17話 【過去】 お縄を少々嗜んでおりまして
【過去】
「……という訳で、最近カイン様の心の負担が大きくなっております」
「うむ」
「はい、そうですね……」
酒場の丸いテーブルを女性3人が囲い、顔を突き合わせ相談事をしていた。
外は暗く星が昇っており、酒場には1日の仕事を終えた人達が集まり、酒を豪快に飲み騒ぎアルコールで顔を真っ赤にしていた。
しかし、酒場の端で静かに話し込んでいる女性3人はほとんど素面で、テーブルの上にも小さめのコップと少しのつまみしか置かれていなかった。
真剣な面持ちで話をしているのはリズとシルファとメルヴィの3人だった。
「やはり魔王軍の大隊長ダークブリンガーが原因だな……」
「まさか……カインさんと同じ村の出身の昔馴染みだったなんて……」
勇者カインは最近苛立ちを隠せないでいる。
新たに立ち塞がった強敵ダークブリンガーはカインと同郷の幼馴染だった。昔馴染みの男友達で、カインが気を許している友の1人であった。
その男が魔の力を手に入れ、魔王軍の大隊長をやっていた。
それ以来、さばさばとした性格をしていたカインが、悩み落ち込む様子を見せるようになっていた。
「なんとかカインさんのお心を癒せればいいのですけれど……」
小柄で白い髪をした聖女メルヴィが心配そうにそう呟いた。
「何か私達に出来る事は無いかな?」
「そのその……せめて、何故ダークブリンガーさんがカインさんの敵に回ってしまったのか……それが分かればいいのですけど……」
シルファとメルヴィは口に手を当てながら、深く考え込んでいた。自分達の大切な仲間であり、そして愛している婚約者の為に何か力になりたかった。
「……分かりました。私に考えがあります」
「リズ……」
「リズさん……?」
そう声を発したのはリズであった。2人の視線が彼女に集まる。
「確かに……心の機微に対しては私たちよりリズの方が聡い」
「あのあの……リズさん……お願いしてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、大切なカイン様の為です。私が一肌脱ぎましょう……」
リズはカインの婚約者ではない。しかし、彼を愛する気持ちは婚約者である2人と微塵も変わらなかった。
「カイン様の心の負担は、私が何とかして見せます!」
そう言って、リズはぐっと握りこぶしを作ったのであった。
* * * * *
そしてロープによって亀甲縛りになっていたリズが、カインのベットの上に転がっていたのだった。
「カイン様!」
「…………」
「さぁっ! 思う存分私をいたぶって下さいっ!」
「何してやがんだ! てめぇっ!?」
リズはSMプレ〇を要求していた。
カインが剣の素振りを終えて自分の部屋に戻ってきたところ、扉を開けると自分のベットにリズが横たわっていたのだ。
ロープで亀甲縛りを受けていた状態での事だった。
明らかにSM〇レイ用の縛り方であった。
「最近カイン様の心に靄がかかっており、心の負担が大きくなってきているのは分かっています」
「……心配かけてわりぃな……」
「そういう時は、これ! さぁっ! カイン様っ! 私の体をいたぶって日頃のストレスを解消してくださいっ!」
「くっそ訳分かんねぇっ!」
リズの奇行もまた、カインのストレスの原因であった。
「そこに鞭があるでしょう?」
「あぁ、あるな……」
「さぁ! 縄に縛られて抵抗できない若い女性の肢体を思う存分お叩きになって下さい! 元気よく! 思いっきり! とても気持ちいいですよっ!?」
「マジやめて?」
「はぁはぁ♡ さぁ、お早く♡ お早く叩いてください……♡ 私、もう♡ 辛抱たまらん……♡」
「てめーの趣味じゃねーか」
リズはSMプ〇イ用の縛られ方をしていたが、肌着と下着は一枚着ていた。全裸ではなかった。
