタのケージに向かい、網の隙間からヒナタに声を掛けているのを眺めていると、まるでケージがないかの如く半透明のヒナタが飛び出し、半透明の優貴の足元へ飛びついてきた。
いつもの優貴と俺らしき人物は透明な俺や優貴、ヒナタの存在を素通りし、自転車のカギは持ったか?なんて言い合いながら部屋から出ていった。
外からガシャンとカギを掛けられた音がしたとき、ケージの中のヒナタはマットの上でくるんと丸まり、誰もいないかのようにスッと目を閉じて眠りについた。
「優貴……何かがオカシイ。俺も変な夢?みたいのを見たんだが……」
そう伝えたと思ったその瞬間。
――ブツン――
と、ブラウン管のテレビのスイッチを切った時の音がして、俺たち二人と一匹の世界は暗闇に包まれた。
前置きが長くダラダラしている気がします。
こうスパっともっていける人が羨ましいです。




