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ハジマリ ハ

 三二秒。さんじゅうにびょう。

 鴉主が命を懸け、死を越えてさえ作った時間は僅かではあったが、燕姫は、確かに、両親の待つ自室へ辿り着いていた。

「――燕姫! 無事だったか! 鴉主は!?」

「連れてこれなかった! でもキーワードを知ってるから生きてるよ!」

 父の問いに娘は自らが嘘を吐いたことを知らない。

「でも時間がないの! 他のシェルターの人は(みんな)殺されてて、すぐそこまでインセイヴァーが来てる! キーワードは“この喜ばしき日に”……」

「燕姫! 早くタイムマシンに!」

 追い詰められているような状況で母親に促されるまま燕姫は合金製の筒に入った。中には既にリュックサックが入っていた。

「ねえ、これ、二回使えるようにできたの?」

 応えず、母はタイムマシンの扉を閉めた。中には燕姫ひとりだけだと云うのに。

「……電力が足りなかったの。だから、消費が少なくても動くように調整して……今まで掛かっちゃった」

「――なに、云ってるの」

「七七キロ。それしか送れないの。ごめんね、一緒に行って上げられなくて。お母さん、ダイエットすれば良かったね」

 タイムマシンを開けるように燕姫が吼えたのと、自室のドアが弾き飛ばされたのは同時だった。

 自室のドアを粉砕したのはもちろん、左目を潰され怒りに歪んだセンジュ。

 脅威の登場よりも、時村一家はセンジュが左手に吊り下げている血まみれボールに目を奪われた。

 不思議と、三人には、それが鴉主であることが、わかってしまった。

 重なる悲鳴の中、時村がタイムマシンを起動させて燕姫は光になった。肉体がこの場から消滅した。

 “だが”。

「……安楽死のための機械、には大きすぎませんか?」

「ああ、違うよ。これは希望だ。科学の限界なんてないという希望、そして私たちの最大の希望」

“光”がまだそこに有ることに誰も気が付いていない。

 時間移動のために光になった燕姫の意識は、まるで神の視点のように広く部屋の中を俯瞰で捉えていた。

 ――父さん! 母さん! 私、居るよ! ふたりとも早く――

「……なるほど。ところで、ご息女からキーワードはお聞きになりましたか?」

「聞きましたよ。燕姫も自慢の娘ね、あなた。ずっと一生懸命で」

 ならば、とセンジュが放った例の首輪。

 しかし、時村夫妻はそれをはね除けた。燕姫とセンジュは、続く言葉を待った。

「ドゥクスよ、キサマは息子にやられたプライドを保つために、親である私たちを家畜にして自分を慰みたいんだろう?」

 不穏な空気を燕姫は光のまま感じ、センジュは持っていた鴉主の生首を手放した。

 骨の跳ねる音がした。

「鴉主は自慢の息子です! 鴉主がしたことを、私たちは誇りに思います!」

「私と妻はキーワードを云わない。あの子たちと同じ――人間だ」

 中身が入った缶詰でするカンケリのような音がした。センジュに蹴られた鴉主からだった。

「ただじゃ、殺して差し上げられませんねぇ……ッ!」

 空間そのものの視点となった燕姫は、目を閉じることも、耳を塞ぐこともできなかった。

 センジュが、切り飛ばして骨を砕いた父の腕を使って母を縛ろうと。

 母から抜き出した肋骨をダーツにし、父を的にしようとも。

 骨を抜かれて萎んだ肺を絞るように踏まれても娘を案じる母の姿を見ても。

 身体を折り曲げられ、足首からの出血を飲まされ続けても母を案じる父を見ても。

 気絶すら許さず、それでもキーワードを云わない両親の滑稽なまでの人間の証明は、アロハシャツのドゥクス・ラッキーが入って来るまで続いた。

「センジュのダンナ、最後の人間の殺し方を拘るのは良いけど長いよ。レークスも来てるんだから、メリハリをさ」

「ああ、そう……でしたね、ラッキーさん。では」

 無造作だった。今まで殺さないようにしていた加減をやめただけ、という様子でふたつの首を“取り外した”。

 センジュは、先ほど蹴りとばしてベコベコにへしゃげた鴉主の隣にふたりの首を置いた。

「素晴らしいインテリアでしょう? ラッキーさん」

 ラッキーと呼ばれたアロハシャツのドゥクスは、ハイセンスなジョークだね、と苦笑い。

 ――アアアアアアッッ!――

 悶える実体すらないまま、燕姫の憎悪と殺意は立体的なまでの存在感を持っていた。

 ――殺す! 殺す! 殺す! 殺す!――

 直後から燕姫に起きたコマ送りやフラッシュアウトといった視界の異常は、感情に応えるように時間移動が開始したようですらあった。

