ゲームプレイ その3
「ヤベェ……ヤベェよ! どうしよう! どうしよう!?」
達樹は頭を抱えて絶叫する。そして他に使えるものがないか、自分の身体を丹念に調べ直した。剣はない。草原に置きっぱなしだ。となると残るのは腰にベルトで止められた、ポーチとボックスだ。
達樹はまずポーチを調べた。革製のポーチで小さなベルトで口が締められている。達樹は封を解き、中に手を入れて掻き回してみた。指先に何かが触れ、それを摘み上げると、シリンジ(注射器)が出てきた。シリンジはガラス製で、中には緑色の燐光を放つ粘液が充填されている。達樹がシリンジを強く握りしめると、先端から注射針が飛び出で、力を緩めると針は引っ込んだ。結局中に入っていたのはシリンジが三本だけだった。次に達樹は、ボックスの方に注意を移す。
その時達樹の背後で、土が崩れる音がした。達樹は驚きに絶叫しながら振り返った。達樹の叫びに、絹を裂くようなか細い叫びが加わる。訳も分からぬまま、達樹は声のする大穴の縁を見上げた。
「リツカちゃんじゃないの? 誰ですか? 新しいアジュクリウですか?」
そこでは一人の少女が尻餅をついていた。彼女は緋と蒼色のオッドアイで、作り物のような整った顔立ちをしていた。地面に引きずる程の銀の長髪を持ち、純白の衣を清純な雰囲気と共に纏っている。その姿はさながら女神だった。
彼女は達樹を見つめると、おどおどとしながら聞いてきた。
「新しいアジュクリウですね……お名前は何というのですか?」
「え……? いや……俺は達樹ですけど……そう言うあなたは……?」
突然のことに達樹はどぎまぎしながら答える。すると女性は顔を綻ばせた。
「タツキさんですか……私はユ=シリーズといいます。あなた方アジュクリウの英雄を支える女神です。今後、冒険の手助けをさせて頂く事となるでしょう。早速ですが、このディスクウェポンはあなたのですね」
そう言ってユ=シリーズは、背後から一振りの剣を取り出した。刀身についた血糊が禍々しい光沢を放つ、柄にディスクが埋め込まれた剣だ。それは達樹が草原に落としてきた剣だった。達樹は剣についている血糊に少し表情を引きつらせながら、頷いて見せた。
「ああ……それは俺のだ。わざわざ拾ってきてくれたのか?」
するとユ=シリーズは、きょとんとして首を振る。
「いえ。あなたが落としたんですよね? ですから私の元に届けられたんです」
彼女はそう言って、大穴の中に剣を落とした。達樹はいまいちユ=シリーズの言っていることが理解できなかった。しかしそれは今重要なことではない。剣を背中に背負うと、達樹は女神に向かって叫んだ。
「いきなりで悪いけど、ここから出るのを手伝ってくれないか! この中には化け物が出るみたいで――早くしないと殺されるかもしれないんだ!」
しかし女神は達樹の必死な訴えを余所に、酷く落ち着きはらって言った。
「恐れる事はありません。あなたの死は我々が退けますから。あなたがアジュクリウの英雄である限り、あなたは何度でも生き返ります。英雄の力を示すいい機会です。試しに戦ってみたらいかがでしょうか? 万一の事があっても、私が傍にいますので、ご安心ください」
ユ=シリーズのとんでもない言葉に、達樹はあんぐりと口を開けた。話しは通じているが、互いが受け取る意味は違うようである。達樹は切迫した現状を伝えようと、早口で今まであったことをまくし立てる。だがユ=シリーズは気にした風もなく、達樹の言葉を聞き流す。そしてまるでゲームのガイドシステムのように、淡々と説明を続けた。達樹は喋るのを止め、自分の為にもそれを聴く他なかった。
「装備品の説明をさせて頂きます。先ほど返しました武装、ディスクウェポンは、この世界における英雄の唯一無二の武器になります。ユナの魔物を切り裂き、その死肉を吸収して成長します。魔法、特技など、アジュクリウの秘儀を使用するのに必須ですので、二度と失くすことの無いよう、お気を付けください」
