5話 【過去】 良妻賢母なサキュバス1匹、いかがですか?
【過去】
勇者カインの旅は順調に進むこととなる。
姫騎士シルフォニア、大戦士のガッズとヴァネッサ、聖女メルヴィ、魔導研究所のラーロなどの頼もしい人たちが仲間となり、勇者カインは次々と魔王の配下たちを倒すことが出来ていた。
勇者としての活動は人々からの支持も得られ、たくさんの人を助け、そしてたくさんの人に支えられる事となる。
勇者カインの冒険は順調に進んでいた。
ただ……、
「カイン様~! おパンツ頂きに参りました~!」
「…………」
この勇者パーティーは1人のサキュバスに寄生されていた。
「…………」
「なんなんですか? カイン様? そんな腐った牛乳を見るような目で私の事をじっと嘗め回す様に見て……」
「いや、前半は合ってるけど、嘗め回すようには見てねえよ」
「そんな侮蔑がこもった目で見られると……興奮しちゃいます……♡」
「このドアホ」
リズは身悶えしながら自分の腕で腰を抱いた。
リズの住んでいた街での衰弱事件後、リズは自分に正直になり、彼女はカインの下で元気を取り戻していた。
ただ、自分に正直になり過ぎていた。
「分かった、分かったから……ほら、洗濯物持ってけ」
「はい、ありがとうございます、カイン様」
カインは自分の仲間である問題児に大きなため息をつきながら、旅の中で溜まった洗濯物をリズに差し出していた。
先程の「おパンツ頂きに参りました」発言は、ただ洗濯物を取りに来ただけであった。
リズはこの勇者たちの仲間の中で、率先して料理や洗濯などの家事を取り行っていた。
彼女の作る料理はとても美味しく、いつも仲間たちの心を潤していた。
そしてこまめな洗濯は彼らに清潔感を与え、風邪や病気を良く予防していた。
「まぁ……なんだかんだ言っていつも有難いとは思ってるよ」
「あら、お褒めの言葉に私照れちゃいます。今夜はベットに潜って来いと仰ってます?」
「仰ってねぇ」
口を開けば呆れられた。
「負担が大きかったらちゃんと言えよ? 仲間内でもっと分担出来るんだからな? ……流石に服を縫う技術まではねぇけどよ」
「ふふ、ありがとうございます、カイン様。ですが家事は私の趣味みたいなものなので……」
リズは穏やかに笑った。
「何故なら……家事が出来る女性は男性にモテやすいからですっ……! 男を落としたければ胃袋を掴めっ……!」
「清々しい理由だな!」
「人生のお供に良妻賢母なサキュバス1匹、いかがですか? カイン様?」
「『賢母』の部分が見当たらねぇなぁ?」
下らないやり取りに呆れ、カインは葉巻に火を付けた。
「まぁでも、この宿は金払って頼めば洗濯をしてくれるらしいぞ? そっちに任せてゆっくり休むのもアリなんじゃねぇか?」
「何を仰います! カイン様! 使用後の洗濯物を集めて、カイン様のパンツとかシャツをクンカクンカする私の楽しみを奪うおつもりですかっ……!?」
「てめぇっ! やっぱりそんな事やってたんじゃねぇかっ!」
リズの家事は実に趣味と実益を兼ねていた。
「最近では仲間も増えて、シルファ様やメルヴィ様のおパンツなど嗜みが増えて、私は実に満足です……」
「お、女のパンツにまで……いや、お前が変態なのはよく知っているけどさ……」
「男性だろうが女性だろうが、喰っちゃえます、私」
ホクホク顔でリズはそう言った。
「ひゃ、百歩譲って俺らはいいけど……ガッズやフリアンはやめてやれよ……? 恋人や家庭持ちの生活まで壊すなよ?」
「大丈夫です! 私が手を出す男性はカイン様ただ1人ですっ! このサキュバス、こう見えて意外と一途なのですっ……!」