 もがれた両親の首が繋がり、拷問を逆順で繰り返す。時間が巻き戻しのように戻っていた。

 惨状に手は出せず声も届かないことに気が付くと、燕姫は廊下に出た。逆回しで兄鴉主の最期を見届け、他のドゥクスを探すことにした。

 この現象や過去に行けるかもわからないが、燕姫の復讐は始まっていた。

 確認できたドゥクスたちの容姿、呼び名、能力。

 憎悪の炎で燃える燕姫の記憶力は、異様なほどに冷え、冴えていた。

 ――もう二度と忘れない、どれほど時を越え、いかなる手段を使ってもコイツらを赦さない――

 そう決意したとき、時の流れの中の燕姫は、死体を数える見ず知らずの男を見た。

 ドゥクスたちと同じくただのヒトのようだったが、状況から燕姫は推測に至った。

 ――こいつが、レークス!?――

 血避けだろうか、黒いフードを目深に被って顔はわからないが、その男は燕姫の方を“見た”。

「……この雑な時間移動……エンキドゥや……ちがみじゃない? 誰だい?」

 逆再生のはずが、その無機質な呟きは燕姫の耳に届いた。顔は見えないが、フードの男は燕姫に気付いているようだった。

 燕姫が空寒さを覚えたのを合図にするように、時の逆再生は文字通り加速的に速くなる。

 子供の頃の燕姫と鴉主が通り過ぎる。若き日の両親が笑い合っていた。

 人としての誇りと希望を家族に託され、絶望すら許されない燕姫は(とき)の流れの中、静かに泣いた。


 到着したのは、西暦九四八年の日本。

 無菌に近いシェルターで育ち、生水や大気にすら身体を侵されながらも、一五歳の燕姫は生きた。

 一五歳。両親が持たせてくれたエレキスタンは、ヒトとは思えない獣のような男たちに対して使った。

 一六歳。家族の写真を着火材代わりにして暖めてあげた孤児は翌朝冷たくなっていた。

 一七歳。初めて自殺することを考え、その度に夢の中で家族に失望の眼差しを向けられた。

 一八歳。動物の解体をし、生きている動物が食べ物にしか見えなくなっている自分に吐いた。

 一九歳、流行り病の中、抗生剤が自分ともうひとつしかなく、それを誰に注射すれば良いかの選択を迫られた。

 二〇歳。いつの間にか盗賊になっていた。なぜこうなったか、説明できなかった。

 二一歳。初めてヒトを殺した。自分を襲ってきたオス。エレキスタンの充電がなくなり、仕方なかったと自分に云い聞かせた。

 二二歳。幼い兄妹を殺そうとした盗賊の仲間を誤って殺害し、流浪の盗賊となる。

 二三歳。死んだ兄より歳上になり、そして――初めて“仲間”に出会う。




 燕姫の物語は、過去への冒険へと続きます。

 九戦八戒 鬼斬目録 http://ncode.syosetu.com/n1843dz/


 果たして過去の世界には何が待ち受けるのか?

 憎きセンジュとの再会は有るのか? 燕姫が鴉主たちの無念を晴らせる日は来るのか? 未来は変わるのか? そして。

 始まりのない戦いは、一体どこへと向かうのか? 九戦八戒にご期待ください!




 完結おまけ。

 最終後、七人のゲーム順位。


 名前・センジュ

 (インサヌス・ガイア・ドゥクス)

 笑顔と死を届ける紅茶大好きのプラスチック食いムカデ。

 ゲーム一位。


 名前・ヴィータ

 レークス大好きセーラー服と毒針蜂女。ゲーム二位。


 名前・姐さん(仮)

 長身の女。ゲーム三位。


 名前・死体女(仮)

 エッチなお蝶夫人(語弊)。ゲーム四位。


 名前・ラッキー

 アロハシャツ常識人。ゲーム五位。


 名前・ヒリュウ

 フルーツ大好きチャイルド。ゲーム六位。


 名前・コーカサス

 全力カブト系巨漢。ゲーム七位。



 七人の設定はキッチリ決まってるヤツも居るんですが、他のエピソードのキャラが多くて書けない。

 元ネタは「特撮とかに出てくるナントカ何人衆」。

 具体的にひとりずつ元ネタが有るんですが、あまり語れない感じ。

 センジュは、特撮のトンボがライバルのアイツと名前だけラッキーなメガネ。どっちも四人組ですね、そーいえば。

 仕切りたがるけどリーダーになれない、毎回煮え湯を飲まされるのがムカデです(笑)

 執筆予定的にはヒリュウと姐さんが登場早い、かな? かなり後だけど。

 また、ドゥクスが八人としながら、今回七人しか居ないのはミスではないのでご安心を。

 もうひとりはクモのドゥクスなのですが、特撮の有るお約束で不在です。

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