次にユ=シリーズは、達樹の腰を指した。
「腰の左右にカバンと箱が括りつけてありますね。それはツールボックスと、ツールキットです。ツールボックスはアジュクリウの造りしものを保存することができます。ツールキットはユナが創りしものを、アジュクリウが創ったものに変換できます」
達樹は先程漁っていたポーチ――これがツールボックスだろう――からシリンジを取り出し、女神に掲げて見せた。
「ツールボックスには、これしか入っていなかった。これは何か分かるか?」
「回復シリンジですね。身体の損傷や無気力感に効果がある他、アジュクリウが空腹を癒す唯一の手段です」
「これじゃあ出れないな」
今度は左腰のツールキットに手を伸ばした。ツールキットは四角い硬質の箱で、上部には何かを入れる穴が空いていた。箱の側面はスライドオープン式となっており、上部から入れた何かを取り出せるようになっている。
「上からユナの造りしものを入れて、アジュクリウの造りしものとして取り出すという事か。ユナの造りしものって何だ?」
「この世界のすべての命の根源。魔石です。貴方はこの世界に来られて、まだ間もない様子。一定の魔石を託すことが許されております。今、お渡ししますので、しばしお待ちください」
ユ=シリーズはそう言って、両腕を胸の前に差し出した。すると、彼女の両腕が不自然に脈打ち始め、手の平へと何かが流れていく。女神の身体は淡い緑色の燐光を放ち始め、溢れた光が粒子となってこぼれ出した。しかし突然、ユ=シリーズに異変が生じた。急に光の粒子が激減し、代わりにバグったゲームが見せるような、ブロックノイズが出現したのだ。
「規定により――魔石十個を支給可能――拒否――プロテクト――あれ……? 魔石をお渡ししてませんね。おかしいですね……今お渡しします……規定により――」
ユ=シリーズはうわ言のように、その決まった文句を繰り返した。やがてブロックノイズは勢いを増していき、彼女の全身を飲み込む寸前まで膨れ上がった。
「おい……無理するなよ……辛いんだったら止めてくれ……」
異様な雰囲気に、達樹が声をかける。
「辛い訳ではないんです……どうしてかしら……あ――」
女神はハッと目を見開くと、自分の身体を強く抱きしめて、その場に蹲った。溢れたブロックノイズがまるで意志を持たかのようにうねり、何かを形作ろうとしている。
「ごめんなさい……何とか逃げてください……すぐ戻りますので……」
ユ=シリーズは手短にそう言うと、這うようにして穴の縁から離れた。達樹は面食らって大声を上げた。
「え! ちょっと!? 出来れば一人にしないで欲しいんですけど! それよりお前は大丈夫か! ひょっとして俺のせいか! お~い! 魔石はいらないから、戻って来てくれないか!」
そこで達樹のディスクウェポンが、注意を喚起するように振動した。
「え……? なんかやばそうなんですが……ひょっとしてエンカウントの合図か?」
達樹は引きつった笑みを浮かべながら、ゆっくりと洞窟のある方へ振り向いた。洞窟から吹き付ける風が、先刻よりも生々しく変化したようだ。腐臭がより強烈になり、風鳴りに混じる獣の声も鮮明になる。それどころか、粘液質な何かが這いずりまわる、くちゅくちゅという音までもが聞こえてきた。達樹は洞窟の中の闇に、釘付けになった。やがて洞窟の中から闇を押し退けて、化け物が姿を現した。それは洞窟から上半身を出して鎌首をもたげると、怪獣のような野太い雄叫びを上げた。
巨大な人食いミミズ(ワーム)だ。太くがっしりとした節を連ねた身体をしており、節々の隙間には触手が蠢いている。身体には防具のように岩盤をまとっており、特に頭部には鋭い棘のついた冠状の岩を貼り付けていた。冠の中心の穴には口があり、そこからは岩棘にも負けないような鋭い牙が伸びている。牙は互いに擦れ合うほど密集しており、キシキシと不快な音を立てた。