「あー……、ほっとしていいのか、貶していいのか分からんな、こりゃ」
「人生のお供に一途で家庭的なサキュバス1匹、いかがですか? カイン様?」
「てめーを『家庭的』だなんて言いたくねぇなぁ? このドアホ」
「やん♡ もっと罵ってください……♡」
リズは身をくねらせた。
「まぁ真面目な話、リズには魔法使いとして戦闘面での働きも期待している。家事で疲れて、戦いで傷を負ったりしたらシャレにならねぇからな?」
「はい、ですのでカイン様のパンツください! あれをクンカクンカするだけで、私のサキュバスとしての興奮度は駄々上がり! 力もぐんぐん上がります!」
「てめぇっ! 断り辛くなる言い訳するんじゃねぇっ!」
リズのサキュバスとしての能力は性的興奮によっても上昇するものだった。
なので、直接精を集めなくてもセクハラ行為や変態行為だけで彼女の魔力は補充されていった。そしてその対象は男性に限らず、女性も範囲内だった。
……もちろん、直接的に精を集めたりもしているのだが。
「ふふーん♡」
「…………」
リズはカインの隣に座り、彼の体に自分の身を寄り添わせる。
「カイン様、今日の夕飯は何がいいですか?」
「……ハンバーグ」
「はい、分かりました。飛びっきり美味しいデミグラスソースを作っておきますね」
「あぁ、楽しみだ」
カインは寄り添ってくるリズを突き放したりはしない。セクハラに対しては厳しく接するが、リズが自分の隣に擦り寄ってくることは許容していた。
「このサキュバス、傍に置いておけば一生美味しい料理が食べられますよ?」
「……それは確かに魅力的なんだよなぁ」
カインは自分のおでこに手を当て、悩むような素振りを見せる。
リズの作る料理がとても美味しい事は仲間内での共通認識だった。長い旅の中でいつだって美味しい料理が出て来るというのは、大きな癒しであり心の栄養であった。
「別にお嫁さんにしてくださいなんて言ってませんよ。どんな形だって傍において貰えれば喜んで料理を振る舞いますよ? そう! 愛玩動物でも! 性奴〇でもっ……!」
「やめろっ!」
「性〇隷でもっ……! いや、寧ろ性奴〇にしてくださいっ……!」
「やめろ言ってるだろっ……!」
2人身を寄せ合う淑やかな雰囲気が一瞬にして瓦解する。リズは暴走した。
「はっ……!? まさかこのサキュバスを〇奴隷以下の家畜として扱おうというのですか……!? 体を売ってお金を稼がせ、自分はそのお金で他の女性と遊んだり、ギャンブルをしたりするのですかっ……!?」
「最低だな、そいつ!」
「でも、そんなぞんざいな扱い……正直興奮します……♡」
「あー、もう俺、こいつを制御しきれねぇー」
投げやりな声を発したのはカインであった。
「……おい」
「え……?」
「…………」
「わっ……!?」
カインは傍にいたリズの背中に手を回し、彼女の肩を抱き寄せた。
ただでさえ触れ合っていた体が、より強く押し付けられた。
「バカばっか言ってねぇで、お前は黙って美味しいご飯を作っていればいいんだ」
「…………」
「俺の傍で、ずっとな」
リズの頬がぽっと赤くなる。
顔を上げ、自分の体を抱くカインの顔を見ると、そう言った彼自身も少し顔を赤くしていた。
それを見ると彼女の顔はより熱くなる。
「はい……」
小さく呟いて、しおらしく俯いた。
「そう、します……」
「…………」
「このサキュバス……良妻賢母ですから……」
そうやって2人、顔を赤くしながら長い事静かに身を寄せ合っていた。
夕飯の支度は遅くなるのであった。
今回はいつもより文字数少ないですが、これからは大体この位かそれ以下になると思います。
最初の数話が予定よりも長過ぎたんや。