「え? なに? それ誰が縛ったんだ? まさかメルヴィ? お前そんなことまであいつに教えてたのか?」
「いえ、これは魔法を使って自分で縛りました」
「意味わかんね」
リズは自分で自分を拘束していた。そうである以上、この拘束も魔法を使えば自分で解けるのだろう。
彼女は案外自由の身であった。
「そのロープの端を引っ張ってみて下さい」
「ロープの端?」
「1本飛び出している部分があるでしょう? そう、そこです」
彼女を縛るロープから、尻尾の様に1本のロープが飛び出していた。カインはそれを掴み、引っ張る。
きゅうううううぅぅぅぅぅ。
「あぁんっ……♡」
リズのロープの縛りが強くなった。
「…………」
「ど、どうです……?」
「そう聞かれても、めっちゃなんも言えねぇ」
「もっともっと引っ張ってみて下さい」
「え? やなんだけど」
「いいからいいから、カイン様。騙されたと思って」
「…………」
一応、言うことを聞いてみる。
きゅうううううぅぅぅぅぅ。
「あぁ……♡ 激しい……♡」
「…………」
リズが身悶えするだけで、別に何かが起こる訳じゃなかった。
「カイン様、楽しいですか?」
「楽しくねぇ」
「我が名は~マゾキング~♪ サドキングも~兼ねたりもする~♪」
「うるせぇ黙れ」
リズがいるせいでカインはベットで寝られなかった。
「さぁ、カイン様。思いっきりロープを引っ張って、若い女性の体を思う存分苛めて下さい! 日頃のストレスを、この体に、思いっきりぶつけて下さいっ……♡」
「さっさとどけ」
「ムチもロウソクもご用意いたしました! もっと縛りたいというなら追加のロープも、手錠もご用意いたしております! あ、服を裂きたいというのならテーブルの上にハサミがありますので、それで!」
「…………」
「ロープがあって服が裂きにくいと思いますが、じっくりと、じわじわと、手間暇をかけて少しずつ服を裂いて、舐るように女性の衣服を剥がしていくのも……アリだと思いますっ……!」
リズは叫んだ。
「さぁっ……! その欲望を思う存分、私の体にぶつけて下さいっ……!」
カインは邪魔者を部屋からぽいとつまみ出した。
「ぎゃんっ!」
廊下にリズを放り出し、転がして、扉を閉めた。
「あぁんっ♡ ここで放置プレイだなんて選択……♡ カイン様は正真正銘の、鬼畜ですぅっ……♡ あぁっ、このぞんざいな扱い……、廊下の風の冷たさ……、興奮しちゃいます……♡」
「うるせぇ、黙ってろ」
「あぁんっ……♡」
リズは縛られたまま廊下に転がっていた。
カインはどっと疲れる。変態は放っておいて、自分はベットに横になった。
「わわっ……!? リズさんっ……!?」
「あ、メルヴィ様」
カインの部屋の壁の向こうから驚いたような声をがした。
ここの廊下を聖女メルヴィが通りかかったところだった。
「あのあの、何してるんですか? リズさん?」
「お縄を少々嗜んでおりまして……」
「今日もご精が出ますね」
「お恥ずかしい限りです♡」
ここでそんなセリフが出るのも、彼女はリズに毒されてるなぁと、カインは思った。
「おいメルヴィ。そこの粗大ゴミ外に出しとけ」
「あぁんっ……♡ 粗大ゴミだなんて……♡ 言葉責め気持ちいいですっ……♡」
「はい分かりました、カインさん」
「あんっ♡ 皆ぞんざい……♡」
リズは廊下に打ち捨てられながら身をくねらせていた。
「わたしの部屋に行きますか、リズさん? それとも外のゴミ捨て場の方がいいですか?」
「ゴミ捨て場でお願いします♡」
「はーい」
廊下からそんなリズとメルヴィのやり取りが聞こえてくる。
こうして夜は更けていった。
後日、
その後カインは自分の力で、強敵ダークブリンガーとなんやかんや和解したのだった。
『ダークブリンガー編 完っ!』
役立たずー!