「えええええすけーぷ! エスケープコマンドォォオ!」
達樹の叫びと同時に、ワームはその凶悪な頭部を叩きつけてきた。達樹は横に飛び退くことで、かろうじてそれを躱す。ワームの頭が地面に叩き付けられると、大穴全体が衝撃で揺れ、土壁が少し崩れた。
「こ……こんなもん喰らったら即死じゃねーか! ふざけんな畜生ォォォ!」
達樹はワームから距離を取ろうと走り出す。しかしワームは即座に頭を横なぎに払ってきた。ワームの棘の冠が達樹に襲い掛かる。
「待てふざけんな! 当然の権利のように奇襲かましたことは百歩譲って許してやるが連続で攻撃してくるのは止めろお前のターンは終わったはずだ俺のターンのはずだぁぁぁああ!」
達樹の背中にワームの頭が叩きつけられた。身体に棘が食い込み、歯が突き刺さる。体内に異物が捻じ込まれる感触がする。しかしそれにも関わらず、身体を襲ったのは耐えがたい苦痛ではなく、やはり何物にも代えられない『喪失感』だった。喪失感は無気力感を伴い、達樹の動きを少し鈍らせた。達樹は吹き飛ばされ、土壁に叩き付けられる。それでも、危うい足取りではあるが、達樹は立つことは出来た。
「くそ……穴に突き落とされた時といい……痛覚は喪失感に変換されているようだな……痛くねぇならそんなに怖くねぇぞ――」
ぼやく達樹めがけて、ワームが突進してくる。達樹は今度もそれを横に跳んで躱した。ワームが土壁に激突し、砂塵を巻き上げる。ワームは一瞬挙動を止めたが、すぐに体を横なぎに払って、達樹を追撃してきた。さっきと全く同じ動きだ。達樹は咄嗟にその場に屈みこむ。ワームの身体は達樹の頭をかすめて、反対側の土壁へと叩き付けられた。
「何だこいつ……まるでゲームのキャラみたいに単調だぞ」
痛みの恐怖から解放された達樹は、少し落ち着きを取り戻した。鈍っていた頭が、ようやくまともに働きだす。アイリスはこの化け物を『アジュクリウの生み出した怪物』だと言っていた。そしてアジュクリウはゲームのメーカーで、この世界を舞台にゲームを作ろうとしていた。ならばこの化け物は、ゲームのメーカーが生み出した、ボスキャラなのかもしれない。
「もしかして――」
達樹はポーチから例のシリンジを取り出した。強く握って針を出させると、自分の腕に突き立てる。中の粘液が達樹の身体に注入されていく。すると身体から『喪失感』が消えていき、無気力から解放された。シリンジは空になると、一気に灰塵となり、達樹の手から崩れ落ちた。
「よくできたゲームだな……」
達樹は半分本心から、もう半分は皮肉を込めて呟いた。
土の崩れる音がする。音のする方を向くと、ワームが鎌首をもたげて達樹に狙いを定めた所だ。達樹は背中から剣を抜いて、ワームに向けて正面に構えた。恐怖心から解放された彼の心には、闘争心が溢れていた。
「絶対生き残ってやる! 何も分からないまま殺されてたまるか!」
達樹の裂帛の気合いを戦闘の合図にするように、ワームが突っ込んでくる。達樹はまたもや横に避ける。しかし今度は跳ぶほど大きな動きはせず、軽いステップ程度にとどめた。二度も見た動きだ。達樹はぎりぎりの間合いで躱すことに成功する。ワームは土壁に頭を叩きつけて一瞬硬直する。その隙に達樹はワームの身体に斬り付けた。剣は容易くワームの肉を切り裂き、達樹の腕は確かな手応えと共に振り切られる。達樹は攻撃が通用したことに相好を崩すが、すぐにその表情は引き締まった。ワームの肉の切れ目から粘液が溢れ出たかと思うと、すぐに傷口を塞いでしまったのだ。達樹は躍起になってワームを斬り付けた。しかし焦って手元が狂い、ワームの肉ではなく鎧の岩盤の方に斬りつけてしまう。岩盤は剣を弾き返し、達樹は跳ね上がった剣に腕を持っていかれ、バンザイをしてしまった。がら空きになった達樹の腹に、ワームの横なぎの一撃が叩きこまれた。達樹は土壁に叩き付けられ、地面に倒れこんだ。
「ッんとに……よくできたゲームだな――」
達樹は二本目のシリンジを取り出して腕に突き立てた。そして鎌首をもたげ、達樹に狙いを定めるワームを睨み上げた。
それからは必死だった。躱す。斬る。屈む。躱す。斬る。屈む。これを幾度となく繰り返す。達樹が斬り付けるたびに、ワームの回復力は徐々に鈍っていった。やがては回復しきれなくなり、身体には無数の裂け目が目立つようになる。そしてワームが六度目の鎌首をもたげる時、ふらつくようになった。達樹はワームの突進を躱すと、伸び切ったその身体を両断する勢いで、思い切り剣を叩きつけた。ワームが悲鳴を上げ、真っ二つになった。胴体は洞窟の方に逃げるように引っ込んでいく。残された頭の方も、触手で地面を這いずりまわり、別の洞窟の中へと逃れていった。
「たお……した……?」
一人大穴に残された達樹は、剣を持つ腕をだらしなく下げると、大きなため息をついた。
「よっしゃぁぁぁあああ! 生き残ったぞぉぉおおお!」
歓喜の雄叫びを上げる。達樹は飛び跳ねて回り、腕を振り回して、表現しきれない喜びを吐き出した。
「不思議だな……あんなに動いたのに、全然疲れてないや。だけど妙な気怠さがあるな……」
達樹は乾いた笑いを浮かべながら、肩を鳴らした。それから背中に剣を背負い直して、土壁の傍まで戻る。そして遥か上に見える穴の縁を見上げた。
「さて、安全も確保できたことだし、どうやってここから出るか」
達樹は顎に手を当てて考え込んだ。その時、洞窟から吹き付ける風が、急に強くなった。反射的に振り返る。達樹の視界には大口を開けて襲い掛かって来る、ワームの頭が飛び込んできた。躱す暇もなく、達樹はワームの頭と壁に挟まれた。冠の棘とワームの牙が達樹を貫き、達樹を土壁に縫い付ける。刺し貫かれた胴体を中心に、達樹の身体に喪失感が、じわじわと広がっていった。
「このクソヤロ……! 第二形態とかふざけるな……ッ!」
達樹はワームの頭を押し退けようと、身体に突き刺さる棘を掴んだ。そこで達樹は絶句した。
大穴には複数の洞窟があるのだが、今までワームが使っていたのは一つの洞窟だけだった。今、残りの五つの洞窟の内の一つから、新たなワームが湧き出してきたのだ。そのワームはドリルのように螺旋を描く岩盤を先端部につけており、牙の生えた口は持っていなかった。よくよく見ると、新しいワームの胴体には、達樹のつけた切り傷がついている。
尻尾の部分だ。
達樹はワームの頭――ワームヘッドを押し退ける事を断念し、背中から剣を抜いた。そして剣を逆手に握ると、ワームヘッドの脳天に突き立てた。ワームヘッドは甲高い悲鳴を上げると、身をのたうちませながら後退を始める。当然達樹の胴体で、突き刺さった棘や牙が掻き回されて傷口が広がった。しかし土壁から棘や牙が抜けて、拘束から逃れる事に成功する。達樹は極限近くまで高まった喪失感に朦朧としながらも、踏ん張って身体から棘と牙を抜いた。ワームヘッドは気色の悪い、粘液が空気と混ざる音ともに後退し、代わりにワームテイルが突っ込んでくる。達樹はワームテイルの鋭い一突きをふらつきながらも避けた。そしてワームテイルから距離を取りながら、ポーチから最後のシリンジを取り出した。
「もう……失敗は出来ねぇ……」
シリンジを腕に突き立てる。活力が戻って来る。そして改めてワームテイルに向き直った。ワームテイルはドリルの先端を、キツツキのように小刻みに突きつける攻撃を繰り出してきた。達樹は剣で突きをいなしながら、攻撃の隙を窺う事にした。そこではっとする。
「頭の方は――!」
達樹を腐臭の風が襲う。慌てて達樹はその場からバックステップを踏んで、大きく飛び退いた。かつて達樹がいた場所を、ワームヘッドが高速で駆け抜けていく。ワームヘッドは矢のような勢いを保ったまま、地面を滑って出てきた所とは別の洞窟に戻っていった。恐らく洞窟は、中で全て繋がっているようだ。ワームヘッドがいなくなると、ワームテイルの突きが再開する。
「埒が! あかない!」
達樹は懸命に突きをいなすが、素人がそう上手く続けられるものではない。達樹の左肩をドリルが刺し貫いた。即座に腐臭の風が達樹に吹き付ける。達樹は顔だけで腐臭の吹きつける方へと向いた。洞窟の闇から、ワームヘッドが飛び出してくるのが見えた。達樹は無我夢中で、肩を刺し貫くワームテイルのドリルを握る。
何処にそれだけの力があったのか――
達樹は歯を食いしばり、雄叫びを上げながら踏ん張る。そしてワームテイルをワームヘッドの突撃軌道上に引きずり出し、入れ替えに自分を安全圏へと逃した。
ワームヘッドの棘と牙が、ワームテイルの胴体に突き刺さる。ワームヘッドに引っ張られたことで、ワームテイルのドリルが達樹の肩から急速に引き抜かれる。二匹のワームはもつれながら地面を転がった。やがてその動きが止まると、最後の抵抗に、でたらめにうねり回った。
達樹は左肩を押さえつつ、右手で剣を引きずりながら、ワームの元に歩いていった。そして未だに足掻き続けるワームたち二匹が、まとめて串刺しになるように剣を突き立てた。ワームが風を切り裂くような断末魔を上げる。そして剣から逃れようと激しくのたうち回ったが、すぐに抵抗は弱々しくなり、大きな音を立てて地面に倒れ伏した。ワームに突き立てられた剣――ディスクウェポンは、その肉を吸い上げるように、微震を放つ。ディスクウェポンは微震と共に姿形を変え、やがてワームの装甲を材質に、刀身と鍔飾りを形成した。
「成長した……?」
『スキル入手:ワームテイル』
空間にそのような日本語が浮かび、明滅して消えた。だがそれよりも、達樹はワームの死骸に注目していた。ワームの死骸が、大量のブロックノイズを放ちだした。ノイズは徐々にその濃度と密度を増していき、ワームの全身を飲み込んでいく。やがてノイズが晴れると、後にはワームの残骸として、黒い石だけが残された。
「これが魔石か……」
達樹は魔石を一つ取り上げた。それは怪しげな光沢を放つ、重い石だった。石は血管のように緑色の筋を全体に走らせており、小さくではあるが一定のリズムで胎動していた。
「何か……いかにもエネルギーを持ってそうだな。アイリスの投げた石もこれだな」
達樹は魔石を腰のボックスの中に入れて、シリンジのアイコンが掘られたボタンを押してみた。すると側面の蓋が開き、中から回復シリンジが出てきた。達樹はそれを腕に突き立てて、体力を回復した。
「どういう事だ? 魔石はユナが作りしものなのに、アジュクリウの怪物も魔石でできているなんて……」
達樹はじろじろと魔石を見ながら、考えを巡らせた。
「この世界のユナ生物の構造を、ゲームに流用してアジュクリウを創っているのか……ン? そもそもここは本当に何なんだ? ユ=シリーズはゲームの案内みたいなことをしていたけど……じゃあアイリスの馬は……一体何がどうなっているんだ?」
森の奥から、獣の雄叫びが聞こえてきた。達樹はびくりと身を震わせて、声のする森を見やる。気付くと太陽はかなり傾いてきていた。
「さっさとここから出よう」
達樹はしばらく土壁の元をうろついて、脱出する方法を考えた。達樹の手元には自分を縛るのに使われたロープがある。達樹は剣の柄にロープを括り付け、端を握ると穴の外めがけて投げた。剣は切っ先から穴の縁の地面に落ちて、見事に突き立った。ロープを引っ張ると、確かな手ごたえが帰って来る。
「いけそうだ」
達樹は顔を綻ばせた。